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淪落の人

20/1/30(木)

『淪落の人』 NO CEILING FILM PRODUCTION LIMITED (C) 2018

昨年の大阪アジアン映画祭で観客賞を受賞した時のタイトルが『みじめな人』。さらに日本公開では「落ちぶれる」を意味する『淪落の人』に。こうまで冷たく突き放した題名にこだわるのは、みじめな人の劇的な変化を観客に味わっていただきたいという“親切心”かなと思いましたが、実際はどうなのでしょうか。 確かに本作では主人公たちの心の変化が描かれますが、それは劇的なというほどではありません。もっとシンプルで深いものでした。 工事現場での事故で下半身麻痺となってしまった中年男性は妻と離婚し、孤独な一人暮らしを慰めるのは元同僚や海外の大学に通う一人息子とスカイプを通じて会話するときだけ。そんな彼のところに若いフィリピン人女性が住み込みの家政婦としてやってきます。最初は広東語をまったく話せない彼女にイラつきましたが、片言の英語でどうにか会話を重ねていくうちにお互いに情が移っていきます。やがて彼女が一度は写真家への道を諦めたものの、いまなお夢を持ち続けていることを知った男は、その夢を叶えさせてあげようと思い始めます。 香港やフィリピン映画では香港の家庭に外国人家政婦として出稼ぎに来た人がちゃんと映画の中に出てきます。ただしそれは映画の背景であったり、逆に出稼ぎ労働者の辛さをアピールする内容に偏りがちでした。つまり互いに視界には入っていても映画の中では登場人物が注意を払って見る対象ではなかったということです。 ところが本作では香港人と雇用される出稼ぎ労働者が心の交流を深めていく初めてのドラマだったといっていいでしょう。 映画の中で二人が劇的に変わっていくというわけではありません。でも、ちゃんと向き合うことで相手が困っていればそれに気づくし、手を差し伸べようという気持ちにもなります。その結果、返ってくる感謝の言葉や笑顔にうれしくないはずはありません。ほんの少しでいいから人の役に立つことを心掛けることで惨めだった人が生きがいを感じながら人生を歩むことができるかもしれません。 そんなことを信じさせてくれる男女を香港の名優アンソニー・ウォンと香港での舞台経験が豊富なクリセル・コンサンジが見事に演じてくれました。

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