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与沢翼が語る、コロナ時代の『お金の真理』 「現在の決断が今後10年を左右する」

リアルサウンド

20/6/14(日) 12:00

 投資家・実業家の与沢翼氏が、お金に愛されるための黄金のルールを著した新刊『お金の真理』を、4月23日に上梓した。コロナ禍による緊急事態宣言の最中に発表された本書は、厳しい現状にあっても豊かに過ごすために、どのような経済活動をすべきかを指南する一冊だ。ときに与沢氏が経験した手痛い失敗談も交えつつ、具体的なアドバイスが語られている。貯蓄、借金、インターネット、家族、断捨離、住宅ローン、港区女子、幸福度……現在、タイ在住の与沢氏にZoomでコンタクトをとり、失敗から学んだことやいま注力するべきこと、その人生観まで、様々な角度から語ってもらった。

参考:日本企業がコロナ危機を生き延びるために必要なのは?

■お金の真理は危機の下でも変わらない

――『お金の真理』が発売されたのは4月23日で、緊急事態宣言が出された直後のタイミングでしたが、そのような状況になることを予見したかのような内容でした。執筆の経緯を教えてください。

与沢:昨年3月に『ブチ抜く力』(扶桑社)という本を刊行した後に、宝島社さんから「お金をテーマにした本を書いてください」と依頼を受けて、去年の11月くらいから書き始めました。もともと今回の本の論調は、いざという時を想定して貯蓄をしていくことの大切さを説くものだったので、ちょうど新型コロナウイルスのニュースが加速し始めたのに合わせて、そのことも追記していった感じです。コロナ禍でも大きく内容を変える必要がなかったのは、お金の真理は危機の下でも変わらないから。どんな時でもお金に困らないようになるには、予め現実的かつ保守的に考えることが必要で、そのため今回の本は厳しめな論調にもなっています。私自身、コロナ禍で色々な計画が中止になってしまったこともあり、まとまった時間が取れたので一気に書き上げました。

――たしかに、一気呵成に書き上げたのが伝わる勢いのある文章でした。体験談をもとに書かれているのも興味深く、過去の失敗も明け透けに語っています。

与沢:私の場合、かつては物事を楽観的に考えるタイプで、「すべてがうまく行く」「私は成功者になる」「景気はきっと良くなっていく」と、自分に言い聞かせるようにやってきたところがあるのですが、それではうまくいきませんでした。人間不信というわけではないのですが、性善説に則って人を信じて任せるだけでは駄目だということを、数多くの失敗から痛感しています。人は怠けるものだし、状況次第で悪事にも手を染めるし、その時は本気で言っていたとしても、後から気持ちが変わることもある。そう考えて、徹底的に考え抜くこと、何事も疑ってかかること、これ以上は悩めないというところまで熟慮した上で決断することを重視するようになりました。

――本書では「過去を『反省』することでしか自分を進化させることはできない」と、失敗を認めることの重要性も説いています。近年の炎上騒ぎを見ていると、失敗をなかなか認めないことで、かえって火に油を注ぐケースも目立ちますが、そのような状況をどう見ていますか。

与沢:良いところだけを見せたいと考えるのは人間の自然な欲求なので、ちゃんと結果が出てから報告しようとか、完璧なものを見せようと思って、失敗をもみ消そうとしてしまうケースは多いと思います。でも、そうして出来上がったものが必ずしも人々に刺さるとは限りません。大事なのは、間違っているところや至らないところを正直に言って、ちゃんと反省すること。その方がかえって人々は味方になって応援してくれると思います。傷を引きずりながら活動するより、膿を全部出してやっていく方が単純に気持ちもいいです。

 例えば、自分の会社が倒産しかけて苦しい状況にあるなら、構造的な問題を抱えているかもしれないので、いっそのこと一度潰してやり直すとか。借金の問題も同じで、まずは完済することを第一目標にして動いた方が良い。私自身、国税滞納金の問題で苦しかった時期は、とにかく払いきることを何よりも優先しました。人間は誰しも弱いところがあるので、失敗もするし、そのことで叩かれたりもする。でも、捨てる神あれば拾う神ありで、苦しいときにも一緒にいてくれる人は一人くらいはいるので、恐れずに膿を出していって欲しいです。私の奥さんは、苦しかったときも一緒にいてくれました。

ーーインターネットで良い面ばかりを発信していると、失敗したとき、余計に言い出しにくいところがあるかもしれません。

与沢:良い格好をし続けるのは大変です。人徳者だと思われたり、成功者だと思われると、社会から「あなたはこうあるべき」というプレッシャーをかけられるので、それはそれで辛いものがあります。自分の実態と社会の評価をできるだけイコールにしていくのが大切で、ネット上に作り上げたイメージだけが立派だと、結果的に本人が苦しむことになるはずです。加工アプリで実際以上に魅力的なルックスを見せたとしても、現実のルックスが変わるわけではないので、むしろコンプレックスが募っていくというか。

 また、一見すると凄そうだけれど、実は大した中身のない人や会社はいま、インターネットに溢れています。例えば投資界隈でも株価が上がった後に「安く買えている」「良いポジションが取れている」とアピールする人は常にいるけれど、その証拠がたとえば動画でエントリーする瞬間、現在、エグジットする瞬間まで詳細に示されることは少ないし、彼らにとっては示す義務もない。それならば、そういう真偽不明の情報に流されて、羨ましがったりするのは本当に時間の無駄です。私はいまタイやドバイなどに住んでいるのですが、ここで過ごす奥さんと3歳の息子との生活こそが現実であって、その中で起こる現実的な課題に集中することの方がよほど大切です。バーチャルの世界を見ているだけで、現実の世界を向上していけないと、インターネットを使うのがマイナスに働く場合もあります。本当に凄い人なんてほとんどいないし、コロナ禍でむしろ成り上がったなんていう人もほんの一握りだけで、実際にはみんなが苦労している。

 憧れの感情を否定するつもりはないし、それがモチベーションになる人もいるでしょう。でも、まずは家族や仲間を大切にして、いま目の前にある課題にしっかり取り組んで、日々の生活を充実させるべきだと思います。

■いまは断捨離を徹底すべき

――本書では繰り返し、いまは断捨離をすべき時期だと説いています。個人のレベルではもちろん、企業や国家も不必要なものをカットしていくべきだというメッセージだと受け止めました。経済を回すことは大事ですが、同時にサステナブルな社会を目指す上で、何を残して何を断捨離するかの取捨選択は必要なのかなと。

与沢:仰る通り、個人から国家に至るまで、様々な角度の断捨離が必要だと思います。コロナ禍はあらゆる物事が同時に試されている特殊な事態です。例えば今年のはじめに米イラン戦争が起こりそうになりましたが、日本人にとってはどこか対岸の火事のように思えたはずです。でも、コロナ禍は世界中のどの国も他人事ではなくて、都市の封鎖が起きたり、ソーシャルディスタンスが意識されるなど、人々の現実の生活が変えられる事態に陥っている。それは災難ではあるのですが、一方で全世界を対象とした淘汰のテストとしても機能しているところがあって、不必要だったものがあぶり出され廃棄されていっています。

 また、日本の経済は長らく低成長に陥っていましたが、貯蓄癖のある国民性だったため、そのことがコロナ禍の中で相対的優位に働く可能性はあると思います。米国は個人がクレジットを限界まで切っているような国民性なので、ニューヨークの高い家賃相場の中で翌月からもう支払いが滞ってしまうような人がたくさんいますが、日本はそこまでではない。もちろん大変な思いをされている方も多いですが、他国と比べると、日本はコロナ禍に耐えうる国家だと思います。本書でも繰り返し述べていますが、貯蓄はいざというときのパワーであり、貯蓄があって生き延びていてこそのチャレンジですから。

 本書にも書いていますが、このような状況の中でどう振る舞うかが、今後の10年を左右するはずです。これまでの経済活動を見つめ直す良いチャンスだと捉えて、必要なものと不必要なものをしっかり選別していく必要があるでしょう。このタイミングで本当に必要なものを見定めた人はいずれ結果を出すはずですし、逆にステイホームでアルコール量が増えるなど悪習だけを身につけてしまう人もいるはず。投資やビジネスにおいて一番大事なのは、タイミングを計る力であり、今は何をすべき時かの流れを見極めたうえ、勝機がくるまでは虎視眈々と待ち続けるのがセオリーです。どんな状況にあっても自暴自棄にならず、焦ってお金儲けをしようと考えたりせず、いまは断捨離を徹底して、コストカットに努め、今後の理想的な状態の定義のために時間を使ってほしいです。

――本書でも「ピンチは変化のきっかけ、変化は成功のきっかけ」と述べていますね。

与沢:ピンチはチャンスと思わないと駄目です。松下幸之助は、なぜそれほど余裕のある経営ができるかと問われて、「余裕のある経営をしたいと思わなければいけない」と応えたそうですが、まず「こうありたい」との意志がなければ、物事はそうなっていきません。いまがピンチかチャンスかなんて、誰にもわからないことだけれど、チャンスだと捉えることでしかそれを乗り越える新しい発想は生まれてきません。私自身、学生時代に起業した会社が倒産した時は、融資が受けられなくなって苦労しましたが、その結果として負債や出資に頼らず自己資金で経営をするという発想になり、復活を果たすことができました。国税滞納金の問題の時は、経営者に向かないことにようやく気付いて、海外を拠点に個人投資家をするという現在のスタイルになりました。振り返ると大きなピンチはすべて、その後の人生が劇的に好転するきっかけでした。人間、痛い目を見ないと変えられないところはあるし、その意味でもピンチはチャンスなんです。

ーーコロナ禍で停滞感のある日々の中、前向きに頑張っていくコツはありますか。

与沢:すぐに結果を求めないことは大事でしょうね。20代くらいの若い人は特にそうだけれど、何かをきっかけに自分が一気に大活躍することを夢見たりしていますが、そういう考え方だと自分の無力さにすぐ気付いて諦めてしまうケースが多いです。そうではなくて、1日に1つでも、ちょっとしたことを意識して改善してみる。自分にとって悪習だと思うことがあったらそれを辞める。3週間、小さな挑戦を継続できれば達成感も出てきて、もう少しチャレンジがしたくなる。その繰り返しです。意欲を保ち続けるコツは、小さい成果を積み重ねることです。

■歳を重ねるごとに幸福度を上げていく

――本書ではギャンブルはもちろん、ローンで家やマンションを購入することや人脈作りについても否定的な意見を述べています。与沢さんが「やってはいけない」と考えることの基準は?

与沢:30年前の本を読んでも、50年前の本を読んでも、100年前の本を読んでも、「現代は変化が早い」と書かれていて、つまりいつの時代でも変化は早く、未来の予測は極めて困難なんですね。そんな中でも特にインターネットが登場して、格安航空などで各国間の移動もスムーズになった昨今の変化の速度は異常なくらいで、自分の軸を持たないと簡単に流されてしまうほどです。そうした状況の中で、未来の自分を拘束するような約束をするのは良くないと考えています。例えば、家を購入すること自体は悪くないんですけれど、30年のローンを組まないと買えないのであれば今はやめておいたほうが良い。今回のコロナ禍で明らかなように、10年後に同じような日常が続いている保証はどこにもないし、自分が何をどうしているのかだって予想することはできません。未来はそれほど不確実なのに、人間は一時の欲や感情で行動するもので、特に経済活動においては多くの人が過ちを冒し続けます。テレビショッピングで1年の分割で購入した商品も、1カ月経ったらもう使わない、なんてことはざらにあるはずです。これは人生観にも通じる話だと思うのですが、いまが楽しければそれで良いと思うか、それともこの先10年、20年と歳を重ねるごとに幸福度を上げていくのが良いと思うか、どちらを選択するかだと考えています。

ーー歳を重ねるごとに幸福になっていくとの人生観はとても健全だと思います。

与沢:少なくとも私の場合は、若いうちに苦労して、少しずつ幸福になっていこうと考えています。昨今は、歳を重ねることが悪いことだとでも言うような風潮があって、女性は年齢を重ねると市場価値が下がるとか、さもしい人生観も見受けられます。でも、いまは高齢でも恋愛や趣味を楽しんでいる人は世界中にたくさんいますし、その年代ごとに素敵なことはあると思うんです。そういう価値観が、私の根底にあります。

――いわゆる“港区女子”についても、与沢さんは苦言を呈していました。

与沢:港区女子は基本的に自分自身の若さや美貌を商品として捉えて売るような生き方をしていて、そのこと自体は個人の自由ですけれど、持続性や発展性は低い商売ですよね。「一緒に旅行に行ったら、お手当いくらもらえますか?」という商売の仕方なので、金持ちの社長からしたら、この子は何歳でこの金額でここまでしてくれるけれど、あの子は何歳でもっと安くて可愛いから乗り換えようとか考えるわけで、港区女子は常に新規参入者と競合の脅威に晒されている。言ってみれば、わざわざレッドオーシャンで、しかも商品価値がどんどん下がり、時間的にも量的にも身体的にもレバレッジの効いていないたった一つの経営資源をもって商売をしているようなわけで、末路は目に見えています。人生は中長期的にゆるやかに発展、拡大、向上を目指していく方が結果的には大きくうまくいくもので、目先の利益に惑わされていては駄目です。先ほどの話とも繋がりますが、若さや美貌ではなく、年齢を重ねるごとに価値を増していくような部分を自分の武器にしていくべきで、男性の側もそういう考え方の人をパートナーとして探したほうが良いと思います。お金と時間の無駄ですから。

――本書では今後、リスクと共存していく生き方を模索していくべきだとも述べていました。最後に改めて、今回のコロナ禍をどう捉えたのかを教えてください。

与沢:コロナ禍について、実は私自身は楽観的に見ているところもあります。コロナはいずれ収束するし、人間の欲望は簡単に消えるものではないので、経済も必ず再開します。私はすでに、ウィズコロナの時代にどう動くかを想定して、色々と準備を進めていました。もう、これから先のことしか見ていません。今回、私を含めた世界中の人々が「パンデミックは起こりうる」ということを知ることができたのは、大きな学びにもなったと思います。子供がはしかにかかるのと同じで、ある意味では現代人にとっての通過儀礼になったというか。これから先、また違うウイルスが発生するかもしれないし、日本であれば首都直下地震とかが起こるかもしれないわけで、社会全体で“備えて生きる”ということを意識する契機にはなったはずです。リスクをゼロにすることはできません。だから、いかにしてリスクと共存していくかを考えるのが大切で、そのために必要なのは、断捨離して足るを知ること、借金はしないでしっかり貯蓄を増やしながら純利益を出し続けること、甘言に惑わされず熟考して決断することです。繰り返しになりますが、現在の決断が今後10年を左右するはずなので、1日1日を大切に真剣に悩みながら過ごしてほしいです。(松田広宣)

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