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DREAMS COME TRUEの“血沸き肉躍る”音楽の祭典 30周年のドリカムワンダーランドを見た

リアルサウンド

19/9/12(木) 12:00

 DREAMS COME TRUEの4年に1度のグレイテスト・ヒッツ・ライブ『DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2019』。数年前から、「2019年はデビュー30周年とワンダーランドが重ねる大事な年。そこでどんなライブを見せられるかで、DREAMS COME TRUEの真価が問われる」という趣旨の発言を繰り返してきた吉田美和と中村正人。否が応でも注目度が高まるなかで行われた今回のワンダーランドで二人は、観客の予想を裏切り、期待を遥かに超える、まさに“血沸き肉躍る”ライブを見せつけてくれた。

 “史上最強の移動遊園地”を掲げ、これまでも前代未聞のステージを繰り広げてきたドリカムワンダーランド。今回はここ数年にトライしてきた様々な演出とステージ構成を集約しつつ、革新的なエンターテインメントに結びつける内容となった。

 CGアニメーションを使ったストーリー性のある映像とドリカムワンダーランドのテーマ曲「A theme of the WONDERLAND」によるオープニングは、前回までの演出を踏襲。また、「世界中からサヨウナラ」で披露された吉田美和の3Dフライング(特殊なワイヤーを使い、会場全体を上下左右に飛び回るパフォーマンス)、「うれしい!たのしい!大好き!」で行われた“ドリー・ザ・ブート・キャンプ”(観客とパフォーマーが同じ振付で盛り上がるコーナー)など、ワンダーランド名物と呼ぶべき演出もたっぷり。オーディエンスも“待ってました!”とばかりに楽しんでいた。

 ステージ機構における新しい要素としては、バンドメンバー全員を乗せた状態で動くムービングステージだろう。総量60tにも及ぶステージがアリーナ後方にまで移動する様子はまさに壮観。現在では数多くのアーティストがムービングステージを使っているが、これほど大規模なものは見たことがなかった。

 そのほか、FUNK THE PEANUTSによる20年ぶりの新曲「SPOIL!」の披露、AKS、D-SOLDIERS、D-FAIRIES、黒ドリダンサーズを含む総勢43名によるパフォーマンス、世界的ファッションデザイナーであるKEITA MARUYAMA、Maison MIHARA YASUHIROによる美しくも斬新な衣装など見どころ満載だった今回のドリカムワンダーランド。しかし、その中軸を担っていたのは、ステージセットでも演出でも照明でも映像でもなく、楽曲と演奏と歌。つまり音楽そのものだった。

 まず驚かされたのは、セットリスト。これまでのドリカムワンダーランドは、事前にリスナーからリクエストを募り、その上位曲を中心に構成されていたのだが、今回はリクエストなし。この日のライブで吉田美和は、「去年、30周年の前夜祭のツアーをやったの。そのときに思ったんだよね。30年経ったいまだからこそ、みんなに聴いてもらいたい曲、みんなに見てもらいたい曲があるなと思って」と語っていたが、その言葉通り、吉田美和、中村正人が「いまだからこそ聴いてほしい曲」を軸に据えていたのだ。

 1989年のデビュー曲「あなたに会いたくて」、昨年リリースされた最新シングル曲「あなたとトゥラッタッタ」「THE WAY I DREAM」といったシングル曲も含みながら、「愛してる 愛してた」(アルバム『MAGIC』収録/1993年)、「薬指の決心」(アルバム『MILLION KISSES』収録/1991年)、「行きたいのはMOUNTAIN MOUNTAIN」(アルバム『The Swinging Star』収録/1992年)、「7月7日、晴れ」(アルバム『 LOVE UNLIMITED∞』収録/1996年)など、90年代の楽曲を中心に(比較的コアな)アルバム収録曲もたっぷり披露。このバンドが持つ豊かな音楽性、幅広い表現力を思いきり体感することができた。

 ライブの後半ではさらにディープな楽曲を立て続けに演奏するシーンも。攻撃的なトラックを前面に押し出したダンスチューン「I WAS BORN READY!!」、ブレイクビーツ的な手法を取り入れたグルーヴナンバー「かくされた狂気」、レゲトン風のリズムと迫力溢れるホーンセクションが印象的だった「ウソにきまってる」。これらの楽曲から伝わってきたのは、ソウル、ディスコ、ファンク、ラテン、ヒップホップといった要素を自らの体内に吸収しながら、決してマニアックにならず、誰もが楽しめるポップスへと導いてきたDREAMS COME TRUEの本質そのものだったと言っていい。

  高い演奏技術、多彩な表現力が求められる楽曲をダイナミックにプレイしていたミュージシャンも素晴らしかった。中村正人とリズムセクションを形成していたのは、Earth, Wind & Fireの2代目ドラマーとして知られるソニー・エモリー、T-SQUAREの坂東慧によるツインドラム。そしてホーンセクションは、Tower of Powerの中心メンバーだったグレッグ・アダムス(Tp)を筆頭に、DIMENSIONの勝田一樹(T.Sax)、本間将人(A.Sax)、マイケル・スティーヴァー(Tp)、ジョニー・バモント(B.Sax)らで構成。さらに長年に渡ってドリカムのライブを支える大谷幸(Key)など国内外のトップミュージシャンによる演奏は、まさに日本最高峰だ。

 本編のラストのコーナーでは「朝がまた来る」「大阪LOVER」「決戦は金曜日」などの大ヒットチューンを連発し、ドリカムワンダーランドらしい華やかな空間を生み出した。個人的にもっとも心に残ったのは「さぁ鐘を鳴らせ」「何度でも」の2曲だった。

 デビュー当初から貫いている“恋から愛まで”というテーマに加え、2008年にリリースされた『MERRY-LIFE-GOES-ROUND』あたりから、人生を続けることの辛さと素晴らしさを歌い始めたドリカム。その最たる楽曲である「さぁ鐘を鳴らせ」と「何度でも」を吉田は、全身全霊としか言いようがないステージングとともに歌い上げたのだ。この日の会場周辺は35度近い高温。会場のなかも熱気と湿気が充満し、かなり体力が削られていたはず。それでも吉田は、すべての力を振り絞るように楽曲に込めたメッセージをしっかりと届けてくれた。

 筆者は2006年のアルバム『THE LOVE ROCKS』のツアー以降、すべてのツアーを見ているが、どのライブでも彼女は“明日はない。いま、この場所全力を注ぎ込む”という意思に溢れたパフォーマンスを続けてきた。すべての楽曲、すべてのライブに全力を注ぐという、心あるミュージシャンにとっては当たり前のことを愚直なまでやり続ける。そのなかで蓄積されたスキルと地力によって、今回のドリカムワンダーランドは成り立っているのだと改めて実感させられた。

  本編の終盤に演奏した「決戦は金曜日」では、吉田、中村が自転車に乗ったままフライング。「祝 デビュー30年」「みなさんホントにホントにありがとう!」という垂れ幕とともに会場を移動するふたりは本当に幸せそうだった。

 思い切って書いてしまうが、じつは私は、大規模のドリカムワンダーランドはもしかしたら今回で最後かもしれないなと勝手に思っていた。気力、体力ともに限界ギリギリのところで行われるし(初めてドリカムのライブを観た人は必ず、“吉田美和さんって、あんなに踊るんですね?!”と言う)、ふたりにかかる負担があまりにも大きいからだ。しかし、今回のツアーを観終わった現在は、自分の浅はかな心配を恥じるしかない。DREAMS COME TRUEは30周年を超えても、素晴らしい楽曲を生み出し、必ず大スケールのステージを続けてくれるはず。その確かな実感が得られたことが、“30周年のドリカムワンダーランド”の最大の収穫かもしれない。

(写真=中河原理英、岸田哲平(すべて京セラドーム大阪公演))

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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