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『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は丸くなった作品!? 劇中における暖かく優しい大人たち

リアルサウンド

21/3/14(日) 6:00

 新型コロナウイルス騒動によって幾度かの公開延期を迫られていた映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(以下、『シン・エヴァ』)が、ようやく2021年3月に全国ロードショーの運びとなった。新型コロナ感染拡大防止のために出された緊急事態宣言が、解除直後と予測される3月7日に映画を公開するとアナウンスが出たものの、解除直前になって期限を2週間延長すると政府発表があった。つまり平日の月曜日に封切りで、なおかつ1都3県は緊急事態宣言下だったにもかかわらず、公開初日だけで観客動員数は54万人弱、興行収入は8億を超える好スタートとなった。それだけ『シン・エヴァ』の公開を待ちわびていた人が多かったという証明だろう。

 テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(以下、「テレビシリーズ」)(1995年)を新たな設定とストーリーでリビルド(再構築)する完全新作映画として、これまで『ヱヴァンゲリヲン劇場版:序』(2007年)、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年)、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年)の3作が公開された。次回作までの上映スパンは平均的に2~3年だったが、4作目にあたる『シン・エヴァ』は前作から9年も経っている。

 庵野秀明監督は2016年に公開された実写映画『シン・ゴジラ』の総監督を務めているが、『シン・ゴジラ』完成報告会見の場で『シン・エヴァ』の製作が遅れていることを詫びた。「新劇場版3本連続で魂を削りまくってしまった」と話し、「『新劇場版:Q』で完全燃焼してしまい、もう作品が作れないかもというところまで追いつめられてしまった」と心境を語っていた。かくして『シン・エヴァ』は2017年から本格的に打ち合わせが始まる。完成した映画は2020年6月に公開を予定していたものの、新型コロナウイルスの影響で2021年1月、さらに3月へと再三の公開延期が発表された。

 『シン・エヴァ』公開日はネタバレを恐れて、しばらくネットから遠ざかると宣言する人が多く見受けられ、鑑賞組の誰もが映画の詳細な感想を控えていた。だが核心に触れない程度の感想として、庵野監督が丸くなったという意見が散見された。テレビシリーズの流れを汲んだ完結編映画……現在では新劇場版との区別で旧劇場版と呼ばれる『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997年)は、おびただしい死のイメージに覆われ、物語は破滅的な方向へと進む。ところが新劇場版の完結編『シン・エヴァ』は、傷ついた心の再生と前向きな希望が描かれるのだ。

※編集部注:以降『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の具体的な内容に触れています。

ここからネタバレあり

 作中で14年の歳月が進んでもなお、中学2年生相応の外見と心のままの主人公・碇シンジは、14年分の年齢を重ねた知り合いたちに囲まれる。浦島太郎状態のシンジにつらくあたる者もいれば、理解を示し優しく見守る者もいる。後者の立場で顕著なのは、中学時代の友人である。彼らは学生時代の友人シンジを温かく迎えるが、年齢も外見も28歳の大人として描かれ、彼らなりの新しい生活を過ごしている。変わっていないのはシンジだけだ。前作『新劇場版:Q』のつらい現実に心が折れて自分の殻に閉じこもっている14歳の主人公は、大人になった友人らの思いやりに触れながら、現実に立ち向かう気力を徐々に取り戻すこととなる。

 放送当時に物議を醸したテレビシリーズのラスト2話でファンの批判を受けた庵野監督は、主要キャラクターの大半が死ぬ破壊的な旧劇場版をもって、アニメファンに「現実に帰れ」と呼び掛けた。作品や監督に向けられた悪意の文字が、本編中に実写で挿入される点から見ても、「アニメなんかに没頭するな」という痛烈なメッセージを込めたものと思える。しかし新劇場版として仕切り直した4部作の完結編『シン・エヴァ』の物語は、作中の登場人物1人ひとりの心の救済にスポットが当てられる。無慈悲に登場人物が死んでいった旧劇場版とは随分テイストも語り口も異なる。これは新劇場版に着手する直前の2002年に、庵野監督が漫画家の安野モヨコと結婚したことも影響があるだろう。

 人生の伴侶を得て生活様式が変わったことで庵野監督の考え方に変化が起き、それが前述の“監督が丸くなった”という観客の感触に繋がっているのではないか。現実に背を向け、言葉を失って無気力化したフィクションの主人公に何かをやれと強要することなく、自発的に立ち上がるまで静かに見守る、かつて同級生だった大人たち。穿った見方だが、それは『新世紀エヴァンゲリオン』という大きなコンテンツと、碇シンジに付き合い続けた、視聴者、ファンが投影されているのかも知れない。シンジもまた、自分に関りを持った人々に行き場を与える言葉を告げる。『シン・エヴァ』を観たことで、ようやく自分の中のエヴァンゲリオンに決着がついた人も多いはずだ。

■のざわよしのり
ライター/映像パッケージの解説書(ブックレット)執筆やインタビュー記事、洋画ソフトの日本語吹替復刻などに協力。映画全般とアニメを守備範囲に細く低く活動中。

■公開情報
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
現在公開中
企画・原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏
副監督:田部透湖、小松田大全
声の出演:緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、山口由里子、沢城みゆき
(c)カラー
公式サイト:https://www.evangelion.co.jp/final.html 
公式Twitter:@evangelion_co

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