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イベント上映、配給、ソフト化まで Gucchi’s Free School主宰・降矢聡氏に聞く“自主”の醍醐味

リアルサウンド

18/8/29(水) 14:00

 アメリカの大ヒット海外ドラマ『GIRLS/ガールズ』の原点とも言える、レナ・ダナムが監督・脚本・主演を務めた2010年の映画『タイニー・ファニチャー』が、現在、渋谷のイメージフォーラムで公開中だ。SXSW映画祭グランプリを獲得するなどインディペンデント映画の重要作と知られる本作だが、日本では長らく未公開で、今回8年の時を経てようやく劇場で観ることができるようになった。そんな映画ファンの期待に応える形で本作を配給しているのは、Gucchi’s Free School(グッチーズ・フリースクール)という、日本未公開映画の紹介、上映を企画・運営する団体だ。

 リアルサウンド映画部では今回、グッチーズ・フリー・スクールの教頭(主催)降矢聡氏にインタビューを行い、グッチーズ・フリー・スクールの活動の変遷や、自主での映画上映イベントの企画や配給について、話を聞いた。

「自分たちでやりながら知っていって、なんとかできている」

ーーGucchi’s Free School(グッチーズ・フリー・スクール/以下、グッチーズ)は日本未公開映画の紹介、上映を企画・運営する団体として映画ファンの間では知られていますが、もともとはブログで未公開映画の紹介をしていたんですよね?

降矢聡(以下、降矢):そうですね。でもその当時は活動というほどでもなかったんです。「日本未公開の映画が気になるけど、日本語字幕がないと分からない」という人に向けて、未公開映画のあらすじを最初から最後まで詳しく書いた記事をブログに載せていました。最初はそういう個人ブログレベルのことを仲間3人くらいでやっていただだけだったんです。

ーーそこから映画の上映イベントを開催したり配給をしたりと活動の幅が広がっていくわけですね。僕も当時そのイベントに足を運んだのですが、最初に上映イベントを行ったのは、東京藝術大学の新港校舎で『アメリカン・スリープオーバー』を上映した2014年3月でしたね。

降矢:そんな初期から来ていただいてありがとうございます(笑)。たまたま藝大さんから声をかけていただいて上映イベントをやることになったのですが、そこで何もわからずに実際にやってみた結果、「1回限りの上映イベントならできるな」となんとなく掴んだので、その後も定期的に上映イベントを続けていくことにしました。

ーー上映イベントのノウハウがあったわけではなかったんですね。

降矢:それが全くなかったんです。

ーーでは独自にリサーチしながら?

降矢:そうですね。ただ、リサーチといっても結局はネットで調べるくらいしかなくて。ネットで調べた情報で、ここに問い合わせれば大丈夫そうだな、みたいな。違ったらその人にどうすればいいかを聞けばいいかという感じで進めていったら、案外できてしまったという。

ーー海外の権利元とのやり取りはトントン拍子で進んでいくものなんですか?

降矢:メールの返信がひたすら遅いとか、やり取り自体はあまりスムーズではないのですが、それ以外の部分は結構簡単に進んでいくんです。一番難しいのは値段交渉ですかね。それが結構シビアで、仮に劇場が満席になったとしても赤字になってしまう金額を提示されたり、時間をかけて交渉したけど結局上映できなかった作品もあったりしました。『アメリカン・スリープオーバー』に関して言えば、2ヶ月くらいは向こうの権利元とやり取りをしていましたが、割とスムーズに進んだ印象でした。あと不安だったのは、素材ですね。どういう形で素材をもらうのか、またその素材をもらったときに字幕は自分たちで入れたらいいのか、もしくは業者さんに頼んだ方がいいのか、もしも自分たちで字幕を入れるのであればどういった形で素材をもらったらいいのか……。戸惑うことは多々ありましたが、自分たちで聞きながら、やりながら知っていって、なんとかできているという感じです。戸惑うことは今でも全然あるぐらいなので(笑)。

「日本で上映することによって、広がりが生まれそうな作品を選んでいます」

ーー単刀直入に聞いてしまいますが、上映イベントを1回やった際、費用の総額はいくらぐらいになるんでしょう?

降矢:1回の上映料は作品によってかなり差があるんですけど、平均で500ドル(55,500円/1ドル=111円換算)ぐらいですかね。そこに会場費、字幕入れの費用、チラシの制作費などで、総額20~30万円程度でできちゃいます。

ーー上映イベントに興味がある人にとっては勇気が出る金額ですね。

降矢:例えば友達と4人で一緒にやったら1人5万円なので、頑張れば誰でもできる金額だと思います。それで作品が話題になって、じゃあ配給もやろうとなったら、お金がもっと入ってくるかもしれないですし。みんなやればいいのに、と思っています(笑)。ただし、字幕制作者の方やデザイナーの方にはかなり少額でお願いして引きつけてもらっているので、感謝しかありません。

ーー近年は上映イベントと並行して現在イメージフォーラムで上映中の『タイニー・ファニチャー』をはじめとした作品の配給活動も行っています。上映イベントから配給にも手を拡げた理由は?

降矢:イベントで映画を上映した後に、劇場さんから声をかけていただく機会が多くなったのが理由です。グッチーズはこれまで、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の長編デビュー作『アメリカン・スリープオーバー』、ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督の長編デビュー作『キングス・オブ・サマー』、リチャード・リンクレイター監督の初期作『スラッカー』、そして現在上映中の『タイニー・ファニチャー』の4本を配給してきましたが、例えば『スラッカー』だと、ちょうどその当時、リンクレイター監督の新作『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』が日本公開されるタイミングで、それに合わせて『スラッカー』を上映したいというようなご要望をありがたいことにいただいて。最初は自分たちもできるかどうかわからなかったんですけど、とりあえずやってみますという気持ちでやってみることにしたんです。

ーー劇場側からの声が後押しになったと。

降矢:あと、イベント上映で観ていただいた方々の口コミなどで話題になって、観たかったけど観られなかったという声もたくさんいただいたので、そういう声がある以上は頑張っちゃおうかなと(笑)。

ーーちなみに、グッチーズは現在どれくらいの人数でやられているんですか?

降矢:もともとは、それこそブログ時代から一緒にやっていた仲間を含めて数人でやっていたんですが、配給をするようになってからは基本的に僕1人でやっています。今回の『タイニー・ファニチャー』もそうですが、1人では手が回らないときに、手伝ってくれる人3〜4人に声をかけて、一緒にやるという感じですね。なので、今は基本的に“グッチーズ=降矢”ということになります。

ーーイベントで上映する作品、配給する作品はどうやって選んでいるんですか?

降矢:配給する作品は、過去にイベントで上映して反響が大きかったり人気のある作品だったりしますが、自分が個人的に面白そうだなと思った作品や、その作品を日本で上映することによって、いろんな広がりが生まれそうなものを選んでいます。基本的には、僕自身が観たかったとか日本で公開してほしかったという気持ちがモチベーションにはなっていますね。

ーー上映イベントの企画と配給に加えて、『アメリカン・スリープオーバー』と『キングス・オブ・サマー』はBlu-ray&DVDをリリースするというパッケージ化まで行っていますね。これはどういう流れで?

降矢:そもそも配給自体するつもりではなかったんですけど、配給に関して権利の交渉をする際に、“ALL RIGHTS(オールライツ)”という選択肢が出てくるわけです。これは、配給はもちろん、ソフトの販売も配信もテレビ放送もできる全部入りパッケージみたいな権利で。そうなったときに、もしも配給で失敗しても、配信でお金が入ってくるし、うまくいけばソフト化でもお金が入ってくると思って、やることにしました(笑)。あとはBlu-rayやDVDを作るのって、単純に楽しそうだなと思ったんです。それでいろいろと調べて、いろんなプレス業者さんにお声がけをしていたら、名古屋のフェイズアウトという会社がグッチーズの活動にすごく興味を持ってくれて、共同販売のような形で今一緒にやらせていただいています。最初リリースした『アメリカン・スリープオーバー』は、やっぱり結構なお金が必要ということになり、クラウドファンディングを利用させていただいて、無事リリースすることができました。

ーー最初から構想があって、イベント上映→配給→配信・ソフト化と進んできたわけでなないんですね。

降矢:本当にその時々の反応で今までやってきた感じですね。

「自主でやるメリットは、結局“責任がない”ということ」

ーーイベント上映、配給、配信、ソフト化の中では、ビジネス的な側面で最も成功していると言えるのはどれなんでしょう?

降矢:やっぱり配給ですかね。ソフト化はかなりコストがかかってしまうのと、僕たちレベルの出し方だと、売れたとしてもたかが知れているし、上映イベントも会場費などコストがかかってしまう。そういった面で考えると、配給はその中では一番収入になっています。配給で得た収入で、どうにか次の作品の権利を得たり、上映会をやったり、ソフト化の資金を確保したり……というイメージです。

ーー『キングス・オブ・サマー』のBlu-ray&DVDリリースタイミングでは、ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督が来日してプロモーション活動をしていましたよね。パッケージのタイミングで監督が来日するのは非常に珍しいと思うのですが、あれはどのような経緯だったんですか?

降矢:よくわからないですよね、僕も自分で引きました(笑)。実は、ロバーツ監督と小島秀夫さん(日本のゲームクリエイター、実業家)がお知り合いだということをネットの記事か何かで読んで知っていたんです。それで、ダメ元で小島監督に『キングス・オブ・サマー』Blu-rayのリーフレットの寄稿をお願いしたら、快く引き受けてくださって。その後、小島監督がお仕事でアメリカに行かれた際に、ロバーツ監督とお会いしたみたいで、日本でのソフト化の話をしてくれたんです。そうしたら、小島監督の秘書の方から、「ジョーダンがプロモーションを手伝いたいと言っています。ここに連絡してください」と、ロバーツ監督のメールアドレスをいただいて(笑)。すごくありがたいお話なので、早速ロバーツ監督に「今日本でソフト化を進めているので、よかったら日本のファンのためにメッセージ動画をいただけませんか?」と連絡したら、「動画もいいんだけど、日本に行くよ」と(笑)。費用も含め僕らではもろもろ工面できないし、初めはちょっとこっちも腰が引けて、動画でお願いしていたんですけど、ぜひ来たいと言ってくださったので、じゃあイベントを組みましょうとなったんです。

ーーある意味、奇跡的な流れだったんですね。グッチーズは今後も今の体制で続けていく予定なんですか?

降矢:周りからは結構「会社にすればいいじゃん」って言われるんですけど、基本的には、グッチーズをもっと大きくしようとか配給会社みたいにしてやっていこうとはあまり思ってはいないんです。とはいえ、今の形でずっとやりたいという気持ちが強いわけでもなく、今のベースの部分が崩れなければ、もうちょっと大きな展開をしても面白いかなと思ったりはしています。まずは、上映会や配給といった活動自体を続けられる限り続けたいなと。

ーー自主でやるのと会社として大きくするのとではまた大きな違いが生まれそうですね。

降矢:そうですね。自主でやるメリットとしては、結局“責任がない”ということかもしれません。失敗したら自分のお財布がただ単に痛むだけで、逆に成功したら潤う。全部自分の責任になるので、気楽だし、余計なことを考えないで済むんです。今自主でやっている一番大きな理由は、自分の好きな作品を好きな形で宣伝したいということに尽きますね。

ーー現在『タイニー・ファニチャー』が上映中ですが、今後のグッチーズの動きは何か決まっているんですか?

降矢:コメディ映画の上映会を企画中です。2016年に日本未公開の青春映画や学園映画を集めた「青春映画学園祭」という上映イベントを渋谷のユーロライブを中心に開催したのですが、またそれぐらいの規模でコメディ映画を5〜6本上映するイベントを開催したいなあという気持ちでいます。あとは、その「青春映画学園祭」に合わせて『ムービーマヨネーズ』という雑誌の創刊号を作ったんですけど、そろそろ第2号を作りたいなと思っています。今回はゲストの方におすすめのコメディ映画を挙げていただいて、その作品を上映するという形でもあるので、未公開という縛りではなくなるんですけど、日本でコメディ映画がもっと盛り上がればいいなと思って進めているので、こちらもぜひ注目していただきたいです。

(取材・写真=宮川翔/構成=島田怜於、宮川翔)

■公開情報
『タイニー・ファニチャー』

監督・脚本・主演:レナ・ダナム
出演:ローリー・シモンズ、グレース・ダナム、ジェマイマ・カーク、アレックス・カルボウスキー、デヴィッド・コール、メリット・ウェバー、エイミー・サイメッツ
撮影:ジョディ・リー・ライプス
編集:ランス・エドマンズ
音楽:テディ・ブランクス
製作:カイル・マーティン、 アリシア・ヴァン・クーヴェリング
2010年/99分/シネマスコープサイズ
公式サイト:https://www.tinyfurniture-jp.com

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