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表現することを糧に生きた5人の作り手たちを紹介 『Walls & Bridges』展、東京都美術館にて開幕

ぴあ

展示風景より 増山たづ子の作品

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表現への強い情熱を持った5人のつくり手と作品を紹介する展覧会『Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる』が、7月22日(木)より東京都美術館で開催されている。生涯で交わることのなかった5人が「記憶」をキーワードに、展覧会会場で重なり合う。10月9日(土)まで開催される。

本展のタイトル『Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる』は、展覧会に登場する5人の作り手たちの姿勢を表したものだ。5人は自らを取り巻いていた障壁(Walls)を、表現へのたゆまぬ情熱により、未来や展望につながる橋(Bridges)へと作り変えている。

展示風景より

展覧会で紹介するのは、ジョナス・メカス(1922〜2019)、増山たづ子(1917〜2006)、シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田(1934〜2000)、ズビニェク・セカル(1923〜1998)、そして東勝吉(1908〜2007)の5人。この5人の生涯について、共通することはほとんどない。けれども、それぞれの作品は「記憶」という言葉を手がかりに見ていくと、重なり合う部分が多いことがわかってくる。

リトアニアの農家に生まれたジョナス・メカスは、第二次世界大戦後に難民キャンプを転々としたのち、アメリカに亡命。ニューヨークで貧困と孤独の生活を送る。そんな過酷な状況のなか、借金して中古の16ミリカメラを購入、友人や家族など身の回りを撮影しはじめる。ときには手振れを起こしたり、ぼやけたりするものの、そのフィルムには、彼にとってのかけがえのない瞬間が絶え間なく刻まれているのだ。

展示風景より ジョナス・メカスの作品
展示風景より ジョナス・メカスの作品

増山たづ子は、夫が第二次世界大戦のインバール作戦で行方不明となって以降、岐阜県徳山村で農業の傍ら民宿を営み、暮らしてきた。彼女が60歳のとき、徳山ダムの建設計画が本格化し、村の水没が決定する。そのことを契機として、増山は全自動カメラ「ピッカリコニカ」を購入。村や村民の姿の撮影を開始、28年間にわたって撮影し続けた。その数はネガにして10万カット。アルバムは600冊にわたる。

展示風景より 増山たづ子の作品
展示風景より 増山たづ子の作品

もし、夫がこの村に帰って来た時、この村の状況を知らせたい、思い出を残しておいてあげたいという思いが、彼女を撮影に駆り立てていたという。2006年に徳山ダムの試験湛水が始まり、徳山村跡地は水没した。

展示風景より 増山たづ子の作品

シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田はイタリアのサレルノ生まれ。彫刻を学ぶため留学したパリで後に夫となる保田春彦と出会い、結婚。将来を託望されていたが、家事と育児に専念し、家族が寝静まった深夜に制作を行っていた。彼女が生涯に残したわずかな作品は、彼女の信仰と密接に関わったものが多い。

展示風景より シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田の作品を夫の保田春彦がコラージュにしたもの
シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田 《シエナの聖カタリナ像とその生涯の浮彫り》(1980-84、一部)

チェコスロバキア(1923年当時)のプラハに生まれたズビニェク・セカルは、反ナチス運動に関与したため、18歳から4年間にわたり強制収容所に送られ、過酷な拷問を受けていた。解放後、翻訳家やグラフィックデザイナーとして活動後、プラハの春が起こった1969年にウィーンに亡命する。彼が60歳を過ぎてから制作するようになった箱状の立体作品は、見るべき角度が定められた正面性を持っており、棺桶や祭壇画なども想起させる。これまでの体験の記憶が封じ込まれているのだろうか。

シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田とズビニェク・セカルの作品の展示空間
ズビニェク・セカル《十字架》1970年代

大分県日田出身の東勝吉の作品は色も鮮やかだ。彼は長年、木こりとして働き、78歳で老人ホーム温水園(ぬくみえん)に入所。ホームの園長から水彩絵の具を贈られたことがきっかけとなり、83歳、要介護2の状態から、自然に対する敬意に溢れた風景画を描き始める。99歳で永眠するまで百余点の水彩画が制作されたという。

展示風景より 東勝吉の作品
東勝吉《菊池渓谷》1997年
東勝吉《耶馬渓もみじ 羅漢寺》1999年

異なる背景を持ちながらも、生きる糧に表現することを選んだ5名。彼らの作品を通じて、芸術と情熱の力をしっかりと感じ取ることができる、心を揺さぶる展覧会だ。

取材・文:浦島茂世

『Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる』
7月22日(木・祝)~10月9日(土)、東京都美術館にて開催
https://www.tobikan.jp/wallsbridges/

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