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三浦祐太朗の歌声が万国で支持される理由 山口百恵カバー「ありがとうあなた」中国でも反響

リアルサウンド

19/9/27(金) 7:00

 三浦祐太朗が、10月2日にアルバム『Blooming Hearts』をリリースする。同作には母親である山口百恵の名曲「ありがとうあなた」や「横須賀ストーリー」などのカバーの他、オリジナル曲も収録。昭和のスター=山口百恵のDNAを受け入れ、三浦祐太朗としてのアイデンティティを模索した結果辿り着いた、シンガーソングライターとしての矜持が花開いた作品だ。

(関連:三浦祐太朗、母・山口百恵への感謝の思いを語る「守るためにいろんな努力をしてくれていた」

■1980年代に中国で起きた山口百恵ブームが甦る

 『Blooming Hearts』には、「ありがとうあなた」を含む山口百恵のカバー4曲と、オリジナル曲4曲が収録された。「ありがとうあなた」は、山口百恵が演じたドラマ『赤い疑惑』(1975年)の主人公=幸子の心情を歌ったもので、同ドラマ最終回のサブタイトルが、そのまま曲名に付けられた。白血病を患い数奇な運命を辿った幸子が、恋人の愛と思い出を胸に旅立つことを受け入れるも、それでもまだ生きていたいと願う、儚く切ないミディアムバラード。ドラマを観たことがある者ならば、涙なくして観られなかったラストシーンと重なり、当時の感動が脳裏に甦る楽曲だ。三浦はあえて原曲に忠実に、楽曲の持つ感動を見事に体現しているように感じた。

 当時の山口の歌声の魅力は、まだ少女という年齢にもかかわらず漂わせていた、母性と包容力、どこか影を感じさせる妖艶さにあった。三浦の歌声は、男女の声質の違いがあるものの、山口のそうした魅力もしっかりと携えている。歌い方やニュアンスの付け方からも、原曲の研究と試行錯誤の跡が伺えるのだ。実際に山口も非常に研究熱心で、ドラマ撮影などで忙しかったにも関わらず、歌録りがないオケ録りのときからスタジオに足を運んでいたと聞く。歌い方や雰囲気だけでなく、歌に対する情熱も、しっかり受け継いでいるのだろう。

 三浦はこの「ありがとうあなた」を中国語でもカバーし、MVを上海で撮影。中国圏(中国、台湾、香港)で先行配信すると、中国最大のSNS「微博(Weibo)」内の「アジア新曲ランキング」で最高位8位にランクインした。視聴者からは「良い曲ですね」「感動して、涙が流れてきました」など歌声に対するコメントの他、「あなたのお父さんとお母さんは、私の青春です!」など、さまざまなコメントが寄せられた。また「微博(Weibo)」にアカウントを開設すると、2週間でフォロワー数が5万人に到達するなど、中国内でも注目が集まっている。

 三浦が生まれた1984年、前述のドラマ『赤い疑惑』は中国全土で放送され、それは社会現象となった。ドラマの日は街から人がいなくなると言われたほどだ。1980年代の中国では、映画や音楽などの日本文化が注目され、特に山口百恵と三浦友和が主演したドラマや映画は、当時の若者の憧れだった。それに伴い山口百恵の楽曲も一大ブームになり、数多くの楽曲が中国語でカバーされ、スーパーマーケットやスケートリンクなどいたるところで楽曲が流れていた。当時の中国の若者にとって、山口百恵の歌は、日本と同じように青春の象徴だった。そんな中国の山口百恵ファンも認める三浦祐太朗の歌声が、『Blooming Hearts』で花開いている。

■三浦祐太朗は、世代や国境を歌声で繋ぐ架け橋に

 三浦祐太朗のニューアルバム『Blooming Hearts』は、母=山口百恵の偉大さを受け入れた、山口百恵のカバーアルバム『I’m HOME』、その経験を自分なりに昇華させたオリジナルアルバム『FLOWERS』を経て生まれた、山口百恵のDNAと三浦祐太朗のアイデンティティが融合した作品だ。

 「しなやかに歌って ―80年代に向って―」、「横須賀ストーリー」「ロックンロール・ウィドウ」といった山口百恵のカバーは、『I’m HOME』と同様に原曲の印象的なフレーズや展開をそのまま、現代的にアレンジされている。非常に肩の力が抜けた雰囲気で、伸び伸びと思うがまま歌っているといった印象だ。母親から受け継いだものを自分の魅力として、はっきりと認識しながら、その上で自分らしさと向き合っていると感じる。

 また、三浦が作詞を手がけたオリジナル曲「MELODY」と「RAINY SLUMBER」は、どこか昭和の香りを感じさせて秀逸だ。そう感じさせるのは、メロディとアレンジの組み方以上に歌詞の付け方にポイントがある。『I’m HOME』の制作において三浦は、山口百恵の原曲をたくさん聴き、「言葉とメロディがすごく密接に結びついている」ことに気づいたと話す。「このメロディには絶対この歌詞だよなと感じさせる何かがある。母親の曲だけではなく、昭和歌謡と呼ばれるもの全般に感じることで、それが最近のJ-POPとは違うところ。だからこそ普遍性があると思った」とコメントしている。

 例えば「RAINY SLUMBER」のサビが、まさしくそうではないだろうか。メロディの展開と言葉のハマり方が絶妙で、思わずハッとさせられる。シンセの音色など80年代のシティポップスといった雰囲気のアレンジによる妙もあるが、何も知らず山口百恵のカバーからの流れで聴いたら、これもカバーだと勘違いしそうなほどだ。

 一方で、「Tell Me Now」というバンドサウンドも収録している。同作には「横須賀ストーリー」「ロックンロール・ウィドウ」といった、山口百恵のロックナンバーも収録しており、これは山口百恵のロックンロールに対する三浦なりのアンサーと言えるだろう。大人の恋愛観や孤独な気持ち鋭く歌った山口百恵に対し、三浦の「Tell Me Now」は、共に一緒に歩んでいこうと明るく軽快に歌っている。母親の時代はそうだったかもしれないけれど、僕たちの世代が求めているのはこういうものなんだよ、と言っているようだ。

 山口百恵の数ある楽曲をカバーすることは、三浦にとって大きなチャレンジであり、そこには偉大なるミュージシャンを親に持つ子供たちが抱える特有の葛藤がある。三浦祐太朗は、『I’m HOME』と『FLOWERS』で、それを乗り越えようとした。そして出した一つの答えが、自分が“架け橋”になることなのだろう。山口百恵を聴いてきた世代に、今の世代の価値観や音楽観も知ってほしい。山口百恵を知らない世代に、彼女が残した昭和の名曲を知ってほしい。さらには、アジアをはじめ、世界中の人たちに素晴らしい楽曲を届けたい。三浦祐太朗は、『Blooming Hearts』をもって、世代や国境を繋ぐ架け橋としての第一歩を大きく踏み出そうとしている。(榑林史章)

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