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大森靖子が語る、“考える”ことの重要性 新曲「シンガーソングライター」に込められた真意

リアルサウンド

20/7/29(水) 19:00

 〈お前に刺さる歌なんかは / 絶対かきたくないんだ〉。そんな歌詞に驚かされたのが、大森靖子の新曲「シンガーソングライター」だ。〈STOP THE MUSIC〉と繰り返し歌う真意は何なのか? 5月に大森靖子がリアルサウンドに「『コロナ以降』のカルチャーに望む、価値観のアップデート」を寄稿してから約2カ月。今、彼女が目指すアップデートについて聞いた。(宗像明将)

■新しいことをしないで、同じものを作り続けて死んでいくのだけは御免

ーー新型コロナは人と人の直接的な接触、ひいてはコミュニケーションを阻みます。ファンと触れあってきた大森さんにとって、大きな変化を余儀なくされたのではないでしょうか?

大森靖子(以下、大森):うーん、もともとそこまでエンタメ性の高い活動をしてこなかったというか。「友達の輪を広げよう」みたいなコミュニケーションではなくて、「一番言えない部分を晒しあおう」みたいなコミュニケーションをしてきたので。緊急事態宣言の前までネットをやめていたんですけど、逆に始めて、見てる人を誰も疎外しない関係性を作っていきたいなって。ライブミュージシャンなので、どんなに日常で嫌なことがあっても、それがライブをやるエネルギーになっていたけど、それができなくなったので、自分の生きるリズムとしてやりづらさはあります。

ーー大森さんのTwitterに来るDMの内容に変化はありましたか?

大森:いや、変わらないですよ。ネガティブな話でも基本的にみんな語り口が明るい。私の曲は何があっても語り口を明るくしようとしていて。現実から逃げずに、向きあったうえで生きることを前提に話すのが大事だと思っていて。それをみんなもやっているので、大変そうな人も「大変な俺ウケる」みたいな感じで。自分のファンの人はちゃんとマナーを守っているから、私もまったく病まない。「お互いがんばろう」みたいな、会社の飲み会みたいなノリでやっていける(笑)。

ーー大森さんがリアルサウンドに寄稿した「『コロナ以降』のカルチャーに望む、価値観のアップデート」(5月23日公開)で書いていた「価値観のアップデート」とは、改めて言うとどんなことでしょう?

大森:状況によってできることがかなり変わっていくから、アップデートし続けないといけないよ、って。状況を見て考えて、手を打ち続けることをやめてはいけないと言いたくて。「これはできない」で終わっちゃったらダメじゃないですか、文化だから。そもそも社会に適合していないからやっているわけで、私は「補償しろ」とか言ってる場合じゃない。社会に組みこまれていい人間の自覚がないから、こっちはこっちでやらせてもらって、ひとりひとりに対してできることをアプローチしていく。そこでガタガタ言ってらんない、というのが自分の立ち位置で。

ーー「価値観のアップデート」を、現在まで大森さん自身はどう実践しましたか?

大森:30歳を過ぎて新しいことをしないで、同じものを作り続けて死んでいくのだけは御免で。つんく♂さんって、モーニング娘。をやり始めたのは29歳ぐらいなんですよ。あの頃のJ-POPって、リズム歌唱的なものが日本にちゃんと入ってきていて、桑田(佳祐)さんとか宇多田(ヒカル)さんみたいな、誰にも真似できないクリエイターはやっていたけど、教えることは誰もしていないなかで、つんく♂さんがそれを早くやった。それによってリズムが取れる日本人ボーカルが増えていったところがあると思う。それを見ていると、自分がやってきたこともそんなに小さいことではないという自信があるから、それをもっと教えていけたらと動いていて。それと自分がステージに立つことを絶対に両立させたい。

ーー大森さんが若い子たちに教えているものとは何ですか?

大森:物事をとらえる本質。なかなか伝わらない、難しい。全部文章に書いてるのに「説明しろ」って言われるのは、決定的なコミュ力の欠落ですよね。私はコミュ力はなかったと思ってたんだけど、たぶんあったんだろうな。漢文だって、がんばって一字一字読みとけば、歴史上の人物が何を言っていたかわかる。私の文章だって、なぜその接続詞や単語を選んだのか、一個一個解読していけばそこに真実はすべてある。一単語しか読まずに「真実を言ってください」って言われても、「いや書いてるし」って。

ーー「『コロナ以降』のカルチャーに望む、価値観のアップデート」については何か聞かれましたか?

大森:聞かれていないです。スクショの切り抜きはリツイートをガンガンされるけど、記事は読まれない。

ーーあの記事の終盤で「現状では何も変わらないと思います」と書いていましたが、フランスのミシェル・ウエルベックという作家が「私たちは閉じこめられた後、新しい世界で目覚めるのではない。世界は同じだし、少し悪い世界だ」というようなことを書いていたのを思いだしました。大森さんから見て、世界は変わりましたか?

大森:変わらないと思う。だって、誰かが死んで何かに気づいても、一週間で元に戻ったし。震災のときも、「変わっていこうね」ってあんなに言っていた人たちが一番元に戻っている。もう何も変わってないじゃん、って。

ーーこのタイミングで一番変わってほしかったものって、大森さん的には何だったんですか?

大森:人が生きているいびつさと向きあって、ちゃんと認めあうこと。「自分は何も悪いことをしていない」と思ったって、絶対に誰かを嫌な気持ちにさせている。生きるなかでそれが一度もない人間は絶対にいない。だからこそ気遣いとか配慮を身につけて大人になっていくんですけど、加虐性が前提にないとそれすらできない。人間じゃないものみたいになることを理想として社会で生きていこうとすることって、すごい虚無だなと思っちゃう。そこから何も生まれないし、つまらない。コロナだって、自分がうつして人の命を落とさせるかもしれない。でも、そんなのはウイルスに限らない。それでも人と関わる意味、外に出なきゃいけない意味と向きあって、今までも踏みだしていたはずなのに。

ーー自粛期間にスタートした「おやすみ弾語り」は100回を数えました。最後は新曲の「シンガーソングライター」でしたが、メタ的なタイトルになったのはなぜでしょうか?

大森:シンガーソングライターって、「何かっこつけてんだよ」みたいなのがあるじゃないですか、「ハイパーメディアクリエイター」みたいな(笑)。たとえば営業マンは、ちゃんと目を見て話して、お互い準備してきたものを交わして、言葉にならないことだったら一生懸命考えるのが普通。それなのに、顔を隠して雰囲気を醸しだして、雰囲気芸でえぐるのとか、「なんなんだよ」って思っちゃう(笑)。「刺さる」とか、そんな誰にでも刺されたらグッチャグチャに刺されて死んじまうぞ、って。刺すのなんか簡単で、「刺したら売れるから刺してんだろ」ってちょっと思っちゃうところがあって。

ーーでも、「大森さんの歌詞が刺さってるのに、私?」というファンもいると思うんですよね。

大森:なんで刺さってるのかを考えてほしい。そうすると自分と向きあえる。「好き」とか「嫌い」とか「アンチ」とか「神」とか、みんな自分の話しかしていないのに、誰かの話をしているふりをして、それを「共感」で結びつける。たとえば、ここで私が誰かを「嫌いだ」って言っても、「そいつがめちゃくちゃいい奴で、私のことをめちゃくちゃ好きでも、私は嫌いなんだ」という私の話なんですよ。結局それで傷つくのって自分なんですよ。「なんでこいつを好きになれないんだ」というのは、「こういう自分を変えられないんだ」という生きづらさを背負っていることだから、自分の話であって。だから「神様」って思っているのも、自分自身だよって。「大森靖子が神」と思うなら、その歌詞を読みとけば、そこが自分自身の神秘的な部分であり、捨てちゃいけない部分なんです。私は全員が持ちうる感情しか歌っていないから、「神」と思うなら、そう感じる自分を大事にすればいいじゃん、という話をしているだけで。

ーーそうなると、「シンガーソングライター」の〈お前に刺さる歌なんかは / 絶対かきたくないんだ〉という歌詞はどういう経緯で生まれてきたのでしょうか?

大森:ZOCを始めてから、「裏切られました」みたいなことをめちゃくちゃ言われていたんですよ。その人の「大森靖子像」みたいなものがあって、「若い子と一緒にルッキズムを振りかざしてる」みたいに見えちゃったんでしょうね。私の曲は、毎回違う視点で同じ真意を言っているから、自分の好きな視点を曲として受けとってもらえれば、それで良くて。その仕組みを伝えないのがシンガーソングライターの役割みたいになっちゃっているから、「そうじゃないよね、作品だよね」って。

■人の細かい特徴を削られるのが苦手だから、共感という感情を消したいと思っちゃう

ーー大森さんは、「パーティドレス」(2012年『PINK』収録曲)の頃から「楽曲の主人公=大森靖子」と解釈されることに違和感があったと思います。「シンガーソングライター」も、大森さんからのメッセージだとファンは受けとると思いますが、必ずしもそうではないわけですよね?

大森:全部考えてほしくて。だから反語をいつも使っているんです。〈STOP THE MUSIC〉と歌っているのも、「音楽を止めるな」と言われるよりも「音楽を止めろ」と言われるほうが、本当に止めたくないのか、ちゃんと考えるじゃないですか。そういう言葉の使い方をずっとしているんですけど、そういうふうに日本語はもう使われないんだな、って。反語が日本語の面白いところだったのに。

ーーつまり「シンガーソングライター」の歌詞は、なぜそう歌っているのかを聴いた人に考えてほしいという構造になっていると?

大森:なっているし、しています。「音楽との向きあい方を考えて」みたいな曲をたまに私は作るんですけど、そのひとつだと思います。

ーー「シンガーソングライター」が、配信リリースの1曲目になったのはなぜですか?

大森:去年作ってあった「シンガーソングライター」をなるべく早く出したかったのと、「おやすみ弾語り」をやり続けていたら無料で見るのに慣れて、みんなが何も聴いてくれなくなるから、ちゃんと作品として出そう、って。「外に出られる日常って普通だったんだな」って感じるのは、与えられた幸せみたいなものだけど、自分はそれを幸せだと感じられない性分だし、自分で考えて行動しないと幸せだと思えないタイプで。自分で作っていくものを持続的に見せることが、コロナのなかで私がアプローチできることで、毎日続けることに意味があった。けど、みんなもう戻っちゃったから、ちょっと違うフェーズに行かないと、何も伝わらないのかな、って。

ーー「シンガーソングライター」に〈共感こそ些細な感情を無視して殺すから〉という歌詞がありますが、共感されることに懐疑的な姿勢は以前から変わらないものですよね。

大森:危険だと思います。たとえば好きな食べ物で、「ちょっと苦味があってグニャっとしていて、なんか気持ち悪いけど癖になる、好き」というものがあったとする。それを他の人が「これめっちゃ好き」って言いだして、「そうそう、いいよね!」って共感したとき、「気持ち悪いけど」という文脈は削られる。それを省くような共感は好きになれないな。たとえば「信用していたけど裏切られました」みたいな話ってめっちゃされるけど、「こいつって悪いところがあるけど、ここはマジでいいやつで、こういうところで嘘はつかないけど、こういうことは言っちゃうよね、でも好き」というのが「信用」じゃないですか。そういう人間の細かい特徴を削られるのが苦手だから、共感という感情を消したいと思っちゃう。

ーー「シンガーソングライター」のMVはコロナのアイコンが多いから、コロナの状況を受けての歌詞かなと思ったんですが、そういうわけじゃないんですね。

大森:出すのが遅れてコロナになって、こういうことを考えやすい環境になっているし、このタイミングでいいんじゃないかな、みたいな。

ーーMVで、透明なバルーンの中でスマホをいじりなら女性を踏みつけている男性は何の象徴なんでしょうか?

大森:監督の番場(秀一)さんのアイデアだからわからない……。

ーー自粛警察の張り紙や、日の丸に見える最後のシーンも大森さんのアイデアではない?

大森:ないですね。「いいよ、いいよ」って。映像はかっこいいと思いました。番場さんから「違うな」みたいな構想が来たことはないな。

ーー布マスク2枚を顔につけた男女が浜辺を走ってますけど、あれ、前が見えてるのかなって(笑)。

大森:あれかわいい(笑)。

ーー「シンガーソングライター」をリリースして、「今度はこういう誤解を受けるんじゃないかな」というような想定はしていますか?

大森:していますけど、「全員に理解されたい」とか「全員に伝えてちょっとでも世の中を良くしたい」みたいなことを発信するのはZOCでやるので。ソロのような芯を食った活動は、「わかる奴がちゃんとわかればいい」と振りきっています。

ーーそうなると、ソロとZOCの活動は、どちらがポピュラリティーを得ると思いますか?

大森:ゆくゆくはZOCからソロに流れてきてくれればいいかな。

ーー自分のソロの作品の難易度は高いと感じますか?

大森:まぁ、誰だって歳を取ってくるとそうなるんじゃないですかね。「初期みたいな歌詞を書いてほしいのに」みたいなことは、自分も高校生のときに思っていましたし。でも、言葉や音楽でどんどん遊べるようになって、高等技術になっていくわけで、若い子とかは「何言っているのかわからないよ」ってなる。「じゃあ、両方並行してやればいいかな」みたいな。

ーーそう考えると、「マジックミラー」(2015年)ってものすごい構造の曲ですよね。聴いた人がそれぞれに思い入れを持って共感していくけど、それを大森さんはマジックミラーだって言っている。ファンの人って、その構造に気づいていますか?

大森:気づいていない人はいると思います。「『あたしの有名は君の孤独のためにだけ光るよ』って言ったじゃん」って言うんですよ。でも、こっちは「タイトル、『マジックミラー』だけど?」って思うじゃないですか。だけど、ライブに来てる人はさすがにわかるんじゃないんですかね。

ーーそこで気づいていない人も、大森さんは別に否定しない。もし「シンガーソングライター」を聴いて「めちゃくちゃ共感しました!」っていう人が来たらどう思います?

大森:あはは、それはそれでいいんじゃないですか?

ーー逆に言うと、大森さんがどんどん共感を集めて、それを利用して武道館を目指す手もあるわけじゃないですか。それは意図的に拒んでますよね?

大森:あまのじゃくだから?(笑)。ZOCがやればいいんじゃないんですか?(笑)。なんか真摯じゃない気がしちゃう、やればいいんだろうね(笑)。

ーーそうなると、冬に出る予定のニューアルバム『Kintsugi』はどんな作品になりそうでしようか?

大森:日本人の感覚かもしれないけど、人は壊れれば壊れるほど美しくなっていくって思っていて。自分を壊すのが気持ちいいから、もう本当に酷い歌しか作らないって決めました(笑)。傷ついたものの修正を漆でして、それを表では金で見せるっていう、そのフェイク感みたいなものを見せていきたい。あと、「自分のことをもっと歌えばいいじゃん」みたいなこともめっちゃ言われて。歌ってはいたんだけどね。その辺のフォローはできているのかな。

ーー「子育てアカウントみたいな視点にしたほうが売れるよ」と言う人もいるんじゃないですか?

大森:います、います。子供とかバズるに決まってるじゃないですか。でも、私がやりたいのは音楽だから。音楽と育児を関係させたら嫌だなって。

ーー大森さんは「『コロナ以降』のカルチャーに望む、価値観のアップデート」で、「エンタメとカルチャーはやはり似て非なるもの」と書いていましたね。今後もカルチャーをやっていこうと?

大森:ライブで「手を挙げろ」と言われて、懐疑心なく手を挙げられる環境がエンタメじゃないですか。やっぱり「なんで手をあげなきゃいけないんだろう?」って思う心がちゃんと残った状態のライブにしたい。みんなが手を挙げているときでも、「自分は本当に挙げたいのかな?」ぐらいは残していたいんですよね。そこが自分の考えるところのカルチャーだと思うんです。

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