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片桐仁の アートっかかり!

パビリオン感満載の会場で、驚きの未来を体感! 森美術館『未来と芸術展』

毎月連載

第18回

20/2/10(月)

今回、片桐さんが訪れたのは六本木の森美術館。現在開催中の『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命──人は明日どう生きるのか』を、森美術館アソシエイト・キュレーターの德山拓一氏にご解説いただきながら鑑賞しました。

SF世界が実現しつつある!
驚きの未来都市

德山 これまで森美術館では「医学と芸術展」「宇宙と芸術展」といった、現代美術と幅広いテーマを組み合わせた展覧会を開催してきました。今回は、その第3弾として「未来と芸術展」を開催しています。

片桐 「未来」って僕、大好きなんですよ! 展示作品は全部アートなんですか?

德山 美術だけではなく、建築や製品も含め約260点を展示しています。「都市」「建築」「ライフスタイル」「社会と人間」をテーマに5つのセクションで構成していて、マクロからミクロへと視点を移動しながら未来について考えていこうという展覧会です。

SECTION1「都市の新たな可能性」展示風景

德山 最初は「都市の新たな可能性」というセクションで、未来の都市を見ていきます。アラブ首長国連邦のアブダビでは、再生可能エネルギーとクリーンテクノロジーを活用した《マスダール・シティ》というエコシティを現在建設中です。

片桐 すでに建設中なんですね!? 石油産油国なのに、石油に依存しない都市を建設しているんというのが先進的ですね。

ビャルケ・インゲルス・グループ《オーシャニクス・シティ》2019年

德山 この《オーシャニクス・シティ》は提案段階ですが、最大1万人が生活できる海上コミュニティのプロジェクトです。

片桐 地球温暖化で海面が上昇したら、海の上に都市を作ってしまえばいいという発想ですね。

德山 風力や太陽光発電を使用してエネルギーを完全自給して、食料も生産し、環境を汚染する廃棄物を出さないというエコ・システムを導入しています。

MADアーキテクツ《山水都市リサーチ》2009年

德山 北京をはじめ世界で活躍する建築グループ、MADアーキテクツが手がけた《山水都市》は、中国の山水画をイメージして自然と都市の融合が図られた都市がデザインされていて、実際に北京で建設されています。

片桐 環境に負荷をかけないことと、自然との調和や融合ということが、今後の都市の課題なんですね。

会田誠《NEO出島》2018~2019年

德山 会田誠さんの《NEO出島》という作品は、霞ヶ関の上空に「NEO出島」という経済特区を作るという構想です。これまで霞ヶ関をアジアの経済ハブにする構想がありましたが実現していないことを踏まえて、この「NEO出島」ではグローバルエリートのみが出入りできる逆差別的な特別区域として、霞ヶ関を影にしてしまおうというものです。

片桐 さすが会田さん、とんがっています! アートになると現実社会の皮肉や批判を込めた作品が出てくるのが面白いですね。

《2025年大阪・関西万博誘致計画案》2019年

德山 これは2025年の大阪万博会場をデジタル空間化する計画を、インスタレーションとして表現した作品です。例えば、片桐さんがお腹をすかせた状態で会場内に足を踏み入れると、コンピューターが片桐さんの顔認識を行い、過去の検索履歴などから食の好みを判断し、片桐さんの今の状態に合ったレストランやカフェを提案してくれる。そんな、ひとりひとりに最適化されたサービスがあらゆるレベルで提供されると、個人によって会場内で見える景色も変わってくる。そうした状況を表現しています。

片桐 すごい! SF世界の未来都市そのものですね。個人情報の問題もあって実現できないことも多そうですが・・・。

德山 アメリカのGoogleや中国のアリババといった企業が「スマートシティ」を実現させようとしています。Googleは個人情報保護の壁に阻まれて実現できていませんが、中国では杭州などの都市で実現しているんです。

片桐 中国はトップダウンで実現可能なんですね。便利な方に目がいきますけど、個人の行動が全て記録されると思うと怖い部分もありますね。

新素材・新技術を用いると
建築はどう変わる?

エコ・ロジック・スタジオ《H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g》2019年

德山 ここからは「ネオ・メタボリズム建築へ」と題したセクションで、現在進んでいる新しい素材の開発や新工法の研究を紹介しています。例えば、微細藻類のような有機体を建築物の中に入れるアイディアがあって、この3Dプリント出力された造形物の中ではユーグレナ、いわゆるミドリムシが生息しているんです。

片桐 ミドリムシ!?

德山 このミドリムシが太陽光によって光合成を行っていて、酸素を生成しながら造形物内で生物コロニーを形成するんです。

片桐 こういう作品は美術館側としてはやっかいなんじゃないですか(笑)?

德山 作家のプランは、建物全体にミドリムシを生息させるということなんですが……。この量だけでも実は世話をするのが大変なんです。毎日水やりなどをして育てています。

ニュー・テリトリーズ/フランソワ・ロッシュ《気分の建築》2010〜2011年

片桐 何ですかこれ!?

德山 これは建築ロボットです。新しい建築概念のためのリサーチプロジェクト《気分の建築》というもので、AIが集合住宅をデザインしロボットが施工を自動で行うのですが、全ての住人の深層心理や健康的状況までを建築設計の要素として取り入れているんです。

片桐 AIのデザインがこうした有機的な形になるのが面白いですね。

それにしても、僕が子供の頃に思い描いていた未来、例えば空飛ぶ車とか、一人一台のヘリコプターとか、ハードの方では追いついていないですけど、ソフトの方では「デジタル都市」が実現していたり、かなり追いついてきているのに驚きました。

德山 都市や建築はプランがたくさん出てきているんですけど、コストや安全面で実現していないことが多いんです。

ゴキブリ食が登場する!?
未来のライフスタイル

德山 ここからは「ライフスタイルとデザインの革新」というセクションで、衣食住など生活に関わるものの未来像を紹介しています。

片桐 あ! このハンドルかっこいい! 自動運転車ですか!?

Nissan Intelligent Mobility×Artプロジェクト《Invisible to Visible 〜未来の自動運転〜》2019年

德山 日産自動車による、未来の自動運転を体験できるインスタレーションです。自動運転でのドライブを、別の空間にいる人がVRゴーグルを装着することにより一緒にドライブをしているような体験ができるというもので、寝たきりの人や遠方にいる人とのドライブが楽しめるんです。

片桐 なるほど。自動運転は技術的にはすでに確立されているから、それにプラスした新たな可能性も考えているんですね。

長谷川愛《ポップ・ローチ》2015年

片桐 あ! これは嫌ですよ(笑)!

德山 食料問題や環境問題を題材とした作品を発表している長谷川愛さんの《ポップ・ローチ》という作品で、食糧危機を解決するために繁殖力の高いゴキブリをマカロン味のおいしい昆虫食に変えるという提案です。

片桐 ゴキブリがマカロンになるわけないじゃないですか!? 問題は見た目ですよ!

OPEN MEALS《SUSHI SHINGULARITY》2019年〜

德山 これは電通を中心に進められているプロジェクト《OPEN MEALS》というもので、味や栄養など、あらゆる食をデータ化して世界中でシェアしようとするものです。例えば、東京でデータ化された寿司を、海外にある3Dプリンターで出力するんです。

片桐 食べ物すら3Dプリンターで出力しようとしているんですか!? すごい世界ですね。

德山 やはり食感は再現するのが一番難しいそうですよ。

LOVOT(らぼっと) 2019年
名前に反応して近づいてきたり、抱き上げると喜ぶ表情を見せるLOVOT
エンタテインメントロボット aibo (2017)

片桐 かわいい子たちがいますね!

德山 GROOVE Xから発売されているLOVOT(らぼっと)です。名前を呼ぶと反応しますよ。黄色い子はアール(フランス語のArt)という名がついています。

片桐 アールちゃーん! あ、近づいてきた。声に反応するんですね。触るとあったかい! 声も子犬とイルカの中間というか、なんとも言えないかわいさですね。赤ちゃんぐらいの重量感…。

德山 実はこのLOVOTたちはものすごく優秀で、どんな動きや表情をすればかわいいと思ってもらえるか、喜んでもらえるかというのを学習していくんです。先ほど見た、自動運転車2台分の処理能力があるんですよ。

片桐 2台分!? 自動運転って実は簡単なんですね(笑)。

身体はどこまで進化できる?
または、どこまで変容したいか!?

德山 次の「身体の拡張と倫理」というセクションでは、ロボット工学とバイオ技術のふたつの道筋から身体の変化の可能性を見て行きます。

遠藤謙《OTOTAKE PROJECT》2018年〜

片桐 乙武さんの義足義手プロジェクトですね。

德山 ソニーコンピュータサイエンス研究所の研究員である遠藤謙さんが、乙武洋匡さんのために義足義手を開発し、二足歩行を目指すプロジェクトです。乙武さんは2本足で歩いたことがないので、まずは「歩く」という経験回路を作るために、短い義足からスタートしたそうです。

片桐 義足義手の技術はすごい進化しているようですね。パラリンピックでもどんどん記録が更新されていますし。ただ、利用できる人が先進国に限られてしまうところが残念な点でもありますね。

パトリック・トレセ《ヒューマン・スタディ #1、5 RNP》2012~2018年

片桐 これはお絵かきロボットですか?

德山 ロボットアーム5台がボールペンで椅子に座った人の顔を模写します。

片桐 あ、始まった! えぇ、そこから? そう描く!? 面白い描き方をするんですね!

ロボットアームによる自動素描中

德山 5台それぞれが異なる描き方をするんですよ。

片桐 好き勝手なところから描いていくというのが、人間的で面白いですね。(ホルスト・)ヤンセンみたいなタッチ!

完成した片桐さんの顔の模写
ディムート・シュトレーベ《シュガーベイブ》2014年〜

德山 このバイオラボでは、バイオアーティストたちが実験装置を使ってアート作品を作っています。こちらは今回の目玉作品のひとつ「ゴッホの耳」です。ゴッホが切り落としたとされる左耳を、生きた状態で再生したバイオアートです。

片桐 実際にこんな形をしていたんですね!

德山 ゴッホの子孫の方の耳の軟骨細胞からDNAを採取し、そのDNAを復元して培養しているものです。作者の発想を元に、MITやハーバード大学の協力があってこそ実現した作品です。

片桐 タイトルの《シュガーベイブ》というのは、どんな意味があるんですか?

德山 この「ゴッホの耳」は、細胞が全て入れ替わっているけれど、元の「ゴッホの耳」と同じものと言えるのだろうか、という哲学的な問いも投げかけています。シュガーベイブというのはイギリスのアイドルグループなんですけど、グループ名はそのままで8年を経てメンバーが総入れ替えしたんです。それが元のシュガーベイブと言えるのかという……。

片桐 ただのアイドルオタクですか!? ひねりすぎて逆に分かりづらくない!?

アギ・ヘインズ《「変容」シリーズ》2013年

片桐 この赤ちゃんは人形ですよね?! うわっ、よく見ると、ちょっと気持ち悪い……。手術されているんですか?

德山 この「変容」シリーズは、外科手術で身体を強化した新生児たちをリアルに制作したものです。生まれてすぐに、大人になってから社会で成功するために身体を改造するという設定で、カフェインの吸収を高めるために頬の面積を増やしたり、薬を入れる専用の口を作ったり、身体の変容を行なっています。

片桐 赤ちゃんのうちに、社会や環境に適応する身体に変えてしまおうということなんですね。でも人間の範囲内であってほしいです。こうしてアート作品として見ると拒否反応が起こってわかりやすいですけど、限られた人だけで実験室や書類のみで検討していったら、こうした人体改良も良いことだと判断されてしまう可能性もありますよね。

50年以上前に未来社会を見据えていた
手塚治虫と諸星大二郎

德山 最後のセクション「変容する社会と人間」では、未来の社会や人間がどのように変化していくかを考えていきます。

マイク・タイカ《私たちと彼ら》 2018年

片桐 これはツイッターの言葉を書き出しているんですか?

德山 AIによって作り出された架空の人物たちの顔写真とツイートがプリントアウトされ続けるというインスタレーションです。この作品制作のきっかけになった出来事は、2016年のアメリカ大統領選の際に、トランプを支持する大量のツイートがbot(ロボットによる自動発言)だったという事件です。作者のマイク・タイカ氏はGoogleの研究員でもあるアーティストで、AIが大衆を操るのは非常に容易いと警鐘を鳴らしています。

片桐 トランプが大統領になるわけないってほとんどの人が言っていたのに、なりましたからね。AIに人間が操作されるというSF的な恐怖世界がすでに起きていたんですね!

手塚治虫《火の鳥 太陽編》1986〜1988年
諸星大二郎《夢見る機械》1974年

德山 こちらでは日本を代表する漫画家として、諸星大二郎さんと、手塚治虫さんの漫画の原画を展示しています。二人とも、人類が欲望を追求した果てのディストピアを描いています。

片桐 両方とも大好きです! 『火の鳥』なんて50年以上前の作品ですけど、まさに今現実に起きていたり、問題になっていることがテーマになっていますよね。

德山 食料問題や気候変動、AIの暴走など、戦後10年も経たないうちに未来をかなり具体的に予想していたことに驚かされます。

アウチ《データモノリス》 2018年/2019年

德山 最後に登場するのは、トルコのアーティストによる《データモノリス》という作品です。

片桐 『2001年宇宙の旅』に出てくるモノリスですか?

德山 形はまさにそのものですよね。トルコに世界最古の神殿と言われるギョベクリ・テペ遺跡があるんですが、その遺跡に刻まれた図像や岩肌などのデータをAIに学習させ、それを抽象的な映像に変換して、高さ約5メートルの直方体に写し出しています。

片桐 ものすごい量のデータをAIが解析しているんですね。美しさとか、奇抜さとかを意図したものではないだろうから、人間離れしているというか……不思議な映像イメージですね。

德山 今後さまざまなビッグデータをAIに学習させることで、私たちがこれまで見たことのない景色を作り出してくれるだろうという可能性を感じさせてくれる作品です。

今回の『未来と芸術展』は、パビリオン的な楽しさがあったと語る片桐さん。

「博覧会的な目新しさと、社会の問題に切り込む現代アートの鋭さが、ちょうど良いバランスで成り立っていると思いました。アートだからこそ可能な表現や、アートだから考えさせられることも、しっかりと提示されています。でも、頭でっかちにならずに見に行ってほしいですね。マクロからミクロまで幅広い範囲で、思いもしなかった未来像を見せてくれたり、意外なところに思考を持っていかれたり、今まで結びついていなかった点と点がつながったり。そんな面白さを体験してみてください!」


構成・文:渡部真里代 撮影(片桐仁):星野洋介

プロフィール

1973年生まれ。多摩美術大学卒業。舞台を中心にテレビ・ラジオで活躍。TBS日曜劇場「99.9 刑事事件専門弁護士」、BSプレミアムドラマ「捜査会議はリビングで!」、TBSラジオ「JUNKサタデー エレ片のコント太郎」、NHK Eテレ「シャキーン!」などに出演。講談社『フライデー』での連載をきっかけに粘土彫刻家としても活動。粘土を盛る粘土作品の展覧会「ギリ展」を全国各地で開催中。

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