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『ベスト・キッド』ファンの期待を裏切らないクオリティ 『コブラ会』が傑作たる3つの理由

リアルサウンド

20/10/7(水) 10:00

 あの戦いは終わっていなかった……。と書けばカッコがいいけれど、30年以上前の高校時代のことで、中年男性2人が町中を巻き込んでケンカをするなんて、あってはならないし、傍から見れば迷惑極まりない。大人げないにも限度があるが、しかし、だからこそ面白いのである。先日からNetflixにて配信が始まった『コブラ会』(2018年~)は、あの『ベスト・キッド』(1984年)の続編であり、34年前の因縁を引きずる2人の中年男性の愛憎劇であり、武道を通じて成長していく若者たちの青春群像劇だ。

 34年前、時はまさに80年代真っただ中。ナウでヤングでイケてるカラテボーイだったジョニー(ウィリアム・ザブカ)は、地区の少年空手選手権で転校生のダニエル(ラルフ・マッチオ)にKO負けを喫する。所属していたコブラ会は崩壊し、彼女だったアリ(エリザベス・シュー)も失った。田舎の高校生の人生を狂わすには十分すぎる挫折である。そのまま大人になったジョニーはいまだに80年代感覚が抜けないまま、日雇いの仕事をこなしては、酒に溺れる毎日。妻と息子とも別居状態で、まさに人生詰将棋……なのに、かつてのライバルだったダニエルは、カーディーラーとして大成功を収め、円満な家庭を築いていた。ダニエルの活躍を知れば知るほど、これまたジョニーの飲酒量は増えるばかり。そんなある日、ジョニーのアパートに移民の少年ミゲル(ショロ・マリデュエナ)が引っ越してきた。当初は移民かよと素っ気ない態度を取っていたジョニーだが、ミゲルが不良たちにボコボコにされているのを見かけ、これはイカンと止めに入る。酒浸りでもジョニーの空手は全く衰えていなかった。ジョニーが不良グループを秒殺すると、その強さに胸を打たれたミゲルが訴えた。「僕に空手を教えてください!」かくしてジョニーはコブラ会を復活させるのだが……。

 ……もう『ベスト・キッド』ファン的には、たまらないあらすじであるし、その期待は1ミリも裏切られない。私は直撃世代ではないのだが、それでもあのワックスがけやペンキ塗りを練習した口だ。そんな私から見ても、まさかこんな幸福な続編ができるとは思わなかった。魅力がありすぎて、書き始めると何万字とかになってしまうので、今回は大まかに3つに絞って書きたい。

 1つ目、いきなり身も蓋もない話をするが、1話が短いことが本作の白眉である。1話が30分程度なのでサクサク見れる。これは製作者の賢明さを端的に表しているだろう。『ベスト・キッド』の続編で前のめりになる層は、私も含めて、もう決して若くないのである。1話で1~2時間もあると、体力がついていかない。悔しいだろうが、仕方ないんだ。しかし30分ならば話は別である。まさにワックスがけをしていたら、いつの間にか技が身についていたミヤギさん式トレーニングのように、過剰な負荷なく楽しむことができる。何はなくとも、まずは1話30分にした製作陣の英断を称えたい。

 2点目は、徹底的な『ベスト・キッド』愛だ。主要キャストは全員オリジナルキャストのままで、いわゆる「原作を知っていればニヤっとできる」的な要素も散りばめられているし、ほとんど細かすぎて伝わらない『ベスト・キッド』の見どころ選手権と化している。そして、そんな有り余るほどの愛があるからこそ、今日の視点で見たときの『ベスト・キッド』のおかしなところも適切に捉えることができているのだ。これが3つ目の魅力へとつながっていく。

 本作の魅力の3点目は、80年代への郷愁を描きつつ、現代の価値観や倫理観を最新の技術をもって脚本と演出を組んでいることだ。ジョニーに弟子入りするミゲルをはじめとした“現代を生きる若者たち”もキャラが立っていて、彼ら彼女らのドラマからも目が離せない。つまり、単純に出来がいいのである。たぶん『ベスト・キッド』を観ていなくても、シーズン1は優しい『レスラー』(2008年)というか、「80年代に置き去りにされた男の再生と再出発の物語」として、シーズン2は「現在を生きる少年少女らの青春群像劇」「『暴力』と『武術』の違いを描く骨太なドラマ」として楽しめるだろう。

 そしてシーズン2からは本格的に「新世代」の物語になっていくのだが、これがまた非常に出来が良い。ジョニーの弟子になったミゲルと、ダニエルの娘で、これまた空手の使い手であるサマンサ(メアリー・モーサ)の甘酸っぱい恋愛模様から、そこに絶妙に90年代のイケメン顔をしたロビー(タナー・ブキャナン)が参戦すると、物語は一気に『ビバリーヒルズ高校白書』(1990年~)を彷彿とさせる青春ラブストーリーへ。「誰と誰がくっつく?」「くっついたと思ったら、別れた!」といったドキドキ&トキメキを描きつつ、しかし全員が空手の達人なので、痴話喧嘩では肉体言語、すなわちドつきあいになる。

 特筆すべきキャラは、シーズン2から投入される激ヤバ女子高生のトリー(ペイトン・リスト)だろう。積極的に人間関係をグチャグチャにして、痴話バトルでは武器の使用も辞さない人間凶器っぷりでドラマをグイグイ引っ張っていく。もちろん、彼ら彼女らが見せるアクションシーンのクオリティも高い。量より質のスタンスで、時には戦うシーンが全く無い話もあるものの、溜めに溜めた末のバトルは素晴らしい。予告にもあるシーズン2の校舎での大乱闘は必見だ。『クローズZERO』(2007年)、『HiGH&LOW』(2015年)など、学校で殴り合うといえば日本のお家芸だったが、これはアメリカからの返答だと言ってもいいだろう。やっぱ世界中のティーンは、みんな学校で殴り合いをしたいんですよ。

 1話30分というコンパクトさ。原作への異常なほどの情熱。そして、丁寧かつ大胆に練り込まれたドラマとアクション。シーズン3と4の配信が決定するのも納得のクオリティだ。単なるノスタルジックなコンテンツに留まらない。大人になった“ベスト・キッド”たち、そして新世代の“ベスト・キッド”たちが織りなす怒涛の物語を体感してほしい。若者たちを巻き込んだ34年越しの大人のケンカは、果たしてどのような場所に着地するのか? 今はまだ不明だが、是非ともこの目で見届けたい。とりあえずシーズン3、早く来てくれ!

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■配信情報
『コブラ会』シーズン1~2
Netflixにて、独占配信中

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