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渋谷すばる、ライブで伝えた自らの音楽に対する決意 『二歳』ツアー幕張公演を振り返る

リアルサウンド

20/3/18(水) 7:00

 渋谷すばるが1stアルバム『二歳』を携えた全国ツアー『渋谷すばる LIVE TOUR 2020 「二歳」』を開催した。筆者が観たのはツアーの初日、幕張メッセ公演。ドームツアーを何度も開催しているアイドルグループのメインボーカリストだった彼にとって、2万人規模のライブはお手の物のような気もするし、「アルバム1枚だけでいきなりアリーナ公演とか、普通じゃないだろ」とも思えるが、ステージに登場した渋谷は、文字通り普段着のままで“この場所、この時にしか歌えない歌”をあらかさまに表現してみせたのだった。

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 ツアーの初日、“#渋谷すばる”はTwitterのトレンド入りし、SNSではグッズ販売に関する情報が飛び交っていた。この日の関東地方は季節外れの大雨と強風に見舞われていたが、幕張メッセには開演数時間前から観客が集まり、準備は万全。スタンディングの会場には「渋谷すばるの最初のライブをこの目で観たい」という期待で満ちていた。

 開演前のBGMは、オーティス・ラッシュ、サニー・ボーイ・ウィリアムソンIIなどのブルースナンバー。会場の照明が落とされ、打ち込みのSEとともについにライブがスタート。バンドメンバーの塚本史朗(Gt)、なかむらしょーこ(Ba)、Shiho(Dr)、山本健太(Key)、そして渋谷が姿を見せた瞬間、大きな拍手と歓声が沸き起こる。渋谷がギターをかき鳴らし、最初の楽曲「ぼくのうた」がはじまる。〈歌を歌わせて頂けませんか〉というサビに入ると同時にスクリーンに表情が映し出され、歓声がさらに大きくなる。

 さらに楽曲制作(宅録)の様子をテーマにした「アナグラ生活」、切ないラブソングかと思いきや、“パクチーが嫌い”というオチが付く「来ないで」、渋谷のブルースハープが鳴り響くアッパーチューン「トラブルトラベラ」(ベース、ドラムなどのソロ演奏にも大きな歓声が送られていた)、「幕張にお集まりの人間のみなさん!」という(ザ・クロマニヨンズへの愛が感じられる)煽りから始まった「ワレワレハニンゲンダ」などアルバム『二歳』の楽曲を披露。ブルース、ロックンロールを軸にしたシンプルなバンドサウンド、そして、まったく飾ることなく、どこまでも真っ直ぐで赤裸々な歌。冒頭から“渋谷すばるの音楽の在り方”をはっきりと示すステージが繰り広げられる。ギミックや演出に頼らず、爆音で音楽を叩きつけるスタイルも渋谷らしい。

 「どうもどうもどうも。後ろのほう、見えてますか。こちらは一切見えてません」と話し始めると、「お帰り!」「すばる!」という声が飛ぶ。ファンにとっても渋谷とっても待ち望んだライブであることは間違いないが、お互いの雰囲気はとても自然で、「とにかくこの場所を楽しみたい」という思いが感じられる。

 彼自身の人生や生活、聴いてきたもの、見てきたものが直接的に反映されているのも、渋谷の音楽の魅力だ。「いろんな国を旅して、生活を……というか、旅をしてます」という言葉に導かれたのは、「なんにもないな」。アコースティックな響きを活かしたアレンジ、素朴なメロディライン、〈なんにもないな〉のリフレインとともに、アジアを旅する渋谷の姿がスクリーンに投影される。関ジャニ∞を脱退した後、彼が最初にやったことは海外旅行だった。人気グループの脱退に伴う喧噪、世間の関心から逃れ、様々な国を旅することが“なんにもない”自分を取り戻すきっかけになったことは想像に難くない。「なんにもない」という楽曲には、そのときに感じたことがそのまま反映されているのだろう。

 さらに「ちょっと前にいい感じになりそうだった女の歌をやります」というMCで客席をざわつかせた「Curry On」(「来ないで」同様、ラブソングかと思いきや、最後に笑えるオチが付くバラード)、壮大な潮流を感じさせるメロディが印象的だった未発表の新曲を挟み、ライブは後半へ。渋谷のブルースハープを軸にしたバンドセッションから「爆音」に突入し、会場の熱気をさらに上げていく。

 ライブの終盤では、渋谷自身のリアルな感情を描いた楽曲が続いた。“同じ道には進めなかったけど、それぞれの人生を全うしたい”という真摯な思いに溢れた「ベルトコンベアー」、守られていた状況を抜け出し、何もないまま進んでいく決意を刻んだ「ライオン」、〈これからは僕自身が敷いたレールを走ろう〉というフレーズが心に響く「TRAINとRAIN」。以前から決して言葉数が多いタイプではない渋谷だが、楽曲のなかでは驚くほど率直に自らの思いや決意を吐露している。“すべて音楽を通して発信したい”というスタンスを改めて示したことも、このツアーの大きな意義だったと思う。本編の最後は「生きる」。何があっても、すべてを受け止めて自由に生きたいという願いを放つ渋谷に対し、観客はこの日もっとも大きな拍手と声援を送った。

 再びステージに登場した渋谷は、オーディエンスに向かってゆっくりと話しかけた。

「一人になって、1stアルバムを出して、初めてのツアーの1日目で。このライブは自分の人生というか、印象的なライブになると思います。そんな時間をみなさんと共有できてよかったです」「ありがとうございました。またやりましょう」

 さらに弾き語りで「キミ」ーー愛する人(たち)に向けられたブルースであり、ラブソングでもあるーーを歌い上げ、ライブはエンディングを迎えた。

 最初のライブで自らの音楽スタイル、歌うことに対する決意をはっきりと見せつけた渋谷すばる。この日集まった観客は(おそらく)ほとんどが関ジャニ∞時代からのファンであり、今後、彼の音楽がどんなふうに広がるかは未知数。しかし、一人のミュージシャンとして彼はこの日、やりたいこと、やるべきことを表現し、力強いスタートを切ってみせた。これまでのキャリアとは関係なく、“この人が作る歌をこれからも聴いてみたい”という欲望をかき立てられる、きわめて魅力的なシンガー/ソングライターであることは間違いない。(森朋之)

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