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『まだ結婚できない男』桑野は女性への“共感力”が高い? 一線を画す「独身貴族」の姿

リアルサウンド

19/11/14(木) 6:10

 13年前に人気を博したドラマ『結婚できない男』の続編『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)が秋ドラマとして放送されている。前作から月日は流れ、時代は令和を迎えたが主人公の“結婚できない男”桑野信介(阿部寛)は現在53歳、相変わらず独身を貫きシングルライフを謳歌しているという設定は変わらない。

 偏屈で皮肉屋な性格は健在などころかますます磨きがかかっているようにも思えるが、それでも最終的に周囲が桑野を見放さず、我々視聴者からも愛想を尽かされないのには彼の結婚観・女性観が影響しているのではないだろうか。

 桑野はアンチブログが開設されるほどの名の通った建築家で、自分で会社を経営している。そこに高身長、端正な顔立ちまで併せ持ち、婚活市場ではいわゆる高スペック男性と言える。そういった男性によく見受けられがちなあまり芳しくない特徴について、我々は春クールのドラマ『東京独身男子』(テレビ朝日系)で嫌というほど目の当たりにしてきた。対して、桑野に照らし合わせてみると彼は良くも悪くもやはりそこらの単なる「独身貴族」ではないようだ。

 まず桑野は女性のことを年齢的条件で見ない。世の独身貴族男性というのは往々にして自身のことは棚に上げて、相手には上限年齢を設けてくるもの。そして、「女性には婚期があるが、稼いでいる俺らにはそんなものは関係ない」と言わんばかりだ。これは一方で残酷な真実ではあるものの、それをあまりにわかりやすく態度に出されてしまうと興ざめであるし、この考えが行き過ぎるといわゆる「こじらせ男子」ができ上がってしまう。

 しかし、桑野は(そこまで子どもを欲していないから、というのもあるだろうが)弁護士まどか(吉田羊)や有希江(稲森いずみ)のことを「アラフォー未婚女性」というような見方はしておらず、年齢や性別にはかなりフラットで単に自身と同じ境遇の「独身同士」だと思っている。そこで「自分は男性だから」というようなエクスキューズを特に付けることもせず区別もしない。いわゆるバツイチとなった有希江についても何の隔たりも設けていない。この点はかなり好印象ではないだろうか。

 『東京独身男子』の男性3人は「結婚は墓場」「女性側にしかメリットがない」というスタンスだったが、桑野はむしろ女性にとっての結婚はさらに重圧がかかり大変だということを理解している。第5話で結婚を熱望する女性に対して、「結婚後の災難」として「親と親戚が倍になる」ことを挙げた上で、「特に女性は、結婚後も仕事は続けるのか? 子どもはまだか? とずっと問われ続ける。そういう余計なお節介を言うおじさん、おばさんが一生覆いかぶさってくるんだ」と、女性の代弁者かと思うほどに熱弁を繰り広げていた。極論を言いがちなのは桑野の特徴だが、とは言えここまで女性側に降りかかる息苦しさを自分の言葉で語れる男性、しかも未婚男性は珍しいだろう。

 年齢だけでなく、桑野は特段相手の肩書にも興味を示さないようだ。隣人の女優・早紀(深川麻衣)とのデマ情報が週刊誌に載った際にも、桑野はまんざらではなさそうだったものの、それ以上でもそれ以下でもない、といった様子だった。『東京独身男子』の3人はそもそも相手を選ぶ基準が「この俺様にふさわしい女性であるかどうか」という部分に終始しがちであったのに対して、桑野はそういった視点では女性を見ていない。だからこそ、良くも悪くも桑野の前では女性たちも“素の自分”を出せるのではないだろうか。もちろん桑野があまりにマイペースで、一見デリカシーに欠いた言動をとるため女性の怒りを買っているという面も否めないが、彼の傍若無人ともとれる振る舞いは相手から思わぬ本音を引き出せている。大人になって通常であれば自分の気持ちにも折り合いをつけることばかり上手くなり、「本音」で人にぶつかる機会なんて滅多にない中、やはり桑野はいろんな意味で「特別な存在」にはなり得る。

 現在50代の桑野はバブル世代。あのひねくれ者の桑野が若かりし頃、周囲と同じようにバブルの雰囲気に流され沸いていたとは考え難いものの、やはりあの幻の時代を経験した世代というのは男女問わず欲張りで、自分の欲望に忠実である傾向が高いように見受けられる。「アッシー君」に「メッシー君」「キープ君」といった死語に代表されるように、女性が男性を選び(もちろん男性も志願する際にそもそも女性を選んでいる訳だが)、意中の女性に選ばれるために男性側が努力するという、もはや当時の経済活動とも言える一連の流れを間近に感じていたからこそ、桑野世代は女性側を能動的な主体性を持った存在として自然に認識しているのかもしれない。そして様々な選択肢を並べられた中から選び取っていかねばならない女性側の気苦労にも理解があるのかもしれない。

 とは言え、桑野の場合やはり「バブル世代」や「独身貴族男性」などの大枠でも括れない、個体として“変人”であることに間違いはない。そんな彼が一体どうやって、異性である前に他人である存在に興味を持ち、惹かれていくのか。牛歩のような恋模様、しびれを切らさず見届けたい。(文=楳田 佳香)

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