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THIS IS JAPANが語る、迷いを経たバンドの強さ「一回行き詰まったからこそ前向きな気持ちを感じられた」

リアルサウンド

19/12/3(火) 18:00

 THIS IS JAPANが、11月27日にEP『WEEKENDER』をリリースした。2011年、大学在学中に結成以降、常にバンドシーンにメッセージを投げかけてきた彼ら。2017年には、自主企画のコンピレーションCD『NOT FORMAL ~NEW ALTERNATIVE~』、2018年にはミニアルバム『FROM ALTERNATIVE』をリリース。オルタナティブロックを盛り上げるべく順調な活動を続けているように見えた彼らだが、実はその頃から“自分たちのメッセージが伝えられるところには、もう伝わってしまったのではないか”という虚しさを抱くようになっていったのだという。今作は、そんな苦悩や葛藤の日々を乗り越え、メンバーそれぞれがTHIS IS JAPANというバンドに向き合い制作された“過渡期”的なアルバムだ。はたして、彼らはどのようにして現在の境地にまで辿りつくことができたのか。石井恵梨子がメンバーたちの当時の様子を含め、赤裸々な思いを聞いた。(編集部)

今までを壊そう(小山祐樹) 

ーー前作『FROM ALTERNATIVE』は、“俺たちはこれだ!”っていう8ビートの爆音で固めた作品でしたけど、そこからまた変わりましたよね。最初は“あれ? 迷ってるのかな?”と思ってしまって。

かわむら:そこはずっと考えてたところで。まず『FROM ALTERNATIVE』が自分たちから生まれた本当にピュアなものかどうか、っていうのを見つめ直したんですね。当時はオルタナコンピの『NOT FORMAL 〜NEW ALTERNATIVE〜』を企画したり、自分たちが旗持ちとして、って言うんですかね? 掲げたメッセージとかシーンとかを背負って、ちゃんと意識して初めてバンドをやれて。その意味ではすごくエネルギーのあるものができあがったと思ってるんです。

一一はい。ディスジャパが再びオルタナティブロックを鳴らすぞ、と。

かわむら:そう。でもそこを経て、自分たちがそもそもなぜバンドをやっているのか、どんな音楽をしたいのか、モノづくりの原点をすごく意識したんですよ。

小山祐樹(以下、小山):まぁ“迷ってる”って言葉はわかりますし、僕らも迷いが全然ないかって言ったら、迷いのあるアルバムだとは思うんですね。それは悪い意味じゃなくて。前作は8ビートで固めてギターを掻き鳴らして進んでいくスタイルで、それは全然いいものだったと思うし。でも「じゃあ次、何やろうか」って4人で考えたときに、ちょっとスタイルが限定されちゃってる、そこに息が詰まるっていう印象が……口には出さないけどなんとなくあって。

一一あぁ。その感覚は、みなさんにもありましたか。

杉森ジャック(以下、杉森):そうですね。ライブで何回かそういうタイミングがあって。こっちは全力で『FROM ALTERNATIVE』の曲を掻き鳴らしてるんだけど……正直その、伝わるところまでは伝わってしまったのかなって。これはネガティブな意味で。ここまでしか伝わらなかったし、伝えられるところはもう伝わってしまったなって。

小山:ライブでの虚しさみたいなのは少し感じてましたね。5列、6列くらいまではすごく盛り上がってる。確実に動かせてる実感があるんですけど、でもその後ろの人たち、一番後ろの壁にもたれかかってる人までどうやったら動くんだろうって。ほんとに前のほうだけ暴れてたらそれでいいのかな? って、そっちのほうを考えるようになって。

杉森:そう。あとやっぱりTHIS IS JAPANは4人で何か目的を掲げてやるバンドっていうより、まず「4人でバンドやろうぜ」ってところから始まってるんで、何か目的に向かって走り続けることが音楽的に新しい興奮を生み出すことに直結してるのか、っていう疑問が徐々に出てきたのかな。

かわむら:まずあなた、曲書けなくなってたよね?

杉森:そうだ。まず曲が書けなくなっちゃった。書いてはいるけど新しいものができなくて。最初は『FROM ALTERNATIVE』の延長で作ってたんです。でも同じタイプの曲を同じ気持ちで書いても、やっぱり更新できないし、なんかつまんない。それは自分でも思ってましたね。で、そこからはもうスタイルとか考えずに好きにデモを作ってみようって。初心に帰るというか、原点、まっさらな気持ちになって新曲をいっぱい作ろうと。そういうのが今回の背景にあって。

小山:その中で選ばれた曲が今回入ってるから。当然前作の流れとは繋がってないし、むしろ今までを壊そう、ぐらいの勢いで作った曲たちですね。

一一『FROM ALTERNATIVE』と書かれた旗を掲げたはいいけど、それをずっと振り続けることが目的じゃないと気づいていった感じ。

かわむら:そう。あと単純に時代が変わってきたことはすごく感じますね。我々みたいなインディーズのバンドから見たマスの世界、あと同じインディーズの世界、両方を見ても変わってきたと思いますよ。3〜4年前までは何かをぶつけたくなる敵とか、大きな流れがあったんですね。もちろん今もやりきれないこと、くだらないなと思うことはあるんですけど……なんか「そこにエネルギーを注ぐのもったいなくないか?」っていう。

小山:ていうか「敵……誰なんだろう?」みたいな。

一一4つ打ち全盛期なら「カンタンなビートにしなきゃ踊れないのか」って曲をぶつける意味もあったと思う。でも今、オルタナはそれぞれ自由にやってるし、コンピに参加していたバンド、CHAIとかもどんどん外に出ている。

かわむら:そうなんです。コンピに集まってくれたみんなが活躍してる時代一一それは俺たちのお陰ってわけじゃなくて。じゃあ大きいところに目を向けてみたら、たとえば我々は今年フジロックに出演して、大きいステージも見ましたけど、そこで格好悪いものが何もなかったんですよね。だったらマスとか敵のこと考えるより、ちゃんと4人で頭を突き合わせて、今興味あるものをちゃんと伝え合って、改めて自分たちの芯を見つけていくほうが面白いなって。でもそこで、杉森だけは旗持ったまま誰を相手に戦えばいいかわかんなくなってた。

水元太郎(以下、水元):杉森さんがなかなかモードを切り替えられなかったんですよ。「オルタナじゃい」みたいな旗を持ったまま……。

杉森:オルタナ残党兵になってた(笑)。

水元:ほんとはもっとやりたいことあるんじゃないの? って思ってたんですよ。面白いことやりたいだろうし、もっといろいろ聴いてるんだから、ひとつのスタイルに縛られないでどんどん出していったほうが面白い。そう思いながら俺は、ずっと杉森さんの精神のケアをしてました。

かわむら:当時めちゃくちゃピリついてたね(笑)。杉森が完全燃焼して作ったものがちゃんと響かなかったから。『FROM ALTERNATIVE』が我々の予想を超えてもっと大きなものを動かしていったかと言えば、もちろんそんな手応えはなくて。そこも大きかったんじゃない?

杉森:だと思う。前の作品は俺の高校とか中学の頃の憧れをそのままぶつけたものだし、当然俺の書いた曲が多かったし。それこそ旗持ったまま「俺が終わった……!」みたいになって、そのまま残党兵に(苦笑)。それでしばらく曲が書けなくなってた部分もあるでしょうね。

曇ってたメガネが晴れた(杉森ジャック) 

一一今に至る突破口になった曲って、どれになりますか。

杉森:最初は「apple me」じゃない?

かわむら:その前に「SUNNY」があるでしょ。これは映画『ギャングース』の挿入歌として作った曲で。当時は正直煮詰まってたけど、入江悠監督とディレクターと話をして「こういう曲にしてほしい」「The Clashみたいなイメージで」っていうオーダーを頂いて。初めてWUJA BIN BINの皆さんにホーンとパーカッションで入ってもらったり、同時にライブでそれをやったり、シーケンスを走らせてみたりして。今までなんとなく遠ざけていた壁みたいなものを打ち破ったきっかけでしたね。

一一曲調もスカで、それ自体が新鮮です。

杉森:そう。いろんなものを取り入れてトライして、それが最終的にディスジャパになる、なった、っていうのは大きな発見で。あとテンポが遅いのも良かった。速いテンポじゃなくても自分たちの音にできるんだなって。

小山:そうですね。4人で楽器弾いて8ビートで「うりゃーっ!」てやらなきゃいけない、みたいな縛りをどっかで感じてて。そういう意味でも「SUNNY」はひとつ壁を超えられた曲でしたね。

一一あと今回大きなポイントになっているのが、小山さんの作るポストパンクとかダンスビートの曲ですね。

小山:はい。今回はいい意味で何も考えてなかったですね。ディスジャパの編成すら全然考えなくて。単純に「こういうリズムパターン、もう先に打ち込んじゃおう」とか「ここギターは一本でいいな」とか。だから「Yellow」も、先にハチャメチャなデモがあって、そこにバンドが合わせにいった感じ。

かわむら:でも、ほんとに何も考えず、そんな機械的に作った曲をバンドに持ってはこないと思うんですね。言うても小山は常にギターのことを考えてるし、無頓着な男ではないんですよ。THIS IS JAPANとして、っていうよりも、水元、かわむら、小山、杉森の4人で今何をしたら面白いのか、すごく考えてたんじゃないかなと思う。この2年で小山がたぶん一番多くの音楽を聴いてたし、聴く幅も広がってて。杉森が曲を書けなくなってたときに、小山の中で膨れ上がってた音楽欲みたいなものが爆発したんです。その新曲が、曲作りの楽しさを思い出させてくれた感じはあるんですよ。バンド結成当時みたいな。

小山:これまで曲作りも手癖でやってるとこがあったんですけど、そこをあえて左手で作ってみた、みたいな。

一一あぁ、そうしたらみんなで笑い合える空気が戻ってきた。

かわむら:そう。で、左手で作った曲をちゃんと右手で再現してみたら「あぁ、これは新鮮だし面白いな」とか「今まで届かなかったところに手が届いてるな」みたいな。そういうのは確かにあった。

一一最初は“あれっ?”と思うけど、馴染んでしまえば確かにディスジャパ・サウンドですからね。音数が減ってずいぶんクリアになったくらいで。

小山:そこは考えましたね。音数減らして音像をタイトにしようって、意図的にやりました。やっぱり前作がゴージャスな作りで、リバーブも多いし、ギターもだいぶ音量デカいので。一回ふと思ったんですよ。パソコンに取り込んで波形を見たら全部ブワーッて帯になってる(笑)。どこ見てもノイズの太い帯で、これは聴いててどうなのかなって。

一一確かに、聴き疲れしないのは今回の音。

杉森:こっちのほうが4人の音がちゃんと聴こえる。今回俺がギターを弾いてないから歌もよく聴こえるんですよ。責任感じながらも挑戦できたのはよかったですよね。ギターの音に隠れるんじゃなくて、剥き出しの声でやるしかない。

一一爆音でゴリ押しするんじゃなくて、どんどん音を差し引いてクリアにしていく、その楽しさってどんなものですか。

かわむら:いや、みんな感覚が麻痺してるんだと思うけど、今回も爆音はあるんですよ(笑)。全然クリアじゃないところもあって、我々が十分に楽しんでる爆音はしっかりあるんです。ただ、それをもっと楽しめるようになったのが、音数を抜いてよかったなと思うところ。

小山:メリハリをつけて、最高潮を一番楽しむためにも焦らせるようになった。

かわむら:焦らしに焦らして、「これがやりたかったんですよー!」っていうところをドーンと出すっていう。

杉森:ほんとベースとドラムだけで成り立つ曲だから、そこにギターが入ってきたら前よりも高く飛べる、みたいなイメージ。

小山:僕は普段ギターのことばっかり考えてますけど、でもクラブミュージック、デトロイトハウスとか聴くようになったら、そもそもギターは入ってないですよね。リズムパターンもそんなに変わらなくて。これは凄いなと思ってドラムのことをちゃんと考えるようになって。それと同時に、THIS IS JAPANらしさって何かなって考えたときに、実はギターじゃなくてかわむらさんのドラムじゃないかなと思うようになって。

かわむら:……そこまで? 俺そんなに期待背負ってんの?

小山:これ今まで言ってなかったですけどね。実はかわむらさんのドラムって特殊だなと思ってて。

杉森:あぁ、それはそうだね。

かわむら:ありがとう、初めて聞いたわ(笑)。

小山:だから今回、ドラムがかなりデカいです。

かわむら:聴いてるものも新曲のビートに表れてると思いますよ。聴く人が聴けば「Yellow」とか「手紙」にもデトロイトハウスを感じると思うし。

一一あと、もうひとつの変化は今回から歌詞が全部かわむらさんになったことで。これはなぜでしょうか。

かわむら:杉森がまずオルタナ残党兵として迷走してるとき、俺らは「お前が曲作んなきゃ始まらないだろう」じゃなくて「じゃあ4人で曲作ろう」って考えたんですよね。そのためにも各々何ができるか考えて。杉森が魂込められる言葉って、もちろん最初は杉森が考えなきゃいけないですけど、今どき「自分で書いた歌詞じゃなきゃ」って話でもないと思うんです。特に我々4人はお互いの言葉についても触れてきたし、「こっちのほうが響くんじゃない?」って言い合うこともあったから。あと俺と小山は「杉森ってどういう歌が似合う」「こんな言葉だったら杉森が最強だろうな」って話すこともあって。そこを自分でわかってない杉森に苛立ってたところもあったんですよ。

杉森:はははは。そうなんだ?

かわむら:それこそ自分の中でも「杉森に言って欲しい言葉」とか「こんなことを杉森に歌って欲しい」っていうのが溜まってたんで。それで最初「apple me」を書いて、歌ってもらったんですね。初めはほんと歌ってもらうっていう感覚でしたけど、それがものすごく格好よくて。普通の人が口にしたらロマンチックすぎる、悪ぶってキメすぎだって思う言葉でも、杉森はうまく消化してくれる。そこがわかったのはバンドにとってもいいことで、いつの間にか自分が全部歌詞書いてましたね。

一一〈札束燃やし〉とか、歌って似合う人もなかなかいないですし。

かわむら:そう。そういうこと歌っても杉森はユーモアがある。

杉森:かわむらの書いた歌詞を見たとき、ほんとに「俺だ!」って思いましたからね(笑)。イズムみたいなやつを思い出せたというか、曇ってたメガネが晴れたような。自分のやるべきことがわかった実感もあったし、曲が増えていくにつれてその感覚は強くなっていって。ひとりひとりが自分にしかできないことを、キャラクターとしても、音としても、できるようになった感じはありますね。

一一なるほど。4人が今うまくいってるのはよくわかりました。最初に言ったような迷いは全然ないんですね。

小山:うん。確かにこれは過渡期的なアルバムだし、いろいろ試してみたのは事実だと思うんです。ここから一番自信を持って尖らせていけるところはどこか、次から育てていくだけだと思ってるから。

水元:うん、このままやっていけばディスジャパらしさはもっと尖っていくと思う。

杉森:音の見せ方は変わりましたけど、リズムはむしろ前よりしっかりしたし、よりディスジャパらしくなった自信もあるから。だから音はまぁ、やってくうちに付いてくるんじゃないかなと思ってますね。

一一「手紙」にある〈行きたいとこなんて後で見つければいいだけだ〉っていう歌詞が、今の4人そのものみたいですね。

かわむら:そうっすね。歌詞で一番気をつけなきゃいけないのは嘘つかないことだと思ってて。一回行き詰まったからこそ、バンド活動とか曲作りに対する前向きな気持ちを強く感じられたし。そこは、ちゃんと歌詞や音に表れてるんじゃないかと思います。

(取材・文=石井恵梨子/写真=稲垣謙一)

■リリース情報
『WEEKENDER』
発売:2019年11月27日
価格:¥2,000(税抜)
【収録曲】
1.グルメ
2.ストロボ
3.apple me
4.Yellow
5.手紙
6.悪魔とロックンロール
7.SUNNY

■ライブ情報
THIS IS JAPAN TOUR 2020 『We are WEEKENDERS!』
2月11日(火・祝) 千葉・LOOK
2月15日(土)  岡山・ペパーランド
2月16日(日)  神戸・太陽と虎
2月23日(日)  仙台・ FLYING SON
2月29日(土)  心斎橋・Pangea (ワンマン)
3月1日(日)  名古屋・HUCK FINN
3月7日(土)  福岡・ UTERO
3月13日(金)  下北沢・シェルター
3月14日(土)  下北沢・シェルター(ワンマン)

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