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2大人気作品終了で変化の兆し? エミー賞受賞結果から考える、HBO、Netflix、Amazonの戦略

リアルサウンド

19/9/26(木) 12:00

 9月23日日本時間の朝9時から生中継された第71回エミー賞授賞式。NetflixやAmazon Prime Videoなどのネット配信ドラマが台頭し数々の良作を輩出しテレビ番組の黄金時代とも呼ばれる中、今年は約10年間業界を牽引し社会現象レベルで影響を与えたドラマ部門『ゲーム・オブ・スローンズ』、最も現実の政治に近いと評され約7年エミー賞常連のコメディ部門『Veep』が揃って最後の年を迎えた。映画界で『アベンジャーズ』が一つの時代を作り終わりを迎えた2019年、テレビ界でもまた大きく時代が動いた年となった。

 最多の32部門にノミネートした『ゲーム・オブ・スローンズ』は、作品賞、助演男優賞など歴代最多受賞タイ記録の12部門を制したが、一方で主要部門である助演女優部門と監督賞などで複数ノミネートしながらで受賞を逃す結果となった。コメディ部門の雄『Veep』も下馬評でコメディ女王ジュリア・ルイス=ドレイファスの主演女優賞と作品賞は確実と言われていたが、無冠で終わった。ベテラン勢が勝てると思われた部門で勝てず、新たな才能が台頭し時代が大きく変わったことを示した授賞式となった。今回はその中でもHBO、Netflix、Amazonのそれぞれの受賞結果に改めて注目していきたい。

■幅広い部門でノミネートし新たな才能を輩出するNetflix

 今年の授賞式で『ゲーム・オブ・スローンズ』が勝てるといわれた部門でのサプライズ受賞となったのはNetflix『オザークヘようこそ』のジェイソン・ベイトマン(ドラマ部門監督賞)とジュリア・ガーナー(ドラマ部門助演女優賞)だ。Netflixはプライムタイム主要部門こそ4部門受賞にとどまったが、前哨戦であるクリエイティブ・アーツでは今や最も人気のあるリアリティ番組である『クィア・アイ』を始めとしたバラエティ番組も健闘し全体で27部門受賞。HBOが最多34部門受賞に次ぐ規模となっている。

 数年前から多くのクリエーターと契約をし、これまでクリエーターたちが叶えたくても叶えられなかった作品製作の挑戦の場を映画やドラマに留まらず幅広く提供しているNetflix。映画部門受賞の『バンダースナッチ』は史上初のインタラクティブ映画として革新的な影響を与えたが、これはNetflix側がNetflix『ブラックミラー』のクリエーターであるチャーリー・ブルッカーに打診し実現した作品だ。

 また製作側だけでなく出演者も、ベテランだけでなく駆け出しの若手俳優を積極的に起用している。先ほどのジュリア・ガーナー、そしてリミテッドシリーズ部門主演男優賞史上最年少受賞のジャレル・ジェローム(Netflix『ボクらを見る目』)もそうだ。ジェロームはベニシオ・デル・トロ、サム・ロックウェル、マハーシャラ・アリなどアカデミー賞を受賞した錚々たる俳優を抑えての快挙を果たしている。

 今年に入って従来の大手スタジオのように、実績(Netflixの場合は視聴数)でシビアにドラマのシーズン継続可否をジャッジしているので、この環境がいつまで続くかはわからないが、少なくとも今回のエミー賞はその成果が出ている年である。

■『ゲーム・オブ・スローンズ』が終わっても傑作を生みだし続けるHBO

 日本でも9月28日からスターチャンネルで放送を開始する『チェルノブイリ』が『ゲーム・オブ・スローンズ』に次ぐ10部門を受賞しリミテッドシリーズ部門としては最多受賞している。『ゲーム・オブ・スローンズ』というメガコンテンツなき後もHBOはエミー賞受賞数で王座をキープするのか注目が集まっていたが、『チェルノブイリ』の高評価も加わり今年も最多受賞を果たしている。そして、『チェルノブイリ』だけではなく、その他にも現在シーズン2が本国アメリカで放送中の『サクセッション』もドラマ部門脚本賞を受賞。今年はこの1部門受賞に留まっているが、『ゲーム・オブ・スローンズ』後最も人気のあるHBOドラマとしてすでにシーズン3の製作も決定し、大人気ドラマに成長している。毎週各メディアで振り返りの記事やポッドキャストが更新されるほどの人気で、来年のエミー賞では多数ノミネートが期待される。

 そしてコメディ部門の『バリー』も2年連続多くの部門でノミネートを果たし、クリエーターであり主演のビル・ヘイダーは2年連続主演男優賞受賞。シーズン3の製作をすでに開始しており、HBOの新たな人気シリーズとしての地位を確固たるものにしている。『ゲーム・オブ・スローンズ』と『Veep』という主要作品を失っても質の高い作品を生み出すHBOの地位は揺るいでいない。

■政治風刺に別れを告げたコメディ部門とAmazonの躍進

 今年コメディ部門は大転換期を迎えた。冒頭に述べた通り、事前の予想とは裏腹に『Veep』が最終シーズンにして初めて無冠で終わり、代わりに躍進したのは007の次回作脚本チームにも抜擢されているクリエーター、フィービー・ウォーラー=ブリッジの『フリーバッグ』(Amazon Original)である。同作は今回、作品賞だけでなく、監督賞、脚本賞、主演女優賞を獲得し、コメディ部門で5部門獲得した史上5番目の作品となった。事前の予想でも多くのメディアが『Veep』が受賞すると思うが、受賞してほしいと願うのは『フリーバッグ』と挙げていた。それが今回見事実現し、ある意味世の中が求めていた結果となったとも言える。

 どちらも約30分のコメディドラマだが、『Veep』はこれまでずっと人気だった政治風刺を扱うドラマであり、一方で『フリーバッグ』は30代の女性が人生で感じる微妙な感情を具体化したとてもパーソナルな作品である。コメディ部門ノミネート作品を振り返ると、7作品中5作品(『フリーバッグ』『バリー』『ロシアン・ドール』『マーベラス・ミセス・メイゼル』『グッド・プレイス』)が、これまでコメディでは描かれてこなかった登場人物の人生と心情に迫る表現が多く、一方で誰か(もしくは何か)を露骨に煽ったり風刺したりする表現が少なく、哲学的かつ内省的で深いテーマを扱っている。これまで面白いとされた政治風刺はトーク番組や『サタデー・ナイト・ライブ』等のコントで語られることはあっても、コメディドラマとしての政治風刺を語る時代に終わりを告げたといえる。実際の政治に一番近いと言われた『Veep』はもはや、今現在起きているアメリカ国内の政治情勢がフィクションを超えてきており、表現として限界だったのかもしれない。

 そんな中新たなコメディドラマ分野の躍進に一役買ったのが『フリーバッグ』と『マーベラス・ミセス・メイゼル』を輩出したAmazonだ。Amazonはノミネート数こそNetflixとHBOより少ないが、小売業の原資があるのでより厳選した作品製作への投資にこだわり、今回主要7部門で受賞。主要部門だけでいえばHBOの次に受賞数が多い。エミー賞全体で観ても『マーベラス・ミセス・メイゼル』が『ゲーム・オブ・スローンズ』、『チェルノブイリ』に次ぐ8部門受賞を果たしている。Amazonのドラマは質が高く面白いと宣伝するには十分な結果だ。

 『ゲーム・オブ・スローンズ』と『Veep』の2大人気作品が終了し、Netflix、HBO、Amazonそれぞれの戦略も滲み出た結果となった2019年エミー賞。すでに来年のエミー賞を視野に、多くの作品が配信予定であるが、1年後はどのような受賞ラインナップになっているか全く想像できないほど価値観の移り変わりが早い現在において、製作陣だけでなく各ストリーミングサービスの戦略が今後の明暗を分けると言える。今後Disney+やApple TV+などあらたな大型サービスも生まれ、より大混戦が予想されるエミー賞、来年はいったいどうなるのか今から楽しみである。(文=キャサリン)

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