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浜崎あゆみ、クリエイター企画が好評の理由 セルフプロデュース徹底したアーティストによる「使ってみた」への挑戦

リアルサウンド

20/5/23(土) 10:00

 浜崎あゆみが、自身の全100曲のアカペラ音源をオフィシャルYouTubeチャンネルとオフィシャルHPに無料公開。そして、誰でも自由にその音源を使って作品づくりができる「#AYUクリエイターチャレンジ」をスタートさせた。

(関連:浜崎あゆみ「poker face (Acappella)」視聴

 同企画は、制作者たちが自身のYouTube、Twitter、Instagram、TikTokのアカウントから「#ayumix2020」を付けて作品を投稿するというもの。作品の表現方法は自由。アカペラ音源にあわせて楽器を演奏したり、リミックス曲を作ったり、アニメーションを作っても良いとのこと。優秀作品は浜崎のYouTubeチャンネルのプレイリストに掲載されるということもあり、意欲的で多種多様な作品が連日発表されている。

 そこで今回は、この「#AYUクリエイターチャレンジ」が好評な理由をいくつか考えてみたい。

●「使ってみた」というカテゴリ
 まず「提供素材を使って誰もが自由にコラボ作品を投稿できる」という企画趣旨について、いくつかの前例を取り上げてみよう。

 コラボ動画の投稿で馴染みが深いものとしては、「踊ってみた」「歌ってみた」がある。プロ、アマ問わず、ヒットしたアニソンやゲーソンとのコラボに挑戦できるとあって、根強い人気を誇っている。これになぞらえて「#AYUクリエイターチャレンジ」をカテゴリするなら、浜崎の歌声を「使ってみた」という感じだろうか。

 新型コロナウイルスの影響下、在宅時間が増える中でこの「使ってみた」は日本中を楽しませた。ミュージシャンらが自分の演奏や歌を動画配信し、それを見た人たちが別映像をくっつけてコラボできるような流れができあがった。

 「使ってみた」で近年、異様に賑わったものとして思い浮かんだのが、2017年「高収入求人情報バニラ」のテーマソングのリミックスコンテストだ。「バ~ニラ、バニラ」の中毒性の高いフレーズのアカペラ音源を、公式が無料配布。音楽制作者たちは、その素材を使ってさまざまなリミックス曲を創作(ちなみに優勝者は高野政所氏だ)。クラブなどでもこの時期、DJたちが「バニラ」のアカペラ音源を活用したマッシュアップをよく流していた。

 そもそも、完成された楽曲からボーカルトラックだけを完璧な形で抜き出すには、専門的な知識と技術が必要。「#AYUクリエイターチャレンジ」や前述の「バニラ」のように、アカペラ音源がオフィシャルで無料ダウンロードできるのはかなりレアな機会だ。しかもJ-POPシーンを彩った「平成の歌姫」の歌声となると、それだけで大事件である。

 テレビ時代は、スターはまったく手の届かない存在だった。しかしSNSの時代となり、共感や共同体験ができるコンテンツが求められる今、「大物アーティストとコラボができる」というアイデアは、大衆に受け入れられやすく、ムーブメントも起きやすいと言える。

●自分のものさしで計りきれない範囲まで声を届ける
 歌手デビューの頃から彼女の活動を追う者としては、今回の企画を通して、アーティストとしての浜崎があらためて評価・考察されている現象は嬉しい限りである。

 「#AYUクリエイターチャレンジ」で筆者が驚いたのは、「誰でもOK」という風に自由度をもって自分の歌声を他人に委ねた点である。これまでもリミックスアルバム『ayu-mi-x』シリーズで、楽曲をアレンジャーたちに託したことはあるが、それとはまったく意図が違う。

 浜崎といえば、セルフプロデュースを厳重におこなっているアーティストである。浜崎チームのA&Rディレクターをつとめる米田英智も、avexのホームページに掲載されているインタビュー記事上で、「彼女はセルフ・プロデュースなので、全て自分で考え、浜崎あゆみというアーティストのブランドを自分で責任持って発信していく」と語っている(参照:https://avex.com/jp/ja/contents/team-ayu-dna/)。

 ここで1999年11月10日の出来事を振り返りたい。ギャルのガングロブームが巻き起こるなか、この日にリリースされた11thシングル『appears』のジャケットには、黒い肌で上半身裸の浜崎が、胸をロングヘアで隠し、強い眼差しでこちらを見ている写真が使われた。一方この時期はガングロとは正反対に、美容研究家・鈴木その子がテレビに連日出演して白肌/美肌について提唱し、若者を中心に注目の的になっていた。同日発売のアルバム『LOVEppears』のジャケットは、「appears」のように胸をロングヘアで覆うなど同じ構図ではあるが、しかし白い肌の浜崎の姿があった。

 当時の流行を時評的にとらえたアートワークが印象深いこの2作は、通称「白あゆ・黒あゆ」と呼ばれて反響を呼んだ。この大胆なジャケットは浜崎がアイデアを出したそうで、セルフプロデューサーとしての才覚が発揮された作品として、いまなお鮮烈だ。

 アートワーク、ファッション、自作の歌詞、インタビューでの発言など「他者からどう見られているか」を強く意識し、時には別目線で自身のあり方を見つめ、「浜崎あゆみ」という商品をプロモーションし、キャラクターを確立させてきた。前述の米田英智も「0か100、イエスかノーの人」(同上)と話すように、浜崎は自分に対してもかなりシビアな見極めを課している。

 大ヒット曲「Trauma」(1999年)の歌詞のなかに、〈幸せの基準はいつも 自分のものさしで 決めてきたから〉という一節がある。これまで確かな目測を持ってセルフプロデュースをしてきた彼女。しかし今回、浜崎の歌声は素材として、そのものさしでは計りきれない範囲にまで届けられ、なおかつ自由に創作される。完成作の中には当然、意に沿わないものも出てくるだろう。「#AYUクリエイターチャレンジ」は、浜崎にとってもかなりのチャレンジだ。

●浜崎あゆみはクリエイターたちを信じている
 浜崎は、音楽作りの点においても高い意識を持っている。2014年12月、浜崎が参加した宇多田ヒカルのカバーアルバム『宇多田ヒカルのうた -13組の音楽家による13の解釈について-』がリリースされた。レディー・ガガ、ジェニファー・ロペスらのプロデュースで知られるRedOne Productionのヨハン・サイモン、トレヴァー・ムジーと組み、浜崎ならではのアレンジで「Movin’on without you」のカバー曲を制作。その完成度の高さが絶賛された。

 2015年に音楽番組『SONGS』(NHK総合)へ出演した際には、同曲のカバーについて「敬意を払って歌いました。みんな、すごく大事に曲を作っている。だからこそ自分が納得できるテイクが録れて嬉しかった」とコメントしている。

 セルフプロデュースで自らの世界観を築き上げてきた浜崎は、誰かが作った楽曲を引き受けることのおもしろさと怖さを知っている。何かを「作る」ということは、どんな場合であれ大きな責任がともなう、ということをわかっている。そういう意味では今回、浜崎は受け手であるクリエイターたちのことを強く信じているのだろう。また、企画タイトルがあらわしているように、「クリエイトすること」について何かしら気づきを持って欲しいと願っているのではないだろうか(これは筆者の勝手な想像だが)。

 あと、これは重ねがさねになるが、日本のトップアーティストのアカペラ音源が無料で手に入るなんて、条件付きとは言えやっぱりありえないことだと感じている。しかも、配信される曲数は100曲という大ボリュームである。

 日本国内の新型コロナウイルスの感染は一波が落ち着いてきた雰囲気もあるが、まだまだ油断はできず、休日の外出は控えるように呼びかけられている。在宅時間は依然として多いなか、やり込み度抜群のゲーム的感覚で「#AYUクリエイターチャレンジ」に取り組んでみてはいかがだろうか。(田辺ユウキ)

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