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Entertainment Live Magazine ぴあMUSIC COMPLEX

古家正亨が2021年のK-POPを総括。オーディション番組の現在を語る!【後編】

PMC編集部

第9回

2001年日本初の韓国音楽専門番組『Beats-of-Korea』(FM NORTH WAVE)を立ち上げて以来、K-POPのDJ、司会・MC、日韓大衆文化ジャーナリストとして活躍する古家正亨氏が登場。日本の音楽チャートを席巻していた2021年のK—POPシーン、そして、オーディション番組とその可能性について、総括!前編後編にわたりお届けします。

── 2021年もたくさんのオーディション番組があったなか、J.Y.Park(JYPエンターテインメント)×PSY(P NATION)、ふたりのプロデューサーが候補生を奪い合うオーディション番組『LOUD』は画期的なポイントがさまざまあったと思うのですが。

古家 『LOUD』はここ数年観たオーディション番組の中で一番おもしろかったですね!いろんな番組で共演させていただいている、ドランクドラゴンの塚地武雅さんは、日本でも有数の韓国オーディション番組ウォッチャーなんですが、そんな塚地さんとも、いろんなオーディション番組ある中で『LOUD』は本当におもしろかったですよねって、つい最近も話していたところでした。

写真左から、J.Y.Park(JYPエンターテインメント)、PSY(P NATION)

── 具体的にはどんなところに魅かれましたか。

古家 オーディションのプロであるJ.Y.Parkさん(JYPエンターテインメント)と、アーティストとしては「江南スタイル」のヒットで世界のチャートを席巻したもののオーディション番組は初めてで、自身の芸能事務所(P NATION)としても初めてボーイズグループをデビューさせるという、アイドルの育成面では、まだ素人と言えるPSYさんという、ふたりのプロデューサーのキャラクターの対比が良かったですね。J.Y.Parkさん率いるJYPは経験も豊富で、完成された育成システムがあるわけです。専門スタッフもいて。ですから、自分たちの事務所で輝ける候補生を選ぶ、その見極めるポイントもクールなんです。一方、PSYさんはものすごく人間臭いという感じでしょうか。練習生たちひとりひとりを家族のような眼差しで観ていて、メンバーも勿論、すばらしい子たちだったからというのもありますが、とにかくPSYさんのその温かな人間性が、至るところで感じられませんでしたか? 初めてのオーディション番組というところでの、親心の強さもあったと思うんですが、これだけ神経を使って愛してくれる代表のところでやってみたいと思わせる彼の人間性が、単なるオーディション番組を超えた、人間ドラマを見せられた感じと言えばいいでしょうか。あとはそのふたりのやりとりも、かなりおもしろかったですし、韓国語がわかると、ふたりの間に微妙な緊張感や言葉のキャッチボールのおもしろさが、より感じていただけたと思います。

Team JYPのデビューメンバー:写真左からユン・ミン、ケイジュ、イ・ゲフン、イ・ドンヒョン、アマル
Team P NATIONのデビューメンバー:写真左から、オ・ソンジュン、チャン・ヒョンス、コウキ、チョン・ジュニョク、ウ・ギョンジュン、チェ・テフン、ウンフィ

── ドラフト制度で両者手をあげたら、候補生が事務所を選べるんですもんね。プロデューサーもプレゼンしなければならないという。

古家 そういう競争もあるのに、最終回はふたりで共作したデビュー組のファンソング「Walk Your Walk」を披露したり。韓国のオーディション番組では極めてまれというか、僕自身は観たことがないんですけど、<最終回が楽しく終わる>という画期的なことが起きて……。

── 確かに。最終回が結果発表ではなく、チームを超えたファイナリストたちのコラボステージがあったり、大団円のように終わったのには驚きました。もうひとつ、『LOUD』を通して思ったのは、審査の範囲がとても広いなというところで。

古家 そうですね。歌やダンスはすでにデビューできる状態で、曲作りもそうだし、なんでもできなければならないという、要求レベルが高かったと思います。さらに、こんな幼い子たちがこんな能力も持っているのかっていう、引き出し方もうまかったと思います。P NATIONに最終的に残ったウンフィくんとか。作詞作曲能力が本当にすごいなって思いながら、ずっと観ていました。

『LOUD』【#15クリップ映像】JYPSY LOUD FANSONG「Walk your walk」

── 日本人の候補生もがんばっていましたね。

古家 最終的に3人残って。P NATIONからデビューするコウキくんとかね、12歳という若さですよ。若すぎるという判断もあった中で、PSYさんの深い“情”でデビューを勝ち取りましたよね。JYPに入ったふたりは努力をしたことが評価されたアマルくんとか、抜きん出たアイドルセンスで選ばれたケイジュくんとか。そこにも事務所のカラーが出ていましたね。さらに画期的だったのが、SBSという韓国の地上波、しかも生放送で、日本人メンバーが日本語でテレビのむこうの海を越えた日本にいる彼らの両親にメッセージを贈ることを許したということ。若干ハプニングにも見えたシーンでしたが、あれが、韓国の地上波で放送されたのは、長年、この仕事に携わってきていますが、日韓の関係が成熟してきたのかなあと感じずにはいられませんでした。ほかの候補生やプロデューサーのふたりも積極的に、韓国語があまりわからない日本人参加者に日本語でたくさん声をかけていましたよね。こういう番組があると、またオーディション番組というものが見たくなる、さらに進化を見せてくれるのではないかと、期待させてくれる……そんないい番組だったと思います。

左から、コウキ、アマル、ケイジュ

── 要求するレベルが高かったというのは、『LOUD』のサントラをチェックしてもよくわかりました。楽曲のジャンルも多岐にわたり、多彩な表現ができる上で、さらなる個性がないと戦えないのだなと。

古家 自分たちのカラーを出せないと生き残れないというのはありますよね。各グループ、歌もダンスも一定の水準を超えている中で、個性の出し方で差別化を図るしかない。2010年前後ですが、K-POPがフックソングに偏った時代がありました。歌詞にはそれほど意味がなく、とにかくフックになるようなフレーズと言葉遊びのようなリリック、そして特徴あるダンスでヒットを生むのが主流になって。でも、ただ耳に残ればいいって感じだけだと飽きますよね。そのうち、BIGBANGに代表されるDIY(Do It Yourself)アイドルが出てきて、BTSもそうですし、SEVENTEENとかStray Kidsとか、自分たちでセルフプロデュースできるグループがどんどん出てきて、そういう能力も当たり前になってきている。じゃあ、あと何で差別化するの?って話になるじゃないですか。ここ数年は、歌の歌詞にこめられた意味、そこに重要性が問われるようになってきています。BTSが世界中の人々に力強いメッセージを発信したことで、歌詞で、言葉で、同世代の代弁者として、パフォーマンスをするという方向性に、移っていると思うんです。

Team P NATION:「I’m Not Cool」_HyunAとコラボ

Team JYP:「Back Door」_Stray Kidsより3RACHAのバンチャン、チャンビン、ハンとコラボ

── 『LOUD』でもそういったメッセージの部分が評価されていましたね。

古家 リリックで、自分の苦労した経験や心模様などを表現していましたね。それを聴いたJ.Y.Parkさんが「デーバク(ヤバい!)」って言っていましたね(笑)。

── アイドルとアーティストの境界線って……。

古家 昔はアイドルといえば芸能事務所の商品であって、アーティストは自己表現ができる環境で活動する音楽家というイメージがありましたが、もはや、その境目は曖昧になってきていると思います。僕はそもそも韓国のシンガーソングライターの魅力にハマってK-POPを聴くようになったのですが、その一方、アイドルに関しては、事務所が作った偶像であり、事務所が作り上げた世界観で、操り人形のように動いている子たちを見ているのが辛かったんです。ところが、先人たちがそういった環境を少しずつ変えていき、自己主張や発言できる権利が認められる時代になってきています。もちろん、契約上の制約はありますが、アイドルはアーティストではないという図式は崩壊していると思います。単純に言葉の意味としては、若者たち中心に人気を得ている若い子たちっていう感じではないでしょうか。

── 『LOUD』は緊張感がある中で、候補生、プロデューサー、スタッフという全員の正直な感情が見えるので、観ると、毎回涙が出ました。

古家 そうですね。僕、オーディション番組からデビューした子たちに、その後、ラジオやテレビ番組とか日本のイベントなどで、お話を聞く機会が結構あるんですけど、オーディションのときのことを聞くと、必ず100人中100人が「つらかった」とか「眠れない日々だった」と言って、笑いながら振り返ってくれるんですが、デビュー組はそうやって思い出として自己処理できると思うんですけど、デビューできなかった人たちにとっては、きっと思い出したくないことも多々あるんだろうなって。

── みなさん真剣ですし、追い詰められますよね。

古家 オーディション時はもちろん、練習時間もずっとプライベートがない状態でカメラが回っているわけじゃないですか。本当に気が抜けないと思いますよ。でも、それもその環境に慣れるというか、だんだん麻痺してくるわけです。本来ならそれって、ありえない空間じゃないですか。一挙手一投足すべてに注目が集まるわけですから。もちろん、アイドルになって世界的なスターとして活躍できることって、すばらしいことだと思うし、誰にでもできることではないと思います。ただ、その一方で、最近ではかなり早い段階から練習生になる人が多いですけど、どうしても幼い時代に、みんなが普通に経験していることができず、いち早く大人の社会で生活することを余儀なくされることで、メンタリティの管理という課題が浮き彫りになりつつあります。実は僕自身、大学の専攻が臨床心理学だったこともあって、K-POPアイドルと心的バランスの関係性について非常に興味があります。仮にデビューしたとしても、永遠に繰り返される過酷な競争社会の中で、長時間の練習と(アーティスト保護の観点から)外界との触れ合いが少ない中、正常な精神状態を維持することは決して簡単なことではないと思います。欧米ではお金を払って、第3者に自分の悩みを相談することに違和感のない環境がありますが、日本人も韓国人も、それをまずは、他人に迷惑をかけないように自分で解決しようとしますよね。その次に、やっと家族や友だちに相談できる。でも、それでは解決にならないことって、多いんですよね。K-POPグループの中には、心の病を抱えて、活動を一時離脱する人も少なくありませんが、そのあたりの精神面でのサポートは必須ですし、長く練習生として努力しながらも、デビューできなかったり、デビューできても、最終的にヒットに恵まれなかった人々のセカンドキャリアをサポートしていく環境も、今後は重要になってくると思います。K-POPの世界は、その世界的人気から華やかに見えますが、そうした陰の部分をいかに改善していくかということも、しっかり考えていかなくてはならないと思います。

── 今、コロナ禍でもありますしね。『LOUD』にはいろんなヒントがあったように思います。

古家 僕、個人的にすごく『THE FIRST』(SKY-HI主催のボーイズグループオーディション。最終メンバーはBE:FIRSTとしてデビュー)って好きだったんですよね。あれは日本にしかできないオーディション番組の形だったなと思っていて。何もかも韓国に寄せる必要はないと思うんです。韓国には自身もアーティストで、国際的な感覚で魅力を引き出せるプロデューサーが多く、専門性の高い、的確なアドバイスができるからオーディション番組を作ってもおもしろくなるわけで、日本でそれと同じことをやろうと思っても限界があると思います。もちろん、『PRODUCE 101 JAPAN』のような、韓国からそのプラットフォームを借りてきてJO1やINIのようなスターを発掘することも可能だと思いますが、それは今、韓国的なカルチャーに支持が集まっているからこそ成立するのであって、これが永遠に続くという保証などないわけです。日本人には日本人の長けている部分があるわけですから、昔『スター誕生』や『ASAYAN』が成功を収めたように、日本的なアプローチでオーディション番組の再起を図ることも大切だと思います。なので『THE FIRST』はある種、今の日本の音楽シーンにおけるブレイクスルー的存在になれたと思います。今の日本に必要なのは、SKY-HIさんのような自身もアーティストであるプロデューサーの存在で、そういった方々が自由にやりたいことができる環境を、メディアがしっかりサポートしてあげること。これができない限り、K-POPアイドルのような世界的スターを発掘するのは、まず無理ではないでしょうか。

『PMC VOL.18』SKY-HI×山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)対談

https://www.amazon.co.jp/dp/483564283X

『PMC VOL.21』SKY-HIインタビュー

https://www.amazon.co.jp/dp/4835643593

── おもしろくドライブしていくといいですよね。

古家 本当に。日本には偉大なアーティストってたくさんいるじゃないですか。しかもここ数年、ずっと日本のシティーポップが盛り上がっているのに、本国である日本では、その波に乗り切れていない。きっとそれは日本人の民族性にも関係していると思うんですが、もし、韓国で同じような状況があると、今だからこそ自分たちの音楽のおもしろさを世界に広げようと業界全体で盛り上がる動きが出てくるんですよ。もちろん、それが単一嗜好性につながることは否めませんが、決して訪れたチャンスを無駄にしないという思考は、我々日本人も十分に学ぶべきところはあると思います。絶対にないとは思いますが、個人的には松任谷由実さんや山下達郎さんが、シンガーソングライターのオーディション番組をやったっていいんじゃないかと。そういう番組、観たくないですか!?

取材・文=PMC編集部

DATA

●オーディション番組『LOUD』とは?
「Nizi Project」のヒットプロデューサーであるJ.Y.Parkと、「江南スタイル」で世界的人気を誇るアーティストのPSYが、「自ら口を開き、作品をどのようにしたいという意志を持った、本物の才能を見つける」という想いから企画されたオーディション番組『LOUD』。韓国では2021年6月の放送開始から大きな注目を集め、初回放送は韓国で異例の11.3%という同時間帯のバラエティ帯で1位の高視聴率を記録。下記で全15話、配信中
dTV『LOUD』リンク:https://video.dmkt-sp.jp/ft/p0007943
dTV『LOUD』公式YouTubeリンク:https://www.youtube.com/channel/UCf3VIuJGXWEOoNAp59Kk7Tw

●大注目オーディション番組『LOUD』より
パフォーマンス音源がユニバーサルミュージックより配信中!
スペシャルCDが12月15日にリリース決定!
ユニバーサルミュージックLOUD公式サイト:https://www.loud-japan.jp/
『LOUD』音源配信リンク:https://lnk.to/LOUD_RTM
『LOUD』ユニバーサルミュージック公式プレイリストリンク:https://lnk.to/Digster_LOUD

『LOUD -JAPAN EDITION-』※完全生産限定フォトブック盤Team JYP Ver.

『LOUD -JAPAN EDITION-』※完全生産限定フォトブック盤Team P NATION Ver.

『LOUD -JAPAN EDITION-』※限定2CD+DVD盤

『LOUD -JAPAN EDITION-』※通常盤

プロフィール

古家正亨

ラジオDJ/テレビVJ/イベントMC/上智大学大学院文学研究科新聞学専攻博士前期課程修了/北海道北見市出身
https://twitter.com/furuyamasayuki0?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
https://www.sunmusic-gp.co.jp/talent/furuya_masayuki/

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