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Korn、Tool、Baroness、Opeth……独自のスタンスで“ヘヴィ”を表現するHR/HM新譜6選

リアルサウンド

19/10/6(日) 8:00

 この夏以降、良作揃いのハードロック/ヘヴィメタル(以下、HR/HM)シーンおよびエクストリームミュージック界隈。今回紹介する6作品もバンドの知名度の差こそあれど、それぞれ2019年を代表する力作ばかりです。

 まず最初に紹介するのは、90年代以降のヘヴィ/ラウドシーンを牽引し続けてきたKorn通算13作目のオリジナルアルバム『The Nothing』です。昨年はフロントマンのジョナサン・デイヴィス(Vo)が初のソロアルバム『Black Labyrinth』を発表し、独自性の高いサウンドが話題となりましたが、3年ぶりにリリースされた本家Kornのアルバムでは“これぞKorn”といえるヘヴィサウンドが展開されています。興味深いのは、それまでのヒップホップをベースにした“跳ねる”リズムが一部の楽曲ではファンクやソウル、ブルースといったルーツミュージックからの直接的影響が表出している点でしょうか。こういったテイストが、本作の放つダークさをよりディープなものへと昇華させているようにも感じられます。

 と同時に、そのダークさやダウナー感はここ数作のそれとは若干質が異なるようにも映ります。実はこのアルバムが完成に至るまでの間に、ジョナサンの妻が急逝しています。そういった出来事がこの作品の影を落としたことは間違いない事実であり、特に冒頭のイントロダクション「The End Begins」の終盤に挿入されるジョナサンの嗚咽からは、ここから先に何が表現されていくのかが理解できるはずです。Kornの本領発揮と言わんばかりのスタイルですが、初期作ほど混沌としていないことから非常に聴きやすい。新たなトライも含みつつ、ここ10年の彼らの作品における集大成的な1枚に仕上がっているのはさすがの一言です。来年3月にはSlipknot主催による大型フェス『KNOTFEST JAPAN 2020』での来日も決定しているので、これらの楽曲を生で楽しめる絶好の機会となりそうです。

Korn – You’ll Never Find Me (Official Live Video)

 2作目は、今年8月末に発表されたToolのニューアルバム『Fear Inoculum』です。前作『10,000 Days』(2006年)から約13年4カ月ぶりという、Toolにとって最長スパンを経て届けられた本作は、大半の楽曲が10分を超えるという異色の内容にも関わらず全米1位を獲得。ちょうど今年8月初頭にはToolの過去作品がデジタル配信解禁されたこともあり、今作もストリーミングサービスでの再生数はかなりのものであるとのこと。同作からは10分20秒という長尺のリード曲「Fear Inoculum」がアメリカ・Billboard Hot 100(シングルチャート)で最高93位まで上昇し、「トップ100入りを果たした史上最長の楽曲」という記録を樹立しています。

 本作はCDバージョンが7曲入り約80分、デジタルバージョンが全10曲入り約87分という大作で、先に書いたように大半の楽曲が10分超えの長尺ナンバーばかり。しかし、1曲1曲が長いからといっても、とっつきにくさはそこまでない。むしろ、宗教色が若干強く感じられた『10,000 Days』よりも聴きやすい印象を受けます。メイナード・ジェームス・キーナン(Vo)のボーカルパートも決して多いとはいえませんが、各曲で印象的なリフやフレーズが反復され続けるアレンジからはプログレッシヴロックを通り越し、ある種のダンスミュージック的高揚感すら味わうことができます。また、その反復されるフレーズの上に乗るアダム・ジョーンズ(Gt)のギターソロから伝わるエモーショナルさは、実は本作を語るうえでもっとも“人間的”な要素なのかもしれません。

TOOL – 7empest (Audio)

 3枚目はBaroness通算5作目のアルバムにして日本デビュー作となる『Gold & Grey』です。本作はすでに今年6月に海外で発売済みですが、このたび10月2日に待望の日本盤が発売。毎回“色”をテーマにしたタイトルを冠したアルバムを制作し、その独創的な音楽スタイルとビジュアルイメージが評価され、前作『Purple』(2016年)収録曲の「Shock Me」は2017年のグラミー賞ベストメタルパフォーマンスにノミネートされるなど、本国アメリカでは高い支持を獲得しているものの、ここ日本ではまさに“これから”という言葉がふさわしい存在です。

 新メンバーに紅一点のジーナ・グリーソン(Gt)を迎えて制作された今作は、Mercury Revの元メンバーでもあり、MogwaiやThe Flaming Lips、あるいは日本のNUMBER GIRLやZAZEN BOYS、MASS OF THE FERMENTING DREGS、ART-SCHOOLなどを手がけてきた音楽プロデューサー、デイヴ・フリッドマンがプロデュースを担当。ヘヴィさが際立った前作『Purple』から一転、オルタナティヴロック色が増した異色ハードロック作品に仕上がっています。曲によってはストーナーロックやサイケデリックロックからの影響も見え隠れしますが、そのへんはデイヴ・フリッドマンからの影響も多少あるのかなと。ただ、生々しくてトゲトゲしていて、色彩豊かなサウンドメイキングはいかにもこのバンドならではのもので、前作までの方向性をより研ぎ澄ました到達点がここなのかなという印象も受けます。聴きやすさという点においては過去イチですので、HR/HMやヘヴィロックなどに偏見を持っているリスナーにこそ聴いてもらいたい、個人的2019年ベストアルバム候補の1枚です。

BARONESS – Tourniquet [Official Music Video]

 アメリカ産の力作3枚を紹介したあとは、今回唯一のヨーロッパ圏から。来年で結成30周年を迎えるスウェーデンの至宝、Opethが9月末にリリースした通算13作目のオリジナルアルバム『In Cauda Venenum』です。ここ数作では初期のデスメタル的要素を排除し、70年代のプログレッシヴロックを彷彿とさせるメランコリックかつドラマチックな作品を発表してきた彼ら。今年12月には新作を携えた、単独来日としては久しぶりのジャパンツアーも控えています。

 前作『Sorceress』(2016年)から3年ぶりとなる今回のニューアルバムは、基本的なスタイルこそ前作の延長線上にあるものの、ヘヴィさがここ数作の中ではもっとも高まっている印象を受けます。そこには、まもなく結成30周年を迎える彼らが自身のキャリアを総括する意味も込められており、なおかつ自身の原点も見つめ返した、原点回帰にして次の10年への橋渡し的な意味も込められた重要な役割も用意されているのです。それは、英語で歌われたアルバム本編とあわせて、母国語であるスウェーデン語で歌われた別バージョンが初めて用意されたことに象徴的です。英詞で歌われたオリジナルバージョンの素晴らしさは言うまでもありませんが、一方で耳慣れないスウェーデン語で表現された別バージョンもまた、このバンドが持つ神秘性を一気に高めることに成功。言語の違いから受ける印象の変化含め、ぜひ2枚あわせて楽しんでもらいたいところです。

OPETH – “Svekets Prins” (OFFICIAL VISUALIZER TRACK)

 5枚目はオーストラリア出身のサイケデリックロック/ヘヴィロックバンドのKing Gizzard & The Lizard Wizardが今年8月に発表した15thアルバム『Infest The Rats’ Nest』です。彼らは今年7月に開催された『FUJI ROCK FESTIVAL ’19』で初来日を果たし、2日目のWHITE STAGEで独創的なパフォーマンスを繰り広げたこともあり、その名前を記憶しているロックファンも少なくないのではないでしょうか。これまで日本盤こそリリースされてこなかった知る人ぞ知るマニアックな存在であり、特にエクストリームロックリスナーには多少縁の遠いバンドかもしれませんが、この最新アルバムはそういったハード&ヘヴィな音楽を愛好する人にこそ響いてほしい1枚なのです。

 これまでの彼らの作品には多少なりともHR/HMの要素は含まれていましたが、ここまでど直球でこういったジャンルの音楽をアルバムまるまる1枚使って表現したのはこれが初めてのこと。生々しいまでのハードロックサウンドは、ハードロックとパンクを融合させた初期Motörhead、あるいはそのMotörheadに続いて80年代初頭のNWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal)ムーブメントから登場したイギリスのHR/HMバンドや、それらの先人たちから影響を受けた初期のMetallicaにも通ずる要素が見え隠れします。また、突如飛び込んでくるファストチューンからはハードコアからの影響も伺え、少なくともこのアルバムに関しては“こちら側”の作品と断言できるでしょう。

King Gizzard & The Lizard Wizard – Self-Immolate (Official Video)

 最後にピックアップするのは、再びアメリカから。アリゾナ州出身の新世代メタルバンドGatecreeperによる2ndアルバム『Deserted』です。2013年に結成された彼らは、今回紹介する6組の中ではもっともキャリアが若いものの、そんな事実を微塵も感じさせない強烈な1枚を届けてくれました。

 2016年の1stアルバム『Sonoran Depravation』に続く本作は、前作同様Convergeのカート・バルー(Gt)がミックスを担当。サウンドの殺傷力はもちろんのこと、Obituaryをはじめとする80年代のオリジナルUS(主にフロリダ)勢、GraveやDismemberなどの90’sスウェディッシュ勢、そしてイギリスのBolt Throwerに代表されるデスメタル始祖的存在に敬意を払いつつ、それらのエッセンスを最大限に取り込み、さらにXibalbaなどデスメタルやスラッジメタルに接近したハードコアバンドのカラーも持ち合わせた楽曲が並ぶ、まさに現代の最前線を生きるエクストリームなアルバムです。デスメタルライクなボーカルパフォーマンスにこそ“らしさ”を覚えますが、さまざまな形の“ヘヴィさ”を体現したそのサウンドからは強烈なインパクトを受けるはず。エクストリームミュージックを起点に、複数のジャンルに足をかけながらブレイクスルーしていくであろうその姿勢は、近年のDeafheavenやPower Tripにも通ずるものがあるのではないでしょうか。そういった意味でも、今回紹介したほかの5作品と同じくらい「2019年のエクストリームシーン」における重要作品だと断言したいと思います。

GATECREEPER – From The Ashes (Official Music Video)

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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