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和田彩花の「アートに夢中!」

窓展:窓をめぐるアートと建築の旅

毎月連載

第30回

今回紹介するのは、東京国立近代美術館(東京・竹橋)で開催中の「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」(2020年2月2日まで)。同展は、アンリ・マティスの絵画からカッティングエッジな現代美術、また美術の枠を飛び出して世界の窓の歴史まで、さまざまな切り口で窓について紹介。美術家たちが愛し、描いた窓辺の情景など「窓」をモチーフにしたさまざまな作品がジャンルを横断して会場に並び、「窓」をめぐるアートと建築の旅に観客を誘う。さて和田さんは、どんな「窓」に出会ったのだろうか。

「窓」で絵画を見るという
新しい視点を提示

とっても楽しい展覧会でしたが、とっても難しかったです(笑)。

「窓」というのは、確かに私たちにとって身近なもの。その歴史を紐解くと、古代からあるんですよね。もちろん形態は変わり、例えば日本では、障子が「窓」の役割を果たしていた時代が長く続きました。

そして美術との関わりはとても深いものです。特に西洋絵画では「窓」が画面を構成するひとつのモチーフとしてよく描かれています。

ただ、私にとって、「窓」という視点で絵画を見る、というのは今までになかったこと。描かれていても、あって当然と勝手に思っていましたが、実はとても重要なモチーフであることに、今回気付くことができました。

この展覧会では絵画だけでなく、建築や写真など、多種多様な作品によって「窓」とは何かを提示されます。写真も建築も面白かったんですが、やはり私は絵画をじっくり見てしまいました。

マティスの「窓」

アンリ・マティス《待つ》1921-22年 愛知県美術館

今回のメインビジュアルにもなっているアンリ・マティスは、この連載では、横浜美術館で開催中の「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」(2020年1月13日まで)をご紹介した回でも注目した作家です。

私は、マティスの絵の中では「窓」があまり「窓」の持つ効果を発揮していないのではと思ったんです。「窓」があるからといって、画面の中に三次元の空間をきちんと描き出している感じもしない。マティスにとってはただのモチーフでしかないのではないかと。

この作品は海辺が描かれていますが、「窓」から明るいであろう外光が部屋の中に入ってきているとも特には感じられません。

ほんの少し右の女性に光が当たってはいますが、窓からの清々しい空気感なんかもやっぱり感じられないんですよね。

この作品では、あくまでも主題は窓辺に立つ2人の女性たち。ではその女の人たちは窓辺で何をしているのかと問われた時に、窓がある必要があるのかな、と思うんです。

おそらく女性たちは窓の外を見ているわけではないと思います。その視線の先の外の世界はあまり関係ないし、関心もない。だから少し乱暴かもしれませんが、窓からつながる外の風景には意味がないように思われるんです。

じゃあどんな意味があるのか? と言われると、色の問題でしかないのでは、と思いました。外の海の青と、室内をところどころ彩る青とをなんとなく合わせているのではないでしょうか。

そして外光が入ってきていないと言いましたが、外の砂浜の少しピンクっぽい色や、海の青があるから、明るさを感じることができるのではないでしょうか。

ということは、やっぱりこの絵の中で「窓」はただのモチーフでしかなく、「窓」の機能は無視されていて、マティスは画面を構成する中で、「窓」というフォルムをただ使いたかっただけなんじゃないでしょうか。

例えば「窓」が「壁」だったらどうなるかな、とか考えるのも面白いかもしれませんね。

これも窓?
「窓」と「鏡」

ほかに面白いな、と思ったのが、ベルトラン・ラヴィエの《ガラスの下の絵画》という作品。

作品の前に立つと、自分の姿が絵の中に映る。私は絵を見ているはずなのに、その絵の中に自分が映っているのはとても不思議です。

『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』第4章 窓の20世紀美術Ⅱ 展示風景 撮影:木奥惠三  一番右の作品がベルトラン・ラヴィエ《ガラスの下の絵画》1983年 東京国立近代美術館

それにちょっと錯覚や混乱を覚えながらじっくり作品を見ると、鏡の上に、薄塗の半透明というか、少し不透明なアクリル絵具がガラスに塗られていることに気付きます。

鏡の反射は少し残るように塗られているので、鏡の銀色が下から透けて見えます。そして自分の姿が浮かび上がるんです。だからこの作品は鏡でもあり、絵画作品でもあるわけです。

絵具を通り越して自分の姿を見るって、なかなか体験できないなって思いました。そう考えると、見るよりも体験する作品ですね。

ここでも絵画のあり方、そして「窓」のあり方を考えさせられました。正直、これを「窓」と定義することはできるのだろうかと。皆さんはどう思われるでしょうか。

作品における「窓」の存在意義とは?

「窓」が絵の中に描かれることで、空間が生まれ、三次元的な再現もしやすくなります。だから絵画や建築や写真において「窓」と関わりがある作品には「窓」というモチーフが存在し、空間を作り出す大きな要因となっているわけです。

その窓のあり方というのが、こんなにも多種多様にあり、また、作家たちによって切り取り方も、作品への落とし込み方も違うというのをたくさんの作品で見ることができたのは、やっぱりとても面白かったですね。

マティスのようなあまり役に立たない「窓」も、ラヴィエの鏡のような作品も、全部含めての「窓展」。「窓」という切り口で作品を見る、という新しい視点を提示してくれました。

展覧会を通して、「窓」が、特に絵画作品の中でどんな意味を持つのだろうと「窓」の存在意義を考えさせられましたが、私は、「窓」はあくまでも境界線でしかないのではないのではないかと思いました。こんなにも「窓」について考えたことありませんでしたね(笑)。

今回の展覧会は、あまり深く考えすぎずに「窓」というモチーフを見るだけでももちろん楽しいと思います。美術が好きな人、いろいろな作品を見てきた人には、「窓」というモチーフの持つ意味や、描かれ方の違い、その役割など、いろいろな角度から見てみてほしいですね。


構成・文:糸瀬ふみ 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。一方で、現在大学院で美術を学ぶなどアートへの関心が高く、自身がパーソナリティを勤める「和田彩花のビジュルム」(東海ラジオ)などでアートに関する情報を発信している。

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