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ケンイシイが見据える、テクノシーンでアルバムを出す意味 「DJとして売れるためには、アルバムは全然必要なくなってる」

リアルサウンド

15/9/9(水) 16:00

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 ケンイシイがFlare名義の新作『Leaps』をリリースした。ケンイシイ自身が音源制作はもちろん、CDのプレス、グッズ制作、デザインのディレクション、公式販売サイト立ち上げまでひとりでやるという完全自主制作態勢で作られたアルバムで、公式ショップでのメールオーダーと、出演イベントでの即売のみの発売となっている。

 Flareは1996年に始まったイシイの別名義で、ダンス・ミュージックとしてのテクノにこだわらないフレシブルな形態のエレクトロニック・ミュージックをやるというコンセプトである。2013年リリースの『Dots』が17年ぶりのFlere名義の作品で、今回の『Leaps』はそれ以来のアルバムだ。イシイはBeatportなどダンス・ミュージック専門の配信サイトで、Ken Ishii名義によるダンス・トラックを曲単位、あるいはEP単位で発表しているが、『Leaps』はその流れとは異なる、いわばイシイのいびつでオルタナティヴなアーティストとしての側面を浮き彫りにした作品と言える。

 1993年にまったく無名の存在ながらいきなりベルギーの名門テクノ・レーベルR&Sから突然デビューして以来、日本に於けるテクノ音楽の第一人者としてコンスタントに作品を発表し続け、また1年の半分近い時間をヨーロッパを始めとする海外のDJツアーに費やすなど、精力的に活動を続けてきたイシイ。久々に会ったイシイは、相変わらず理知的で明晰で、かつ温厚な話しぶりが印象的だった。(小野島 大)

「ダンス・トラックを作る時は、いかに型にはめるか」

――今回のアルバムは完全にイシイさん個人の自主制作なんですね。

ケンイシイ(以下:イシイ):自分がわかるようなシステムでやりたいというのがあったんです。レコードの出し方とか今まで携わってこなかった部分なんですよ。曲を作ったり、最初のプランを決めるディスカッションなどはしても、自分の作った音楽がどう盤になるか、どうデータになって聴いてくれる人に届くのか、そういう部分はあまりタッチしてこなかった。なので一回そういうことをやってみたかったんです。

――BeatportなどDJ向けのダンス・ミュージックの配信サイトでは、Ken Ishii名義で曲単位で出してるじゃないですか。あれはどういうシステムなんですか。

イシイ:あれはほとんどレーベルとBeatportの取引で、(こちらからは)レーベルに音源を提供してる感じですね。いろんなレーベルからちょこちょこ出してるんですけど、横の繋がりでいろいろオファーが来るので。元から知ってるアーティスト仲間から来ることもあるし、全然知らないところから来ることもある。後者の場合は過去のカタログを見て判断して、選んで出すという感じです。

――今作はご自分のレーベルである70Drumsからのリリースですが、そういうダンス・トラックは70Drumsから出さないですね。

イシイ:そうですね。いわゆるDJ用の、普通のダンス・レーベルがやってるようなものは出さないで来てたんです。自分だけじゃなく周りのアーティストの音源も含めてコンスタントに出していくような、そういう活動をやっていきたい気持ちはあるんですけど、なかなかそこまでやる余裕がない。ただ「作りたいものを作って出す」という趣旨からすれば、こういう形で出すのがいいかな、と思ってます。

――あまり徒党を組む感じでもないですからね、イシイさんは。独立独歩というか。

イシイ:友達は多い方だと自分では思ってるんですけど(笑)、結果としてそうなってますね。たとえばレギュラーのパーティーをずっとやってて、そこで仲間がいて後輩がいて、その中でレーベルもやって、というDJ/アーティストとしてスタンダードなやり方は、あまりやってこなかった。ヨーロッパに行くとリッチー(・ホウティン)なんか、そういうビジネスの形をがっちり作っているけど、自分はそういうタイプじゃない。たぶん……最初に憧れた、こうなりたいというアーティスト像がデリック・メイやジェフ・ミルズみたいなやり方だったので、そこが一番大きいと思いますね。彼らは今でも現役バリバリですけど、軍団を作るというよりは、自分ひとりで鞄ひとつでやってる感じがある。

――私の先入観かもしれませんが、やはりイシイさんの出発点は『Garden on the Palm』(93年発表のファースト・アルバム)という印象もあります。もちろん今はバリバリのDJなんだけど、もともとはベッドルームでひとりでコツコツを音を作っていた人、という。そういう原点があるんじゃないか。

イシイ:そうだと思います。その結果としてレコードを出してDJもある程度できるようになり、旅もするようになったけど、そっちの方があとからくっついてきた感じなんで。DJを見て憧れてああなりたいな、というスタートとはまったく違う感じですね。最初に自分の音楽ありきで、運良くそれ以外の部分……インターナショナルなDJ活動がたまたまついてきてきれたという感じもあります。

――今回のアルバムを聴いて、そういう意味でのケンイシイの原点があると思いました。ひとりでコツコツと自分の世界を作ってきたケンイシイが、そこで鳴っている。

イシイ:ああ、なるほど。狙ったわけじゃないですけど……海外や日本を旅して回って、いざ自宅に帰ってどういうものを作るか、作りたいかというと、こういう方向になる。何も考えずいろんな新しいソフトや機材をいじってる時にどういう音楽を作りたくなるかといえば、こういう方向なんですね。DJ用のダンス・トラックを作る時は、初めから「DJトラックを作るぞ!」と思って作るんだけど、何もないところから作ると、こっちの方向に行ってしまう。

――ああ、じゃあ出発点からして違うわけですね。

イシイ:違いますね。まあDJ活動をするうえでは「現役感」を出すために、たまにそういうダンス・トラックを出しておいた方がいい。そういう意味では必要に駆られて作って出している、という感じもあります。

――自分で使うため、という目的も?

イシイ:それもあります。自分のセットの中のいいところで使いたいというのもあるし。ダンス・トラックを作る時って、いかに型にはめるか、だったりする。DJが使いやすいフォーマットにはめるのがまずひとつ。今のダンス・シーンのメインストリームがまたテック・ハウスとかテクノになってきてるんですけど、その中でスタイルがまたものすごく細かく分かれてる。そのつどのスタイルを選択してDJ用フォーマットにはめていく。そしてその細かい幅の中でいかに自分のオリジナリティを入れ込むか、みたいな作業がもうひとつ。

――ダンス・トラックを作るのはそういう、ものすごくニッチな作業でもあると。

イシイ:だと思いますね。その意味ではそういうところで成功している人は凄いと思いますけど、僕の原点はさきほど小野島さんが言われたようなところなんで、音作りぐらいは自由にやりたい、という気持ちがすごく大きい。

――確かにBeatportで売ってるトラックと、本作ではかなり違いますよね。向こうは本当に目的がはっきりしていて、その中で機能することを第一に考えている。でも本作はそういう制約がない。

イシイ:そうですね。なのでこういう自由な音作りだけでやっていけるならそれに越したことはないかもしれないけど、世の中の現状がなかなかそれを許してくれないというのもあります。

――本作の構想はどういうところから始まったんでしょうか。

イシイ:2年前に『Dots』というアルバムを作ったんですけど、作ろう作ろうと思ってたわけじゃなくて、合間合間に好きなように作っていたものがだんだん溜まってきたので、これならFlare名義で括ってもいいかなと思うものを集めて出したんです。なので正直、聴いてくれる人のことはまったく考えてないんですけど、出したら出したで結構いい反応をいただいたし、なにより作っていて自分が楽しかった。なのでその気持ちのまま作った曲がいっぱい出来てきて、今作になったという感じです。

――じゃあ今作は全部『Dots』以降の曲ということですか。

イシイ:そうですね。

「音楽レーベルで地味に音源を出すのは必ずしもそこにダイレクトに繋がらない」

――以前イシイさんにインタビューしたとき、聴く人のことをまったく考えないで作ったのは『Garden on the Palm』と『Jelly Tones』だけだという話があったんですよ。今お話を聞くと、今作を「聴く人のことを考えずに作った」のは、それ以来ということになるんですか。

イシイ:Flareとしての活動は96年に始まってるんですけど、確かにそれ以降のKen Ishii名義の作品は常に聴いてくれる人のことは考えてますね。

――もちろんそれは全然悪いことではないけど。

イシイ:ええ。確かにFlareに関しては前作もそうだし今作も、聴き手のことは意識してないですね。さっき言ったように新しいソフトや機材にインスパイアされた部分も大きいんです。僕が最初に音楽を作った時からそうなんですけど、ある意味では機材ありきって部分もあって。手近にある面白いもので遊んでるうちに、なんか出来ちゃったみたいな。この音が面白いと思って、いろいろパラメーターを動かしているうちにこういう変化があった、じゃあこの変化をメインに、別の要素を加えて曲を作ってみようと。音を出しながらいろいろいじって、録ったあともあれこれエディットを加えたりするのが楽しいんですね。

――ざっくりした言い方になりますが、昨今のテクノ事情というかシーンの状況や音楽的な流れみたいなものはどれぐらい影響してます?

イシイ:……ゼロです。

――ですよね(笑)、なんか世間の流れとか状況みたいものとはまったく関係ないところで作ってる印象があるんですよ。

イシイ:確かにそうですね。

――だから初期のケンイシイに近い感じもある。ほんとに自分の中からわき出てくるものだけで作った作品であるという意味で。

イシイ:うん、まったくその通りだと思います。『Dots』も好きに作ったアルバムなんですけど、サブライムというレーベルひとつ挟むと、やはりその要望は多少なりとも取り入れなきゃいけないんですよ、扱ってもらう限りは。こっちもオトナなんで(笑)。でもそういう声を一切聞かないで、レーベルも通さず、自分が全部ケツ持つからこれでいいだろ、ということで作ったのがこれなんです。

――音源の制作はもちろんジャケット周りやCDの制作、販売サイトの構築まで全部ご自分のディレクションでやられている。インディペンデントな活動をやっている音楽家なら、そういうことは不思議ではないですが、イシイさんはこれまでそういう機会がなかった。ここに来てやりたくなった理由は?

イシイ:うーん……すごく簡単な理由としては、周りで自分でやっている人が増えてきたってこと。自分が音楽業界に飛び込んだ時は、ミュージシャンは音楽を作り、レコード会社が売る、という役割分担があって、それでたまたまうまく回ってたところもあったんです。音楽だけやってればいいと。でもここ最近は自分と同様にあちこち飛び回って忙しくしてるのに、ちゃんとレーベルもやって、細かいことも自分でやってる、という人が増えてきた。個人でも結構できるし、やらなきゃいけないのかなという気持ちも芽生えてきたんですね。さっきも言ったように、人のレーベルを通すと、どうしてもそこの指向やプランをある程度は聞かなきゃいけないけど、一回自分ひとりで出すやり方を知っておけば、人のフィルターを通さないで自分の好きな時に好きなものを好きなように出すことができる。そのやり方を一回学んでおきたいなと。

――音楽不況でCDが売れない、音楽ソフトが売れないといわれて久しいですが、そういう状況も関係してますか。

イシイ:それはもう100%関係してますね。以前だったらビジネスの規模も大きくて自分でタッチできない状況があったけど、今はひとつひとつのリリースのプロジェクトが小規模になってきてるし、今回のアルバムの音楽性も大々的に「売るぞ!」ってものじゃなく、好きな人が聴いてくれればいい、というものだから。それぐらいのサイズ感に、自分の手元で全部見える範囲まで縮小してしまった。なので全部面倒見られるし。

――でもそういう風にマーケットが縮小して、アルバムという形でまとまった音源を出す意義を見いだせなくなっている人もいると思うんですよ。テクノに限らず。実際テクノのアルバムは数が減ってますからね。そんな中で自分で全部でなにもかもやって、CDまで作ってしまう。それはどういうモチベーションなんでしょうか

イシイ:あのね、なんだかんだ言って今となっては僕、オールドスクールな方なんで、テクノの中でも(笑)。アルバムとしてまとまった形で出すということがーー深く考えてのことではないんだけどーー当たり前の形だと思っているんです。自分のアーティスト性を込みで音楽を出したいのであればね。シングルはある種の機能的な道具として出している感じがあるけど、アーティスト性をきちんと打ち出すのであれば、やはりアルバムなんだろうなと。

――DJとしての自分とは別のもの?

イシイ:うーん…ですね。DJとして売れるためにはアルバムなんて全然必要なくなってるんですよ。テクノの場合、世界的にみると自分ブランドのパーティーを作ってそこにお客を入れ込んでいく…たとえばリッチーだったら[ENTER]ってパーティーをやってるし、マルコ・カローラは[MUSIC ON]っていうのをやってる。要は音楽レーベルじゃなくパーティ・ブランドみたいな。そこを大きくするのが(DJとしての)一番の成功なんで。音楽レーベルで地味に音源を出すのは必ずしもそこにダイレクトに繋がらないんですよ。ましてアルバムはなおさら必要ないんです、ビジネスとしては。アルバムを出したってお金になるわけじゃない。それよりはパーティーを大きくしたほうがよっぽど儲かる。ビジネスだけ考えてる人は全然アルバムを出さないし。パーティー・ブランドを盛り上げて、ポッドキャストで自分のラジオ番組やって…というのがだいたい今のパターンですね。

――なるほど。

イシイ:2〜3年おきにアルバムを出して…というのはテクノの世界ではスタンダードなやり方じゃない。だからトラックメイカーとしていいトラックを一杯出しても、DJの方が全然稼げる。DJとして名前が売れない限りは、どんなにBeatportのチャートに一杯入れても全然稼げないし名前も憶えてもらえない。いいトラックを作ってる人でも、ローカルのクラブで地味にやってるだけだったりする。だから今は新しく出てきた人は大変だと思います。

「形に残るものとして、小さい規模でもやっていきたい」

――なるほど。にも関わらずアルバムを作り、手作りでCDまで出すというのは、自分のアーティストとしてのブランドを作りあげていくという意味もある。

イシイ:特にこのアルバムに関して言えば、アーティスト性をアピールしたいというより、こういう面白い曲が出来た。それを自分のコンピューターの中に眠らせておくのはもったいない、まとめて形にして世に出しておきたいとう気持ちが強い。そうすれば自分の歴史になるじゃないですか。

――じゃあ特に出す予定がなくても、曲は常に作っているわけですか。

イシイ:あ、実はそうなんですよ。アルバムとなるただ曲を集めるだけじゃダメですけど、出すと決めたらいつでも出せるぐらいの曲はありますね。

――〆切りに追われてスケジュール通りに無理やり出すよりも、いいものができたら出す。アーティスティックな意味では理想的な態勢ですね。

イシイ:そうですね。2002年にソニーやR&Sから離れたんですけど、そこからは自分のペースで出来てますね。音楽を作るのは未だに楽しいですよ。出す出さないは関係なく。ダンス・トラックでも、いいビートが出来ただけで一日楽しいですからね。それを週末のプレイで使ったり、普通にやってるし。家で聞いているのとは鳴りが違ったりするから、また修正してみたり。そういうことは結構やってますね。

――でも今回の『Leaps』の曲はそういう用途は考えてないってことですよね。

イシイ:考えてないですね。次はもう少しDJトラック寄りで考えてますけど。

――逆にKen Ishiiの名義は、 Beatportで出すようなDJトラック中心でいくということですか。

イシイ:いや、そういうわけではなくて、アルバムとして出すなら、ただ曲をできたから集めてアルバムにするというだけではなくて、Ken Ishiiプロジェクトとしてテーマやコンセプトも考えなきゃいけない。いろいろなものを載せたいんですよ。自分にしかできないことをやりたいし、映像などヴィジュアルなども合わせて考えたい。なので自分の中でも少しハードルが高いというか。その手応えが得られるまでは(アルバムとして発表するのは)待ちたいんですよ。今の世の中、ただ漠然とアルバムだけ出しても、ただ出しただけで終わってしまう可能性もある。アルバムを出す人が減ったとは言っても、毎週毎月どれだけ一杯出てるんだって話でね。最終的に売れる数字は知れてるかもしれないけど、それならできるだけ聴く人にインパクトを残して、記憶に残るようなものにして、次に進みたいですね。

――そもそもテクノやハウスはアルバムのリリース自体が少ないですからね。でもアルバムでしか表現できないものもあると。

イシイ:うん。そう思ってやってますけど、でもそれはオールドスクールなのかもしれない。そういうやり方で回ってた時代を知ってるから。経済的に回ってたってたってだけじゃなくて、それをやることの醍醐味みたいな、楽しさというか刺激というか。そういうのを経験してるから、やるんだったらそこをもう一回やりたいという気持ちはありますね。

――結局テクノはロックみたいなアルバム・ミュージックにならなかったということでしょうか。

イシイ:そういうことでしょうね。それっぽくなった時期もあったんですけど、最終的にテクノはそういう形に落ち着いた…落ち着いちゃったんでしょうね。あと、DJ以外はなかなか買わなくなっちゃったというのもある。作ったとしても、同業者に向けて出しているというか。だからBeatportとか、普通の人はほとんど買ってないんじゃないですか。DJかDJ予備軍か。普通の音楽好きの人はそこまで買わない。そういうことになってしまった。

――うーん、なるほど。

イシイ:もちろん、その中で成功してる人もいる。でも僕はそれよりも昔ながらのやり方で、楽しさというか刺激をもう一回味わいたい。

――単体のダンストラックだとなかなか一般の音楽ファンには届かないけど、アルバムという形態なら、一般の人に届けることができるってことですよね。

イシイ:そういうことですね。アーティストとしてやってる以上は、歴史になるものというか振り返られるものは出していきたいと思いますね。CDというフォーマットがいつまで残るかわからないけど、形に残るものとして、小さい規模でもやっていきたいと思います。

――テクノでもロックでもライヴやクラブの現場が重要視されるようになる流れは当然のことだと思うんですけど、音源制作みたいなものが忘れられてしまうと、10年20年たった時にそのアーティストを評価する手立てがなくなってしまう。その時にその人が何を考えていてどういうものを作っていたか、記録という意味でも残しておくことはとても大事なことだと思います。

イシイ:ああ、うん。そう思います。なのでそういうアルバム・プロジェクトも考えてるわけです。次はそろそろken Ishii名義のアルバムを形にしようかなと思ってます。

――楽しみです。聴くのもヤボですが、最近のダンス・ミュージックの世界で一番大きな動きはEDMです。EDMに関してはどうお考えですか。

イシイ:一言で言えば「セレブ・ミュージック」だと思うんですよ。クラブ・ミュージックっていうよりは。有名人というか芸能人の音楽。クラブとは別のもの。クラブ・シーンで流れてる音楽とは別のものですよね。20年前だったらロックやR&Bしか聴いていなかった普通の若者が、流行り物として聴いてる感じというか。あのへんのトップにいる人たち(ミュージシャン)って、20年前なら違う音楽をやってた人たちだと思うんですよね。もともとダンス・ミュージックをやりたくてここにいるんじゃなくて、そのときそのときに一番お金になる、一番売れるジャンルってあるじゃないですか。その中で彼らは今のスタイルを選んだんじゃないか、という気がします。実際、ビジネスの規模はものすごく大きくなりましたね。

――カルヴィン・ハリスの去年の年収が78億円って話ですからね。

イシイ:凄いですよね(笑)。アメリカではどんな田舎に行ってもEDMって聞けるようになってるんですよね。アメリカってテクノとかハウスとかいろんなダンス・ミュージックが生まれた国ではあるんですけど、田舎の田舎までエレクトロニック・ミュージックを聴くようになったのは、EDMがきっかけですね。ほんとの田舎の果ての終着点にまで、EDMは届いた。それで田舎の少年少女が、こういう音楽もあるんだって聴き始めたから、これだけ大きな動きになっちゃった。

――ああ、なるほど。

イシイ:80年代ポップぐらいの巨大な動きになったから、海外にも波及して。それこそカルヴィン・ハリスがやってるようなラスベガスのクラブって、ほとんどが中東のお客ばっかりなんですよ。中東から来た大金持ちが豪遊するっていう。

――EDMのバブルはオイルマネーが支えてる!

イシイ:そういう大金持ちたちだけのプライベート・パーティー(でプレイする)が一番稼げるって話もあるし…

――カルヴィン・ハリスは一晩でギャラ3000万とるって噂ですけど、そういうパーティーでもないとそんな金出せないですよね。

イシイ:一個のテーブル(の客)で1000万ぐらい使うんですよ。そういうテーブルが50個あるだけでいくらになると思います?

――それに一口乗ろうとは思わないですか(笑)。

イシイ:(笑)ははははっ!入れてくれるならね(笑)。

「少しずつアンダーグラウンドが盛り返しているのかもしれない」

――アメリカでやる機会は多いんですか?

イシイ:ここ10年ぐらいほとんど行ってなかったんですよ。その前の10年間はよく行ってたんですけど、9.11のあとにいろいろ面倒くさくなって。シーン的にも一時期ガツンと落ち込んだんですよね。でもこの2〜3年でアメリカのアンダーグラウンド・シーン自体がまた上がってきてるという話もあるんで、もう一回最初からやり直そうかなと思ってるところです。10年もたってると代替わりがあるから、僕の名前も忘れられてると思うんで。

――EDMがど田舎の少年少女まで届いたという話ですけど、EDM自体が初心者向けの音楽的にさほど面白みがないものだったとしても、それをきっかけにしてエレクトロニック・ミュージックに目覚めて、イシイさんがやってるような音楽にリーチするかもしれない。

イシイ:そうです。それが希望ですよね、僕らの持っている。もしかしたらそれが実際に起こっているから、少しずつアンダーグラウンドが盛り返しているのかもしれない。アメリカは最近グアムのダンス・フェスティヴァルとサンフランシスコに行ったんですけど、今度LAからも声がかかって。もともと西海岸にテクノ(・シーン)はないって言われてたんですけど、だんだん状況は変わってきてるみたいですね。

――なるほど。ヨーロッパはどういう状況ですか。

イシイ:ヨーロッパは安定してますね。10年前から5年前ぐらいまでは不景気で、どこへ行っても「昔はよかった」みたいな話ばかりだったんですけど、去年ぐらいから、持ち直してきたって聞くようになって。今年はヨーロッパに呼ばれる機会が多いんですけど、だいたいどこもいいですね。動員もいいし、盛り上がりもいい。だからまたテクノ・シーンは活性化してきてると思いますよ。

――ヨーロッパではもう長くプレイしているから、ファンも根強いんじゃないですか。

イシイ:こないだスペインのジローナってところでプレイしたんですけど、お客さんから「20年前のジローナのどこそこのクラブに毎回行ってたよ」って話しかけられたんですよ。僕が来るのを知って、それを言うためだけに来てくれたみたいで。一緒に写真撮ってね。そういう人が最近増えてきて。クラブだから毎週いろんなDJが来るだろうけど、みんな「どこそこのクラブにいついつ行った」なんてことが想い出として残ってるみたいで。こないだサンフランシスコでやった時も、たまたま夜がヒマだったんで現地の仲間に連れられてパーティーに行ったんですよ。普通に飲んでいたら話しかけられて、それがフランス人で、90何年の南仏の某クラブで見たよ、とかね。たまたまこっちも憶えてて、あの時いたんだ!って。

――それは凄いですね。

イシイ:本当に偶然なんだけど、顔見ただけでわかってくれたみたいで。そういうのは嬉しいですよね。みんな憶えててくれるんだなって。

――パーティーといっても一晩たてば忘れてしまうようなものばかりじゃない。いつまでも人々の心に残るような体験もある。イシイさんのプレイが、そういう場を作ったということですね。

イシイ:うん。長いことやっててほんとに良かったと思います。

(取材・文=小野島 大)

■リリース情報
Flare『Leaps』
価格:¥2,500(tax in) 初回限定ミニトートバッグ付き
※CDによるリリースで、限定枚数の販売。
販売方法はStores.jpの特設サイトと、今後Ken Ishiiの出演するイベント会場のみの販売となる。
70 Drums Web Store
<収録曲>
1.Mole Tunnel
2.Downglide
3.Deep Freeze
4.Sympathetic Nervous System
5.Las Pozas
6.Iapetus
7.Parasympathetic Nervous System
8.Mousetrap
9.Shadows & Rings
10.A Year Later

■イベント情報
森野和馬「PINK SKIN」展 vol.2 × ケンイシイ
動く仮想物体の必然と偶然がもたらす 3D 映像から平面作品まで森野和馬の新作映像にケンイシイの別名義Flare のニューアルバム『Leaps』のサウンドを加え作品を展示。

オープニング・イベント
森野和馬×ケンイシイによる映像と音のパフォーマンス
日程:9月3日(木)
19:00 – 20:00
入場料:¥1,000

日程:9月4日(金) – 9月13日(日)
13:00 – 19:00 ( 入場無料 )
場所:KATA LIQUIDROOM 2F 東京都渋谷区東 3-16-6
協力:株式会社東芝 (REGZA:プレミアム 4K ) /丸紅情報システムズ株式会社(3Dプリント作品)/株式会社クレッセント 主催:森野和馬(CGアーティスト/映像ディレクター)株式会社ストライプファクトリー

■関連リンク
http://www.stripe.co.jp
kenishii.com
facebook.com/kenishiiofcial
twitter.com/k_ishii_70drums
soundcloud.com/are-aka-kenishii
70 Drums Web Store
Info:NEW STANDARD Inc.藤井克仁
katsuhito.fujii@gmail.com 09025547153

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