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田中泰の「クラシック新発見」

チャイコフスキー国際コンクール優勝20年を迎える上原彩子の想いとは

隔週連載

第26回

上原彩子 (C)武藤章

2002年6月、モスクワから届いたビッグニュースが新聞各紙の1面を飾ったことを、今も鮮明に思い出す。第12回チャイコフスキー国際コンクール・ピアノ部門に於いて上原彩子が優勝を果たしたのだ。

女性初&日本人初という快挙は彼女を時代の寵児へと押し上げ、これを期に上原彩子は一躍スターピアニストの仲間入りを果たしたのだからコンクールの威力はもの凄い。あれから20年の歳月が過ぎ、コンクール優勝&デビュー20周年記念公演を控えた上原彩子は何を思うのだろう。

「優勝した瞬間は、“これでやっと卒業できる”という思いでした。ここで優勝できなかったらまた次があったと思います」

まさに優勝するとしないのとでは天と地の開きがあるのがコンクールだ。

「あの優勝がなければ今ここには居なかったでしょう。コンクールの存在はとても大きかったと思います。最近はコンクールを経験しないで世の中に出てくる人もいますが、多くの場合このようなきっかけがなければ名前も知ってもらえないのがクラシック界の現状です。私は運が良かったと思います」と語る上原彩子。2000年の浜松国際ピアノコンクールを始め、2位が続いた過去のコンクール歴があるだけに、言葉の重みは半端ではない。この20年間で変わったことは“人の気持を考えられるようになったこと”だと言う。

「オーケストラと共演する時にも、以前は自分がやりたいことをやるのが良いと思っていたし、自分が引っ張っていかなければと思っていたのです。しかしそうではない。人の気持ちも受け入れて、そこに自分も反応して一緒に音楽を作っていくことによって良い音楽が生まれると思うようになったのです。これは変化であり進化でもありますね」

上原彩子 デビュー20周年2大協奏曲を弾く!

今回の20周年記念公演は、チャイコフスキーの1番とラフマニノフの2番のピアノ協奏曲を一気に弾くという重量級のプログラムだ。

「この2曲を弾くと決めてから、2曲の違いはなんだろうということをずっと考えていました。チャイコフスキー作品は、オペラや舞台の要素がすごく強く、ピアノがオーケストラの前にいるプリマドンナのようなイメージで曲を引っ張っていくように感じます。それに対してラフマニノフ作品はすべてにおいて器楽的です。それはラフマニノフが優れたピアニストだったからでしょうね。メロディの歌い方もピアノ的だし、フレーズ感もピアノとしての考え方が基本にあるように感じられます。チャイコフスキーはピアノが引っ張っていく曲で、ラフマニノフは下から支えることもあれば表に出ることもあるというオーケストラと一体化したイメージの作品という捉え方ですね」

作品に応じた意識の使い分けがとても興味深い。今回共演する指揮者、原田慶太楼との相性はどうだろう。

「原田さんは、すごくポジティブなエネルギーを持った方なので、助けられることが多いです。とにかく明るい方で、彼と弾いていると今日は大丈夫かもと思えるのが素敵です」

指揮者との相性も抜群で、オーケストラは日本フィルハーモニー交響楽団。そして会場はサントリーホールという最高の条件が整えられた20周年記念コンサートが楽しみだ。メモリアルな20周年の先はどのように考えているのだろう。

「気が付いたらこの歳になっていたという感じです。これまで自分のやりたい曲ばかりを弾いてきましたが、それでもまだ弾きたいのに弾いてない曲がたくさんあります。例えばリストのソナタやスクリャービン作品。ベートーヴェンのソナタもいくつか弾いてみたいですね。20年やってきたといっても、そのうちの半分くらいは子育てに追われていたわけです。それはそれでとても幸せでした。だからこそ、もう少し成長できるに違いないと思っているのです。まずは目の前の10年を目標に自分の可能性を試してみたいと思います」

著書『指先から、世界とつながる~ピアノと私。これまでの歩み』

20周年を記念した著書『指先から、世界とつながる~ピアノと私。これまでの歩み(上原綾子著:ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス刊)』も上梓された。本の帯に刻まれた「ピアノがあれば、どこにでも行ける。何にでもなれる」という言葉が今の上原彩子を象徴しているようだ。

●デビュー20周年2大協奏曲を弾く!
2月27日(日)14:00開演:サントリーホール
グリンカ:歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調Op.23
原田慶太楼指揮、日本フィルハーモニー交響楽団
https://www.japanarts.co.jp/concert/p931/

2002年のチャイコフスキー国際コンクール優勝記念アルバム

プロフィール

上原彩子(ピアノ)

第12回チャイコフスキー国際コンクール ピアノ部門において、女性としてまた、日本人として史上初めての第一位を獲得。第18回新日鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞受賞。これまでに国内外での演奏活動を行ない、ヤノフスキ、ノセダ、ルイジ、ラザレフ、ブラビンス、ペトレンコ、小澤征爾、小林研一郎、飯森範親、各氏等の指揮のもと、国内外のオーケストラのソリストとしての共演も多い。2004年12月にはデュトワ指揮NHK交響楽団と共演し、2004年度ベスト・ソリストに選ばれた。CDはEMIクラシックスから3枚がワールドワイドで発売された他、キングレコードに移籍し、「上原彩子のくるみ割り人形」「ラフマニノフ13の前奏曲」「上原彩子のモーツァルト&チャイコフスキー」がリリースされている。東京藝術大学音楽学部早期教育リサーチセンター准教授。
オフィシャル・ホームページ:https://www.japanarts.co.jp/artist/AyakoUEHARA

田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。

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