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『いだてん』塚本晋也×加藤雅也、ムッソリーニとの対峙 物語に立ち込め始めた“戦争の匂い”

リアルサウンド

19/9/2(月) 12:15

 『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第33回「仁義なき戦い」が9月1日に放送された。1940年のオリンピック招致をめぐり、日本・東京とイタリア・ローマが激しく争う中、治五郎(役所広司)が考えた案は「ムッソリーニを説得して開催地を譲ってもらう」というもの。大役を任された副島道正(塚本晋也)と杉村陽太郎(加藤雅也)のオリンピック招致に励む姿に注目した。

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 まずは副島だ。治五郎の極論に目を丸くして驚く塚本の演技はコミカルだが、直談判に臨む塚本の演技からは、大役を任された副島の強い意思が伝わってくる。会見前、副島はフーッと力強く息を吐いたが、その姿からは体調が優れないだけでなく、独裁者に対する緊張感も感じられる。そんな副島は倒れ込む直前までムッソリーニを力強く見据え、凛とした姿勢を崩さなかった。

 倒れてから2週間後、30分の外出許可が下りた副島は再びムッソリーニとの会見に臨む。政治や杉村の前では、本調子ではない、弱々しい姿を見せていた副島だが、ムッソリーニを前にした副島は別人のようだった。強い眼差しでプレゼンを行う副島。治五郎が持たせたプレゼン内容と相まって、副島の意地が、日本の意地が、そこには表れていた。

 塚本の演技には、肺炎に苦しむ姿や注射を打たれ痛がる姿、政治に「この人、注射300本ですよ」と囃し立てられたときに見せた苦々しい表情など、思わず笑ってしまうようなおかしさもある。しかしこの抜け感のある演技があるからこそ、副島の強い意思が際立つのだ。

 杉村を演じた加藤の力強さも忘れてはならない。治五郎の“愛弟子”である杉村は、治五郎の意志を継いでIOCオスロ総会に臨む。“口がいだてん”な政治とは馬が合わない文武両道のエリート外交官・杉村は「(IOC総会は)俺1人で十分だ」と言い放ち、1人オスロへと旅立った。日本をアピールする杉村の姿は堂々としている。ところが、五りん(神木隆之介)のアフレコによって、勝利を確信していても不安が隠しきれない杉村の心の声が聞こえてくる。それに加え、ムッソリーニに直談判したにも関わらず、イタリアは辞退していなかった。候補地にローマが挙げられたとき、加藤は表情を崩した。杉村の自信たっぷりな態度は崩さず、けれど確かに動揺を見せた。

 プレゼンの場で、ムッソリーニに働きかけ「イタリアは辞退する」と話す杉村に、各国が紛糾した。イタリアのボナコッサ伯爵は「スポーツに関しては、政府でも口出しさせない」と強気の姿勢を見せる。ボナコッサ伯爵の主張を聞いた加藤の目つきは鋭さを残してはいたものの、一瞬退いたように見えた。その後、加藤が見せる杉村の焦りは見事だ。杉村はIOC会長・ラトゥールの厳しい目つきに対して怯むような表情を見せ、トイレでは1人「ちくしょー!」と叫び、悔しさを滲ませた。杉村に見え隠れしていた尊大さが徐々に崩れていく。

 杉村の説得とムッソリーニの存在により、イタリアは3日後に行われたIOC総会で「東京に投票する」と宣言。だがラトゥールはそれを政治的圧力によるものだと判断し、投票を来年に延期した。ラトゥールの判断に納得できない杉村は各国に訴えかける。「日本が受け入れられるのは、“1940年”のみだ」。そんな杉村の心をラトゥールの言葉が抉る。「なぜ、カノーは来ない?」「彼ならこんなことにはならなかった」。自信に満ち溢れていた杉村の目が茫然としたものに変わっていく。

 杉村は「人望」という治五郎にあって杉村にないものに愕然とした。そして治五郎が政治に「何か」を見出していることに気づき、オリンピック招致の夢を政治に託した。恩師に敵わず、政治にも敵わなかった杉村だが、オリンピック招致を諦めたわけではない。政治に話しかける加藤の目は、無念さを滲ませながらも、オリンピックへの期待を感じさせるものだった。

 劇中、政治の台詞も心に残る。IOC総会で日本に難色を示したラトゥールだが、治五郎らの働きかけにより、日本で候補地視察を行うことに。しかし河野(桐谷健太)は、オリンピックに政治が絡んでいることを指摘した。それに対し、政治はくだらないと一蹴するようにこう返した。

「オリンピックは運動会だよ、単なる。あんなものは2週間かけてやる盛大な運動会。それ以上でも以下でもない」「いつから国の威信を賭けてやる一大行事になったんだね!」

 けれど、日本にとってのオリンピックの意義は、政治の思いとは裏腹になっていく。かつて高橋是清(萩原健一)に「オリンピックは国のためになるのか」と問われ、「国のためにはならないが若者のためになる」と答えた政治。記者会見で「オリンピックは国のためになるのか?」という問いを聞く政治の姿はどこか侘しい。

 次週はついに二・二六事件が描かれる。サラリと再登場した美川(勝地涼)の口から出た「満州」という言葉にも不安を感じる。戦争の匂いが色濃くなってきた。(片山香帆)

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