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波瑠はいかにして主体性を取り戻すのか? 『サバイバル・ウェディング』のメッセージを紐解く

リアルサウンド

18/8/4(土) 6:00

 半年以内に結婚しないとクビという条件の下、カリスマ雑誌編集長の宇佐美(伊勢谷友介)の指導に従いながら、結婚に向けて奮闘するヒロイン・黒木さやか(波瑠)の姿を描く『サバイバル・ウェディング』(日本テレビ系)。

参考:吉沢亮、オールマイティな活動の奥に滲む“貪欲な意志” 連ドラ、映画、CMと大活躍の状況を読む

 宇佐美が指南するテクニックの多くは、有名ファッションブランドが採用してきたマーケティング理論。一見すると、生身の人間を市場における“商品”として扱っているかのように見える。しかし、宇佐美がしきりに言う“自分の価値を高めること”とは、単に男にちやほやされる女になるべく試行錯誤していればよいということではない。

 確かに、前回の第3話では、アクセシブル・ラグジュアリー(手の届く高級品)を目指すべく、いわゆる“愛されファッション”を身につけるようにさやかは言い渡される。男ウケを狙った戦略である。しかし、終盤で、元カレの和也(風間俊介)に再び誘惑的な言葉をかけられるさやかであったが、そこから上手く距離を置くことに成功する。そうすることができたのは、彼女が少なからずそのファッションから自信のようなものを手にしていたからのように見えた。第1話の終盤でも、揺れるさやかを弄ぶようにさやかの目の前に姿を現した和也。このときは、抵抗しきれずに和也のキスを受け入れてしまった。続く第2話では宇佐美の指示に反して和也に体を許した。いわば“安売り”を続けてしまったのだ。

 初めは男性=顧客のニーズに合わせて動いていたかのように思われる戦略であったが、それは結果として、さやかが女性としての主体性を持つことに繋がっていた。男に選ばれるというよりは、むしろ自分から男を選べるくらいに、一回り大きな存在になること。第3話で、2人きりになろうと誘い込んでくる和也に対して「行かない!」と強く主張できた彼女は明らかに今までにない力を手にしていた。もちろん、それなりのファッションを身にまとうことで、全ての人々が自信を手にするというわけではないだろう(手ごろな服を着こなすだけで自信を持って輝ける女性はたくさんいる)。ただ、今回のさやかの場合に関して言えば、お洒落なメイクをして、魅力的な服に包まれることは、彼女が“強さ”を手にするきっかけになっていた。

 和也としっかりと付き合っていた頃の彼女は、和也が婦人警官のコスプレを見たいと言えば、言われた通りにコスプレ姿になっていた。しかし、それは宇佐美の言葉を借りれば、“ニーズに応え”ていたのではなく、“言いなり”になっていただけに過ぎないのだ。宇佐美流に自分を市場に出すに際して、単なる“モノやサービス”としての商品に成り下がってはいけない。まず何より、自分が自分自身のことを好きになって、愛せるような、そんな存在であることが重要なのだ。第2話でネガティブな感情に駆られるさやかに対して、宇佐美がルイ・ヴィトンのエピソードを持ち出して「自分を愛せ。俺みたいにな」という台詞は、実はとても正鵠を射ていたメッセージなのであろう。ルイ・ヴィトンは過去に安売りセールに踏み切ったことはなかった。それは自社の製品を愛しているからできることなのだとか。

 第1話から宇佐美がさやかに望んでいることは、恋愛における“主体性と自信の回復”のように感じられる。「聞くだけじゃなくて実際に見ろ。見るだけじゃなく考えろ。考えるだけじゃなく行動しろ。そして、行動するだけじゃなくて成果を出せ」。男性の需要に一つひとつ応えて言いなりになるばかりではなく、逆に男性が自然とついてくるように、需要を創出するくらいになること。そうすることで、宇佐美がいなくても、今後さやかが自分らしくいられることを期待しているのだろう。(國重駿平)

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