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市川猿之助、六月大歌舞伎で『日蓮』を上演 「心の向き合い方を見つけてもらえたら」

ぴあ

市川猿之助

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「このポスター、ご覧ください。いくつもの光の球に包まれて後光が差しているように見えるでしょう。これ若いときの日蓮のイメージなんです」。

こう語るのは『六月大歌舞伎』の第三部で上演される『日蓮』で、蓮長後に日蓮を勤める市川猿之助だ。これまでスーパー歌舞伎やスーパー歌舞伎Ⅱで何度も脚本を手がけてきた横内謙介の構成・脚本・演出、そして猿之助の演出・主演による作品となる。

「日蓮聖人といえばややもすると戦闘的な面が強調される傾向がありますよね。様々な宗派を否定したり、世の中に果敢に関わりを持とうとしたりされていますからね。でもこの方、実は信仰に対して非常に真摯で、非常に神経細やかなんです。彼の残した手紙を読むと女性の信徒にもとても優しい方だったと感じます」

日蓮は江戸時代からこれまで何度も歌舞伎作品として描かれてきた。

「とにかくスーパースターですよ。病や窮地を救うためにこの世に現れてくださったという、いわゆる霊験譚になることが多いですね。歌舞伎の源義経のように、“ありがたい存在だからとにかく出しておこう”と。佐渡へ流されてもいますし、時代的には蒙古襲来にも関わらせることができますし、本当に芝居の種の宝庫。でも今回描くのは青年時代、蓮長と名乗っていた時代にスポットを当てました」と猿之助は語る。

蓮長は天台宗の開祖である最澄の教えに感銘を受け、比叡山で修行をする。今回はその修行時代を軸に描く。
「一隅を照らす、ひとつのことを一所懸命にやれば千を照らすことになるという最澄の教えを、おそらく一番強く受け継いだのが蓮長だと思うんです。比叡山にこもり長年修行をしていましたが、疫病や貧困、戦乱に苦しめられている人々を目の当たりにし、恩を仇で返すように見えても蓮長はあえて下山したんですね。“死んでから浄土へ行くのでは遅い、苦しんでいる人々をこの世で救わないでどうするのだ”と」

『日蓮』日蓮=市川猿之助 撮影:渞忠之

猿之助は信仰の力と歌舞伎が重なるとも言う。

「まさに今、この世は大変な状況になっています。もしかしたら思い詰めて明日死のうと思っている人がいるかもしれない。でもたまたま芝居を観て、なぜかわからないけれどもう一日だけ生きてみようと。そう思ってもらえたらうれしい。それが芝居の力です。また日蓮は多くの宗派の理論を学び、その上で、それではだめだと否定している。頭から否定しているわけではない。ここにも芝居を作る人間としてシンパシーを感じますね。面白いかどうか上演してお客様に観ていただく、そういう実践も大事。でもやみくもに作ってもだめ。真理に裏付けられた実践がそろって完成するわけです。日蓮は両方兼ね備えた類いまれな人だったと思います」

蓮長が傾倒する心の師として、最澄も登場する。
「僕のご先祖が日蓮宗で、今は我が家は天台宗なので、両方にご縁があるんです。曾祖母が毎朝高らかに南無妙法蓮華経とお題目を唱えていたそうです。それに最澄さんがお亡くなりになられて1200年の年でもありますし、天台宗のみなさんにも来ていただけるかな(笑)」

開幕にあたり日蓮宗池上本門寺で祈願を執り行う予定だ。 
「“この世を浄土にしようという日蓮聖人の思いの一端を担う心意気で勤めますので、どうぞお力をお貸しください”とお祈りしたいと思います。人として当然の礼儀だと思いますね。日蓮がこういう生涯を送ってくださらなければ、僕らもこのお芝居をできなかったわけですから。もし僕が死んで何百年後かに、四代目市川猿之助を題材にした芝居を誰かがやるとなれば、そりゃ“挨拶に来いよ!”と思いますからね」

コロナ禍のため、舞台の製作には様々な制約がある。舞台に大人数は上がれないし、製作過程や演奏中も安全を期す必要がある。
「対面で製作や演奏しなくて済むように、PCでやりとりできる打ち込みの音楽を使います。また装置もシンプルにして動かすたびにバタバタと埃が立たないように。お経の部分は宗徒の皆さんのお力を借りて、録音させていただいたものを使う予定でおります」

世の中まだまだ予断を許さない状況だ。
「お客様にはせめてお芝居の間だけでも現実を忘れていただきたい。それにこれは決して宗教のお芝居ではありません。それぞれのお立場から心の向き合い方を見つけていただける、そんなお芝居になるはずです」と力強く語った。

取材・文:五十川晶子 写真提供:松竹

『六月大歌舞伎』

演目

【第一部】11:00開演
一、『御摂勧進帳 加賀国安宅の関の場』
二、『夕顔棚』

【第二部】14:10開演
『桜姫東文章 下の巻』

【第三部】18:00開演
一、『銘作左小刀 京人形』
二、日蓮聖人降誕八百年記念『日蓮─愛を知る鬼(ひと)─』

※『日蓮-愛を知る鬼(ひと)-』の鬼の正式表記は角なし

2021年6月3日(木)~2021年6月28日(月)
会場:東京・歌舞伎座

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