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『G線上のあなたと私』桜井ユキに学ぶ素直な気持ち “ほっとけない“存在になりたい波瑠

リアルサウンド

19/11/20(水) 13:00

 「ほっとけないって何? ほっとけないって、俺も。これ……なんなの」

 火曜ドラマ『G線上のあなたと私』(TBS系)第6話のタイトルは、“ほっとけないって愛ですか“。「ほっとけない」という普段何気なく使っている言葉の真意を、今一度問いかけてくる。

参考:滝沢カレンが語る、『G線上のあなたと私』でひらけた女優への道 大切な“名前”へのこだわりも

 大人のバイオリン教室で出会い、定期的に顔を合わせるだけの関係だった、也映子(波瑠)と理人(中川大志)、そして幸恵(松下由樹)。だが、気づけば年齢が違うから話せること、環境が違うから温かく見守れること、性別が違うから新しい視点を教えてもらえる、そんな居心地のいい場所に。いつしか、教室という空間を超えて3人の支えになっていく。

 一方で親しくなるほどに、その距離感のとり方に戸惑いを覚える場面も増えてきた。特に、独身の也映子と理人は、お互いの恋愛事情にも深く入り込むように。也映子は親が倒れたという元婚約者の智史(森岡龍)を、理人は病を患う兄の元婚約者・眞於(桜井ユキ)を、それぞれ「ほっとけない」と接点を手放せずにいた。さらには、想いを寄せてくる結愛(小西はる)に対しても、煮えきれない態度を取る理人。

 お互いが一定の距離を取っていたときには聞けた恋愛相談も、なんだか穏やかに耳を傾けることができない。もはや、教室ではなく自発的に会い続けている、この関係をなんと呼べば良いのかわからない。そうなると、どの立場で話を聞いたり、アドバイスをすればいいのかも……。

 理人は人生経験の少なさゆえか、苦しい立場になるほど自分の気持ちと裏腹な態度を取ってしまう。売り言葉に買い言葉で「自分に何もないからって、俺と北河さんに執着するのいい加減止めてもらえますか」と言い放ち、深く也映子を傷つける。

 也映子も理人よりも少しだけ長く生きているものの、自分自身の幸せの軸が見えていない。だからこそ傷ついても、案外簡単に立ち直って見えてしまう。自分にとって何が大切なことなのかが明確であるほど、それを突かれたときに人は立ち直れないほど深く傷つくからだ。だが、仕事も恋愛も手放した今の也映子にとって、理人と幸恵の関係が最も大切なことであることは確か。理人の言葉に胸を痛める。

 そんなふたりに、やきもきしながらも「いいなぁ」と見守るのは幸恵。その模索や衝突こそが、若さであり、誰かと正面きってぶつかることが大人になるほど難しいものなのだと痛感しているのだろう。

 也映子がモヤモヤを抱えながら、ひとりバイオリン教室に向かうと、そこには生徒や同僚からプレゼント攻撃を受ける真於がいた。28歳の誕生日、母親にしか祝ってもらえなかった自分と、理人からバースデーメッセージをもらう眞於。その違いを見て卑屈になった也映子はその思いをつい眞於にぶつける。

 「眞於先生は一生、周りの人から“ほっとけない“って言われる人種です。良いですよね、“ほっとけない“って。めちゃくちゃ言われたいワードですよ、だって、それ愛ですもんね」「ほっとけない」と言われるほど気にかけてもらえず、「ほっといても大丈夫」と言われるほどキャラも濃くない、そんな“普通“な自分を見つめ直し「誰からも気にしてもらえないってキツイです」とつぶやく也映子。

 そんな也映子に、眞於は「だったら、そう言えばいいじゃないですか」とバッサリ。「気にしてもらいたいなら、待ってるだけじゃなくて、誰かのスペシャルになる努力をしなきゃダメじゃないですか? 自分からは何もアピールしないのに、これでも弱ってる。さっしてくれって言う人のほうがワガママな気がしますけど」。

 きっと、この言葉の裏側には、眞於の努力があるのだろう。笑顔で愛想よく振る舞うのも、少し高めのトーンでリアクションをしてみせたり、きっと彼女の努力。時折、元婚約者の侑人(鈴木伸之)や理人に見せる毅然とした態度を見れば、元来の彼女の性格はもっとシビアなものなのかもしれない。

 「愛されたい」「気にかけてもらいたい」「見つけてもらいたい」そんな理由から私たちは、ダイエットをしたり、髪型や服装を変えたりと、多くの人が自分自身を磨こうと努力している。周囲から大事に扱われたいと思うのならば、きっと外見と同じように、性格も努力してバージョンアップすることができるのではないか。

 もちろん、もともとスタイルが良かったり、髪質や肌質が綺麗だったり、センスが良かったり……と、生まれ持った才能がそれぞれあるように、生まれながら多くの人から好かれる性格の人もいる。ただそれを「いいですよね」「何が違うのかな」と卑屈になっているだけでは何も始まらないと、眞於は言いたかったのだろう。本当にそうなりたいのなら、自分から殻を破るしかない。もしかしたら、そこには病について素直に侑人に言えなかった自分への戒めも含まれているのかもしれない。

 劣等感にさいなまれたときこそ、理想とする自分が見えるチャンス。きっと也映子が呟いた「“ほっとけない“と言われたい」は、いろんな人からそう言われたいのではなく、理人に“ほっとかれない“存在になりたい=“愛されたい“ということなのだろう。

 誕生日を覚えていてくれる人、松ヤニがもうすぐ無くなるのを気にかけてくれる人、泣き虫な自分に付き合ってくれる人……。だが、まだ也映子はそれに気づいてなさそうだ。『Someone to Watch Over Me』(わたしを見ていてくれる人)は誰でもいいわけじゃない。也映子の本当に欲しいものが、素直な気持ちが、ハッキリと見えてきそうだ。

(文=佐藤結衣)

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