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『ロミオとロザライン』作&演出・鴻上尚史インタビュー「川崎皇輝が誠実に愛し、あがく姿が観客の胸を打つ」

ぴあ

鴻上尚史 撮影:源賀津己

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少年忍者・ジャニーズJr.の川崎皇輝が舞台初主演を務める『ロミオとロザライン』。その川崎と伴走するかのように稽古場で指導にあたっているのが、作・演出を手がける鴻上尚史だ。開幕を約1ヵ月後に控えたタイミングで、鴻上の瞳に映った川崎の座長ぶり、またロミオがジュリエットと出会う前に熱を上げていたというロザラインの存在に着目した狙いを語ってもらった。

ロザラインに、弾き飛ばされてしまう演出家像を重ねた

──同じタイトルの小説(集英社『ジュリエットのいない夜』に収録されている中編)をお書きになったほど、鴻上さんがロミオ・ジュリエット・ロザライン三者の関係に惹かれる理由はどこにあるんでしょうか?

恋愛ものを書こうとする時に、主人公が直前まで別の女性に熱を上げていた設定にすることのすごさを感じたんですよ。『ロミオとジュリエット』は間違いなく世界でいちばん有名な恋愛物語だけど、いまの製作委員会方式だったら絶対に「中止」の指示が飛んだよね。

──どういうことでしょう?

大好きな女性(ロザライン)が参加するパーティーに行ったのに、ロミオはそこでいきなり別の女性(ジュリエット)を見初めて恋愛を始めちゃうんだよ? 現代だったら打ち合わせの段階でNGが出るでしょう。

だってヒーローは、大好きな別の女に会いに行って、ヒロインと出会う。この設定、常人にはちょっと理解し難いと思うんだよね。だからまずそこなの。同じ物語をつくる人間として「どうしてシェイクスピアはそんな設定にしたんだろう?」っていう、素朴な疑問が出発点になっています。

それにさ、ロザラインが可哀想すぎない? 戯曲の中であれほどロミオから求められたわりに出演しないしパーティーでも話さないし、どこにいるかさえ記されない。で、いつの間にか忘れ去られている。もし自分がロザラインの立場だったら、こんなに切ない話はないだろうと思うよ。だって自分のことを「好きだ」と言っていた男が、別の女性を追って5日後には死んでいるわけだから。彼女からしてみたら「何なの!?」って話。それが、僕がロザラインにこだわっている理由なんだ。

──ただ小説は今回の原作ではなく、この舞台は「ロミオとロザラインとジュリエットの関係から夢想した」書き下ろしの新作なんですよね?

そうそう! 小説版の主人公は中年の演出家なのに対して、舞台版はロミオ役を演じる俳優が主人公。小説はその演出家と主演女優の夫婦、ロミオとジュリエットを演じる若い俳優たちの物語だったけど、この舞台では若い3人の関係性を描きます。

『ロミオとロザライン』メインビジュアル。カラフルな稽古着に身を包んだ川﨑皇輝(少年忍者/ジャニーズ Jr.)、吉倉あおい(右)、飯窪春菜(左)のメインキャスト3人が並ぶ。

舞台のタイトルが小説と一緒だから、(川崎)皇輝ファンの人で、予習のために読んでくれた人がいるみたいなんだけど……中身はまったく異なる新作だから申し訳ないんだよね。「これ、予習しない方がいいよ」と伝えられるものなら、伝えたいと思ってる(苦笑)

──小説では劇団の人間模様と劇中劇がクロスオーバーしていきましたが、今回の舞台版では何と劇中劇が交錯していくのでしょうか?

舞台版では劇団じゃなくて、『ロミオとジュリエット』のプロデュース公演に集められた俳優やスタッフの人間模様が描かれます。ロミオ役の俳優が、ロザラインの役割に扮する女性演出家を気に入って指名するの。で、彼女を好きになって気持ちを伝える。でも女性演出家は作品の成功がいちばんなので、幕が降りてから……「すべて終わってから考えます」と答えるんだけど、その様子を知ったジュリエット役の俳優が「私を見る目より、演出家を見つめる目の方がロミオは輝いている」「ジュリエットである私をちゃんと見て」ってところから物語が動き出していく。

──女性演出家がロザラインの役割になるんですね! 演出だけでなく、プロデュース公演『ロミジュリ』にロザライン役として出演することになるんでしょうか?

いや、現実世界では演出家のままだよ。言ってしまうと、眠った時に夢の中でロザラインになるの。起きている時は『ロミジュリ』の演出家。だから劇中では、夢の中・現実・劇中劇という3つの世界が進行していく。

──だんだん輪郭が見えてきました! 演出家にロザラインを託したことで、舞台版は小説と比べて三角関係がよりハッキリ際立つ構造になったんですね。

いえいえ、それはそもそも別モノなので。彼女は20代後半で気鋭の若手演出家なんだけど、夢でロザラインに扮する時はロミジュリたちと同年代になる。だから徹頭徹尾ロミオとジュリエットの間に入って来ようとするし、ロミオもロザラインの視線を意識しながらジュリエットの方へ走っていく。最初はロザラインの歓心を買うためにジュリエットに話しかけていたのに、演技だった想いがいつしか本気に変わってしまうんだね。

──その設定にした狙いはどこにあるんでしょうか?

これは俺の“ガワ”の話なんだけど……演出家って、最終的には傍観する立場になっていくんですよ。最初は一緒にひとつの作品をつくるから俳優と共同作業する立場の人間なんだけど、本番の幕が開いたら、あとは俳優に任せるしかないんだよね。その「残された感じ」というか「弾き飛ばされた感じ」がロザラインと重なるんです。

皇輝は稽古場で照れるんです

──物語の始まりを聞けば聞くほど、主演を務める川崎さんがふたりの女性に挟まれてタジタジしている様子が思い浮かんでしまいます。

まさにタジタジしてますよ(笑)。演出家役の(吉倉)あおいも、ジュリエット役の(飯窪)春菜も年上だしね。お姉さまふたりに囲まれて、必死になってがんばっていますよ。

──鴻上さんの目から見て、舞台初主演にしてタイトルロールのひとりを務める川崎さんの、俳優としての魅力はどこにあると思いますか?

誠実に一生懸命ってとこだね。年上のお姉さん相手に一直線でぶつかっていく。ただ誠実に愛そうとして、必死にあがいている姿が観客の胸を打つことになるんだと思うよ。

──若手育成の場として立ち上げられた虚構の劇団をはじめ、公演中止になってしまった『スクール・オブ・ロック』(2020年)の最終審査を見学していた時に強く感じたのが、鴻上さんの“教育者”としての側面でした。今回も若手キャストが揃う中で、彼らをどんなゴールへ導いていこうと考えていらっしゃいますか?

「ちゃんとした役者になってもらいたい」に尽きますね。稽古場であの手この手を使って働きかけている最中です(笑)。

──川崎さんとは初対面でワークショップをされたとか。鴻上さんの「あの手この手」ぶりが気になります。

修飾語が山ほどあるシェイクスピアのセリフを皇輝にぶつけて「これって何を言いたいんだと思う?」と問いかけていますね。朗々といっぱい喋っているけど、結局、伝えたいことは何なのか。いつも「ロミオはどういう感情なんだと思う?」と投げかけている。

俳優って、最後は自分から役の気持ちを見つけていかないと伸びないんだよね。「こう動いて」「このシーンはこんな感情だろ?」って演出家がすべて答えを与えてしまったら、俳優はどんどん受け身になってしまう。だから皇輝にはセリフに対する質問をたくさんして、考えてもらっています。

──考え抜いた結晶を表に出す川崎さんのセンスは、今のところ鴻上さんにどう映っていますか?

よくやっていますよ! 恋愛ものなのでどこまで言っていいのかなぁ……でもわかっているのは「皇輝はそれほど恋愛が得意ではないらしい」ってことだね(笑)。

──それは重要な事前情報ですね!

あいつ、「このシーンはどういう気持ちか、僕にはわからず途方に暮れています」みたいなことけっこう言うんだよ。そこは「待て待て!」と立ち止まって。ジュリエットは14歳直前、ロミオは16歳ぐらいかな、とても若く、恋愛というものに初めて一直線に飛び込んでいく姿が魅力的なわけだから「恋愛に慣れていないくらいの方がいいと思うよ?」って言いながら稽古してます。

──では、すれていない素の川崎さんのままぶつかればよいと?

素のまま、っていうか……もちろん、ロミオとしてなんだけど。稽古場で照れるんですよ。そうそう、皇輝って小中高と男子校で。それ聞いて「なに!?」って。

──女子に対する免疫が育まれにくいという、あの!

まさに! 稽古場は「隣に女子がいるだけで緊張する」って言うんだよね。「女子のいる環境にドキドキする」んだって(笑)。

──そんな川崎さんがどんな成長を遂げるか、ファンの皆さんは気になるでしょうね。

楽しみにしてほしいですね。もちろん皇輝自身も「ロミオに命かけるぞ」って気合い入れてると思うよ。

恋愛慣れしていない皇輝がどれだけ突き抜けられるか、乞うご期待

──一方、ロザライン役の演出家に扮する吉倉あおいさんはCM出演やモデルからキャリアをスタートさせ、TVドラマなど映像で経験を積んできました。彼女の舞台俳優としての魅力を、鴻上さんはどのあたりに見出していらっしゃいますか?

あおいはね、嘘をやらない潔さがある。本人は「不器用」と言うんだけど、不器用のプラス面は適当な嘘でごまかさないこと。すごく信頼できますね。

今日、モノローグの稽古で急に涙があふれ出てきてセリフが言えなくなってしまって。「どうしたんだよ?」って聞いたら、「ジュリエットの部屋で、ロミオがジュリエットとふたりでいると思うと涙が止まらない」って。

──嫉妬の感情が吉倉さんの中に降りてきた?

自分の中にある真実の感情で演じようとしたんだね。

──ジュリエット役の飯窪春菜さんは、2011〜18年にモーニング娘。としてアイドル活動を行っていました。彼女のキャリアは、本作にどんな影響を与えると感じていらっしゃいますか?

春菜はさすがアイドルやっていただけあって、ガッツがある。すごく喰らいついてくるし「本気で女優になりたい」ってエネルギーを感じます。

──ジュリエットはロミオを翻弄するんですか? それとも、ただそこにいるだけでロミオが惹かれてしまうような存在として描かれるんでしょうか?

翻弄するわけじゃなくて、ロミオを大好きになるってことだよね。今日も稽古場でスタッフ全員でキュンキュンしたんだけど、皇輝は恥ずかしいからジュリエットと距離を取ろうとしてしまうんだよ。

けど春菜ジュリエットはエネルギーが強いから、ものすごい目力でロミオに視線を送る。これが『ロミジュリ』にはとても大切なんだ。ジュリエットが熱ければ熱いほど、ふたりに訪れる悲劇が際立つから。

──そんなふたりに挟まれた川崎ロミオは、どんな結末に向かうんでしょう?

タジタジしているのは最初だけ。まあ、そこからどうなるかは、見てのお楽しみですね(笑)

──もうひとりのタイトルロールであるロザラインの、ロミオに対する複雑な感情はどのように描かれますか?

それもご覧になってのお楽しみ。あおいがどう成長するか、ぜひ見届けてください。

──川崎さんもどう突き抜けていくか、早く拝見したくなりました!

皇輝のファンは固唾を飲んで「がんばって」と思っている気がするんだけど、日々一生懸命稽古しているから、あたたかい気持ちで見守ってもらえたら。小中高、女子と触れ合ってこなかったあいつがどんなロミオを演じるか。乞うご期待です。

取材・文:岡山朋代 撮影:源賀津己(メインビジュアルは除く)

※川崎皇輝の「崎」は正式にはたつさき

舞台『ロミオとロザライン』
作・演出:鴻上尚史
出演:川崎皇輝 / 吉倉あおい / 飯窪春菜
一色洋平 / 二宮陽二郎 / ザンヨウコ / 渡辺芳博
大高洋夫

【東京公演】
2021年7月9日(金)~2021年7月25日(日)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

【大阪公演】
2021年7月30日(金)~2021年8月1日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2171363

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