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ヨーロッパ企画・上田誠「魔窟がそうであるように、演劇も足を運ぶことで観られるものがきっとある」

ぴあ

上田誠

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ヨーロッパ企画の第40回公演『九十九龍城(きゅうじゅうくーろんじょう)』が12月18日(土)から2月まで、全11都市を巡演する。

毎年、欠かさずに本公演を行ってきた中で初の“2年ぶり”となる本公演。今年10月には新メンバー・藤谷理子も加入したヨーロッパ企画にとって、今作は「集大成であり、最新形のようなものができつつある」(上田誠)という。

劇団の代表であり、作・演出を手がける上田誠に、作品のことから劇団のことまで話を聞いた。

舞台の構造は『Windows5000』に似たイメージ

――『九十九龍城』というタイトルですが、モチーフになっているのは台湾の九龍城(九龍城砦=巨大なスラム街)ですか?

そうです。ああいう場所が今もある、という設定で、“九十九龍城”というアジア最大の魔窟が舞台になっています。香港で爆破事件が起きて、その犯人グループが九十九龍城に潜んでいるかもしれないということでふたりの刑事が内偵し始める、というようなストーリーです。その捜査の中で、刑事はPCを使って九十九龍城の内部を監視するんですけど、そこでいろんな人の暮らしぶりを目の当たりにし、関わろうとし始めるという構造の話です。もちろんコメディで。

――魔窟を刑事が走り回るようなイメージでしょうか。

いえ、舞台上では九十九龍城の人たちが動いていて、それを見ながら刑事のふたりが天の声みたいに喋っている、というような構造です。だから監視している刑事ふたりは舞台上にはいないんですよ。舞台上でのやりとりを受けて、刑事が「その会話なくてよかっただろ!」みたいなツッコミとかコメントをしながら劇が進んでいく。そういうちょっと変わったつくりになっています。16年前にやった『Windows5000』(’05年/ヨーロッパ企画の第20回公演)のようなイメージですね。

ヨーロッパ企画第20回公演『Windows5000』より

――では、舞台上はどんなふうになるのですか?

舞台上には九十九龍城の建物をつくって、その魔窟のあちこちに登場人物がいて、それを順番に見ていくというような感じです。平場ではなくて、建て込んだ装置の中でお芝居するんですよ。

――九龍城のあのゴチャゴチャ感のある美術になるのですか?

そうです。それを目指しています。

――すごそうですね!

そう、だから稽古がしにくいんですよ(笑)、魔窟の舞台装置ありきの劇の構造になっているので。最初はどうやって稽古しようかと話していたんですけど、スタッフさんが工夫して立体感のある装置を作ってくださって、今はその中で稽古できています。

――ちなみに配役も決まっていますか?

中川晴樹と客演の金丸慎太郎くんが刑事をやって、それ以外のメンバーは魔窟側の人です。九龍城は人口密度が高かったのでそのイメージもあって、みんな何役か入れ替わって演じています。

――音楽は「キセル」が手掛けられて。

既に何曲かいただいてるのですが、すごく面白いですよ。今回は香港の魔窟劇として、「これキセルさんの音楽!?」みたいなものをつくってくださっています。アジアン・ノワールテイストで、めちゃくちゃいい曲です、カッコよくて。

17年ぶりの新メンバー加入で心機一転

――ヨーロッパ企画としては、今年10月に藤谷理子さんが劇団に加入されました。新メンバーが加入するのは久しぶりですね。

はい。新メンバー加入の影響は大きかったです。僕らの劇団は今23年目なのですが、役者に関しては、劇団6年目には(藤谷以外の)今のメンバーは全員いて、そこから2021年まできているので。このチームで年を重ねていく劇団になるかと思っていたんですよ。でも新しく理子ちゃんのような年代の人に入ってもらうということは、ここからけっこうがんばらないといけない。

――そういう気持ちになるのですね。

はい。劇団としては「前期は終わって、ぼちぼち中期か後期かな」と思う気持ちもあるんですけど、理子ちゃんはここから入るのに「劇団も初期の青春は終わっていてね」みたいな感じだとつまんないだろうなと思って。それでだいぶ、けっこう無理して……(笑)。あとは単純に理子ちゃんがすごく達者なので、いい加減なことはできないなとも思いますし。

――じゃあ変化もあるのですね。

でも理子ちゃんが取材で「劇団は何か変わりましたか?」と聞かれて、「全然変わらないですね」と言ってたので。

――(笑)

そっちを信じたほうがいいかもしれない。僕は「変わりましたよ」って言うのを期待していたんですけど(笑)。でも、ここからです!

2021年、17年ぶりに「ヨーロッパ企画」に入団した新メンバーの藤谷理子

――そういうことも、社会状況も踏まえ、今このタイミングで、ヨーロッパ企画の本公演で、この『九十九龍城』のような作品をやりたかった理由はあったりしますか?

昨年の2020年、ヨーロッパ企画は、本公演ではなく別の道を選んで、配信劇だったり生配信だったり、映像でいろいろやっていたんですね。それで今年、そろそろコロナの怖がり方もわかってきて、僕らの中でもなんとなく、気をつけながらなら本公演ができるねというムードになりました。それでじゃあ何をやろうかっていう時に、早い段階から「『Windows5000』のようなコメンタリー劇で、小部屋を舞台にしていきたい」とは言っていて………でもあれかもしれないです。それこそ、単純に演劇がやりたくて。ヨーロッパ企画のメンバーで、エチュードで笑いをつくったり、有機的な絡みでシーンをつくったり、要は笑いのことがやりたくなったっていう。

その中で、香港とかアジアを舞台にしたのは、かつての香港映画ってものすごい勢いがありますし、実際の街並みも、今現在はまた違うかもしれないけど、看板がにょきにょきはみ出ていたりとか、こんなに積めるのかってくらい荷物を乗せた車が走ってたりとか、なんかそういう“はみ出かた”にすごく勢いを感じる場所というイメージがあったので。そういう異国の、現代の日本の世相から少し離れた、ファンタジーな風景を選びました。

『夜は短し歩けよ乙女』を経て、「今回、すごいコメディなんです」

――上田さんは『夜は短し歩けよ乙女』(’21年6月※外部公演)でもとても楽しい世界をつくりあげておられましたが、例えば、社会的状況を踏まえて芝居のことを考えたりされますか?

ああ~、こういう話は慣れないのですが、でもそうですね、これは趣味の問題でもあるけど、僕はけっこう、こういう時期はファンタジーをやったほうがいいなというふうに考えています。やっぱり今みたいな時は、舞台上くらいは別世界で、明るい話をスカッと見たいよねっていうのは、なんとなく思っていましたし、エンタテインメントはそうありたいとも思っています。だから『夜は短し歩けよ乙女』は後半で風邪が流行するシーンが出てくるので、これどうしようかなと思っていて。

上田が脚本・演出を手がけ、2021年6月に上演された舞台『夜は短し歩けよ乙女』

――言われてみれば。「冬」の章は、風邪が流行って、みんなが家にこもって、という展開で、今と重なりますね。客席では気付きませんでしたが。

だからそのシーンに至るまでに、いかにお客さんをファンタジーに包んでしまうか、みたいなことは考えていました。押し切ろう!みたいな。でもある時、竹中直人さんがくしゃみのシーンで「うわ、飛沫すげーな」というアドリブを飛ばされていて(笑)。だけどお客さんがドッと笑ってくださったんですよ。それを見て、「あ、よかった。こんなふうに笑ってくれるくらいお客さんが湧いてくださっているんだな」と思いました。それで、「今、笑いをやっても大丈夫」「むしろいいかも」という確信を得ました。

――ということは「やらないほうがいいかも」と一度は思われたのですか?

逆風のときがあるのはしょうがないんです。コメディをやっているから。それがいつであろうと、基本的には不謹慎なところがある。そういう覚悟はあるんですけど。でも、「笑わないかもしれないな」と思ったんですよ。笑い声がないかもなって。でもないならないで、笑いじゃないエンタテインメントにも面白いものはあるので。驚きとか、死ぬほど伏線回収するとか(笑)。だからそういうことをしばらく思考しないといけないのかなとは思っていました。それで『夜は短し歩けよ乙女』もあまり、笑いのことには重きを置いていなかったんです。一切笑いがなくても成り立つような演出にしようと思って。でもやってみたらお客さんは笑ってくださった。じゃあヨーロッパ企画でやる時は笑いをさらに、と思いました。だから今回、すごいコメディなんですよ。

ヨーロッパ企画の第40回公演『九十九龍城』チラシ

――少し話は逸れますが、上田さんは演劇に関してなにか明確な信念をお持ちだったりされますか?

どうだろう……って考えてる時点でそんなにないですけど(笑)。関西に「維新派」(1970年―2017年)という劇団があったのですが、かなりすごい集団で。ものすごい野外劇場を建てて、聞いたこともないようなリズムで言葉を言って、白塗りの少年たちが40人くらい出てきて……みたいなことをやるんですね。それを観たのは高校生の頃で、僕にとってはほとんど初めての観劇体験で、その時に「すごいな」「かっこいいな」と思ったのが演劇の始まりです。

そしてその後、いろんな劇団とか演劇を観ていくうちに、維新派ってちょっと特別なんだなということがわかった。そしてその特別さは、30年、40年やっていないと辿り着けないというか、集団全体でじわじわ培われた“別もの感”がないと、生まれないものだと思ったんですね。僕が「長く続く劇団にしよう」と思ったのは、それもあってのことです。やっぱり長く続けている諸先輩方の劇団は、その集団の中だけの独自の文化がある。その良し悪しは別として、それを僕は面白いと思うし、そういう、言い方は悪いですけど“変さ”は、始めたての劇団より長く続いた劇団のほうが色濃いなと思う。ヨーロッパ企画でもそれを見せたいんです。

――なるほど。

僕が思う“エンタテインメント”って、「普段は見られないものを見る」とか「普段は感じられない感情になる」とか、その“異様さ”とか“珍しさ”とか、そういうことが結構大きな要素なんです。だから、ヨーロッパ企画を観たことがある方はお馴染みなことでも、初めて観た方にはけっこう異様なことはあると思います。「お客さん、こんな笑うんだ」っていうのもそうでしょうし。

――皆さんすごく笑いますもんね(笑)。

僕も「お客さん、笑うの早いな!?」と思うことがあるくらいだから(笑)。すごくありがたいことですけどね。だから、メッセージを伝えたいとかは全然ないんですよ。それはひとりで文章を書いてもなし得ることだから。でも集団全体が「この人ら、どうかしてるな」と思われるような状況って、他の芸術ではなかなかできないので。そこは特に劇団をやっていて思うことですね。

常に考えている「劇団」という集団の在り方

――上田さんに取材させていただくといつも、ひとつブレなさ感じます。だけどいつも新鮮なことをされている。その両立がすごいなと思っています。

僕、結構考えるんですよ。もちろんお芝居の中身も考えますけど、今どんなエンタテインメントだったりどんなことが、お客さんの中で新鮮に感じられるかなとか、劇団という集団の在り方としてどうすればいいかなとか。僕は劇団を離れて仕事をすることもあるので、それも演劇を考えるきっかけに相当なっています。海外に行ったら日本のことがわかる、というのと似たような感じで。

京都を拠点に活動を続け、今年結成23年目となるヨーロッパ企画

――考え続けていらっしゃるんですね。

あとはやっぱり僕らが京都にいる、というのもあると思う。演劇って、“東京”でいろんなことが更新されていくから、いろんなアップデートだったり、試行錯誤が絶えず繰り返されている。それを僕が横で見ていたら、相当焦ると思います。だから京都にいるのは大きいかもしれないですね。京都的な目線で考えているところもあるし。

――京都的な目線とは。

この前、京都の「一澤信三郎帆布」さん(帆布かばん店)と、「暗い旅」(2011年からKBS京都で放送されるヨーロッパ企画の冠番組)でコラボをさせてもらったのですが、一澤信三郎帆布さんって創業100年なんですよ。僕らも「暗い旅」は11年やっていて、テレビ番組としてはけっこう長いほうなんですけど、100年ってね。「すみません」みたいな気持ちになりますよね。しかも京都には「300年やってないと老舗と言えない」っていう謎のルールがあるし(笑)。そういう中でやっているというのもあるのかな。

――ヨーロッパ企画も長い目で見たりされますか。

それこそ理子ちゃんや若手スタッフが入ったのは大きくて。劇団としての家系図は「自分らの世代で切るか」くらいの気持ちだったんですけど、「続いたな」と思って。「だったら」みたいなことも思います。それはけっこう違うものですよ。自分たちが終われば終わりってなるわけにいかないなって、最近めちゃくちゃ思うんですよね。

――『九十九龍城』、楽しみにしています。

「2年ぶりの本公演」というのは、僕らの中で大きくて。2年やってないと、気持ちは意外とリセットされるもので、「ここから心機一転、新劇団員も入り、再スタート」という気持ちもけっこうあります。ただこの「再スタート」は僕らも長い目で見ていて(笑)。今回と次回くらいは「再スタート」で、再来年くらいから本格的に……。

――(笑)

でもこれは本当にヨーロッパ企画の会議でそう言ってたんですよ。コロナが直接的にどうこうと言うより、コロナ禍で状況が変わったので。配信のこととか、お客さんが演劇を観る態勢とか、いろんなことが変わる時代の中で劇をつくるのが初めてだから、割とぼちぼち身体慣らしていきましょう、みたいな感じで始めたんですけど、その割にはフルスロットルしていますね(笑)。今回は、今までやってきたことの集大成的なところもあるし、逆に明らかに新しいチャレンジもしている。ヨーロッパ企画の集大成であり、最新形みたいなものができつつあるので、初めての方にぜひ観ていただきたい劇だと思っています。

それと、魔窟がそうであるように、演劇も「足を運んで観る」ことで、観られるものがきっとあるから。そこに足を運んで、ある空間をみんなで共有するって、ちょっと秘密めいたところがあるし。僕らも、この時期に演劇で人を呼びよせるからには、わざわざ足を運ばないと見られない光景がつくりたくて今回の題材を選んだようなところもあります。そういう楽しみも持って、足を運んでもらえたらと思います。

取材・文:中川實穗

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