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『まんぷく』松坂慶子、“武士の娘”として物語を牽引 勇ましくもチャーミングな鈴さんの魅力

リアルサウンド

18/11/25(日) 6:00

「私は武士の娘です!」

 『まんぷく』(NHK総合)ですっかり有名になったこの台詞は、ヒロインの母・鈴(松坂慶子)の口癖である。とにかく“武士の娘”であることにプライドを持ち過ぎるがゆえに、しばしば家族を辟易させてきた。とはいえ、家事はバリバリできる上、娘や孫をこよなく愛し、会社の経理だってこなせる彼女の存在は、少なからず福子(安藤サクラ)たちの歩みに貢献してきたわけだ。

 それにしても鈴というキャラクターには特別な魅力があるように思われる。というのも、何か大きな決断のたびに猛烈に反対したり、ふてくされたりして、福子たちになだめられる場面が頻繁にあるのだが、どこか憎めないところがあるのだ。それゆえ、観ている側からしても、「鈴さん……。」と溜め息を吐きたくなるときがあっても、やっぱり彼女がいてくれることで安心感があるのは否めない。

 鈴は娘たちよりもお茶目なところがある。『まんぷく』では、おてんば過ぎるヒロインが母親になだめられるというのではなく、娘たちの方が必死になって母親を説き伏せている印象の方が強く感じられる。咲(内田有紀)の結婚のとき、福子と萬平(長谷川博己)の結婚のとき、塩作りを始めようとするとき。もちろん、親目線でいろいろ心配してくれていることもあるのだろう。実際、娘の夫が次々と新しいことを始めようとするのに対し、あれこれ心配してしまうのは鈴に限らず、親だったらある意味当然のことなのかもしれない。

 ただ、なんだかんだ言って福子たちに説得され、渋々ながらも福子や萬平の歩む道にいつも連れ添ってくれる。例えば、泉大津に移り住んでからの彼女の働きぶり一つとってもそうだ。鈴がぶつくさ愚痴を吐いているシーンはよくある。だが、タカ(岸井ゆきの)や赤津(永沼伊久也)の手伝いもあるとはいえ、あれだけの人数のご飯作りや、家の清掃といった家事全般を毎日のようにこなすのは確かに重労働だ。負担が大きすぎる。おまけに経理の仕事もやるのであればなおさらだ。みんなを支えるべく汗を流すときには、とことん汗を流す鈴には頭が上がらない。だからこそ、いろいろなことがいっぱいいっぱいになって家出した鈴の気持ちも理解できる。福子の妊娠もあり、より一層鈴の負担は増え、いくら家族と従業員のためとはいえ耐えられなくても無理はない。

 先ほど鈴のことを“お茶目”だと書いたが、忠彦(要潤)の言うように“人間らしい”という表現の方が的確であるかもしれない。克子(松下奈緒)の住む家を訪れた鈴は、忠彦に自分をモデルにした絵を描いてもらう場面があった。そこで忠彦は鈴にこんなメッセージを伝える。

「僕かて、頭にくることも、がっかりすることもあります。お義母さんとおんなじように。せやけど、世の中には、人生には素晴らしく輝く一瞬がある」

 そして、忠彦は今の鈴に「輝いていますよ」と伝える。家出したことに関しては、「正直で良いじゃないですか。“人間らしい”」と言って、鈴のことを肯定的に評価する。いかにも忠彦らしい寄り添い方である。やれと言われたことに対して、たとえ嫌なことがあっても二つ返事で引き受けるのではなく、自分の主張ははっきりと伝えられること。確かに“人間らしい”という言葉がふさわしい。きっと鈴は忠彦の言葉に救われたことだろう。人間らしさの肯定が必ずしもわがままだとは言い切れない。輝く自分を認めるためにも、ある程度は“人間らしく”いてもいいはずだ。

「人生でいろいろ経験してきた深みもあるし、少女のような可憐さもある」という台詞もまた、忠彦が鈴の魅力を表現した言葉であるが、まさしくその通りである。“武士の娘”と名乗るだけあって、勝気なところはとことん勝気でありながら、ときに繊細で純粋な一面もある。うれしいときは子どものように喜び、嫌なことははっきり「嫌!」と言う。人から誤解されることがあるかもしれないが、そんなキャラクターの中にこそ、時に勇ましく、時にチャーミングな鈴さんの魅力がふんだんに詰まっているのだろう。(國重駿平)

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