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秋山黄色に聞く、作曲への目覚めとユニークな曲作りのプロセス 「ゲームやカラオケと同じ感覚」

リアルサウンド

20/2/18(火) 18:00

 2018年に自主レーベルからリリースしたデビュー曲「やさぐれカイドー」がSpotifyバイラルチャートで2位を記録し、その後も『VIVA LA ROCK 2019』や『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』、『SUMMER SONIC 2019』など国内大型フェスへ立て続けに出演するなど大きな注目を浴びてきたソロアーティスト・秋山黄色が、満を持しての1stフルアルバム『From DROPOUT』を3月4日にリリースする。

(関連:ヒゲダン、Uruに並び今期ドラマ主題歌で注目の秋山黄色 『10の秘密』「モノローグ」に込められた意図

 自身のセルフプロデュースとなる本作は、ソリッドかつダイナミックなバンドアンサンブルと、秋山による繊細かつドラマティックなボーカルが有機的に混じり合った楽曲が、美しくも歪なサウンドスケープを展開しながらひしめくように並んでいる。限られたコードやリフの繰り返しの中、目まぐるしく展開していくカラフルなメロディからは、彼がこれまで積み重ねてきたインプットとアウトプットの膨大な量を伺わせる。

 アニメ『けいおん!』で音楽に目覚め、曲作りはゲームやカラオケの延長線上にあると話してくれた秋山。ほとんど独学で身につけてきたという彼のソングライティングやサウンドメイキングのプロセスは、どこまでもユニークなものだった。(黒田隆憲)

■ニコ動がなかったら「作曲」はもっとハードルが高かった
ーーお父さんがバンドをやっていたそうですね?

秋山黄色(以下、秋山):はい。X JAPANのような、どちらかといえばハードロックっぽいバンドをやっていたらしくて。地元、宇都宮のFM局で流れたりもしたそうなんです。なので、家にはギターがあったのですが「全然弾いてないだろ」っていうくらいボロボロで(笑)。埃まみれのアコギには弦が1本しか張ってない状態だったんですけど、それを弾(はじ)くと音が出るのが楽しかったのは漠然と覚えていますね。

ーー音楽以外のことにも興味ありましたか?

秋山:僕は1996年生まれで、中学生の頃にニコニコ動画やアニメ『けいおん!』がめちゃくちゃ盛り上がってたんですよ。周りもみんなニコニコ動画を観ていたし、今までアニメに興味なかった奴らも『けいおん!』に影響されて楽器を始めたりして。そんな中、僕も『けいおん!』とニコニコ動画にハマり、音楽だけじゃなく自分で描いたイラストを上げたり、料理の動画を上げたり、様々なジャンルのコンテンツを一通り試してみましたね。

 『けいおん!』ってバンド活動もそうですけど、高校生活がリアルに描かれているじゃないですか。自分は中学生になったばかりで、部室とかに対する憧れもあって。1話で軽音部に入って2話で楽器を買いに行く、みたいな。その楽器店の風景なんかもすごくリアルなので、なんだか疑似体験しているような気持ちになったんです。

ーー何かの音楽に影響を受けて始めたというよりは、とにかく楽器が弾きたかったと。

秋山:はい。実は小学生の頃、お祭りに参加してお囃子をやっていたこともあり、『けいおん!』を観る前からリズムに興味があったんですよ。それでドラムを買おうと楽器屋に行ったのですが、値段が高過ぎて手が出なかったので、とりあえずベースを買って帰ってきたんです。別に特別ベースに興味があったわけじゃないんですけど、もう買う気満々でお店に行ったから、何も買わずに帰るわけにはいかない気持ちになっていたんですよね(笑)。お年玉を叩いて2万円くらいの「ベース初心者キット」を手に入れました。

ーーギターは選択肢に入っていなかったのですか?

秋山:友だちと「バンドやろう」という話をしていて、そいつがギターを買うって言ってたので、自ずとギター以外の楽器を選ぶことにはなっていたんです。だから僕、今もベースが一番上手いんですよ(笑)。曲作りをする上ではギターのほうが便利なので、そこがちょっとジレンマですね。

ーー初めて手にしたギターは「ガットギター」だったそうですね。

秋山:そうなんです。結局バンドはポシャってしまい、一人でベースを練習してたんですが全然面白くなくて(笑)。それでギターが欲しいなと思っていたら、おばあちゃんがどこからかガットギターを拾ってきてくれたんですよ。本当はエレキギターが欲しかったんですけど、とりあえずそれで練習をし始めたわけです。

 ガットギターって弦も硬いしフレットもデカイじゃないですか。それが普通だと思って弾いていたので、後からエレキやアコギを持ったときに、「なんて弾きやすいんだ」と思いました。みんなよく「Fのバレーコードで挫折する」って言いますけど、そうならなかったのはガットギターで練習していたおかげじゃないかと。

ーーおばあちゃんに感謝ですね(笑)。作曲を始めたのは、スピッツの「チェリー」をコピーしたのがきっかけだったとか。

秋山:「作曲を始めよう」って思ったわけじゃなかったんです。高校生の頃、Skypeで通話しながらゲームするのにハマってて、その通話のためにちょっといいコンデンサーマイクとオーディオインターフェイスを購入したら、そこにCubase(DAWソフト)の体験版がバンドルされてて。これがあれば、ニコニコ動画の「歌ってみた」が作れるのかなと。まずは、押し入れにしまってあったベースを引っ張り出してきて録ってみたら、めちゃめちゃいい音で録れて。その瞬間に何かがパチンとはじけた気がしますね。「オリジナル曲を作ってニコ動に上げよう」という発想が生まれました。

 もちろん当時は音楽理論も何も分かってなくて。唯一覚えていたのは「チェリー」のコード進行だったんです。それで、友だちとSkypeしながらゲームをやっていたときに「チェリー」のコードを弾きながら、うろ覚えだった歌詞を適当に歌って聴かせたら、それが意外と良くて。Skypeって通話のログが残るじゃないですか。それで聞き返してみたら、その適当に歌った「チェリー」がちゃんとオリジナルソングになっていた。だから、ある意味では曲作りも偶然だったんですよね。

ーーゲームも作曲も、同じ延長線上にあるというか。あまり構えずに作曲を始めたのもよかったのかもしれないですね。

秋山:そう思います。ニコ動がなかったら「作曲」ってもっとハードル高かったと思うし。ほんと、Cubaseを触るのもほとんどゲーム感覚でしたね。GReeeeNの曲を耳コピしてCubaseに打ち込んだりしているうちに、いつの間にか夢中になっていました。

 最初に覚えたコード進行が「チェリー」だったのも、偶然だったけど良かったのだと思います。あの曲っていわゆる「カノン進行」だから、ギターでコードを弾きながら適当にメロディをつけてみると、なんとなく「いい曲風」になるんですよ(笑)。世の中には同じコード進行の曲が何個もあることすら知らないまま、そういう“遊び感覚”でやっていたのは今の曲作りにも活かされていると思います。「今、自分の手元にあるものだけ使って、最大限のものを生み出そう」みたいな気持ちとか。

■実験的でありながら普遍性も確保したい
ーー秋山さんの楽曲は、4つか5つくらいのコード進行の繰り返しの中で、メロディがカラフルに発展していくことが多いじゃないですか。それもやっぱり「チェリー」から学んだ作曲法なのかなと。

秋山:確かに。あと、さっき「ゲームも作曲も同じ延長線上にある」っておっしゃったじゃないですか、それでいうと「リハスタで音を出す」のはカラオケの延長線上というか。高校生の頃は、友だちとスタジオに入って爆音で楽器を鳴らすことが、とにかく最高のストレス発散方法になってたんですよね。「バンドを組んで、ライブハウスに出演する」とかそういう発想ではなくて、とにかく楽器を持ち寄ってリハスタに入ってセッションすることが楽しくて。料金もカラオケと変わらないし。

 ただ、既存の楽曲をコピーして合わせるほどの演奏レベルには誰も達していなかったから(笑)、覚えたてのコードを4つくらい使って適当に演奏するわけです。それに合わせて僕が、即興で歌詞とメロディをつけていくんですけど、それも後から録画したやつを見返してみたらいい感じで。それで友だちと、「ここ、よかったよね」みたいに話していた部分をCubaseに打ち込み直して、編集して1曲に仕上げていく……。実は、今回のアルバム『From DROPOUT』に入っている曲のほとんどが、そういうやり方で作っているんですよね。

ーーそれだけメロディの「引き出し」が頭に入っているということは、これまで相当な数の楽曲をインプットしてきたんでしょうね。

秋山:ただ、それも無意識なんです。何かを深く掘り下げて聴くというよりは、ヒットチャートの音楽を聴いている感じで(笑)。自分でもライブをやるようになって、色んなバンドを聴くようになりましたけどね。最近はドミコとあじさいタウンを交互に聴いてます。基本的に、ローファイっぽいサウンドが好みかもしれない。地元の先輩が乗っている、「本当に令和かよ?」って思うくらいボロイ車に積んであるカーステで流れるeastern youthとか……。

ーーあははは。

秋山:洋楽だとNirvanaも好きですね。色んな人から「たくさん音楽を聴いてそうな人が作る曲」と言われるんですけど、実は違くて。おそらくガチの“音楽好き”じゃないんでしょうね。「音楽がないと死んでしまう」みたいな気持ちは特にないし、相変わらずゲームやカラオケと同じ感覚で作っているんです。

 前にCharさんのインタビューを読んだら、「コード進行とか何も知らず、適当に弦を抑えながら気持ちのいい響きを見つけている」みたいなことを話されていたんですけど、僕も全く同じなんですよ。とにかく「試行回数」だけは誰にも負けない自信があって。気に入った響きを見つけるまで、気に入ったメロディを見つけるまで、ひたすら何度も繰り返し試しているんです。

ーーなるほど。確かにコード進行や曲の構成はとてもシンプルなのに、何度も聴きたくなる中毒性があるのは和声のユニークな積み方が原因かもしれないですね。

秋山:そういえば先日、アルバムのプレムービーを作ったんですけど、映像にコード進行を載せようと思ったら自分のコード進行が分からなくて(笑)。それで色んな人に、「こうやって(弦を)押さえているんですけど、このコードって何ですかね?」と聞いて回り、教えてもらって何とか作り上げました。

ーー(笑)。その複雑な響きに触発されて、メロディが引き出されているところもある気がしますね。それに秋山さんの楽曲は、サウンドテクスチャーにも中毒性を感じます。

秋山:それが自分の楽曲の本質なんじゃないかなと思っているんですよ。音楽を聴くとき、自分は何に一番気持ち良さを感じているかというと“音の感触”なんですよね。例えば嵐とか48グループとか、GReeeeNもそうですけど、たくさんの人の声が混じった時の気持ち良さを、自分の音楽にも取り入れたいなと。

ーーハーモニーというよりは、“倍音”の気持ち良さですね。

秋山:そうなんです。僕は大抵、ヘッドホンで聴きながら曲を作るんですけど、楽器の絡み、声の絡みをいかに気持ちよく聴かせられるかをずっと追求していますね。なので、自分で作ったデモの音像は『From DROPOUT』のミックスダウンでもかなり尊重してもらっています。今回、井上うにさんに何曲かミックスしてもらっているんですけど、「将来、自分でも(エンジニアリングを)やってみたら?」とおっしゃっていただきました。まあ、どこまで本心なのかは分からないですけど(笑)、いつも褒めてもらっています。

 ミックス、本当に楽しいですね。みんなもっとやればいいのにと思います。自分のセンス次第で、いくらトレブル(高音を調節するツマミ)を上げても、ベースを上げてもいいんですから。“ゲーム感覚”という意味では、今までやってきたどのゲームよりもぶっち切りで面白いのはミックスダウンです(笑)。

ーー今回、共同アレンジ(「モノローグ」「夕暮れに映して」)やプログラミング(「エニーワン・ノスタルジー」)を担当した川口圭太さんからの影響も大きいのでは?

秋山:めちゃくちゃ大きいですね。レコーディングのノウハウに関しても、本当に色んなことを教えてくれました。やりたいことが似ているのかなと思うんですけど、川口さんがご自宅で作ってきたアレンジのデモもめちゃめちゃ完成度が高くて。「それ、どうやっているんですか?」みたいな話は随所でしていますし、相当勉強させてもらいました。特に「モノローグ」とか、変な音がたくさん入っているじゃないですか。あれとか「この人、ちょっと変だな」って思います(笑)。

ーー(笑)。アルバムを作り終えてみて、今後どんな方向へ進んでいきたいと思っていますか?

秋山:1stアルバムなので、結構昔の曲も実は多いんです。18歳くらいの頃に作った曲なども入っているし、割と“けじめ”に近い。なので次が大事なのかなと。自分のやっていることの影響の与え方も、もう少し選ばなきゃって思いますし。

ーーそれは、どういう意味ですか?

秋山:受け手にしたら、影響を受けるカルチャーそのものが「いいもの」なのか「悪いもの」なのかは関係なかったりするんですよね。自分がやっているのは下品なことだったりするので(笑)、人への影響を“優しく”与えられたらいいなと。最近よく思うことですが、「なんかよく分かんない」という作品を出すのは意外と簡単なんです。そこでリスナーのことをちゃんと把握してないと、「なんかよく分かんない」ものが、そのまま受け入れられちゃう可能性がある。それって危険だなと思っています。

 「なんかよく分かんない。けどすごい」が将来の“普通”になるのであれば、なんかよく分かんないままで済ませたくない。例えば、めちゃめちゃ変なアレンジで、めちゃめちゃ変なサウンドでも、ちゃんと音楽的に成立させたいんです。変なことをやりたいだけの人って、意外と多いじゃないですか。僕自身はただ実験的なだけじゃなくて、実験的でありながら普遍性も確保したい。別にシーンに対しての責任感とかそういうことではなく、「自分で自分のやっていることに、ちゃんと納得しているかどうか?」という話なんですけど。

ーー表現者として、とても真摯で誠実な考え方だと思います。

秋山:ものすごくハードルの高いことを言ってますよね(笑)。でも、それがうまくいったときは達成感が全然違う。「何をやっても評価されるんだから、好き勝手にヤバイことをやってやれ」という気持ちにはなりたくないのかもしれません。それは今後も矜持として持ち続けていきたいですね。(

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