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sumikaが語る、『君の膵臓をたべたい』と築いた幸福な関係「僕らの進み方は間違っていなかった」

リアルサウンド

18/8/28(火) 18:00

 4月にリリースした『Fiction e.p』がヒットを記録し、日本武道館2Daysを含む初のホールツアー『sumika Live Tour 2018 “Starting Caravan”』は各地でソールドアウト続出――と着実に支持層を広げつつあるsumika。人生を彩る喜怒哀楽のように、色彩豊かな彼らのサウンドはリスナーのみならず、クリエイターや企業をも虜にしている。例えば、アニメ『ヲタクに恋は難しい』のオープニングテーマとして「フィクション」を書き下ろし、企業とコラボレーションして「Answer」「Summer Vacation」「アネモネ」などのMVを制作したことも、その例として挙げられる。

 そして今回は、住野よる著の小説を原作とした劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』(9月1日公開)にて、オープニングテーマ・劇中歌・主題歌を担当。“タイアップ=商業的”というネガティブなイメージを抱いている人もいるかもしれないが、3曲を聴いた印象はむしろその逆。映画に寄り添った内容でありながらも、これまで彼らが大切にしてきた信念も共存しており、バンドの血が細部まで通っているような感じがあるのだ。

 sumikaと劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』が幸福な関係性を築くことができたのは、どうしてだろうか。片岡健太(Vo/Gt)、荒井智之(Dr/Cho)、黒田隼之介(Gt/・Cho)、小川貴之(Key/Cho)に話を聞いた。(蜂須賀ちなみ)

■ベーシスト不在の“空白”=sumikaの“可能性”

――7月にホールツアーが終わったばかりですね。私は武道館公演を観ましたが、みなさんの演奏はもちろん、舞台セットもとても素敵だったな、と。

小川:今回のライブを制作するにあたって、いろいろなセクションのプロたちが力を貸してくれたんですよ。周りのスタッフがとても心強いから、回を重ねていくごとに信頼関係も増していって。より音楽のことだけに集中できる環境になっていったので、このホールツアーは自分の音楽に対する向き合い方や姿勢を確立していく時間にもなりました。

片岡:元々ライブを制作するチームや関係者の方々から「sumikaはホールが向いていると思う」と言っていただく機会が多かったんです。でも、これまでホールツアーをやったことがなかったから実際何ができるのかは、正直やってみるまで見えてなかったんですね。だけど「スピーカーはこういうふうに置こう」「照明をここに置いたらこういう効果が得られるなあ」と決めていくなかで、ホールだと舞台上のセットも含めてsumikaの見せたかったもの、聴かせたかった音をちゃんとゼロから組めるんだなと思いました。中にはホールでしかできないこともあったし、逆にライブハウスでしかできないことも見つかった。両方知ったうえで両方大事だなと思えたというか。一番悔しいのはどちらか一方でしかできないということで、それってアーティストとしての表現の幅に自分たちで制限をかけることになるじゃないですか。だから今は言い訳せずに全部のことにチャレンジしていって、そのあとに何が良かったのかを選択していけばいいと思っています。

――今のお話とも関係してくると思いますが、最近のsumikaは、バンドの外側にいる人たちと一緒に制作を行う動きが、より盛んになったような印象があります。

片岡:それは――まず、sumikaは毎回ゲストメンバーを迎えてライブを行っているから、メンバーだけだとどう頑張っても(100点満点中の)75点しか出せないもどかしさがあって。結成当初はそこが弱みだと思っていたし、例えばベーシストがいないからライブをお断りしなきゃいけない時は「残りの25を埋められないから今日はライブに出られないんだな」みたいにネガティブなことを考えてた時期もありましたが、その空白って実はすごい可能性なんじゃないかなって思うようになっていったんですよ。(ゲストの)ミュージシャンの方が入ることによって100になるだろうと思っていたら、その方が50持ってきてくれて125になったりとか。それに対して「俺たち1人が25でいいのか」「いや、それじゃあダメだからもっと頑張ろう」みたいに考えるようになって、こういうふうに化学反応って起こっていくんだなとだんだん病みつきになっていったんです。その延長線上なのかもしれません。

――相手がゲストミュージシャンなのか、あるいはどこかの企業や商品/作品なのかが違うだけで、“他者と化学反応を起こす”という行為自体は一緒、ということですね。

片岡:何をやっているのかと言われたら、人同士の掛け算です。これまでも刺激を得られる部分が多かったし、ありがたい話をいただけているので、こういう試みに対してプラスな気持ちで臨めているんだと思います。

――そもそも、空白を埋めることに楽しさを見出すようになったきっかけは何だったんですか?

片岡:うーん……分かりやすいきっかけは、2015年に小川くんが加入したことですね。小川くんは僕の声が出なくなる直前に入ってきたんですけど、喉が治って戻ってきたら、スタッフも含め、sumikaっていうチームがすごく強くなってたんですよ。人の力ってすごいなって。

黒田:(当時は)これからもずっと片岡さんと一緒に音楽がやりたい、最悪音楽じゃなくても何かを一緒にやりたいとは思っていたので、「この場所を残しておかないといけない」とすごく考えたし、「そのためにできることがあるなら何でもやりますよ!」という気持ちは持っていました。

小川:その時からsumikaはメンバーだけでなく、ゲストミュージシャンの方やスタッフチームも含めて一丸となっていて。僕は入ったばかりでしたけど、そこでsumikaのあり方みたいなものがだんだんと見えてきた感じがありましたし、片岡さんが帰ってきてからもその形は崩れることなく、より強くなったような気がします。だから空白を埋めるという作業の素晴らしさ、感慨深さみたいなものは、この先のsumikaにとっても欠かせないものですね。

■自身の青春と向き合った「ファンファーレ」

――今回は劇場版『君の膵臓をたべたい』のオープニングテーマ・主題歌・劇中歌の計3曲を書き下ろしたそうですが、完成した映画を実際に観てどう感じましたか?

黒田:まず「ファンファーレ」がオープニングで流れるんですけど、そのタイミングで絵と曲が一緒になってるのを初めて観て……物語的には何気ないシーンのひとつなんですけど、もう感動しちゃって。こうやって映画と音楽が融合して、ようやく完成なんだなって観ながら思いましたね。

小川:多分、普通のアルバム制作で言う、ミックスが終わった時の感覚だったと思います。絵コンテを全部いただいていたので、どのシーンが次に来るのか、どういう構成で物語が進んでいくのかはもうすべて頭に入っている状態でした。でもいざ映像になって、綺麗な色が入って、動きがあって、なおかつ自分たちの音が入っているのを観たら……簡単に想像を超えてきて。もう自然と涙が出ちゃうくらいの驚きがありましたね。

荒井:感動もしたけど、同時に気持ちよさも感じました。映画やドラマを(視聴者として)観ている時、例えば良い場面が来た時に「自分だったらこういう音楽を求めるなあ」と無意識に考えていたんですよね。漫画を読んでいる時とかもそうなんですけど、良い場面が来たら「あ、ここでこういう曲が流れていてほしい」って、(音楽プレイヤーの再生ボタンを)ポチッて押してからもう1回その場面を読みますね(笑)。

小川:あ~、分かる~!

荒井:今回お話をいただいて、作品としっかり向き合って作った音楽が流れるということは、言ってみれば、自分が来てほしいと思う音楽がそのまま具現化されて流れるってことじゃないですか。それは初めて味わう感情で、変な言い方になっちゃいますけど“気持ちいい”っていう感じでしたね、個人的には。

片岡:この表現が合っているのかどうか分からないんですけど――僕、最近パズルゲームをよくやっていて。“ぷよぷよ”(パズルゲーム『ぷよぷよ』シリーズに登場するスライム)って同じ色が4つ並ぶと消えるじゃないですか。映画制作に関わっているチームのスタッフが3個セットをバーッて作って、映画が始まった瞬間、最後の1個が落ちてきた時に気持ちよく全部ハマって、連鎖して連鎖して、「全消しだ!」みたいな。僕らも3個セットをいくつか作って「これはやりきっただろう」という気持ちではありましたけど、その時点では1個も消えていなかったし、“全消し”している最終的な画は監督にしか見えていなかったんだろうなあと。何ていうか、スッキリしましたよね?

小川:スッキリしたっすねえ……。

片岡:今までの気持ちが全部浄化されたから、自分たちの中に残った“おじゃまぷよ”がいないというか(笑)。絵だけでも声だけでも音楽だけでも成り立たず、全部掛け算として成り立って気持ちよく昇華されていく感動は、なかなか味わえないものだと思います。

――3曲あるうち、オープニングテーマの「ファンファーレ」が最初に取り掛かった曲だそうですね。

片岡:まず、曲を作る前に『キミスイ』チームと打ち合わせをして。まず「病気の女の子がいてどうにかなっちゃうのかな?」というのはだいたい想像がつきました。ただ(原作の小説の)帯コメントに“泣ける”と書いてあったんですけど、その“泣ける”という感情にはどういう過程を経て行き着くべきなんだろう? ということが一番気になって。それを率直に『キミスイ』チームに聞いたんですよ。そしたら、大事な人がいなくなった悲しみではなくて、それを経て一人の人間が泣きながらでも成長していく、次の一歩を踏み出すための涙なんだ、と。特にこの「ファンファーレ」はオープニングなので、「青春のなかで登場人物たちがどう成長していくかを描いてほしい」「そして最後に決意表明をしてほしい」という要望があったんですね。それじゃあまず始めに、自分の青春と向き合おうかって。

ーーだからストレートなバンドサウンドにまとまったんですかね。

片岡:そうですね。この作品の登場人物たちと同じ年齢の頃、僕はバンドをやっていて、ちょうどオリジナル曲を作り始めたぐらいの時期だったんですよ。だから高校生の時と同じように音楽を作ろうと思って。最近のsumikaでは、曲が出来たらデモテープを作ってある程度聴けるような状態にしてから(メンバーに)投げるんです。けど、高校生の時ってそんな効率的なことをやっていなかったし、「イントロはドカンって感じにして、ギターはギャーンと鳴らしてドカーンと行ってからサビで1回キュッとなって、そこからまたパーンって開きたい」みたいな抽象的な言葉で音楽の話をしていたなあと。全力で雑なキャッチボールをしていたというか、だからこそできた化学反応があったし、それが何か良かったなあって思って。だからもう1回同じように曲を作ろうと思って、ドラムの荒井と二人でスタジオに入って「せーのでドンッ」という形で組み上げていきました。「音楽を始めた時と同じような青さと向き合ってほしい」ということはメンバーにも伝えて。

■「春夏秋冬」を15回書き直した理由

――片岡さんからのそういうボールを受け取って、みなさんはどのような気持ちで臨んだんですか?

黒田:いつもはフレーズを付けて、聴いて、直して……っていうふうに作業するんですけど、「ファンファーレ」はほとんど直さなかったですね。難しいことを詰め込むというよりかは、単純に出てきたものを乗っけることを最優先にしました。

小川:個人的には、まずピアノだけで勝負してみようと決めましたね。今はシンセサイザーやオルガンの音色を楽曲中に散りばめることが多々あるんですけど、昔はピアノしかできなかったし、でもそれこそが一番だと思っていたなあって。あと、「昔のことを思い出した上で今の自分がどうするか」というところに答えを出そうと思ったので、決して難しくはないんだけど当時の自分だったらできなかったであろうメロディラインを入れてみました。

荒井:あの時の自分を思い返してやってみても、いろいろな変化を経て今の自分があるから、あの時と全く同じにはならないだろうとは思ったんですよね。だから“あの時のようにやる”というよりも、“あの時の気持ちを思い出してやる”ことが大事なんだろうなって。

片岡:レコーディングするタイミングで「高校生にコピーしてほしいね」という話もしたよね。

荒井:したした。

片岡:やっぱりそういう精神性になっていったんですよ。

黒田:簡単そうに聴こえるけど、実は弾くとちょっと難しいんだけどね……(笑)。

小川:いやらしい大人だな!(笑)。

――「ファンファーレ」は勢いに乗って、わりとすんなりできたんですか?

片岡:これはもう、本当に何にも悩まなかったですね。1ミリも悩まなかった。

――次に取り掛かったという「秘密」(劇中歌)はいかがでした?

小川:絵コンテをもらうまでは全く答えが出なかったですね。劇中歌を作るのは僕の夢だったので、すぐに着手して何曲か作ったんですけど、自分の中でなかなか答えを見つけられなくて。それで監督に相談をさせていただき、打ち合わせをし、絵コンテをもらった瞬間に、急にすべての謎が解けていったというか……そこからは早かったですね。絵コンテを見た瞬間にイントロのピアノの音も出来たんですよ。だからもう、そこに込められた監督や制作チームの熱と想いが(曲を)連れてきてくれた感覚がありました。

――で、主題歌の「春夏秋冬」は15回書き直したと。

片岡:死ぬほど悩みました……。「ファンファーレ」、「秘密」とすごく順調にいって、『キミスイ』チームともいい関係性を築けて、かなり良い進み方だったんですよ。でも、ホップ、ステップときたら最後はジャンプしなきゃ! みたいなプレッシャーがまずあって。

――サビがあって、Cメロが来て、転調してからもう1回サビが来て、さらにもう一山あって。もう何回クライマックス作るんだろうっていう感じの構成になっています。この作りからして前のめりな気持ちが出ているというか。

片岡:そうですね(笑)。最初に僕がまるっとデモを作ったんですけど、こんなに出てこないのは珍しいなってくらいサビが全然出来なかったんですよ。全部を無しにしてまた作り直した方が簡単だったかもしれないんですけど、これを崩したくない気持ちがあって。「じゃあどうしようか?」となった時に、僕が個人で足掻くという術もあったんですけど、今回は“作品が連れてきた感情と向き合う”、“自分たちの青い部分ともう1回向き合う”というテーマがあったので、メンバーとスタジオに入って一緒に作り上げるのが、マインド的にも正しいんじゃないかと思ったんです。

――だから作曲者のクレジットが“sumika”になっているんですね。

片岡:うん、そうですね。初のsumikaクレジットです。

――演奏していてもグッと気持ちが入るような曲なのでは?

黒田:『キミスイ』の完成披露試写会で初めて人前で演奏したんですけど、思ったより気持ちが乗っかっていくなって思いましたね。思わず身体が動くような曲だなって。

片岡:それは試写を観た後だからじゃない?

黒田:それもあるかもしれない。

片岡:sumikaの「春夏秋冬」なのか、『君の膵臓をたべたい』の「春夏秋冬」なのかで全然答えが変わってくる。そう考えるタイミングが制作過程であったんですよ。それは、すなわちタイアップとどう向き合うべきかっていう話になってくるんですけど。sumika単体で成立する曲にしてしまったら、それって掛け算を拒絶してることになる。それでsumikaとしては『君の膵臓をたべたい』の「春夏秋冬」を作るべきだっていう答えに行き着いたんですよね。結果的に、隼ちゃんが思わず身体を動かしてしまうような、そして僕が歌いながら泣きそうになるような曲になったんですけど、それはやっぱりこの作品が連れてきてくれた感情だと思うので。

■sumikaと住野よるに共通する“一滴の毒”

――でも、『君の膵臓をたべたい』とsumikaはそこまでかけ離れた存在ではないというか、むしろ近しい哲学を持っている者同士だったんだなあと思ったんですよね。例えば、映画の中で出てきた「選択が積み重なって私たちを惹き合わせた」という台詞は「グライダースライダー」の歌詞と通ずる部分があるじゃないですか。それに「生きるということは誰かと心を通わせることそのもの」という台詞も、みなさんがインタビューやライブのMCで話していることと繋がっているなと。

片岡:確かに。原作を読んだ時点で「あれ? これ同じこと言っていたなあ」みたいなことが結構あってビックリしたんですけど、そしたら……これは本当にたまたまなんですけど、住野先生がsumikaのことを知ってくださっていて、住野先生の気持ちも後押しして今回の楽曲提供が決まったらしいんです。だから元々お互いの価値観が合っていた、そもそも共通言語があることがアドバンテージになっていた。例えば、僕は歌詞を読んだ時にサラッと読めるのではなく、一瞬「ん?」と引っかかるようなところを大事にしたいと思っているんです。住野先生も――まあ『君の膵臓をたべたい』というタイトル自体がそうですけど――“一滴の毒を垂らす”っていうのをすごく大事にしていると言っていて。そういうところが似ていたから、〈毒を飲んでさ〉みたいにポップスで使いづらいワードを歌詞に入れることができたんです。

――なるほど。歌詞に関してはsumikaの王道に近いとは思うんですけど、一方、映画で使用される曲でなければこう書かなかっただろうなあという箇所もあって。例えば「春夏秋冬」は、映画では描かれていなかった秋・冬の描写をあえて具体的に言っているように感じました。

片岡:そうですね、まさしく。制作チームの方と打ち合わせした時に「こんな作品でした、と総括するような内容を盛り込んでほしい」と言われたんです。けど、もう映像と声優さんの声で全部伝わってるんだから、もう1回まとめサイトみたいなものを作る必要はないかなと思って。だから作品の内容を振り返りつつ、あえてポジティブに(登場人物たちが)過ごしていない季節の話をして、映画の続きを描くようなつもりで書きました。音楽もそうですしアート全般に対して言えることだと思うんですけど、“フィクションはフィクション、私は私”みたいな感じで作品と自分を乖離させてしまうのは作品との向き合い方としてすごくもったいないことで。結局、その作品を観終えたあとに自分に置き換えられることがすごく大事だと思うんですよ。“ここから先はあなた”っていうふうにバトンを渡すというか。

――その話を聞くと、これもsumikaのやってきたことに繋がっているんですね。会場を出たあとの“あなた”の生活が大事なんです、ということはみなさんがライブを通じてずっと伝え続けてきたことなので。

片岡:そうなんですよね。結局嘘のない状態が一番楽なんですけど、それは狙ってできることではないなっていうのが今回改めて思ったことで。僕たちが悩んだ時に『キミスイ』チームが打ち合わせの場を設けてくれてキャッチボールの機会を持たせてくれたこと、原作者の住野先生とどこかでシンパシーを感じながら作品と向き合えていたこと、それから曲が出来上がるたびに住野先生が感想を送ってくれたことにまず感謝したいですね。“過程を大事にする”っていうことはsumikaが何度も言ってきた言葉ではあるんですけど、やっぱりこの進み方は間違っていなかったんだなと。改めてそう思うことができたのは、総じて、この作品のおかげだなと思っています。(蜂須賀ちなみ)

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