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『ほん怖』×CMキャラクターの取り組みは成功? 『4つの不思議なストーリー』は心温まる物語に

リアルサウンド

20/12/27(日) 13:00

 土曜プレミアム『4つの不思議なストーリー~超常ミステリードラマSP』(フジテレビ系)は、約2時間の放送時間内で贅沢にも4本立てのオムニバスドラマを堪能させてくれた。

 『ほんとにあった怖い話』(フジテレビ系)のスタッフとJRA日本中央競馬会がタッグを組んで制作されたスペシャルドラマで、出演者の土屋太鳳、中川大志、葵わかな、柳楽優弥、松坂桃李、高畑充希という豪華面々は何を隠そうJRA日本中央競馬会のプロモーションキャラクターで、TVCMにも起用されているお馴染みの面子である。

 実話に基づく話のようだが、全話ともに視聴後に日常の何気ない幸せに気づかされたり、感謝できたりと主人公が大切な人からギフトを受け取るような結末で、少しばかり体験してみたくなるようなほっこりばかりだった。

 『冬の奇跡』では、シングルマザーだった亡き母の幸恵(石野真子)の死に際に立ち合えず生前の母親は自分のことを許していないと思い込んでいる主人公・望月加奈子を土屋太鳳が演じる。あえて、淡々と、だけれどもどこかたどたどしさを残した土屋のナレーションが、彼女の後悔ややるせなさ、諦めモードで「自分自身の人生を生き切れていない」様子を滲ませていた。そして何より母親との間のわだかまりがずっと解消できずに残っており、自身の中で咀嚼し切れていないのであろう葛藤をよく現していた。コロナ禍で自分の夢を諦めるしかなかった人も少なくないだろう。ただ、想い続けてそこに向かって少しずつでも歩みを止めない限り、夢は遠退きはしないことを教えてくれたように思う。

 続いて中川大志演じる大学生の武藤晴人が主人公の『最後の買物』は、ちょっぴり不思議なお話。人の好さそうな晴人だからこそ巻き込まれるベくして巻き込まれた「託しごと・おつかい」だったと言えるだろう。フリーマーケット期間中、ずっと大きな狸の置物を見ていたかに思えた老紳士(小野武彦)は実は晴人が信用に足る人間かどうか見極めていたのかもしれない。自分のこととなると自信のなさや相手への遠慮から“あと一歩”踏み出せない晴人の性格を思えば、狸の置物に売り手がつきそうになった時に咄嗟の嘘で「先約が入っている」と言って購入を断ったのは、考えられないような大胆なことだ。“人のために”動ける者のことをどこかで見てくれている存在はきっといるし、その行為は相手本人以外にその周囲までも幸せにすることができる、そんな広がりのある話だった。

 同じく“人のために突き動かされた”のは、『夕暮れの迷子』の葵わかな演じる森山莉子だ。母親とはぐれてしまったと泣いている迷子の女の子を放っておけず、交番まで一緒に行くことになる。女の子は基本的に泣きながら「お母さん」という言葉しか発さない中で、距離が徐々に縮まり、互いの主張の折衷案にたどり着けている関係値が見事に描かれていた。お寺の前に着くなり及び腰になってしまう女の子、ここに来てしまうと自分がこの世にはいられないことを何かしら察知していたのか、それでもここに来られたからこそ女の子は母親と無事会うことができたのだ。4話の中では最もゾクっとする展開が待ち受けるストーリーだが、ふと居合わせた“誰か”の事情に巻き込まれることでしか巡り合えないご縁や景色があるのも確かだ。親しい仲間との「目的」ありきの約束しか難しいコロナ禍においては、なかなかこのような“想定外”も起こりづらく、自身の常識や行動範囲を超えた世界と出会う機会はほぼ皆無になってしまっていると言えるだろう(だからこそ、自分の日常外を見せてくれるエンタメの力がまた見直されているとも言える)。

 ラストを飾ったのは、柳楽優弥主演の『不思議なお守り』。通りがかりの人に渡された古びたお守りのおかげで幸運ばかりが続くが、反面周囲はプチ不幸に見舞われ続ける。確かに、なんだかパッとしないサラリーマン田島凌介がお守りを手にするなり運を味方につけていく変化感を見事に柳楽が体現していた。お守りの力に支配されそうになりながらも、やがて「本当の幸せ」の正体に気づきお守りを手放そうと決意するまでの葛藤もコミカルさを交えながら描いていた。自分一人だけが「ツイている」よりも、ラッキーなこともそうでないことも日常の些細なこと、とるに足りないことを報告し合える相手がいることの方がよほど幸せなことだと、我々が2020年の1年間を通して嫌というほど実感させられたことを再確認できる内容だった。

 合間に挟み込まれる松坂桃李と高畑充希による語りと挿入映像も短時間ながらもよくできたストーリーで、次の話への潤滑油の役割を果たしていた。目に見えない脅威をずっと感じ続けた今年、不可思議な事象の原因がわかり、そこからむしろ登場人物たちが幸せや前進を手にした本作の結末になんだか勇気づけられもした。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
土曜プレミアム『4つの不思議なストーリー~超常ミステリードラマSP』
フジテレビ系にて、12月26日(土)21:15~23:25放送
出演:松坂桃李、高畑充希、柳楽優弥、土屋太鳳、中川大志、葵わかな
企画:後藤博幸
プロデュース:古郡真也(FILM)
演出:森脇智延、下畠優太
脚本:酒巻浩史、穂科エミ、中村允俊
制作・著作:フジテレビ第一制作室
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/yottunohushigi

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