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初登場1位『AI崩壊』 「オリジナル脚本作品」崩壊時代に一矢報いるか?

リアルサウンド

20/2/5(水) 18:00

 先週末今週の映画動員ランキングは、入江悠監督の『AI崩壊』が土日2日間で動員16万5000人、興収2億300万円をあげて初登場1位となった。シリーズものでもテレビドラマの映画化企画でもない、完全オリジナル脚本による実写日本映画が動員ランキングで1位になるのは2019年9月公開の『記憶にございません!』以来のこと。さらにその前となると、2018年6月公開の『万引き家族』まだ遡らなくてはいけない。オリジナル脚本の映画の企画が通り、それが中規模以上で公開されて、実際にヒットにまで結びつくことがいかに稀なことかがわかるだろう。NetflixやHBOやAmazonなどでクオリティの高い作品が量産されているテレビシリーズという受け皿があるという点においては大きく異なるものの、映画に限って言うなら、近年のアメリカ映画界も同じ問題を抱えている。

 さらに日本において顕著なのは、ただでさえ少ないオリジナル脚本作品の多くが、監督自身が脚本を手がけている作品であるということ。『万引き家族』(監督・脚本は是枝裕和)、『記憶にございません!』(監督・脚本は三谷幸喜)同様に、『AI崩壊』でも監督の入江悠自身が脚本を手がけている。もちろん、優れた監督でありながら優れた脚本も書けること自体は称賛すべきことだが、これは逆に言えば、監督自らが書いた脚本でなければ、さらにオリジナル脚本の映画化企画が通りにくいという実態を反映している。

 先日、日本映画製作者連盟が発表したばかりの「2019年全国映画概況」の中の、「2019年興行収入10億円以上番組 邦画」のリストがソーシャルメディア上で拡散されて(拡散元の一人は自分なのですが)、それが現在の日本映画の危機的状況を表しているとして一部で話題になった。そこには、昨年公開されて興収10億円を超えた40作品の日本映画(「洋画」という死語の対義語である「邦画」という言葉を自分は使わないようにしています)が並んでいたのだが、その内訳は下記の通り。

実写作品 24作品
アニメ作品 16作品

 実写24作品の内訳は下記の通り。

小説原作 11本
コミック原作 5作品
テレビ作品の映画化 5作品
オリジナル脚本の企画 2作品
海外作品のリメイク 1作品

 小説原作作品の人気は根強いものの、その大半はトップ40の下位を占めていることから、大ヒット狙いというよりもその手堅さから企画が通りやすいのだろうということ。コミック原作作品に関しては、まだ映画化されていない人気コミックの枯渇もあって製作本数の減少が続いていて、遂に興収10億円以上の女性向けコミックの映画化作品は1作品(それも『翔んで埼玉』なので40年近く前の作品)だけになったこと。などなど、そのリストは様々なことを浮き彫りにしているのだが、やはり注目すべきはオリジナル脚本の企画が2作品(『記憶にございません!』と『人間失格 太宰治と3人の女たち』)しかないということだろう。

 もちろん、日本映画の独立系配給作品や、さらに自主制作に近いインディーズ作品の中には、オリジナル脚本の作品はたくさんある。しかし、オリジナル脚本で全国規模のヒットを狙うのは、竹槍で戦闘機を落とすようなものであるということがわかる。今回まずまずのスタートを切った『AI崩壊』にしても、興収10億円のラインにのるかどうかは微妙なところ。同じく、先週末公開されたオリジナル脚本によるシリーズ作品『嘘八百 京町ロワイヤル』も200スクリーン以上での公開にして初登場9位と苦戦を強いられている。オリジナル脚本作品の充実は、その国の映像文化、フィクション文化の水準を支えるものだ。その視点に立つなら、日本映画はしばらく前からもう底が抜けてしまっているのかもしれない。(宇野維正)

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