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『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』編集者が語る、新しい才能への期待 「何かひとつでも光るところがあればいい」

リアルサウンド

21/2/14(日) 12:00

 『SPY×FAMILY』(遠藤達哉・著)、『地獄楽』(賀来ゆうじ・著)、『怪獣8号』(松本直也・著)など、次々と話題作を世に送り出している漫画誌アプリ「少年ジャンプ+」が、「次世代のスター漫画家」を発掘するために創設した新漫画賞「MILLION TAG」(ミリオンタッグ)

 同賞は、選考を経て選ばれた6名の連載候補者が、編集者とタッグを組んで4つの課題に挑み、優勝を目指すというもの(優勝者には、「少年ジャンプ+」での連載のほか、コミックス発売、1話分相当のアニメ制作が確約されている)。

 そこで、今回のインタビューでは、その連載候補者とタッグを組む編集者のひとりであり、また、『SPY×FAMILY』や『チェンソーマン』といったヒット作の担当編集者でもある林士平氏に、新しい才能への期待や、いま注目している作品、そして、これからの漫画のかたちについて熱く語っていただいた。(島田一志)

新しい才能への期待

――まずは今回の「MILLION TAG」について、他の漫画賞との違いなどを教えてください。

林:「MILLION TAG」は、タイトル通り新人の漫画家と編集者がタッグを組んで、「少年ジャンプ+」での連載を目指すという賞なのですが、その選考過程を、新人発掘バトルオーディション番組として、YouTubeの「ジャンプチャンネル」で配信します(全8回予定)。これはかなり新しい試みだといえるのではないでしょうか。また、いまの若い漫画家さんたちが目指しているゴールのひとつとして、「アニメ化」というのがあると思いますが、優勝すれば――1話分相当ではありますが――その夢を叶えることもできます。それと賞金の500万円というのも、漫画賞の賞金としてはかなり高額なものになりますね。いずれにしても、これらすべては「少年ジャンプ+」編集部の新しい才能への期待の表われだとお考えいただければと思います。私たちは本気で漫画を描いている方々を応援したいんです。

――アニメ化もすごいと思いますけど、たしかに漫画の制作過程を配信するというのは、かなり斬新な試みですね。

林:見世物のようなショーにはしたくはないのですが、新人の漫画家さんと編集者が真剣に向き合っている「漫画の現場」を見せられたらおもしろいかな、と個人的には思っています。昨今では「編集者不要論」などもありますけど、集英社の編集者たちがどれだけ作家に寄り添い、漫画に真剣に向き合っているのかを、多くの方々に見ていただけたらと思います。

――どこの漫画誌もそうかもしれませんが、「ジャンプ」系の編集者は特に新人の育成に力を注いでいる印象があります。今回の配信で、その編集のノウハウを公開することに抵抗はありませんか。

林:たしかに社風として、よその雑誌から有名な作家さんを連れてくるよりも、新人を一(いち)から育ててヒットを飛ばすことのほうが評価されるようなところはありますね。ただ、それぞれの編集者がそれぞれの方法でやっていますので――つまり、新人育成に関する明確なノウハウというものはありませんので、打ち合わせの一部始終を見せても特に問題はないかと思います。むしろ、いま言ったことの繰り返しになりますけど、集英社の編集者たちがいかに漫画と真剣に向き合っているのかが、広く世間に浸透してくれればいいと考えています。それが結果的に、多くの若い才能を集めることにもつながっていくと思いますので。

「次」の展開が予想できない漫画に惹かれる

――林さんはもともと漫画編集者志望だったのですか。

林:それがそういうわけでもないんです。就職活動の時期にはいくつかの会社の試験を受けましたが、出版社で受けたのは集英社だけでした。社会科見学気分だったといいますか(笑)、編集者にどうしてもなりたい、みたいな気持ちは特にありませんでした。もともと漫画や小説を読むこと自体は好きだったのですが、もし他の職種を選んでいたとしても自分なりのやりがいを見つけて楽しんでいたと思います。

――集英社に入ってからは、どういう部署を経験されてきましたか。

林:1年目は「月刊少年ジャンプ」に配属されました。そのあとすぐに、同誌が「ジャンプSQ.」にリニューアルすることになり、そのまま創刊メンバーとして10年くらいいたのですが、希望を出して、「少年ジャンプ+」に異動しました。

――林さんはつい最近まで、「週刊少年ジャンプ」本誌でも、人気作の『チェンソーマン』(藤本タツキ)の担当をされていましたが、いまは「少年ジャンプ+」専属ですか?

林:そうですね。厳密にいえば「少年ジャンプ+」の編集者は、「週刊少年ジャンプ」編集部という部署の中に所属しています。なので、機会があればまた何か担当することもあるかもしれませんが、『チェンソーマン』の第2部も始まりますし(※)、当面は「少年ジャンプ+」の仕事に専念しようと思っています。

(※)『チェンソーマン』の第2部は「少年ジャンプ+」で連載予定。

――林さんがいま注目している他誌の漫画を教えてください。

林:話題になっている漫画はだいたい目を通すようにしているのですが、最近読んだ中でおもしろかったのは『ブランクスペース』(熊倉献・著)です。魚豊さんの『チ。―地球の運動について―』もすごい作品ですね。それ以外ですと、『往生際の意味を知れ!』(米代恭・著)、『ダブル』(野田彩子・著)、『「子供を殺してください」という親たち』(押川剛・著/鈴木マサカズ・著)、『ダーウィン事変』(うめざわしゅん・著)といったところでしょうか。ジャンルはバラバラですけど、「次はどうなるんだろう?」と考えさせてくれるような作品に惹かれます。

持ち込みと投稿、どちらが有利?

——ところで、持ち込みは結構受けていますか。

林:はい。ただ、私は会社にほとんどいませんので、持ち込みは基本、ツイッターのDMで受けています。

――林さんが新人の作品をぱっと見て、最も重視する要素はなんですか。

林:それはケースバイケースです。絵だけが上手い人もいれば、セリフのセンスがある人もいる。最初から完璧な人なんかまずいないわけですから、新人の作家については何かひとつでも光るところがあればいいと思っています。むしろ、こちらとしてはそれを見抜けるかどうかが勝負ですね。

――ちなみに、持ち込みと投稿では、どちらが新人にとって有利だとお考えですか。

林:それも同じくケースバイケースでしょう。メリット/デメリットでいえば、持ち込みはすぐに編集者の感想が聞けるというのがメリットですよね。質問もその場でできますし。デメリットは、持ち込みを受けた編集者と趣味が合わない場合も少なからずある、ということでしょうか。逆に、投稿は原則的に編集部の全員が目を通しますから、持ち込みよりは、相性のいい編集者の目に止まる可能性は高いです。ただ、こちらは基本的に賞をとらないかぎり、編集者からのリターンはありません。いずれにせよ、若いうちは両方挑戦すればいいと思います。

毎週トレンド入りしていた『チェンソーマン』

——話は漫画賞から離れますが、近年、最も話題になった林さんの担当作のひとつである『チェンソーマン』は、絵的には前衛的な表現を繰り広げながら、メジャーなかたちで売り出されていて、すごいと感心しました。マニアックな表現とメジャーな展開というものは両立するのですね。

林:藤本先生と一緒にお仕事させていただくのは2作目なのですが、『チェンソーマン』については、さすがに「週刊少年ジャンプ」という大きな部数の媒体が舞台になりますので、ある程度はエンタメに寄せようという話はしていました。たしかに藤本先生自身、アンダーグラウンドな資質はもちろんあると思うのですが、それだけじゃなくて、自分の作品を広く世に伝えたいという気持ちもある方ですから。おっしゃるように、絵的な面ではかなり前衛的なのですが、主人公たちがやってることは少年漫画の王道だったりします。ただ、あのチェンソーマンのデザインは、最初、私はちょっと難しいんじゃないかな、と言っていたんですけどね(笑)。

——第1部の連載中は、「ジャンプ」の新しい号が出るたびに、毎週『チェンソーマン』がらみのワードがSNSでトレンド入りしていましたよね。そのことも、昨今では、なかなか痛快な現象でした。

林:月曜の0時になった瞬間、読者の方たちがたくさん発言してくださって。ありがたいことだと思いながらSNSを見ていました。これは、電子書籍の時代ならではの現象だともいえますね。

『SPY×FAMILY』は時代とかみ合った作品

――紙の雑誌も漫画誌アプリも両方経験なさっている林さんから見て、5年後、10年後の漫画はどうなっているとお考えですか。

林:普通に電子媒体が増えている感じだと思いますが、かといって、紙の本が消滅することもないだろうと思っています。現状の漫画は、最終的に紙のコミックスにまとめるのを前提に作られていますから、コマ割りなどの面での大きな変化もないでしょうね。ただ、それでも、印刷した紙を綴じたものとスマホやタブレットの画面では「見せ方」が違いますから、徐々に紙でも電子でも違和感のないようなコマ割りに変化していくだろうとは思っています。『SPY×FAMILY』の遠藤達哉先生など、すでに意識的にそれをやっている漫画家さんも少なくありません。

――その遠藤先生の『SPY×FAMILY』ですが、なぜここまでヒットしたのだと思いますか?

林:絶対的な要因かはわかりませんが、実は『SPY×FAMILY』という作品は、『月華美刃』(2010年~2012年)の連載が終わった後に、遠藤先生が描いた3作の読切の要素を組み合わせて作った漫画なんです。そういう漫画の作り方は珍しいと思いますが、そのぶん、時間をかけておもしろいものができたということかもしれませんね。ただ、もともと遠藤先生の絵は多くの人の目を引いていましたし、ネームも上手かったのですが、ここまでのヒット作になるとは誰も予想してなかったと思います。「時代とかみ合った」としかいいようがありません。個人的には、もっともっと売れていい作家だと思っていましたので、『SPY×FAMILY』が広く世に知られるようになって本当にうれしく思っています。

――それでは最後に、あらためて、「MILLION TAG」に応募しようとしている方々にひと言お願いします。

林:冒頭でお話ししたことの繰り返しになりますが、賞金が高額で、連載、コミックス化、アニメ化確約というのは、やはり新人の漫画家さんにとっては魅力的なものだと思いますので、我こそはと思う方はぜひご応募ください。きっと他の漫画賞よりも“大きなもの”が得られるはずです。まだ見ぬ新しい才能と出会えることを、いまから楽しみにしています。

■関連情報
「MILLION TAG」(ミリオンタッグ)公式サイト:https://sp.shonenjump.com/p/sp/million-tag/

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