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和田彩花が発する“言葉”の魅力ーーとらわれていた概念から解放してくれる存在に

リアルサウンド

19/12/8(日) 7:00

 2019年6月、リーダーを務めたアイドルグループ・アンジュルムと、15年間所属したハロー!プロジェクトを卒業。同年8月1日自身の25歳の誕生日に、アイドルとして新しい一歩を踏み出した“あやちょ”こと和田彩花さん。くるくる動く大きな瞳、お姫さまのように艶やかな長い髪、キュートな甘い声、夢の中に現れるユニコーンのように長い手足、何れも大好きなのですが、それだけではありません。最も惹かれるのは彼女の「言葉」です。

(関連:和田彩花「Une idole」MV

 エドゥアール・マネとの出会いをきっかけに「(絵画鑑賞は)一生の宝物」と美術に没頭したあやちょは、趣味を越えて大学院へと進み、美術史研究を続けています。西洋近代絵画をはじめ、現代美術、神社仏閣、仏像……と、ジャンルを問わず、彼女ならではの言語センスと素直な感性で、「美術って、楽しい!」というピュアな喜びを伝えてくれます。

 著書『乙女の絵画案内』では、“女性”が描かれた名画達について、自身のアイドルとしての活動を重ねながら、彼女にしかできない表現で魅力を語っています。多くの人は、名画を前にして「この絵について話してください」と求められたら、無知だと馬鹿にされては恥ずかしい、ちゃんとした事を言わなきゃと、心が固まってしまいそうです。ところが、あやちょはこの本のなかで、「ドレスがかわいい!」「イモムシみたいな形」と絵の印象を素直に表現しています。その言葉に触れれば、固まった心も解きほぐされ、まっすぐに芸術と対峙できるのではないでしょうか。絵が描かれた時代の空気や作家の人生に触れながら、奥深き世界に浸る楽しさへ導いてくれます。

 同書で私が心射抜かれたのは、「麻布著色吉祥天像」の章。西洋絵画の紹介に続き、日本の仏画が登場。フランス人画家・マネの作品から西洋絵画に傾倒したあやちょは、はじめは日本の古典美術が苦手だったそうですが、歴史を学び、神社仏閣を訪ねて作品と向き合い、日本美術の魅力に気づいてゆきました。その感覚を「身近すぎてわからなかった、お父さんやお母さんのすごさに、ある日、突然気付いたような感じです」と書いています。識ることで世界が変わって見える感動を、こんなにも純度100%に可愛らしい等身大の言葉で表現できる彼女の感性の美しさに改めて気づかされました。

 美術史を学ぶ中で思考するようになった女性の生き方や在り方について、あやちょは10代の頃から自身のブログで発信してきましたが、一方、最新の『QuickJapan』連載(vol.146~)「未来を始める」では、素直な感性を持つ彼女だからこその世の中への違和感を、借り物ではない彼女自身の成熟された表現で綴られています。

 芸術はこの社会の歴史と密接に繋がっています。美術史を学んだ彼女は、社会の中で女性が抑圧されてきた歴史に触れ、自身もまた「アイドルだから」と抑圧された経験を持ち、学んできた歴史を自分の表現によって未来に繋げようとしているのではないでしょうか。圧倒的存在であるつんく♂プロデュースの季節を終えて、自分で選び取った方法で「アイドル」を表現している彼女の活動は、女性に限らず「全ての人間が、その人らしく生きる」ための、現代のフェミニズムとなり得るはずです。あやちょの「私は歴史と仲間だと思っているから」(『QuickJapan』vol.146)という言葉は、先人達のように、今この時代に生きる女性たちに考え続けることを喚起します。

 「#MeToo」「#KuToo」などのSNS上の女性運動、新興フェミ雑誌(『エトセトラ』など)、女性映画監督15人によるオムニバス映画『21世紀の女の子』、女性のためのカルチャーサイト「She is」……令和のフェミニズムは、隣で話を聞いてくれる友人のように柔軟で軽やかです。それらの「新しいフェミニズム」は、あやちょの新鮮な感性に共鳴し、注目しています。

 10月9日にYouTubeで公開されたあやちょの初ソロ曲「Une Idole」は、彼女自身の作詞、主にフランス語で歌われています。そしてその内容が「私はアイドルだけど、誰のものでもないし、偶像崇拝しないで」とこちらが一方的に押し付けてきた幻想をバッサリ斬ったものと知り衝撃を受けました。

 好きなアイドルを目の前にしたとき、私はいつも「はー、この人が本当に同じ世界に存在する奇跡……」と畏怖の念に震えてしまいます。けれど、他者を崇め奉りすぎてしまうと、その人自身ではなく自分の中の幻想を信じていることになり得るのです。

 アイドルの語源は「偶像」だけれど、あやちょは繰り返し「私もあなたと同じ人間なんだよ」と言います。

 ハロー!プロジェクト在籍時の彼女は、常に大勢の観客の前でステージに立つ、まさにスターでした。そして、今のあやちょは、ストリートで活躍するミュージシャンやアーティストと共に制作し、芸術への共通理解を持った人々の前で、物理的にも精神的にも直接声の届く、距離の近い場に出演しています。彼女の活動を通して、“あやちょもまた私たちと同じこの世界に生き、同じ問題に直面している一人の女性なのだ”と改めて気付かせてくれました。

 キャンバスの表側と裏側を同時に見ることはできないように、アイドルもまたプロデューサー、観客、アイドル自身が作り上げたイメージ像の裏側に、アイドル個人の気質があるように思います。あやちょはグループ卒業をきっかけとして、学んできた歴史を味方に「女がだから、アイドルだから」という固定概念に対して「言わなきゃどうしようもない」とキャンバスを裏返し、活動再開のメッセージを「だから、私は口にする/私の未来は私が決める/私は女であり、アイドルだ、」 と掲げました(公式HPより/http://wadaayaka.com/)。

 エドゥアール・マネが衝撃的題材を描き19世紀フランスの美術界に革新をもたらしたように、「アイドルの解釈の幅を広げる」と言ったあやちょは、アイドルの歴史そして女性の歴史を、一つ先の段階に進めてくれるかもしれません。自分で選んだ道を歩む25歳の女性の美しさが、同時代を生きるすべての女性をエンパワメントするものになるでしょう。(松村早希子)

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