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日向坂46ら手がける振付ユニット CRE8BOYに聞く、大人数への作品創作で意識するポイント

リアルサウンド

20/5/30(土) 10:00

 J-POPシーンの最前線で活躍する振付師にスポットを当て、そのルーツや振付の矜持をインタビューで紐解いていく連載「振付から紐解くJ-POPの現在地」。第8回となる今回は、CRE8BOYに取材した。“振付ユニット”として活動する彼らのルーツやスタートを振り返るとともに、前編となる本稿では、CMやミュージックビデオの振付・ポージングなど、あらゆる分野において「遊び心を振付ける」のポリシーのもと、思わず真似したくなる、ひと目みるだけで忘れられない演出・振付を行う彼らに、AKB48グループや坂道シリーズなど大人数の振付を手がける際に意識するポイントなどを語ってもらった。(編集部)

(関連:竹中夏海が語る、振付師としての“文化系”的思考 藤井隆との出会いは転換点に

――CRE8BOYさんは何人組なんですか?

山川:8人ぐらいいますかね。CRE8だけに。

――CRE8の8は8人の8。

山川:最初はそうじゃなかったんですけど(笑)、だいたい8人くらいがバランスがいいなということで。

――ダンス的なルーツはみなさんバラバラですか?

山川:新体操やチアダンス、バトン、ミュージカル的なショーダンスをやっていた人もいて。必然的にいろんなジャンルを振付に盛り込めるので、ありがたいですね。

――お二人がダンスを始められたきっかけというと……?

秋元:僕は中学・高校とずっとバスケをやっていたんですが、高3の時に高校生ダンス選手権のような深夜番組をやっているのをたまたま見て、すごくカッコいいなと思ったんです。大学生になってから「ちょっとダンスやってみようかな」と思ってダンスサークルに入って、そこから沼にハマりました。

山川:僕は中学生ぐらいの時にダンスをやっている友達の発表会を見に行ったことがあって。その時にすごくカッコいいチームを見かけて「自分もあんな作品を作りたい」と思ったのが最初ですね。友達に誘われたこともあり、そのままなし崩し的にズブズブとハマっていきました。

――ご自身が踊る上で好きなジャンルはありますか?

秋元:それぞれの気持ちよさがあるので、基本的に踊るのは何でも好きですね。

山川:ダンスはだいたいどのジャンルでも好きなんですが、僕は基本的に“整列しているもの”が大好きです。ダンスというよりは日本体育大学の「集団行動」とかマスゲーム、あとヨーロッパで部隊の方が行進するパフォーマンスを見てると「ごちそうさまです!」と思います(笑)。

――そういった趣味趣向も振付の特徴に関わってきそうですよね。現状、日向坂46や乃木坂46といった大人数のグループの振付をされるケースも多いですよね。

山川:うちは大人数のグループの振付をするときの立ち位置決めはかなり細かいほうだと思います。だいたい90㎝間隔で舞台上に番号が貼ってあるんですけれども、普通はそれを90cmかその半分の45cmで区切って立ち位置を決めるんです。僕らはその1マスに対して1/4とか1/5で区切って、小数点以下でメンバーを並べることもあります。自分たちでやっていて「細かいね」という話はよくしますね。

――お二人ともダンス歴があって振付自体にも興味があったと思うんですが、チームで振付業界に参戦しようと思ったきっかけは?

山川:僕自身がダンスを始めた頃から振付に興味があったというのもありますけど、もともと一緒のチームで踊っていた彼(秋元)から誘われて……。

秋元:今でこそ若い世代のダンサーや振付師がSNSきっかけで仕事をもらったり、海外にワークショップに行ったりといったケースが増えてきましたが、当時のダンス業界は縦の繋がりがないと仕事をもらうことが難しかったので、ダンスにかかわり続けていく上で先の見えなさを感じていました。それでいろんな企業の方々やCMの制作会社と自発的に繋がって、仕事をもらえるようにしていかなければと考えたのが最初ですね。振付自体を突き詰めてやってみたい気持ちももちろんありました。

――振付師として正式に活動を始めた最初の頃の仕事というと、CMがメインですか?

山川:そうですね。企業関係の作品だと、一番最初に手掛けたのはPepper(感情を認識する人型ロボット)ですかね。

――それもすごいですよね。相手が人間じゃなかったという(笑)。どなたかが踊った動きがプログラムされるという流れでしょうか?

秋元:そうですね。まずPepperがどのくらい動けるかというのを打ち合わせで確認させていただいて、これができない、これが得意という情報を反映する形で振りを作って、プログラミングしていただいて。実際に動いている様子を見て細かいところを修正していくという流れでしたね。

山川:その前後にMAXさんが振付を公募されていたことがあって、そこに作品を出したのがきっかけで「#SELFIE ~ONNA Now~」(2015年)の振付をやらせていただいたのが、アーティストの方との最初のお仕事です。そこから同じ事務所のフェアリーズなど、アイドル方面に繋がっていきました。

――「#SELFIE」はヴォーグ的な手の振りやド派手なMVも含めてかなりインパクトがあった作品です。これまで膨大な数の振付を手掛けてこられた中でも、世間的には日向坂46や乃木坂46の坂道シリーズやAKB48グループの振付の印象が強いと思いますが、秋元康さんプロデュース作品の場合は、どういうふうに振付を進めることが多いですか。

秋元:制作の流れでMV撮影が先になることも多いので、MVの雰囲気やイメージに近づけた形の振付になる場合と、「この曲はこういうテーマだから、こういう感じの振りをお願いしたい」と具体的なオーダーがある場合があります。

――振り入れの直前に完成した歌詞が上がってきた場合は、それに合わせて振りのイメージを修正していくんですか?

山川:歌詞を事前にいただいたら、できるだけその段階で振りを歌詞とのイメージが合うように軌道修正していきますし、歌詞が完成していなければ振り入れの直前にとにかく頑張ります。まず音を聴きながら「なぜ今回、この曲が選ばれたのかな?」というのを考えて、曲がどういうビートを刻んでいるのか、どこにコーラスを入れているのかなど特徴をチェックしつつ振りを作っていきます。具体的に例を挙げると、AKB48の「失恋、ありがとう」なら、デモをいただいた段階でバックコーラスが入っていたんですが、そのコーラスがかなりビートルズ的な印象だったので「今回は60’s~70’sっぽくしようとしているのかな」というのを意識しながら、そのニュアンスを振りにも取り入れたりしています。

――日向坂46の「キュン」のサビで“ヒ”を作ったり、NMB48の「ワロタピーポー」のサビでWを作る“ワロタポーズ”など文字を作るのが印象的です。

山川:でも、日向坂の振付にはもともとそういう色があるんです。

秋元:(日向坂46の)ひらがなけやき(けやき坂46)時代に振付を担当されていたTAKAHIROさんがこういうアイデアを盛り込まれていたので、僕らもところどころでそのエッセンスを入れたりしています。

――バトンを引き継ぐような感じで。

山川:そういうお話はまだできていないですが、ぜひそこについてTAKAHIROさんと話したいと思っています。過去作品をどういうイメージで作っているのかという解説を記事とかで読むことはありますが、ひらがなけやき時代からのファンの方々が「これこれ!」というようなところをちゃんと残しつつ、バトンをも引き継げたらという気持ちがあるので。僕ら自身でもひらがなけやき時代のMVやライブ映像を相当見て研究してきて、TAKAHIROさんが出したかった色が無意識のうちに刷り込まれている可能性もあるかもしれませんね。

――グループの名称が変わったタイミングで、振りについてもイメージを変えようという意図があったのでは? と思っていたのですが、その辺りはどう捉えていますか?

秋元:グループが大きな変化を迎えたタイミングで僕たちにお話をいただいたということで、やっぱり僕たちならではの強みを出していって日向坂のダンスのイメージを付けられたらという気持ちはあるんですよ。なので、ひらがなけやき時代をあえて引きずっていこうという風にはまったく思っていないですね。以前の曲でもちろん可愛らしい曲もありますけど、「キュン」みたいな振りはないんですよ。「キュン」「ドレミソラシド」とめちゃくちゃキャッチーな曲が2曲続いたので、振りについても「全力でキャッチーを狙いにいこう」「ダンス流行らせよう」というメッセージを受け取ったと自分たちは思っています。

山川:曲が上がった時点で「キャッチーなのお願いね」っていう言葉が聞こえてきてしまうぐらいに(笑)。

秋元:ホントに“みんなで踊りたいよ感”がすごくあったよね。

――具体的にCRE8BOYらしさを日向坂のダンスに反映したポイントというと、どの辺になりますか?

秋元:僕たちは構成をものすごく凝るんですが、基本的なところでは“ダンスを通して歌割を見せる”というのがこだわりです。歌っている子たちが目立つように、なおかつその歌詞にあるような佇まいで……と。あと日向坂には“ハッピーオーラ”というグループのテーマがあるので、それを増幅させるために意識していることとして、パフォーマンス中にメンバー同士の目が合いやすいポイントをたくさん作ること。人って目が合うと自然と笑顔になるようになっているから、ライブ中とかに目が合うと勝手にお互いが笑ってしまうじゃないですか。もちろん「こんなに好きになっちゃっていいの?」とかはシリアスなイメージの曲なのであえてそういうポイントを多くは作っていませんが、元気な曲、明るい曲に関してはできるだけ目線を合わせられるようなシーンを入れ込んで、ハッピーオーラを見せられるような構成を考えて作っています。

――日向坂のみなさんはMVやライブ映像でもすごく表情が豊かだなと感じますけど、その辺りはきっと振付に影響されている部分もあるんでしょうね。

山川:たとえばメンバーの誰かが1人で撮影しないといけない時にも人と人が繋がっている感じを出してほしくて「本当はカメラしか目の前にいないけれども、その先にメンバーや友達がいるつもりで踊ってほしい」というようなことを、いろんなタイミングで伝えるようにはしていますね。

――デビュー時から日向坂の代表曲はもちろん、ステージングの振付などもされていますよね。これまでの彼女たちの歴史を見てきて、パフォーマンスの成長ぶりはいかがですか?

秋元:めちゃくちゃ上手になっていると思います。初めて会ったのが「JOYFUL LOVE」の振付でしたけど、そこから考えるとみんなシンプルにダンスが上達しています。

山川:パフォーマンスへの集中具合いというか、「ダンスをやるぞ!」というスイッチが変わる瞬間が見えるようになりました。なのでいろんな面で急成長している印象ですね。

――「ソンナコトナイヨ」のMVを見て、パフォーマンスの勢いはもちろん、今自分たちがやっていることに対する自信みたいなものを感じました。

山川:これまでは振り入れが終わって本番までの間に、「もうちょっとリハしたいけど、大丈夫かな」と少し心配に思う部分があったんです。でも「ソンナコトナイヨ」は振り入れが終わったタイミングで、けっこう仕上がってるなと感じるくらい踊り込めていて。振り覚えが速くなっただけじゃなく、自分たちで「どういう雰囲気にしよう」というところまで作れるようになって、早い段階で完成度を高くできるようになってきたなと感じました。

――今やテーマにしてきたハッピーオーラだけじゃない魅力も垣間見えるようになってきたと思うんですが、日向坂の色が出てきたなと感じたのはどの辺りですか?

山川:僕は「ドレミソラシド」を去年の『日本レコード大賞』でやった時に「すごいプロ集団になったな」と感じましたね。

秋元:でもそれが「ソンナコトナイヨ」の振り入れと同時期くらいなんですよ。

山川:あと佐々木久美さんがライブのMCで言っていたことなんですが「私たちは(イメージカラーが)空色だから何色にもなれる」という言葉に「なるほど!」と思わされた部分があって。自分の中でもハッピーオーラというワードからポップな印象だけを彼女たちにイメージ付けていたところがあったんですけれども、本人たちが“何色にでもなれる”と言っているのであれば、僕らもそれに対してお手伝いができるように、曲や場面によってはカラーをガラッと変えてしまうのもいいのかなと。これは僕の個人的な考えなんですけど、たとえばハッピーは必ずしも晴れの日にあるわけじゃなくて「雨の日に外を見ながらちょっとコーヒーを飲む休日」みたいなものにも含まれていたりするじゃないですか。見方を変えれば幸せはいろいろなところに見つけられるものだと思うので、全部が全部“明るくて元気!”みたいな形でなくても、たぶん日向坂のメンバーがそれを表現してくれることによって、また新しい幸せの世界観を構築できるんじゃないかなと思います。

――ご本人たちの伸びやかな成長をサポートするというか。

山川:そうですね。僕らができるのは振付やステージ上でのパフォーマンスに関することだけなんですけれども、作品の背景が見えるように、振り入れの中でも「ここはこういうシチュエーションですよ」「こういう気持ちの持ち様ですよ」と例えて伝えるようにしています。そういう機会に動きの1つずつに色を付けてあげて、彼女たちがその作品の主人公になって皆さんにお伝えすることができたらいいかなと。

秋元:僕も、見え方としてキャッチーであるということと同じくらい“感情を振りに入れる”というか、気持ちの面をどう持っていくかが作品を披露する上で大事だと思っているので。たとえば「歌やダンスを始めた頃、歌と踊ることがとにかく大好きだったことを思い出して、『ドレミ』に当てはめてパフォーマンスしてごらん」という風に、踊る中で少し気持ちを持っていってあげるとか。でも「こんなに好きになっちゃっていいの?」みたいな、ちょっと影のある雰囲気もメンバーのみんなは好きなんですよ。一人一人と「この曲はどんな人がこういう風に思っていると思う?」とか話すと、潮紗理菜さんや佐々木美玲さんとかは楽しそうにリアクションしてきたりする。そういう会話があると結果的にパフォーマンスのときの表情にも出てくるので、やっぱり大事な時間だなと思いますね。(古知屋ジュン)

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