Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

“30分ドラマ”、なぜ今の時代にフィット? 視聴者にとって「あっという間」の快感

リアルサウンド

20/3/26(木) 6:00

 1月期ドラマも最終回を迎え、『テセウスの船』『恋はつづくよどこまでも』(ともにTBS系)の2大ドラマが、視聴率・話題の両面でリードした一方、ひそかに充実していたのが深夜・配信系ドラマだ。

 愛に振り回された男と女のどうしようもない日々を切実なのになんだか笑えるタッチで綴った『死にたい夜にかぎって』(MBS・TBS)。20代の性と承認欲求をストレートかつキュートに描いた『来世ではちゃんとします』(テレビ東京)。問題山積みの日本の子育てを「RPG」という形式を借りて痛烈に皮肉った『伝説のお母さん』(NHK総合)。速水もこみちのドM社長ぶりに一度観たらやめられなくなる『この男は人生最大の過ちです』(朝日放送テレビ)。そして死んだはずの幼なじみが17歳のまま7年ぶりに戻ってくる『僕だけが17歳の世界で』(AbemaTV)と、いずれ劣らぬ秀作揃い。

 この傾向は今期に限ったことではなく、ここ数年、深夜帯・配信をフィールドとした30分ドラマが気を吐いている。『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』『だから私は推しました』など良作を生んだNHKの「よるドラ」を筆頭に、『スカム』が光ったMBS・TBSの「ドラマイズム」。『孤独のグルメ』シリーズから『きのう何食べた?』まで人気コンテンツを多数誇るテレビ東京の「ドラマ24」など、30分ドラマ枠は今やドラマ好きにとって注目枠。TBSの「日曜劇場」やテレビ朝日の「木9」のように枠そのものに固定ファンがつくまでに成長している。

 もちろんプライム帯ではない分、視聴率にそこまで縛られずにすむため、実験的な企画が通りやすく、自由にのびのびチャレンジできるという利点はあるだろう。だが、それは昔から変わらない深夜ドラマのセオリー。今、これらの枠がこれだけ人気を博しているのは、「30分」という尺に一因がある気がしてならない。なぜ30分ドラマは今の時代にフィットするのか。その理由を分析する。

(1)YouTubeの浸透
 今やテレビに取って代わる一大メディアに成長したYouTube。YouTubeの世界では、短尺こそがバズの第一条件。動画のジャンルにもよるが、10分を超える尺の動画はそれだけでクリックしてもらえないことも。

 面白くなければ、すぐさま次の動画にタップする時代。見切りの早い現代の視聴者層にとって、CM含めてざっくり60分のプライム帯のドラマはそれだけで心理的ハードルが高い。視聴中、ついスマホに手が伸びてドラマの内容が頭に入ってこなくなることも多々。30分は、YouTube慣れした現代人にとって、ギリギリ集中力を保っていられる時間なのかもしれない。

(2)高まるコスパ意識
 インターネットの普及により、人々の消費に対する意識は様変わりした。CDを買ったことがないという人も珍しくない現代。ネットで漫画を買うにも、無料試し読みは当たり前。その上でレビューや信頼できるインフルエンサーのコメントをチェックすることも欠かさない。かつて本屋やCDショップが元気だった頃のジャケ買い文化は薄れ、何をするにもコスパ重視。できるだけ損をしたくないのが時代の空気だ。

 こうしたコスパ意識は、お金だけではなく時間に対しても向けられるようになった。面白いか面白くないかわからないものに、貴重な可処分時間を費やすのはナンセンス。手軽に確実に楽しめるものがほしい層にとって、30分というサクッと感は実にお手頃。30分ドラマはコスパの面でも魅力的なのだ。

(3)多様化する視聴スタイル
 今やドラマを観るデバイスはテレビに限らない。スマホやタブレットで観ている人も多いだろう。その流れに拍車をかけたのが、ビデオ・オン・デマンドの普及。TVerやParavi、Huluといったサービスを利用して視聴している層にとっては、スマホやタブレットの方が何かと便利だ。

 こうした視聴デバイスの多様化が何を生むかと言えば、視聴スタイルの変化だ。これは個人的な実体験に基づく意見だが、仕事で忙しい層が毎週21時や22時に時間をあけるのは至難の業。むしろ最近では、電車に乗っている時間にドラマを観ることの方が多い。

 総務省統計局が行った平成28年社会生活基本調査の結果によると、平日の通勤時間は男性で1時間26分(片道43分)、女性で1時間7分(片道33.5分)。このスキマ時間に観るには、45分は長すぎる。また、最近では入浴中にドラマを観ることも増えた。さすがに湯船につかりながら45分のドラマを観たらのぼせ上がってしまう。いずれも30分がベターな尺と言えるだろう。

 ライフスタイルの多様化。デバイスの多様化。今や一括りに物事を測れない現代において、30分は様々な視聴スタイルに馴染みやすいフォーマットだと考えられる。

(4)後追いしやすい
 先ほど面白いか面白くないかわからないものに貴重な可処分時間を費やすのはナンセンスと書いたが、逆に言うと体験性を重視する現代人は自分が面白いと感じるもの好きなものにならどんどんお金や時間を投じる傾向にある。

 SNSが広まったことで、面白いものは拡散されやすくなった。また、リーチできる情報量が膨大に増えた分、どのドラマが面白くて話題になっているかも顕著に可視化されるように。その結果、話題になるドラマ/一切口の端にも上らないドラマの二極化が加速。話題のドラマには回を重ねるごとに新規ファンが流入してくるようになった。

 時間的に一気見がしやすく、後発でもスムーズにリアルタイム勢に追いつけるのが30分ドラマの魅力。後追いしやすい30分ドラマは見逃し勢をファン化させやすいコンテンツなのだ。

(5)間延びしない
 そもそも45分尺のドラマを1クールやるという現在の日本のドラマの形式そのものが、すべての企画にマッチしているかと言えばそうとも限らない。最終回まで持たせるために7~8話で余計なエピソードが入ったりするなど、間延びして結果的にファンを逃したり熱を冷めさせてしまったドラマも容易に頭に浮かぶ。

 尺が短い分、本当に必要なエピソードだけで構成し、テンポをぎゅっと引き締めることができる30分ドラマはシャープになりやすく、無駄がない分、密度も強度も濃くなる。この「あっという間感」は視聴者にとっては快感だ。

 どの尺が最適かは企画次第。漫画に、長編や短編、4コマなど様々なジャンルがあるように、連続ドラマにも60分や30分、あるいは朝ドラのような15分などもっといろんなバリエーションがあってもいいのかもしれない。

 今はまだ30分ドラマは深夜・配信系が主体。けれど、上述の理由から考えると、今後はますます30分ドラマが世間に受け入れられる可能性は高い。いずれはプライム帯でも短尺のドラマが増えてくることも十分に考えられる。

 その先鞭をつけたのが、『俺の話は長い』(日本テレビ系)だろう。「30分2本立て」という斬新な試みで、新たなジャンルを切り開いた。プライム帯のドラマは今後この短尺文化とどう対峙していくのか。その動向を見守るのも、ドラマファンの楽しみのひとつだ。(横川良明)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む