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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

見事にハマった『あまちゃん』商法と、限界を迎えた“ベスト盤バラ売り”商法

リアルサウンド

13/9/12(木) 11:49

2013年09月02日~09月08日のCDアルバム週間ランキング

1位:Love Collection ~mint~(西野カナ)
2位:Love Collection ~pink~(西野カナ)
3位:ソナポケイズム SUPER BEST(ソナーポケット)
4位:遊音倶楽部 ~1st grade~(絢香)
5位:あまちゃん 歌のアルバム(Various Artists)
6位:Queen of J-POP(℃-ute)
7位:POPMAN’S WORLD~All Time Best 2003-2013~(スキマスイッチ)
8位:Heart Song(クリス・ハート)
9位:KYOSUKE HIMURO 25th Anniversary BEST ALBUM GREATEST ANTHOLOGY(氷室京介)
10位:AM(アークティック・モンキーズ)

20130912uno1.jpg『あまちゃん 歌のアルバム』(ビクターエンタテイメント)

 まずは先週1位(今週は5位)の『あまちゃん 歌のアルバム』について(お気づきのようにこのリレー連載、毎週シングルチャートとアルバムチャートを交互に取り上げているので、前週のチャートにも触れさせてください)。9月に入ってから『あまちゃん』のストーリーは「震災後」に突入(劇中では「地元に帰ろう」も大フィーチャー)。9月第2週からメインの舞台も岩手・北三陸に戻って、「東京編」のいわゆる芸能界の裏側ドラマ的なノリは一気にトーンダウン。そう考えると、8月28日にリリースというタイミングはあまりにもドンピシャだった。

 音楽界でも旋風を巻き起こしている『あまちゃん』だが、感心させられるのは各作品のリリース(及び配信)タイミングの的確さ。これまでもドラマの展開に合わせて、ネタバレにならないギリギリのところで、素早く「今、視聴者が最も欲しい音源」を出してきている。ちなみに先週は『あまちゃん 歌のアルバム』と同時発売の『春子の部屋~あまちゃん 80’s HITS~ビクター編』が初登場10位、『春子の部屋~あまちゃん 80’s HITS~ソニーミュージック編』が初登場12位、6月にリリースされた大友良英『オリジナル・サウンドトラック』も29位に再浮上と、なんとトップ30にアルバム4枚。特に、『ソニーミュージック編』以外の3枚のアルバムをリリースしている、小泉今日子のお膝元ビクターとの連携は見事だ。

 一方で、ポニーキャニオンからようやく昨日(9月11日)リリースされたベイビーレイズのシングル『暦の上ではディセンバー』は、なぜか当初のリリース予定日から3週間も発売延期となっていたもの。うがった見方をすれば、同曲も収録されている『あまちゃん 歌のアルバム』のセールスを邪魔しないための処置にも思えてきて……。ちなみにベイビーレイズは能年玲奈と同じ事務所の後輩。そこに、春子とアキの芸能界パワーゲーム場外編を見たのは自分だけではないだろう。

 すいません、『あまちゃん』話が長くなりすぎました。今週、アルバムチャートの1、2フィニッシュを飾ったのは西野カナのベストアルバム。しかし、枚数を見るといずれも15万枚弱と、近作の西野カナのオリジナルアルバムの初週セールスも下回る数字で、初のベストアルバムとしてはかなり物足りない数字。

 この、ベストアルバムを2枚組にするのではなく2つの作品に分けるというやり方。ハシリとなったのは1998年のB’zの『Pleasure』『Treasure』(2枚合わせて1.000万枚超え!)だと記憶しているが、あの時は2作品のリリース間隔がちょっと空いていた。同発ベストとして最も印象に残っているのは2001年にMr.Childrenがリリースした『1992−1995』『1996-2000』(いずれの作品もダブルミリオン超え)だから、21世紀に入ってから一般化してきた手法と言えるだろう。

 しかし、昨年のYUIや今年のBUMP OF CHICKENの2枚に分かれたベスト盤のセールス不振が象徴しているように、近年、この手法、というか「商売のやり方」に限界がきているように思うのだ。言うまでもなく、もし同じくらいの枚数が売れるのなら、2枚組にするより2枚に分けた方がレコード会社の儲けは大きい。でも、この「同じくらいの枚数が売れるのなら」という前提が、可処分所得の少ない若いリスナーを多く抱えているアーティストの作品では崩れてきているのではないか。

 興味深いのは、桑田佳祐、山下達郎、松任谷由実、氷室京介といった、逆に可処分所得が多そうなリスナーを抱えているベテランアーティストによる近年のベスト盤に限って、このベスト盤バラ売り商法をとらずに、旧来のベスト盤のように一つのパッケージでリリースを死守していること。とりあえずリリースした作品はなんでも買ってくれる忠誠心の強いファン、そして、ベストアルバムで始めて作品を手に取ってくれる一見さん、それぞれのリスナーにとってベストアルバムとはどういう意味を持っているのか。長いキャリアの中で出た答えが「何枚組になったとしてもベストアルバムは一つのパッケージで出す」ということだとしたら、それが意味するものは重い。

 ただでさえ、若い世代のリスナーはネットでのフリーな音楽環境に慣れ親しんでいる。その層に向けて作品をリリースするなら、せめてベストアルバムのようなファンの忠誠心が問われる「記念品」的なパッケージ作品は、できるだけリスナーの懐に優しいものであってほしい。というか、リスナーとの関係性を長い目で見れば、その方が商売的にも正解になってきているような気がするのだが……。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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