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「PARCO劇場オープニング・シリーズ」特集

宮藤官九郎×河原雅彦が『獣道一直線!!!』を語る! 最強ユニット“ねずみの三銃士”6年ぶりの最新作

全20回

第7回

20/9/30(水)

生瀬勝久、池田成志、古田新太。この3人が集結した演劇界最強ユニット、「ねずみの三銃士」が動き出した。第4弾となる『獣道一直線!!!』は、婚活サイトに登録していた独身男性が次々と殺され、その3人に関わりある女性の存在が浮かび上がる──という物語。6年ぶりの作品について、第1弾から脚本を担当する宮藤官九郎、演出の河原雅彦に話を聞いた。

ねずみの三銃士『獣道一直線!!!』メインビジュアル

── 『獣道一直線!!!』は生瀬勝久さん、池田成志さん、古田新太さんのユニット「ねずみの三銃士」の6年ぶりの舞台ですね。今回のお話はいつ頃から動いていたんですか?

宮藤 前作『万獣こわい』が終わってわりとすぐだったと思います。「新しいPARCO劇場のオープニング・シリーズでやりましょう」という話で、ああもう絶対それがいいって。まさかこんなにすぐ2020年が来るとは思っていませんでしたけど。

河原 やっぱり来るんですね〜、2020年。『万獣〜』が終わる頃にもう、今回の題材となった実際の事件を古田(新太)さんが挙げて、「じゃあ次はこれをやろう」と言って別れた感じでした。

宮藤 一人の女性が次々と男を騙していくっていう。

河原 そのときから「池谷(のぶえ)さんがその女性をやってさ」って。で、6年ぶりに会ったら宮藤さんがそれを形にしたぶっ飛んだ本を書いてきてくれて、いま稽古をやっているという。

宮藤 基本的に、3人が口を出してくるのは最初の雑談とキャスティングまで、ですよね。

河原 だいたい古田さんの案が通るんだよね。毎回、古田さんがニヤニヤしながら「こういうのどうだ?」と提案して、(池田)成志さんが「もういいよ古田、ひどい話は!」って言うけど結局いつもそれになる。

宮藤 生瀬(勝久)さんは常にウェルメイドをやりたがってるけど実現しない、っていう(笑)。

── 『鈍獣』『印獣』『万獣こわい』ときて、第4弾のタイトルが『獣道一直線!!!』。

宮藤 最初、騙されているとわかっていて騙される人たちの話だから『獣獣承知』にしようと思ったんです。同時にいまのタイトルも思いついて、2案出したんですよ。でもまあ前者になるだろうと思ってたのに、3人とも『獣道一直線!!!』がいいというので、こうなりました。

河原 初期のころに『耄碌(もうろく)獣』ってタイトル案もあったよね。「耄碌した獣の話ってどんなだよ!」と僕はすごくわくわくしていたけど、漢字が難しくて伝わりづらいということでこうなりました。

役作りしなくても舞台に上がれる
特別な3人

── 実際に宮藤さんが脚本を書かれたのはいつ頃ですか?

宮藤 ごく最近ですよ、今年の7、8月くらいです。

── これまでは3人の誰がどの役と決めずに脚本を書かれて、河原さんが宛てた役が宮藤さんの想像と違うこともあったと聞きました。

宮藤 今まではそうだったんです。『鈍獣』の時は特に、3人とも僕が思っていたのと違うキャスティングになりました。でも今回は役名からして、3人それぞれの名前をもじったものにしたんですよ。だから「ねずみの三銃士」では初めてのあて書きですね。

河原 そう。今回は超あて書き。配役に迷う要素が見当たらない。

宮藤 自分なりに考えた3人それぞれの特徴も入っていたりして。

── なぜ今回はそのような形にされたんですか?

宮藤 この3人だったら、半分くらい役作りができていない状態でも舞台に上がれるんじゃないかなと思ったんですよ。だからあえて本人に寄せた役柄にしてみました。あの3人が素に近い状態で芝居してたらどうなるんだろうって。それくらい特別な役者さんたちだから。

河原 ふつうなら相当難しいことだと思うんだけど、「難しい」とか一切感じさせないんですよね。

宮藤 すごいですよねえ。

河原 今回、池谷さんもすごいですよ。本読みの一声目を聞いた時から「これ、池谷さんの舞台になっちゃう!」と思ったくらい。

宮藤 しかもオープニングの、本役じゃないほうで(笑)。

河原 あの三銃士と終始拮抗してますからね、説得力がすごい。

宮藤 うん、おっきい感じがしましたね。題材となった事件自体、調べれば調べるほどわかんなくなる。というか、なぜ犯人の女性があんな事件を起こしたかって理由が、ないんですよ。そこに演劇だからといって無理に理由を作らないほうが怖いと思ったんです。その代わりとなる説得力が何かないかなと思っていたけど、池谷さんがやることで、もうそれで充分だって思いました。

河原 そう、なんにせよ分かりやすい理由はむしろないほうがいい。

宮藤 この人に騙されたんだ、ってことだけで突っ走れるんじゃないかって。思いっきりぶっ壊れている人は『印獣』の三田佳子さんでもうやったので(笑)。今回は反対側の、何人も人を死に追いやっておきながら平然としてられる普通の人、というのが面白いなと。

稽古場で「一番わかってる」
池田成志

── 稽古場のようすはどうですか?

宮藤 今回初めて稽古場にずっといてみて、これを毎回やってるんだと思うと、本当に河原さんはえらいなあって思いました。とにかくすごく早いんですよ。

河原 稽古がはじまって4日間くらいで一応1場を全部やりましたもんね。稽古場にせっかちが多いから。

宮藤 全員せっかちなんですよね。作中では古田さんがせっかちという設定なんですけど、実は3人とも……。

河原 芝居をよく知ってる分、せっかちなんですよ。特に成志さん(笑)。

宮藤 そう。脚本を書いた僕以上に解釈を語ってくれて「なるほどなるほど」と思ったり、「うーん、そのとおりやらなきゃダメかなあ」ってなったり。

河原 もちろん、助けられることも多いんですけどね。

宮藤 山本美月さんとか、あの稽古場に戸惑ってると思うなあ。よくやってくれますよね。

河原 ですね。美月ちゃんに取材したら困惑の言葉ばっかりだと思う(笑)。生瀬さんは普段後輩とか周りにもアドバイスされる先輩だと思うんですが、この現場では成志さんが先頭を切ってくれてるので、今のところ静観というか、粛々と役に徹してくださってる。

宮藤 古田さんも見せ方、ビジュアル的な部分はアドバイスをくれるけど、芝居の内容に関しては何も言わないし。

── 成志さんの存在感が大きいんですね。

宮藤 だって成志さん、台本の初稿を送った時点で熱がすごかったです。次の日に返ってきたLINEが長すぎて、画面にぜんぶ入り切らなくて。読んでる途中で寝落ちしちゃったくらい(笑)。生瀬さんは短文で「読みまして面白かったです」と返してくれて、古田さんはそもそもLINEやってないし。だからグループLINEからして、成志さんの独壇場なんですよ。

河原 本当にすごいよなあ……。ただ、とにかく納得のいったものにしたいっていう思いが強い先輩だから。

宮藤 そうなんです。本当にありがたい。

稽古場で3人を焚きつける
脚本家の存在

── 「ねずみの三銃士」シリーズでは初めて、宮藤さんご自身も出演されますね。

宮藤 今回は生瀬さんが還暦になる歳だから、「ねずみの三銃士」として最後の公演になるだろうと言われてたんです。話が進む中で「宮藤、出ればいいじゃん」と言われたときに、最後だったら出たいな、と思ったんですよ。これまでは毎回本番の事件とか旅公演のハプニングとか、面白かった話を後から聞かされるばっかりで、羨ましかったのもあって。

河原 生瀬さん、還暦感ないですけどね。

宮藤 全くないですよ、いま稽古場で見てても。絶対最後じゃない気がする(笑)。

河原 そうだよねえ。「これが最後」感が全くないもん。

── 河原さんの演出を宮藤さんが受けるのは初めてですか?

宮藤 はい。そもそも自分の脚本だけど演出は他の人で、出演だけするという立場がはじめてなんですよ。河原さんは僕の書くものの“不親切”な部分をわかるようにしてくれるし、僕の脚本をうまく演出してくれるという絶対の信頼はある。だから役としての見え方の心配は全くしていないんです。ただ、稽古場での居方、身の置きどころがまだ見つけられてない。

河原 僕も宮藤さんが稽古場にいるってどんな感じだろう? と思っていましたけど、「演出します」ってスイッチが入ると気にならずフラットにできていますね。それでいてわからないところはすぐ聞けるし。いちばんありがたいのは、三銃士に面白くハッパをかけてくれることですね。

── というのは?

河原 「このシーン、無駄にカロリー高くやったほうが面白くなるな」っていうところをあえて「宮藤さんから言ってもらっていいですか」ってちょこちょこお願いするんです。

宮藤 3人ともうまいから、多少加減した状態でも充分面白いんですよ。そこを「もうちょっとやったほうがいいと思いますよ? 前ならもっとやってたと思いますけど」って。

河原 そうするとみんな、「宮藤~~~!!」って言いながら、結局すごく嬉しそうにやってくれる。そんな意味でも書いている本人がいてくれて、ものすごく助かっています。

遠慮しないで書いても
受け止めてくれる人たち

── 「ねずみの三銃士」は第一回企画公演の『鈍獣』が2004年。その時点ですごい3人が集まったな、と思っていましたが……。

宮藤 最初に頼まれたときのこと覚えてます。うちの近所のパスタ屋に成志さんが来たんですよ。「俺行くから来い」って呼び出されて、パスタ食べながら「お前、書くだろ? 書くよなあ?」って(笑)。

河原 世が世ならパワハラ甚だしいよ(笑)!

宮藤 その時は「ここでパスタ食べちゃったら絶対に書かなきゃいけなくなる」と思って、アイスコーヒーだけ飲んで帰ってきました。

河原 銀座の寿司屋ならまだしも、宮藤さんちの近くのパスタ屋って! 宮藤さんが本を書くって決まって、「じゃ、演出は河原で」って、そこからずっとセットで呼ばれて。

宮藤 最初、作家も演出家もその都度変えるって言ってましたよね。

河原 そうだったっけ?

宮藤 そう。でも2本目も頼まれて。あれ?と思ってたら3本目も……。今となっては誰かに変わったら嫌だなって思うくらい続いちゃった。

河原 『鈍獣』の頃は僕らもまだ30代前半で。

宮藤 僕も、外部に脚本を書いたのも、自分が演出せずに脚本だけ預けるのも、『鈍獣』がほぼ初めてだったんです。

── そこから宮藤さんも河原さんもいろんな作品に携わられて活躍の幅も広がっていますが、そんな中で「ねずみの三銃士」はどういう存在ですか?

宮藤 河原さんの演出だし、役者3人がすでに決まってる、しかもあの3人。1回めこそ少しびびってましたけど、2回めからはもう何を投げてもいいかなって思っていますね。『印獣』で三田佳子さんをキャスティングした頃から、もう何をやってもだいじょうぶだって。だから遠慮しないで書くというのが、このシリーズをやるときのマナーですかね。

河原 ずっと変わらず上にいる先輩たちなので……。この現場に来ると改めて「俺って全然偉くないんだな」って思わされる(笑)。

宮藤 確かに! それはそうですね。あんなにすごい先輩たちがいるんだから。

河原 もちろんどの作品もいつも精一杯取り組んでいますけど、この3人とやらせてもらえる時は「すっごく面白いもの、他の追随を許さないくらい突き抜けたものが作れる!」って思えるんです。その分、しんどいことも多いですけど、この企画にはホント感謝ですよ。

取材・文:釣木文恵 撮影(宮藤官九郎、河原雅彦):阿部章仁

作品情報

PARCO劇場オープニング・シリーズ
“ねずみの三銃士”第4回企画公演『獣道一直線!!!』

日程:10月6日(火) ~ 11月1日(日)
会場:PARCO劇場
料金:10,000円(全席指定・税込)
U‐25チケット:6,000円(観劇時25歳以下対象、要身分証明証、当日指定席券引換)
※「パルステ!」、チケットぴあにて前売販売のみの取扱い

作:宮藤官九郎
演出:河原雅彦
出演:生瀬勝久、池田成志、古田新太、山本美月、池谷のぶえ、宮藤官九郎

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