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旧作上映に映画館の“意志”が現れる 「午前十時の映画祭」10年間の文化的功績

リアルサウンド

18/11/4(日) 10:00

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第33回は“シネコンでの旧作上映”について。

参考:『タイタニック』も極上音響で! シネコン×名画座『午前十時の映画祭9』が示す、映画館の価値

 先日、映画史に残る名作の数々を1~2週替わりで朝10時から上映する企画上映《午前十時の映画祭》(公式サイト)が、コスト負担の厳しさなどの理由で来年度が最終シリーズになることが発表されました。

 このコラムの第26回でも取り上げましたが、僕はこの企画をものすごく素晴らしいと思っていますし、同様のことをやりたいと望んでいた熱意を汲んでもらい、シネマシティを上映仲間にいれていただいた大恩を忘れることはなく、ただルール通りに淡々と上映していくだけでなく、音楽モノは音響調整を行ったり、ときには朝だけでなく昼や夜にも上映回数を増やしたり工夫を凝らして、“映画をスクリーンで観る幸福”を訴えてきました。

 おかげさまで、東京とはいえども「都下」と括られ、都の仲間にいれてもらえない感(笑)の立川市にある映画館ながらたくさんの映画ファンにご来場いただき、直近なら『トップガン』では1館のみで全国シェア10数%というトップの成績を収めることができました。

 ただ、10年目で終了というのは、キリがいいというだけでなく、むしろ企画としては長すぎるほど十分な期間やってきたので区切りをつけるには良いタイミングかとは思います。

 料金を一般1,100円/学生以下500円という低価格に設定したことや、絶対朝10時上映開始という縛りは劇場にとって負担が大きすぎるので、このあたりを見直してぜひリボーンしていただきたいです。

 しかし、それにしても残念ではあります。僕は旧作の上映にこそ、映画館の未来を切り拓く戦略のひとつが秘められていると考えているからです。やろうと思ってもこの企画ほどの大きな規模でリバイバル上映を行うことは零細シネコンにはまったく不可能です。スクリーンではもはや観られるはずもないと思われていた数々の名作が全国で上映されてきたという文化的功績は小さくないと思います。

 旧作上映は特に洋画の場合が難しく、洋画は海外の権利元から「上映権」という権利を買って上映を行うということになります。

 配給会社によって異なりますが、たいてい新作として公開されて短いと1年とか2年、最長でも7年で上映権は切れます。まれに延長される作品もありますが、ほとんどの洋画は公開から5年も経とうものならもう劇場で観ることは困難です。

 それでも上映したい、となると、配給会社に手配を頼み込むか、自ら海外と交渉するかということになります。もちろんどんな作品でもOKなわけではなく、何がいけそうかというのは情報収集にかかっています。

 しかしそもそも、旧作上映を行ってもはっきり言ってたいしたお金が動くわけではない、というのがイタいところです。配給会社は新作を売りたいのに手間をお掛けするばかりか、こちらとしてはなるべく安くしてもらわなければ一部の大人気作品以外は赤字です。

 映画を出す方も面倒くさい、映画館もほとんどの場合大きく集客できるわけでもないのに新作上映より圧倒的に手間がかかる、と単純なビジネス的な視点だけでみたら旧作上映はかなり微妙です(笑)。だからどこもあまり積極的にはやろうとしません。配給会社本体が仕掛ける、続編公開前の前作復習上映のような、通常の仕事の延長でできる場合くらいになってしまいます。

 もちろん「名画座」と呼ばれる映画館は違いますよ。関東圏以外ですと残っている劇場数は10本の指で数え切れるほどで、特に若い方は映画ファンでも近隣になく、行ったことがない、名称も知らないという方も多いかと思います。

 名画座というのは現在では、基本的には公開後、数ヶ月ほどしてから主にミニシアター系作品と呼ばれるような小規模な作品を上映する劇場を指します。ミニシアター、単館系と呼ばれる劇場と兼ねる劇場もあります。小規模公開作品新作と旧作上映を交互に行っているんですね。

 シネコンは原則、新作の公開の場ですから、旧作上映のために新作の上映回数が削られるようなことは配給会社にとって許容しかねることです。当然ですよね。よって旧作上映はぐんとハードルがあがります。名画座はその点、全国一斉公開などのスケジュールに縛られることがありませんから、融通が利きます。配給会社もシネコンには出さないけど、ミニシアター、名画座には出すということもあります。

 新作を毎週毎週上映していくシネコンは、集客は配給会社頼り、配給会社まかせで、受動的にならざるを得ません。映画を宣伝して売るのは配給会社の仕事で、映画館は場所を貸すだけです。でもそうじゃない、という思いが首をもたげてきます。

 映画館もまた、映画を売るべきじゃないか。僕らはなんのために映画館スタッフという職業を選択したのか。自分が味わった映画からもらったこの気持ちを、できるだけたくさんの人にも可能な限り最善の状態で味わってもらいたい強い思いから、この仕事を選んだのではなかったか。

 全国統一で同時にやらなければならない新作の売り方とは違って、旧作上映なら、上映のタイミング、宣伝の方法に映画館にも多少の自由が与えられます。

 例えばG.W.や夏や冬の繁忙期あとの、そのまま何もしなければ大きなヒットが望めそうな作品もなく赤字になってしまうだろう月に、独自企画の上映を積極的に仕掛ける。新作上映前や途中に、関連旧作を上映して盛り上げる。

 言ってみればまったく商売の基本中の基本で、こんなこと他のビジネスだったらむしろ当たり前にやらなければならないことのように思えるかもしれませんが、映画館はなかなか出来ていないことが多いのです。出来てないというか、そう簡単に実現できない、というほうが正確ですかね。やりたい気持ちはあっても。

 実現している、それぞれの劇場の旧作上映は、つまりかなりの手間とリスクを引き受けて行われているのです。

 特にここ数年内に公開されたもので、まだ上映権が生きているようなものではない、公開から5年7年以上経っているにも関わらず、その劇場でだけ、あるいは全国でも数えるほどの劇場でだけ上映されるような旧作上映は、劇場も配給会社も、開催の理由の半分以上は“熱情”と言ってもいいと思います。これは名画座においても同様です。

 もちろん“熱情”だけではビジネスとしてサステイナブル(持続的)にならないですから、僕が手がけるときにはこのコラムで書き続けてきたようなあらゆる手段を駆使して集客を目指します。もちろん他の映画館もそれぞれに武器を活かして魅力的な企画を作りあげています。

 たとえこの上映単独では儲けられなくても、ご来場してくださったファンの方々に強い感動を味わっていただければ、通常の上映にも必ず良い影響があるはずだ、映画ファンのみならず、映画館ファンをも作るのだ、という“意志”が、旧作上映企画には込められています。

 そしてここには必ず映画館運営者のキャラクターが現れます。新作を並べたスケジュール表からは見えてこない“誰がやっているのか”という顔がのぞきます。それが面白い。映画館は、どこも同じではないのです。

 立川シネマシティでは先日、「ソウル・ミュージック・ムービーフェス」というブラック・ミュージックが大好物である僕の趣味全開の上映を行いました。新作とはなんの関係もない、最高のサウンドシステムで最高のソウルミュージックを僕が聴きたいからやった企画です。

 目玉として国内劇場初上映となる『ドリームガールズ ディレクターズカット版』【極上音響上映】を行ったのですが、やり方が悪かったのか集客がまま厳しく、折れそうな自分の心を奮い立たせるための、今コラムでした(笑)。

 集客は厳しくとも、きっと作った人たちだって聴いたことがないくらいの最高クオリティのサウンドで上映できたと自負しているので、くやしくないもん。

 年末か年始には、これにくじけず映画ファンにとって核爆弾級のデカい旧作上映企画、きっと実現してみせますよ。映画館の魂は、いまや旧作上映にこそ宿るんだ。

 ネット配信でもソフトでも観られる作品をあえてスクリーンでやるからこそ、そこに映画館の意義/価値が曇りなく輝く。

 You ain’t heard nothin’ yet !(お楽しみはこれからだ)(遠山武志)

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