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みうらじゅんの映画チラシ放談

『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』 『脳天パラダイス』

月2回連載

第48回

── 今回最初に選んでいただいたのは、『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』です。

みうら コロナ禍になってからヒゲを伸ばしてるんですけど、それからやたらヒゲの映画のチラシが気になるようになったんですね。もうヒゲを見たさに映画館に行ってるって具合です(笑)。で、今回はこのザ・バンドのドキュメンタリーを選んだんです。

── 一応補足しておきますと、ザ・バンドは1960年代から70年代にかけて活動したロックバンドで、チラシの言葉を借りれば、“ボブ・ディランをはじめ、音楽史に偉大な足跡を残したミュージシャンたちから尊敬される”存在、ですね。

みうら ディランを知ると、ザ・バンドは当然、押えておかなきゃならない存在ですからね。高校生だった頃、彼らの若年寄りぶりに驚いたもんです(笑)。でも、本当はまだ20代ですよね? そこにも憧れがありましてね。確かカナダのバンドですよね?

── ドラムのリヴォン・ヘルム(※チラシオモテ面左から2番目)がアメリカ人で、あとはカナダ人ですね。

みうら ボブ・ディランがバイク事故を起こしてウッドストックで隠遁生活してるときに、数々のセッションを行ってます。ビッグ・ピンクって呼ばれるスタジオでね。

この時期、ディランもヒゲを生やしてます。やっぱり田舎に行くとヒゲがボウボウ伸びてくる現象があるんですかねぇ。

── このチラシの写真は、まだ小綺麗にしてる方ですよね。

みうら そうですね。しかしガース・ハドソン(※チラシオモテ面右から2番目)のヒゲの伸びっぷりたらないじゃないですか。

僕、ザ・バンドは最初、ディランとやったライブ『偉大なる復活』で知ったんですが、若年寄りっぷりハンパなくてね。そもそも60年代、70年代くらいって、やはり若く見えた方が良かった時代じゃないですか?

── 確かに若者たちが時代を動かしていた頃ですよね。

みうら そんな時代にあって、田舎に隠遁していたボブ・ディランとザ・バンドだけは、時代を逆行するかのように若年寄ブームを起こしました。当時の写真を見てもね、ザ・バンドのメンバーが全員、森の中で杖ついているなんてのもありました。

中国で言うところの仙人感なんですかね。僕も若かったから本当に衝撃で、いつかヒゲには一度手を染めないといけないなと思ってました。でも、それってやっぱ勇気がいるもんでね。ようやく歳を取って実現できたんですが、いやぁ若いくせに彼らはもはや韓国映画の『世宗大王 星を追う者』状態ですもんね(笑)。

── 10代の頃から憧れていたヒゲの大先輩たちなんですね。

みうら そうです。ただ、バンドの中でもいろんな伸ばし方があり、ロビー・ロバートソン(※チラシオモテ面右端)みたいに口ヒゲだけのオシャレヒゲの場合もあるんです。やはり、ガース・ハドソンは、カール・マルクスかモーゼの影響を受けていたんですかね? そんな話はこのドキュメンタリーには出てきませんでしたが(笑)。

── もう映画はご覧になってるんですね?

みうら はい。当然、観なくちゃって思ってね。もちろん音楽性とかについては言及してるんだけど、彼らが唯一無二のバンドだったと言われる理由のひとつに、ヒゲの要素もあったと僕は思いますね。

ガース・ハドソンはクラシックの素養もあって、最初は他のメンバーの音楽教師という面目で参加したそうですけど、やはりこれは長いヒゲを伸ばしていいみたいなルールがバンド内にあったのかもしれませんしね。

── 権威とヒゲは結びついていると?

みうら おそらく。でもヒゲ界のことは最近知ったばかりなんで、ヒエラルキーのこととかは全然分からない。でもこの人だけはなにか違いますよね。ロックをやってモテようという気持ちがまったく感じられないというかね(笑)。

ロックを目指す人の初期衝動の1位は“モテたい”じゃないですか。その点、ロビー・ロバートソンからは“モテたい”気持ちをビシビシ感じますけどね。

── 確かにロバートソンにはお洒落で気取っている印象はあります。ライブでもシャツの襟元を大きく開けてたりしますし。

みうら ちょいワル入ってません?(笑)。 でも、ロビー・ロバートソンは唯一、この合宿暮らしの中で奥さん連れて来てたんですね。ロビー・ロバートソンだけは家庭があって、ドキュメンタリーではその奥さんも熱く当時を語っておられました。

── ロバートソンは離婚していたと思うんですが、元妻もドキュメンタリーには協力的なんですね。

みうら ボブ・ディランのドキュメンタリー『ノー・ディレクション・ホーム』でも、当時、つきあっていた方々が出演していて、愉快そうに話すんですよね。いやぁ、その感じが自分にはまだ、ないんです(笑)。

── 別れた相手とは、その後もしこりが残りますか?

みうら ですね(笑)。でも、向こうの方たちは、わりと熱く、愉快に語っていらっしゃるもんです。それが本当の愛なのかなとか、思ったりもしますね。

── ヒゲの話から、愛の話にたどり着きましたね!

みうら やっぱり別れたから二度と会わないとか、映画にもコメントしないとかって、結局つきあっていた当時は愛欲のみだったんじゃないかって思ったりするんですよ。随分時が経ったからできることなのかもしれないですけど、全然へっちゃらな雰囲気で登場されている姿を見ると、愛について、自分との隔たりみたいなものを、つい感じてしまい反省します(笑)。

まだまだ自分には分からない関係性がいっぱいあるんでしょうね。特にロックスピリットの人たちには。そういうことを、こういうドキュメンタリーを観る度に思うんです。

── なるほど。

みうら あとドキュメンタリーの副題として、“かつて僕らは兄弟だった”って打ってありますけど、ロバートソンが書いた曲の歌詞では、“かつて僕らは兄弟だったけど、今はそうじゃない”って続くらしいんですね。そのへんが、映画としても切ない感じに描かれていました。

まあ、女の人ひとりと仲良くやっていくのも大変なのに、ましてや男5人でやっていくのは大変ですよ。おそ松くんは6人ですけど本当の兄弟だし(笑)。

── 続いては、『脳天パラダイス』です。

みうら このチラシはもう選ぶしかないんですよ。親友のいとうせいこうさんがどうやら主人公みたいですし(笑)。

昨年、いとうさんと上野の美術館でトークショーしたときに、「これ終わりでタクシーを飛ばして奥多摩の方に行く」って言ってたんです。きっとこの映画のことだったと思いますね。 忙しい中を縫って撮影に挑むってスゴイことですよ。来年、還暦を迎えるいとうさん。どんな話かはまったく知らないんです。いとうさんも言わないしね。

ただ、いとうさんって、かつて『帝都物語』とか『無能の人』とか、結構映画に出てるんです。いとうさんはいろんなことやってるから、みんなもう追えなくなってると思うんですけど、演技も上手いんですよ。

もしかすると、いずれこの映画でリリー(・フランキー)さんみたいに海外でも評価を受けるって思うんですよね。先に褒めとかないといけないって思って(笑)。もう親友として、チラシ見ただけで分かったよって、いとうさんに言うために選びました。

── でも、このチラシを見ても内容が全然想像つきませんね。

みうら まったくですね。チラシを見る限り、このタイトルの下に敷いてあるものが気になります。コレって、インド系の絞り染めTシャツの柄でしょ?

── 確かにヒッピーが着てそうな柄ですね。

みうら 高円寺だと、仲屋むげん堂ですね(笑)。“観たらキマる”とも書いてますよね。

チラシの写真だと、みんな頭からなにかが出ている。なんでしょうね? 電波をキャッチするアンテナなのかな? どちらにしても今どきマズイ、テーマですよね(笑)。それを、あえてホームドラマとしてやる映画なんでしょうかね?

── 背景の方はお祭りっぽくて楽しそうですね。

みうら なんだか盆踊りみたいですね。そうか! このシーンを奥多摩で撮ったんですよ。平安時代から続く笑い茸を食って、踊る映画ですかね?

── それだとみうらさんが専門の“とん祭り”じゃないですか!

みうら 日本版『ミッドサマー』みたいな(笑)?

よく見ると綱渡りもしてますね。こういうのが全部誰かの脳内で見えてるんじゃないですかね? ほら、“トランス映画”とも書いてありますよ! これは堂々とした問題作ですね。監督はどなたなんですか?

── 『てなもんやコネクション』とかの山本政志監督です。

みうら 面白そうじゃないですか。しかし本当になにも分からない。そもそもチラシで想像しうることって少ないですもんね。もう限界です。

── チラシで分析不可能だから、もう観に行くしかないということですね。

みうら ですね。海外に出品されていとうさんは賞を獲っちゃう前に是非とも観ておきたいもんです。ね、いとうさん。これでPR、いいかしら?(笑)。

取材・文:村山章
(C)Robbie Documentary Productions Inc. 2019
(C)2020 Continental Circus Pictures

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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