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立川直樹のエンタテインメント探偵

サンジェルマン・デ・プレのミューズ、ジュリエット・グレコの死。魅力的だった岡田裕介写真展と中野公揮の映像展

隔週水曜

第60回

20/10/7(水)

ジュリエット・グレコ(2010年7月1日) (写真: ロイター/アフロ)

今や“シャンソン”と言っても、それ何って顔をする人たちもいる時代になってしまったが、シャンソン界の大御所であるジュリエット・グレコが亡くなった。93歳。『枯葉』や『パリの空の下』などのヒット曲を持ち、作家のカミュやサルトルとも交流を持ち、“サンジェルマン・デ・プレのミューズ”と呼ばれ、サガンの小説を映画化した『悲しみよこんにちは』の中で黒い服を着て歌うグレコの美しさは少年時代の僕の憧れの人になり、マイルス・デイビスとの恋物語はそのまま1本の映画になるとも言えるが、こうやってまた時が過ぎていくのだと新聞の死亡記事を見ながらしみじみと感じたのである。

でも、確実に作品は残る。それは流行りものでないからだが、夕刊でグレコの死を知ったその日に観た2つの小さな展覧会もサンジェルマン・デ・プレの小さな通りでやっていてもおかしくないような魅力的なものだった。

岡田裕介 写真展『これが君の声 青の歌-Sound of echo, Song of Blue-』

恵比寿の弘重ギャラリーで開催されていた岡田裕介写真展『これが君の声 青の歌-Sound of echo, Song of Blue-』 は、世界の海を潜る中で8年に渡り撮り続けてきた、ハワイ島やバハマに住むイルカとトンガ王国に子育てにやってくるザトウクジラを絵画的な写真表現でとらえた魅惑的な水中の世界を、ほどよいボリュームで流れるクジラの求愛の声をBGMに楽しめる中々魅力的な展覧会で、6日間という短い開催がとても惜しまれるが、展覧会と同じタイトルの写真集も展覧会初日の9月22日に発売になっているので是非見て欲しいと思う。地下の会場に降りて行った時の海の中に入っていったような気分も忘れ難い印象だった。(9月29日~10月11日まで京都写真美術館 ギャラリー・ジャパネスクにて開催)

『Pre-Choreographed プレ・コレオグラフド-振り付けされる前の-』
Director : Susana Abreu (スザンナ・アブルー)

そして、海つながりで言えば、恵比寿の後に青山へ移動、アニエスベー ギャラリー ブティックで観た中野公揮の映像展『Pre-Choreographed プレ・コレオグラフド-振り付けされる前の-』もギャラリーに入ってすぐの海の中に置かれたピアノを弾く中野公揮とその横で踊るダンサーの美しい映像にまず心を奪われた。それは昨年、宮城県の牡鹿半島と石巻市街地を主な舞台として開催された『リボーンアート・フェスティバル2019』のダンス・ワークショップの記録だというが、ブルターニュの海岸沿いで撮影された『三点倒立』という作品も不思議な魅力を持っていた。

『Pre-Choreographed プレ・コレオグラフド-振り付けされる前の-』
中野公揮ポートレート(photo:LUCILLE REYBOZ)

中野公揮はパリを拠点に活躍する作曲家・ピアニストであり、僕も幾度か生演奏を聞いているが、アニエスベーと中野公揮は、アニエスベーの友人である世界的チェロ奏者ヴァンサン・セガールと中野公揮が2017年に行ったコンサート会場で出会い、中野の演奏に深く感銘を受けたアニエスベーが、彼の演奏を発信する場所をいつか提供したいと考え、中野が発表したアルバム『プレ・コレオグラフド』より最新のPV4本を含む映像作品を展示する展覧会が実現することになったという。こんなふうにひとつの出会いからクオリティの高い芸術作品が生まれることは僕は本当に喜ばしいと思う。(10月18日まで開催)

ザ・ローリング・ストーンズ『山羊の頭のスープ』の素晴しさ。ロックとはこういうものだと再認識!

あとはコロナ感染拡大で世界中の人々が不安にかられていた4月に、8年ぶりの新曲『リヴィング・イン・ア・ゴースト・タウン』を突如発表、「人生は素晴しかったのに、今やロックダウン生活。ゴーストタウンに住むゴーストになった気分だ」という歌詞とサウンドの見事なシンクロ感で堂々の健在ぶりを示したザ・ローリング・ストーンズの1973年の名盤『山羊の頭のスープ』の2CDデラックスの素晴しさについて書いておくべきだろう。

ザ・ローリング・ストーンズ『山羊の頭のスープ』2CDデラックス/ユニバーサル ミュージック

この2週間はやはりテレビでの映画の収穫が多く、スパイク・リー監督、デンエル・ワシントン主演の2006年作品『インサイド・マン』、ポール・ハギス監督、ラッセル・クロウ主演の『スリーデイズ』あたりはいつ観ても古くならない力のある映画といえるし、浅田美代子主演の犯罪ドラマ『エリカ38』はかなりの拾い物だったが、オリジナル・セッション・ファイルからの2020年ニュー・ステレオ・ミックスと3曲の未発表トラックを含むレア&オルタナティヴ・ミックスという2枚組CDは、47年という時を軽々と乗り越えてロックとはこういうものだ、音楽とはこういうふうに作るものだ(このあたりのことはイアン・マッキャンの解説にきっちり書かれている)ということをがっつりと再認識させてくれたのである。

いつもより家にいて音楽を聴き、映画も観られる“新しい日常”。発見の日々は中々貴重な体験の連続である。

作品紹介

岡田裕介 写真展『これが君の声 青の歌-Sound of echo, Song of Blue-』

【東京会場】
会期:2020年9月22日~27日
会場:弘重ギャラリー
【京都会場】
会期:2020年9月29日~10月11日
会場:京都写真美術館 ギャラリー・ジャパネスク

『Pre-Choreographed プレ・コレオグラフド-振り付けされる前の-』

会期:2020年9月16日~10月18日
会場:アニエスベー ギャラリー ブティック
営業時間:13:30~18:30(月曜休廊) /青山店B1F 11:00~20:00
住所:東京都港区南青山5-7-25 ラ・フルール南青山2F
電話:03-3406-6010
Instagram

ザ・ローリング・ストーンズ『山羊の頭のスープ』[2CDデラックス]

発売日:2020年9月4日
価格:3,960円(税込)
発売元:ユニバーサル ミュージック

『インサイド・マン』(2006年/米)

2006年6月10日公開
配給:UIP
監督:スパイク・リー
出演:デンゼル・ワシントン/クライヴ・オーウェン/ジョディ・フォスター
放送日:2020年9月13日
WOWOW

『スリーデイズ』(2010年/米)

2011年9月23日公開
配給:ギャガ
監督:ポール・ハギス
出演:ラッセル・クロウ/エリザベス・バンクス/リーアム・ニーソン
放送日:2020年9月16日
WOWOW

ドラマ『エリカ38』(2019年・日本)

監督:日比遊一
出演:浅田美代子/樹木希林/平岳大/窪塚俊介
放送日:2020年9月20日、10月1日
WOWOW

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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