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いま、最高の一本に出会える

『キネマ旬報 2018年8月上旬特別号』表紙

中川右介のきのうのエンタメ、あしたの古典

古典になった映画、ならなかった映画〜キネ旬1970年代日本映画ベスト・テンを読み解く

毎月連載

第4回

18/10/12(金)

 ちょっと前の話になってしまったが、雑誌『キネマ旬報』が7月に「1970年代映画ベスト・テン」という特集を組んでいた。

 同誌の執筆者など127名にアンケートで「私の好きな1970年代の映画」を外国映画、日本映画、それぞれ10本ずつ選んでもらい集計したものだ。

 私も何度か同誌に書いたことがあるためか、アンケートが来たので投票したので、結果が楽しみだった。毎年の「年間ベスト・テン」では1位は10点、2位は9点となるが、今回のは投票にあたっては順位はつけないで、単純に集計するということだった。

 言うまでもなく、「キネマ旬報」では毎年、年間ベスト・テンを選んでいる。70年代の10年間には10作品のベスト1があったことになる。その評価が正しく、今も通用するのなら、その10作がそのまま「70年代ベスト・テン」になるはずだが、そうはならないから、面白い。

 今回「70年代ベスト・テン」に選ばれた日本映画は、下記の通りだ。

「1970年代 日本映画 ベスト・テン」結果
順位 得票数 作品(公開年) 公開年の順位
1 43 『太陽を盗んだ男』(79) 2
2 37 『仁義なき戦い』(73) 2
3 25 『新幹線大爆破』(75) 7
4 23 『ルパン三世 カリオストロの城』(79) 54
5 22 『HOUSE ハウス』(77)  21
5 22 『復讐するは我にあり』(79) 1
7 20 『犬神家の一族』(76) 5
8 19 『砂の器』(74) 2
9 18 『青春の蹉跌』(74) 4
9 18 『竜馬暗殺』(74) 5

 127名のうちの約3分の1の43名が投じれば1位になったわけで、ありがたみがあるのかないのか、微妙なところだ。

 まず、79年が3作、74年が3作と、この2年は当たり年だったことが分かる。次に、この10作が公開年のベスト・テンでは何位だったかを見てみると、公開年に1位だったのは、『復讐するは我にあり』のみだ。他はその年は1位にはならなかったのに40年後には10年間のベスト・テンに入ったのだ。

 逆に言えば、公開年には年間1位になりながらも、今回のベスト・テンには入らなかったものが9本もある。

 では、1970年代各年の1位が何だったのか、今回のベスト・テンでの順位とあわせて見てみよう。

公開年のベスト・テン1位と今回の順位
公開年 作品 今回の順位
1970 『家族』 32
1971 『儀式』 20
1972 『忍ぶ川』 86
1973 『津軽じょんがら節』 161
1974 『サンダカン八番娼館 望郷』 46
1975 『ある映画監督の生涯・溝口健二の記録』 58
1976 『青春の殺人者』 11
1977 『幸福の黄色いハンカチ』 22
1978 『サード』 21
1979 『復讐するは我にあり』 5

 161位は1票、86位は3票なので、実質的には圏外と言っていい。その年の1位になりながら、40年後に5票以上が投じられたのは、8作品にとどまったのだ。

 一方、その年のベスト・テンにすら選ばれなかったのに、今回のベスト・テンにランクインした映画もある。

 77年に21位だった『HOUSE ハウス』と、79年に54位だった『ルパン三世 カリオストロの城』である。この2作は、大林宣彦、宮崎駿それぞれの初の劇場用映画だった。

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価格:ブルーレイ 6800円+税/DVD 4700円+税
発売元:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
(C)TMS

 『HOUSE ハウス』は百恵・友和映画『泥だらけの純情』との2本立てだが、配給収入9億8500万円で77年の興行ランキング7位、『…カリオストロの城』は評論家からはほぼ無視されて54位だったが、配給収入9億1500万円で79年の興行ランキング9位だった。

 どちらもかなりの観客動員をしていたのに、評論家には理解されなかったのだ。彼ら「大人」から見れば、この2作は、「若者」ですらない「少年少女」が喜んで観ている映画にすぎなかった。この2作に日本映画の未来と可能性を見た人は少ない。

 だが、2018年の今、この2作は古典的名作となった。この2人の映画で育った世代が、作り手、批評の担い手として主流を占めるようになったからでもある。

 ということは、2010年代、ヒットしたのに評論家からは相手にされなかった映画こそが、30年後、40年後には高く評価されているのかもしれない。『君の名は。』や『君の膵臓をたべたい』を理解できなかった評論家は、30年後に恥をかくであろう、と予言しておく。

 さて、私もこのアンケートには参加したわけだが、やってみて、こういうベスト・テン選びというのは、単純にはいかないと思った。

 記名投票の場合、本当は好きなんだけどこんなのを選んだと知られると恥ずかしいとか、これはどうせ他の人も入れるだろうから他のにしようとか、同じ監督の作品がいくつもあるのはよくないとか、自分の中で、さまざまな「忖度」が働く。多分、他の人もそうだったろう。

 私自身が選んだ10作で、ベスト・テンに入ったのは『太陽を盗んだ男』『新幹線大爆破』『HOUSE ハウス』『犬神家の一族』の4作だった。

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発売日:2015年2月18日
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発売・販売元:東宝

 70年代は、貧乏と犯罪を描いた映画が高く評価され(今もそういう傾向はある)、娯楽大作は疎んじられていたと思うので、娯楽大作っぽいのを選んだのだが、40年経つと、こちらのほうが人気があったわけで、なんとなく勝利した気分だ。

 40年前のエンタメが、今日の古典になったのだ。

 残りの6作のうち、『日本沈没』(73)、『東京湾炎上』(75)、『野性の証明』(78)は、数は少ないが、私以外にも投票した人がいた。私としては、ベスト・テンには入らないだろうけど、なるべく上にいくといいなと思ったものだったので、投票した人を同志のように感じてしまう。

 私しか投じなかったのは、『華麗なる一族』(74)、『皇帝のいない八月』(78)、『伊豆の踊子』(74)、の3作。残念であった。とくに『皇帝のいない八月』はもう少し評価されてもいいのにと思う。

 などと考えていたら、80年代ベスト・テンもやるそうで、アンケート用紙が届いた。どういう結果になるか、楽しみだ。

作品紹介

『キネマ旬報 2018年8月上旬特別号』

発売日:2018年7月20日
定価:1000円(税抜)
キネマ旬報社刊

『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)

監督・脚本:宮崎駿
原作:モンキー・パンチ
声優:山田康雄/増山江威子

ブルーレイ・DVDの情報はこちら

『HOUSE ハウス』(1977年)

配給:東宝
監督:大林宣彦
出演:池上季実子/大場久美子

プロフィール

中川右介(なかがわ・ゆうすけ)

1960年東京生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社アルファベータを創立。クラシック、映画、文学者の評伝を出版。現在は文筆業。映画、歌舞伎、ポップスに関する著書多数。近著に『海老蔵を見る、歌舞伎を見る』(毎日新聞出版)、『世界を動かした「偽書」の歴史』(ベストセラーズ)、『松竹と東宝 興行をビジネスにした男たち』(光文社)、『1968年』 (朝日新聞出版)など。

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