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結婚、恋愛・既婚者可オーディション、韓国デビュー…アイドル新動向が示す日本社会の前向きな兆し

リアルサウンド

19/3/11(月) 7:00

 2019年3月4日、女優の前田敦子が第1子を出産したことが発表された。「恋愛禁止」を謳うAKB48の大エースだった彼女が母親になる、というニュースには大きな感慨を覚えた。

(関連:アイドルは年齢とキャリアをどう重ねていく? AKB48、Perfume、Negiccoが示す新モデル

 「恋愛禁止」。古くから女性アイドルの恋愛スキャンダルはご法度ではあったが、AKB48が明示的にこのルールを掲げながら大ブレイクを果たし(グループとして「恋愛禁止」に関してどこまで「本気」だったのかというのは見解が分かれるところではあるが)、後のアイドルブームをリードしたことで、この考え方は2010年代のアイドルシーンにおける通奏低音となった。

 AKB48がその大ブレイクを通じて世の中に広めたのは「恋愛禁止」だけではない。たとえば、握手会に代表される「接触」。ファンからの投票数を競い合う「総選挙」。刺激の強いこれらの手法は、現代のアイドルカルチャー(もしくは2010年代のエンターテインメント全般)に非常に大きな影響を与えた。

 「恋愛禁止」「接触」「総選挙」。これらの概念は、アイドルとファンの関係に何をもたらしたのだろうか? 従来にはなし得なかった強固な結びつきを生んだという側面もあるだろう。一方で、その強固な結びつきは、虚構(アイドルとファンの関係)と現実(実際の友人・恋人としての関係)の境目を意図的に曖昧にすることで生じる危険性とも表裏一体である。

 ファンは、そのような結びつきを通じて、作品やステージ上の姿だけでなく、アイドルの人格そのものを応援するようになる。「応援」という行為には、「相手が自分の思うような存在であってほしい」という欲望の発露という側面もある。そして、アイドルたちは、その愛情に応えるために自身の欲求を制限することで人格をいわば「矯正」する。こういった構造は、時として「仕事だから当たり前」というレベルを越えてアイドル当人たちの精神を抑圧していた部分もあったのではないかと思う。

 そんな功罪双方のあるアイドルビジネスの形が完全に定着してきたタイミングで、これまでの慣習を打ち破るかのようなニュースが立て続けに発表された。

<2019年2月>
・NegiccoのNao☆が空想委員会の岡田典之と結婚することを発表。今後もアイドル活動は継続
・prediaが「大人アイドルによる元アイドルのためのpredia加入オーディション」の開催を発表。「元アイドルの方たちへのセカンドキャリア支援」を掲げつつ、条件には「恋愛自由(節操重要)/既婚者可 」といった記載も
・2018年3月に乃木坂46を卒業した川村真洋が、MAHIRO名義でK-POPグループ・Z-GIRLSのメンバーとして韓国でデビューすることを発表

<2019年3月>
・AKB48の高橋朱里が、グループを卒業および韓国のアイドル事務所であるWoollim Entertainmentから再デビューすることを発表
・昨年AKB48を卒業した竹内美宥が、ソロアーティストも多数所属する韓国の事務所・MYSTIC Entertainmentに所属することを発表

 ここに並べた5つのニュースはそれぞれ個別の事情の中で起こった出来事であり、言うまでもなくそれぞれの間に明確な関連性はない。また、アクションの主体もグループ、個人、さらに現メンバー、元メンバーなど、バラバラである。

 しかし、2010年代のアイドルシーンで活動してきた面々が、これまで彼女たちを暗黙のうちに支配してきたルールから飛び出す動きを同時多発的に見せたことに、何らかの「時代の節目」を感じずにはいられない。

「私たちもまだ結婚していませんが、違うアイドルさんのグループにいたらたぶん、結婚したいっていう時点で、辞めなきゃいけなくなるかもしれません。アイドルならそんなのダメでしょう、許されないでしょう、という意見も、もちろんあるとは思います。でも、そういう道があるということも、ここまで15年頑張ってきたNegiccoが証明していけたらいいなと思います」(参照:https://telling.asahi.com/article/11930562)

 昨年11月の時点でこんなふうに語っていたNao☆は、まさにその道を身をもって体現する存在となった。また、既婚者もオーディションの対象としたprediaのトライは、「個人のライフステージを進めること」と「アイドルとしてパフォーマンスすること」を両立させようとする面白い取り組みに見える。

 元々歌唱力に定評のあった川村、『PRODUCE 48』でのパフォーマンスが関係者の目に留まった高橋と竹内は、ともにステージ上の振る舞いで新たなキャリアを勝ち取った。アイドルシーンの中心で活動しながらも、ステージアクトとして海外からも評価を受けられるチャンスがあることを証明したこの3つのケースは、現役のアイドル、およびこれからアイドルを目指す層にとっての大きな指針になるのではないだろうか。

 少し議論の風呂敷を広げると、それぞれのアイドルのこういった動きは、2020年代以降の社会にとっての前向きな兆しと捉えられるべきものなのではないかと思う。

 2010年代のアイドルシーンは日本中にアイドルグループが乱立する形で活況を呈したが、一方で若い女性のメンタルに過剰な負荷が加わる状況を娯楽に昇華する手法には常に賛否両論が渦巻いていた。また、「接触」を中心に据えた大量のCDを売るシステムが浸透したことで、日本の音楽ビジネスはストリーミングサービスが世界中で起こしたパラダイムシフトに乗り遅れることとなった。

 女性をコンテンツとして消費するような態度、および海の向こうから隔絶された内向きな姿勢。こういったテーマは、2010年代後半において日本の社会全体で急速に問題視されていったものである。そう考えると、2010年代のアイドルシーンは、日本の社会のあり様を悪い意味で先取りしていたと言える。

 そんなアイドルシーンにおいて、アイドルを「自立したひとりの人間」として捉え直す動きが顕在化し、さらにはドメスティックな市場から海外につながる道が開かれた。こういった動きは、女性が若さ一辺倒ではない価値観の中で年を重ねられる、そして誰もが大きな視野を持って暮らすことができる、次の時代の社会のあり方をリードするものとして機能する可能性を秘めている。

 もちろん本稿で取り上げた動きは現状ではあくまでも「特殊例」であり、結婚や卒業といった展開に辛い思いをしているファンがいることも想像に難くない。また、いまだ混乱のさなかにあるNGT48に関する一連の出来事を筆頭に、アイドルカルチャー全体に明るい光が見えているなどと言うのは無邪気すぎることも理解しているつもりである。それでも、自分たちの信じる道を進むアイドルの生き様が、我々を次の時代に導いていってくれることを信じたいと思う。(レジー)

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