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渋谷すばるの“歌を歌って生きていく”決意 生の感情が脈打つ1stアルバム『二歳』先行レビュー

リアルサウンド

19/10/6(日) 8:00

 渋谷すばるが1stアルバム『二歳』をリリースする。先行配信曲「ワレワレハニンゲンダ」「アナグラ生活」「ぼくのうた」を含む本作には、渋谷すばる自身が作詞・作曲・編曲を手がけた12曲を収録。ロックンロール、ブルースなどのルーツミュージックと直結した生々しいバンドサウンド、徹底的にリアルな感情を反映した歌。このアルバムで渋谷は、ソングライター、シンガーとしてのあり方をはっきりと示してみせた。

 まず、ソロ活動に至る経緯を簡単に振り返っておきたい。2018年4月に関ジャニ∞からの脱退を発表し、7月にグループでの活動を終了。今年2月に「渋谷すばるです。」という(あまりにも率直すぎる)名前のホームページを開設し、「生存確認をお伝えしたい」と海外を旅する動画を公開した。そして4月にオフィシャルファンクラブ「Shubabu」を設立、自主レーベル<World art>の発足に続き、待望のソロデビューを発表。「自分自身で決めた今後の人生、かけてみたいと思った音楽の世界、楽な事など一つもありませんが、全ての音を楽しみながら、まだまだ恥をかいて生きていきます」という彼自身のメッセージも大きな反響を集めた。

 渋谷がグループを脱退する際、筆者は「渋谷すばるは関ジャニ∞の“音楽的支柱”だったーーグループ脱退に寄せて」というコラムを寄稿した。その原稿の最後あたりで「現時点でハッキリしていることは、アイドルとして生きることを自分に課してきた渋谷が、自分の心の声に正直になった結果、いちばん好きなことを追求する決心をしたということだけだ」と書いたのだが、本作『二歳』を聴き、“あのときに感じたことは間違いじゃなかった”と改めて感じた。どこまでも純粋に自らの音楽を刻み込む。このアルバムにコンセプトがあるとすれば、そのことだけだろう。

(関連:渋谷すばるは関ジャニ∞の“音楽的支柱”だったーーグループ脱退に寄せて

 『二歳』のサウンドの基調となっているのはもちろん、オーセンティックなロックンロールやブルース。ギター、ベース、ドラム、ピアノ、オルガン、ブルースハープなどの生楽器だけで構成されたサウンドメイク。ライブ会場を想起させるような生々しい演奏を含め、どこまでも人間臭く、生々しい感情が宿っているのだ。レコーディングに参加したミュージシャンは、月に吠える。の塚本史朗(Gt)、井上陽水、コレサワ、入野自由などのライブにも参加しているなかむらしょーこ(Ba)、Shiho(Dr.)、フレンズ、LiSAなどのライブサポート、アレンジャーとしても活動している山本健太(Key)。豊富なキャリアと高いスキルを備えたミュージシャンとともにスタジオに入り、直接やりとりしながら制作されたという本作は、渋谷自身のルーツミュージックを色濃く反映させると同時に、聴き手を限定しない、幅広いフィールドに開かれた“歌モノ”アルバムとしても成立している。

 渋谷すばる自身の感情、考え方と生き方、そして、グループ脱退以降の軌跡が強く刻まれた歌詞も、このアルバムの大きな軸になっている。まずは1曲目の「ぼくのうた」。ラフに掻き鳴らされるギターのストロークから始まるこの曲で渋谷は、“自分にとって音楽とは?”“歌うとはどういうことか?”というテーマと真正面から向き合っている。音楽を好きになり、音楽に憧れ、音楽とぶつかりながら、“ずっと歌を歌って生きていく”という思いを真っ直ぐに歌ったこの曲は、新たなキャリアをスタートさせた彼自身の決意そのものなのだと思う。「TRAINとRAIN」もまた、渋谷すばるの人生と強く重なった歌だ。心の赴くままに生きようとして、周囲の人たちとの関係に悩み、常識や社会のルールに疑問を感じていた“僕”が、“利口に生きることをやめ、自分が敷いたレールを走る”という思いに至る。この曲もまた、いまの渋谷のなかに存在する強い意思がはっきりと表れている。さらに、実際に渋谷が足を運んだ東南アジアで出会ったのであろう“君”への複雑な感情を描いた「来ないで」(最後の意外なオチも渋谷らしい)、ファンに対する思いをラブソングに仕立てた「キミ」なども収録。どのフレーズにも、渋谷すばるの生の感情がドクトクと脈打っているーーこれこそが、アルバム『二歳』の核なのだ。

 ボーカルスタイルの変化にもぜひ注目してほしい。アルバム『二歳』を聴いたときに最初に感じたのは、以前に比べて歌い方が素直で真っ直ぐになっていること。関ジャニ∞時代の彼の特徴だった力を込めまくったビブラートはかなり抑えられ、どこまでもストレートに歌を放っているのだ。そのぶん、ひとつひとつの言葉が聴こえやすくなり、歌そのものの良さが手に取るように伝わってくる。その要因はやはり、歌を大事にしたいという思い、そして、何にも捉われず自由に音楽を表現できる環境が整ったことだろう。

 本来の音楽的なルーツとスタイルに直結したサウンド、現在の自分自身をまるでドキュメンタリーのように映し出す歌。このアルバムによって渋谷すばるは、“自分の音楽とはこういうものだ”というスタンスを端的に示してみせた。次のアクションはおそらくライブ。アーティストとして新たな一歩を踏み出した渋谷すばるは、これからどんな歌を響かせてくれるのだろうか。(森朋之)

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