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和田彩花の「アートに夢中!」

コートールド美術館展 魅惑の印象派

毎月連載

第26回

今回紹介するのは、東京都美術館(東京・上野公園)で開催中の『コートールド美術館展 魅惑の印象派』。イギリス・ロンドンが誇る印象派・ポスト印象派の殿堂コートールド美術館。実業家サミュエル・コートールドが、母国にもフランス近代絵画の魅力を伝えたいと、1920年代から収集したコレクションを核に1932年に設立された同館は、美術史や保存修復において世界有数の研究機関であるコートールド美術研究所の展示施設。同展では、その研究機関という側面にも注目し、美術史研究や科学的調査の成果を取り入れながら、マネ最晩年の傑作《フォリー=ベルジェールのバー》、ルノワールが第一回印象派展に出品した記念碑的作品《桟敷席》、セザンヌ《カード遊びをする人々》、ゴーガン《ネヴァーモア》など巨匠たちの代表作、約60点の作品を読み解いていくもの。マネを研究し、敬愛している和田さんが熱く語ります!

『コートールド美術館展 魅惑の印象派』展示風景

作品、会場、図録、どれをとっても充実した展覧会でした。研究者も、いま研究をしている人も、美術大好きな人も、美術初心者の人も、誰もが楽しめる展覧会だと思います。

でも今回は、マネの話だけで終わってしまいそうです(笑)。

エドゥアール・マネ
《フォリー=ベルジェールのバー》

エドゥアール・マネ《フォリー=ベルジェールのバー》1882年 油彩、カンヴァス
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

やはりエドゥアール・マネの《フォリー=ベルジェールのバー》に触れないわけにはいきません(笑)。

この作品が来ることが本当に楽しみでした。実物を見るのは初めてなんです。

でもマネの作品の中でも、一番解釈が難しいと思っています。実物を目の前にしても、けっこう頭を抱えてしまいました。

フォリー=ベルジェールはパリの大きなミュージック・ホールで、この絵にはその中にあるバーが描かれています。いろいろな階級の人が訪れる場で、広い一階では、歌や踊りやカンガルーのボクシングにサーカスまで、様々な出し物が催されていました。この作品の左上にも空中ブランコをする曲芸師の足が描かれています。

私のイメージでは、劇場というのは、静かに音楽や劇や踊りなどを見るイメージだったのですが、このミュージック・ホールでは演目を見る人もいれば見ない人もいるし、話をしながらお酒や食べ物を楽しむ人もいる。そして男女の出会いもある。とても活気にあふれて、騒々しい場であったことに驚かされました。

人々はおめかしして、華やかな場に繰り出します。マネはとてもお金持ちのお家で、ブルジョワでした。だからこういったところにもよく行っていたし、簡単に入れる身分でもあった。でもこのような世界に慣れているにも関わらず、描くテーマに選んだのはバーカウンターの一角だったんですよね。ほかの画家だったら、もっとメインの場面を描いていたのでは。出し物であったり、男女の出会いであったり、テーブルの様子だったり。わかりやすい場面を切り取るのが普通なのではないでしょうか。

でもマネが描くのは、バーで働く女性の姿。ピンポイントで、華やかな世界の中の、“影”の部分を描き出す。それがとってもマネらしい選択だし、当時の娯楽の一側面を、ある意味誰よりもわかりやすく、でもわかりにくく切り出した作品だと思います。

バーメイドであり
娼婦でもあるという説も

この女性は、バーで働く女性でありながら、高級娼婦でもあったという説もあります。

でもマネはただ女性の職業だけを暗に我々に示しているわけではないんです。もちろん一見したら、ただ働く女性の姿でしかないけれども、当時の背景や、場所が持つ意味を考えると、彼女は自分を売る娼婦でもある可能性を想像できます。

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