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オリジナルドラマ増加のきっかけに? “お金”をテーマに据えた『カネ恋』の誠実さ

リアルサウンド

20/10/6(火) 6:00

 TBSの火曜ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』は、宮藤官九郎の『監獄のお姫さま』以来の同枠でのオリジナルドラマである。

 本作のテーマのひとつには、タイトルにもあるように、お金の使い方がある。ヒロインの九鬼玲子(松岡茉優)は、無駄な浪費を抑えながらつつましく暮らしている。それはケチというのではなく、お金を大切にしながら生きているということだろう。1週間の仕事が終わり、土曜日の午前中に好きなお菓子を買い、ひとりでそのおいしさを堪能する姿からも、誰の考えにも流されず、自らの心地よい生き方を追求している様子が見て取れる。

 玲子の周りの人たちにも、お金に対してどんな風に考えているかが描かれている。玲子と同じ経理部に配属される猿渡慶太(三浦春馬)は、玩具メーカーの御曹司で、お金に不自由したことがなく、浪費家だ。玲子が長年欲しかったお皿を、何の気なしに買って、そのまま失くしてしまうようなところがある。

 また、玲子や慶太の同僚・板垣純(北村匠海)は、実家の家計も苦しく、奨学金もかかえているため、デートのときですら、お金の使い方で頭がいっぱいのドケチ男子だ。だが、玲子の価値観とは近いものを持っている。

 一方、玲子が長年、憧れ続けたファイナンシャルプランナーの早乙女健(三浦翔平)は、お金の専門家である。

 また、慶太の元恋人で、金銭感覚の違いから慶太と別れ、ベンチャー企業の社長と婚約、しかしその婚約者とも破局する聖徳まりあ(星蘭ひとみ)も気になるところである。

 これらのお金の考え方の違う登場人物たちが交わることで、現代のお金への考え方が見えてくるドラマになったように思う。そして、考え方の違う登場人物たちの、どのお金の使い方が絶対的に正しいとか間違っているというものではなく、相互に影響しあいながら、良きところを見つけていくような描き方が観ていて心地よいのだ。

 現代において、「お金」というテーマは、ヒロインと同じく働く女性にとっては、身近で切実な話題だし、だからこそ、オリジナルドラマでもテーマとして成立したのだと思われる。

 近年、ドラマの多くは、漫画や小説を原作にしたものであった。結果、漫画家や作家が身近に感じて描いた、切実なテーマが自然とドラマにも多くなっていた。しかし、ドラマのオリジナルとなると、視聴率への気負いも出るものなのか、こうした身近なテーマが見過ごされがちでもあった。しかし、本作を観て、ドラマの前向きな変化を感じた。

 それもこれも、これまでにも、TBSをはじめ、各局がこうした身近で切実なテーマの原作ものをドラマ化してきた歴史がベースになっているからだろう。

 例えば、NHKの『これは経費で落ちません!』は、青木祐子著の小説を基に、お金や経理部のOLの働き方がリアルに描かれていたし、TBS火曜ドラマ『わたし、定時で帰ります。』は、朱野帰子の小説を基に、現代の働き方を問うものだった。地上波ではないが、NHK BSプレミアムの『プリンセスメゾン』は、池辺葵による漫画原作で、20代独身女性が、家を買うことを描いた作品だった。

 これらのドラマが、ほかのものと何が違うのかというと、弁護士だとか医師だとか、編集者だとかといった、特別な職業の特別な側面を描くのではなく、ある企業で働く、ある部署の、もっといえば、それすらも単に個人を形作るひとつでしかなく、そんな人物の、個人的であり、誰にとっても切り離せない問題点を重点的に描いていることだ。こうした描き方は、視聴者にとっても、無関係でないテーマであるから、関心度も高まるのではないだろうか。

 現代女性の身近な問題が漫画や小説で描かれ、それらをドラマ化してきた結果、ドラマ自体が自ら、現代にある女性の切実な問題点を見出し、ゼロから企画し、ひとつのフィクションを作る流れができつつあるのを本作を観て感じた。

 残念なことに、このドラマは4話で最終回を迎える。短い話数であったが、身近な問題に真摯に向き合っている作品であると感じられた。今後も、漫画や小説原作とともに、テレビ業界がオリジナルでこうしたテーマを見出す作品が観られるようになっていくことに期待したい。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■放送情報
火曜ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』
TBS系にて、毎週火曜22:00~ 22:57放送
出演:松岡茉優、三浦春馬、三浦翔平、北村匠海、星蘭ひとみ(宝塚歌劇団)、大友花恋、稲田直樹(アインシュタイン)、中村里帆、八木優、河井ゆずる(アインシュタイン)、キムラ緑子、ファーストサマーウイカ、池田成志、南果歩、草刈正雄
ゲスト出演:梶裕貴、岡本莉音、トミー(水溜りボンド)、登坂淳一
脚本:大島里美
演出:平野俊一、木村ひさし
プロデュース:東仲恵吾
主題歌:Mr.Children「turn over?」(トイズファクトリー)
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/KANEKOI_tbs/
公式Twitter:https://twitter.com/kanekoi_tbs

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