Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

安倍寧のBRAVO!ショービジネス

映画『真夏の夜のジャズ』は、ジャズ・フェスを生け捕りにした最高のドキュメンタリーだ!

毎月連載

第28回

20/9/20(日)

映画『真夏の夜のジャズ 4K』(C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved.

9月3日、YEBISU GARDEN CINEMAでアメリカ映画『真夏の夜のジャズ』を見た。コロナ騒ぎが起こってから映画館で大型スクリーンと相対するのはこれが初めてである。今回の上映は修復の手が加えられた4K版によるものだけに、映画館で楽しむにはもって来いの作品といえる。午後3時25分からの回だったが、観客数は50名弱。客席が一席置きなのはいうまでもない。

この映画は1958年、アメリカ・ニューポート市でおこなわれたジャズ・フェスティヴァルを丸ごと生け捕りにしたような生気みなぎるドキュメンタリー作品である。日本では60年に初公開された。私の記憶だとジャズ愛好家、ドキュメンタリー映画ファンという枠を越え、海外のエンターテインメント情報に飢えている人々の間で、広く話題になった作品という印象がすこぶる強い。

そう、若い作家やジャーナリストの集まる銀座の酒場では、「スウィート・ジョージア・ブラウン」「二人でお茶を」を歌うアニタ・オディがよく口の端に上ったものだった。軽やかなリズム感、小粋な歌い回しにジャズ・ヴォーカルの洗練されたスピリットが滲み出ていたからか。なかにはヴォーカルより白い羽根飾りのついた黒い鍔(つば)広の帽子に魅了された連中も、沢山いたけれど。

映画『真夏の夜のジャズ 4K』(C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved.

再見して改めて驚かされるのは登場するミュージシャンの幅の広さである。デキシーランド・ジャズの大看板ルイ・アームストロングを筆頭に、当時主流だったモダン・ジャズではセロニアス・モンク、ジョージ・シアリング、チコ・ハミルトンら、更にはロックンロールの創始者のひとりチャック・ベリー、ゴスペルの女王マヘリア・ジャクソンまで参加している。こちこちのジャズ精神で固まることのない多彩なキャスティングは、フェスティヴァルのプロデューサー、ジョージ・ウェインの柔軟なジャズ観の反映と見る。映画もその精神を誤ることなく受け継いでいる。それだからこそ素晴らしい作品に仕上がったにちがいない。

映画『真夏の夜のジャズ 4K』(C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved.

フェスティヴァル自体も、そして映画もラスト・シーンを飾るのはマヘリア・ジャクソンである。頭の固い人ならジャズの祭典なのになぜゴスペル歌手で締めるのだと文句のひとつもいいたいところではないか。しかしマヘリアはその有無をいわせぬ歌唱力で聴衆を平れ伏させずに措かない。トリはマヘリア・ジャクソンで正解だった。そもそもジャズは草創期から黒人宗教音楽と密接な関係にあったのだから、その一種のゴスペルでジャズ・フェスティヴァルが閉じるのは、なんの不都合もあろうはずがない。

監督バート・スターン(1929~2013)は写真家出身である。雑誌や広告などで若いときから活躍してきた。『真夏の夜のジャズ』を撮ったときはまだ28歳の若さだった。画面の瑞々しさはその若さ故といえるだろう。一方、その年齢とは思えぬ老練な演出も随所に見られる。映画はこれ一本しか監督していないようだ。『真夏の夜のジャズ』で成功していながら、どうして? 映画でなく写真が天職と信じて疑わなかったのか?

もちろん画面は出演者たちのプレイぶりを捉えて余すところがない。楽器を操る指先、そしてそのときの表情やからだつきなど。音楽と身体が一体化している。しかも躍動している。私たちの眼が釘づけになるのはまさにその一点である。

演奏場面以外にも見どころ一杯だ。心浮き浮きの聴衆の表情。カメラはしばしば舞台から客席へ客席から舞台へと往復する。そのカメラの動きとステージで演奏されているリズムとは、もしかして連動しているのかな。

カメラは自由に音楽会場の外へも出ていく。近くの海でおこなわれる有名なヨット・レースの光景に見惚れてしまう。もちろん画面の背後には会場でのジャズ演奏が流れている。画面はごく自然に会場に戻る。熱演するプレーヤーたち、さまざまな表情とジェスチャーで演奏に反応する聴衆たち。その間、決して音楽が断絶することはない。画面は変わっても音楽は一貫している。連続する音楽のお蔭で非連続のはずの画面まで連続しているように錯覚してしまう。ちょっと不思議な体験である。

ことしはすべて中止の已むなきに至ってしまったが、日本でも夏はミュージック・フェスティヴァルのシーズンである。いずれもロック中心の音楽イベントであるものの、その原型はというと、どれもがニューポート・ジャズ・フェスティヴァルにたどり着く。内外を問わず、すべてのポピュラー関係の音楽祭のルーツは、ニューポート・ジャズにあるといっても決して過言ではなかろう。

ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルは、1954年、創設された。一時、日本ビクターがJVCの名称で冠スポンサーを務めたこともある。ことしはコロナのせいで中止となったが、67年に及ぶレガシーを誇る。来年の復活を心から望まずにいられない。『真夏の夜のジャズ』を60年ぶりに見てその思いを改めて強くした。

プロフィール

あべ・やすし

1933年生まれ。音楽評論家。慶応大学在学中からフリーランスとして、内外ポピュラーミュージック、ミュージカルなどの批評、コラムを執筆。半世紀以上にわたって、国内で上演されるミュージカルはもとより、ブロードウェイ、ウエストエンドの主要作品を見続けている。主な著書に「VIVA!劇団四季ミュージカル」「ミュージカルにI LOVE YOU」「ミュージカル教室へようこそ!」(日之出出版)。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む