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「素晴らしい曲が鳴っている時、誰もあなたに手を出すことはできない」映画『ビルド・ア・ガール』が描く音楽の魅力

ぴあ

『ビルド・ア・ガール』 (C)MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019

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公開中の映画『ビルド・ア・ガール』は1990年代初頭のイギリスを舞台に、ひとりの女性が音楽ジャーナリストになって自身の未来を切り開いていくドラマが描かれるが、原作と脚本を手がけたキャトリン・モランは「音楽やカルチャーは私たちに力を与えてくれる。頭の中で素晴らしい曲が鳴っている時、誰もあなたに手を出すことはできない」と語る。90年代のUKロックに詳しくなくても本作の熱が観客に伝わってくるのはなぜか? モランの発言を見てみよう。

本作の主人公は英国郊外で暮らす高校生ジョアンナ。『アニー』の音楽を愛し、図書館で妄想にふけったりしながら郊外の街で冴えない日々を送っている。しかし、家は貧しく、ミュージシャンで成功する夢を諦められない父も頼りにならない。そこで彼女は自身の表現欲求を満たし、成功も手にするべく大手音楽雑誌のライター募集に応募。都会に出て、華やかな音楽の世界に足を踏み入れる。

映画はかつて英国の音楽雑誌メロディ・メイカーでロック評論家として活動していたキャトリン・モランの半生に基づいた内容だ。彼女は「映画と同じように、私の父もミュージシャンだった。私は音楽ジャーナリストになったけど、これも映画の中で起こったことと同じ」と振り返る。

劇中でジョアンナは音楽ジャーナリスト稼業の第一歩を踏み出すべく、人生で初めてライブハウスに足を踏み入れる。時代はオアシスやブラーがしのぎを削ったブリット・ポップ前夜。ジョアンナはそこでマニック・ストリート・プリーチャーズのライブを目撃するが、原作者のモランが生まれて初めて見たライブはなんと!スマッシング・パンプキンズのイギリスでの初公演だったそうだ。映画の舞台は1993年なのでアルバム『サイアミーズ・ドリーム』が出たかどうかの頃。世界中をニルヴァーナが席巻する中、スマパンが人気を拡大していった時期のステージだ。「私は音楽ジャーナリストして、お金をもらって生まれて初めてのライブに行ったのよ。今思えば、恐ろしいほど不適格だったわ。何が起こっているのかもわからないのに、自分の意見を書いてお金をもらうなんて」

モランも、彼女がモデルになったジョアンナもロックが好きな女性ではない。彼女は自身や家族の生活や人生を立て直すために、音楽ジャーナリストになる道を選び、結果として“ある方法”で大成功を収めることになる。しかし、なぜ彼女は家の窮地を救うために工場や金融会社に行かず、ロック雑誌の扉を叩いたのだろうか?

「貧乏人にとって、カルチャーだけが逆境を乗り切る上で唯一頼りになるの。私は、お金持ちになってデザイナーズウェアや高級ブーツ、素敵なハンドバッグを買い、ヘアスタイルを整えれば、ようやく自信を持てるようになって、会議に乗り込んで女性のボスになれると信じて育った。実際にそれだけのお金を稼ぐようになって、高い服を買えるようになって着てみたけど全然自信がつかなかった。自信が持てたのは、会議に向かう途中でヘッドフォンをつけて、ジーザス・アンド・メリー・チェインの『Upside Down』を大音量で聴いた時だったわ。音楽やカルチャーは私たちに力を与えてくれる。頭の中で素晴らしい曲が鳴っている時、誰もあなたに手を出すことはできない」

本作は、90年代初頭のUKロックシーンを再現したシーンも登場するし、劇中では映画オリジナルナンバーも登場する。しかし、それ以上に本作は時代を超えた“音楽と人の関係”を巧みに描き出している。

「私が頭の中で好きな曲を演奏しながら通りを歩く時、誰も近寄ってきたり、面倒なことをしたりしない。なぜなら、カルチャーがバリアを張って私を守ってくれるから。貧しい人に必要なのは熱くて尖った曲。それさえあれば、嫌な一日を乗り越えるエネルギーになるの。音楽は、自分を目的地に連れて行ってくれるロケット燃料のようなもの。悲しい時、疲れた時、心が傷ついた時、ぴったりの曲があなたを立ち直らせ、笑顔をもたらし、元気を与えてくれる。そうして、あなたは女王のように自信満々で部屋から出て行くのよ」

その音楽のジャンルが何であれ、モランの言葉に同意する音楽ファンは多いのではないだろうか?『ビルド・ア・ガール』は貧しくて、人生の行き先が見えなくて途方に暮れている主人公が、音楽の力を体感し、成功を手にしたことで自分を見失ったりしながら、最終的に自分が進む道を見つけ出していく。90年代のUKロックが好きな人、同時代を過ごした人は思わずニヤリとする場面があるかもしれない。でも、そんなことをまったく知らなくても音楽が好きな人、音楽があることで少しだけ毎日が楽になった経験がある人も楽しめる内容になっている。

『ビルド・ア・ガール』
公開中
(C)MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019

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