みうらじゅんの映画チラシ放談
『ガンズ・アキンボ』 『トムとジェリー』
月2回連載
第56回
『ガンズ・アキンボ』
── 今回の1本目は、ダニエル・ラドクリフ主演の『ガンズ・アキンボ』ですね。
みうら ハリー・ポッターから随分、大人になられましたよね。このチラシからは、どうにかハリポタのイメージを払拭したいという気持ちがひしひしと伝わってきますよね。
きっと、えなりかずきさんが「渡鬼の子役の人でしょ」って言われるのがイヤなように、ダニエルさんも髭を生やしたりしてワイルド系を目指されているのでしょう。
だから、もっとみんな応援してやれよって思ってしまうんですよ。もうちょっと新作を話題にしてあげてもいいんじゃないかなって。
── 物好きの映画ファンには、ヘンな映画に出てくれる人って認知されてる感じありますけどね。『ハリー・ポッター』シリーズのファンたちは今の彼をどう見てるんでしょうね?
みうら もう、魔法は使えませんしね(笑)。
── 『スイス・アーミー・マン』ではオナラの力で海を越える死体の役をやってましたね。
みうら それじゃ、ハリー・プッターじゃないですか(笑)。やっぱりヒット作からのイメチェンって大変だと思うんですよ。
でもこのチラシを見る限り、これって普通ならニコラス・ケイジがやる役ですよね(笑)。ニコケイの道を今後目指されるのかな?
── ニコラス・ケイジが1回断ったからダニエル・ラドクリフに回ってきた可能性もありますよね。
みうら 断りそうにないですけどね、ニコケイ(笑)。あと、この映画の監督も、当初はまだ「あのハリー・ポッターのときのメガネはかけてもらえませんか?」ってお願いしていたかも。このチラシの顔を見る限り、「あの丸いメガネがあった方が、ラドクリフさんのイメージが伝わるんで」とか言われて拒絶したときの目だと思うんですよね。かなりカーッと見開いておられますもん。
ただ“目覚めたら両手に拳銃”ってコピーに対し、「これって無理ゲーじゃない?」って言ってますね。だからニコケイみたいに、自ら狂っていくってストーリーではないんでしょうね。「こんなゲームオタな僕がだんだんとワイルドになっていく」、そんな映画でしょうね。
当然これは、ダニエルさんの側のマネジャーと映画側との折衷案で撮られていると思うので、だからこそ、ダニエルさんがどこまでおやりになっているのかは見たいですね。ショーン・コネリーもね、当たり役だった『007』のイメージがなかなか払拭できない時代に『未来惑星ザルドス』なんて映画にも出られてましたからね。
ちなみに『…ザルドス』を経て、その後『風とライオン』、『薔薇の名前』まで頑張って、ようやく演技派として認められたわけで、どうしても時間かかりますよね。
── 『未来惑星ザルドス』のあの破廉恥な衣装は、衣装合わせのときにショーン・コネリーも疑問に思ったりしなかったんですかね?
みうら イメチェンも過ぎると、とんでもない目に遭わせられるってことでしょうね(笑)。
ダニエルさんの今後をね、僕たちは親のように見届けるのが正しいんじゃないでしょうか。固定したイメージを壊したいというのは役者魂だと思いますし、ちっちゃい頃から知ってるから、温かい目で見守りたい。世界中がちっちゃい頃から知ってるなんて、考えただけでも恐ろしいことですから。
何かにつけて「そんなの魔法使えばいいんじゃない?」とか、必ず言われてきたわけですよね。でも「使えねえんだよ!」って言うのを堪えてきたと思うんです。このチラシのこの顔も、「だから、魔法は使えねえんだよ!」って叫んでるように見えますね。
『トムとジェリー』
── 続いては『トムとジェリー』です。
みうら 『トムとジェリー』はちっちゃい頃、テレビで観てましたけど、いつもケンカしては仲直りしてるストーリー。ネズミのジェリーがイタズラして、ネコのトムが必死で追いかけどえらい目に遭うだけですよね。それで果たして2時間の映画がもつのかなと思い、このチラシを選んでみました。むしろそのワンパターンをどうもたせるのか、それが観たいですしね。
「いつもケンカしてるんだけど実は仲良いんだろ?」ってもう分かってますからね。「なっかよっく、けんかしな♪」ってテーマソングにもありましたから。もうオチまで知ってるわけです。そこまで分かっているにも関わらず映画にするってことは、何か僕らの知らないトムとジェリーの秘密があるんじゃないかと思ってしまう。
“ついにふたりが映画に”って書いてあるんですけど、もういくつくらいになるんですか? トムとジェリーは?
── チラシには80周年記念って書いてますね。
みうら 80年! かなりの高齢者じゃないですか! ひょっとしてテレビで見てたあの2匹の孫とかいう設定じゃないですよね? 飼い主がずーっと、歴代のペットにトムとジェリーって名前をつけてきたとか? そうじゃなければアクションはかなり厳しいでしょ。
── そろそろトムも化け猫になれそうですね。
みうら それには御家騒動がなくっちゃね(笑)。
彼らは80年間ずーっとケンカして仲直りし続けてたってことですよね。でもね、どう考えてもジェリーの方が悪いんですよ、いつも。ジェリーのイタズラは本当にひどいですからね。
── トムは命がけでしたよね。すごい重いものが落ちてきたり。
みうら ドリフの金だらいどころじゃないですからね、むしろジェリーに命を狙われてるって言っても過言じゃないでしょ。コンプライアンスとか言ってる世の中ですから、80歳の老体に対してそういうことはどうなのかっていう問題はありますよね。昔はまだ子供だと思ってましたけど、80歳となったら上から物を落としたりはちょっと過酷ですよ。晩年の正司敏江・玲児さんみたいな。「まだドツキ漫才やってんだ!」っていう凄さはありますけどね。
もしかしたら、こないだの映画『キャッツ』みたいに人間がジェリー役をやってたりはしませんか? あのノリなら、それはそれで楽しみなんですけど。
── チラシを見る限り、我々がよく知っているジェリーの姿で登場するみたいですけど。
みうら 実写だと、また違った面白さがあるんですけどね。トムとジェリーの大きさの比較がかなり難しいでしょうが。
チラシではトムたちは昔のデザインですけど、本編では実写でやってくれてるかもしれませんし。ひょっとすると、この女の子、クロエ・グレース・モレッツがトムに変身したり、メタモルフォーゼの映画ではないかと。
逆に人間が最後アニメになって、トムとジェリーが実写になるっていう逆転劇も面白そうですね。これも期待してます。
取材・文:村山章
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プロフィール
みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。