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『僕のヒーローアカデミア』はヴィランの物語も壮絶だ 総力戦はいよいよ予測不能な領域へ

リアルサウンド

20/7/6(月) 13:47

 『僕のヒーローアカデミア』(集英社、以下『ヒロアカ』)の第27巻が発売された。堀越耕平が『週刊少年ジャンプ』で連載している『ヒロアカ』は、世界総人口の約8割が「個性」と呼ばれる超常能力を持っている超人社会を舞台に、個性を持たずに生まれた少年・デク(緑谷出久)が、ナンバー1ヒーローのオールマイトから受け継いだ個性の力でヒーローを目指すヒーローバトルコミックスだ。

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 物語はデクが、雄英高校ヒーロー科の同級生と共に成長していく姿を描くと同時に、世界平和を守るヒーローたちと個性を悪用して犯罪行為を起こすヴィラン(悪党)たちの戦いを描いてきたのだが、23巻からは敵組織となるヴィラン連合の描写が占める割合が増えており、24~25巻でヴィラン連合のリーダー・死柄木弔の壮絶な過去が描かれて以降は、ほとんど彼らの物語と言ってもいいような異常な展開となっている。

 ※以下、ネタバレあり

 最新巻となる27巻では、そんなヴィランたちとヒーローたちの総力戦が描かれた。

 政治家や起業家たちが裏で牛耳るヴィランたちの組織・異能解放軍を倒したヴィラン連合は異能解放軍を吸収合併し、死柄木を頂点とする超常開放戦線へと生まれ変わる。そして、ヴィランたちによる全国主要都市の一斉襲撃よる国家転覆計画に向けて、着々と準備を勧めていた。

 同時に死柄木は、先生のオール・フォー・ワンが残した巨人のヴィラン・ギガントマキアを制圧したことで、脳無(のうむ)と呼ばれる改人(改造人間)をヴィラン連合に提供していたオール・フォー・ワンの主治医だったドクターから認められ、力を高めるための改造手術を受けていた。

 しかし、超常解放戦線にスパイとして潜り込んでいたヒーロー・ホークスによって国家転覆計画はヒーローサイドに漏洩。彼らが動く前にヒーローたちは、超常解放戦線の軍団長が定例会議のために集まっている群訝山荘と、ドクターが殻木球大の名で理事長を務める蛇腔総合病院(にある脳無の製造施設)に同時攻撃を仕掛ける一斉掃討を決行する。

 戦いは総力戦となり、オールマイトに変わって新しいナンバー1ヒーローとなったエンデヴァーや、ヒーローランキング5位として登場しながら、中々、活躍が描かれなかった「兎」の個性を持つミルコが派手なアクションを披露。一方、デクと同じ雄英学園の常闇や上鳴といったデクにくらべると若干地味な扱いだったヒーローたちの活躍も描かれた。

 これは『ONE PIECE』以降の大きな特徴だが、近年のジャンプ漫画は物語が山場を向かえると、敵味方が入り乱れた総力戦となる。主人公はもちろんのこと、今まで登場したキャラクターが総登場して、どこを見ても知っているキャラが映っているという展開は豪華絢爛で、それこそ日本史における「関ヶ原の戦い」や『三国志』における「赤壁の戦い」といった歴史に残る戦争の一場面を見ているかのような盛り上がりだが、むしろ敵であるヴィランの描写の方に力が入っているのが、この巻の面白さだろう。

 それはホークスがヴィランのトゥワイスと戦う場面に強く現れている。ヒーローたちの襲撃を援護するためにホークスは、対象となる人間を二体にする「二倍」の個性を持つトゥワイスに驚異を感じて足止めするのだが、仲間だと思っていたホークスに裏切られたことと、自分の失態で仲間を危機に陥れたことにショックを受けたトゥワイスは泣き叫ぶ。

 それでもホークスは、正義のために非情に徹し、敵を拘束しようとするのだが、読者としては「ただ皆(みんな)の幸せを守るだけだ」と言うトゥワイスの方に、ついつい感情移入してしまう。

 もちろんヴィランがいくつもの犯罪行為を重ねる悪党で、彼らのせいで死者が多数出ていることは頭ではわかっているのだが、それでも同情してしまうのは、ここまで作者が彼らのバックボーンを、ヒーローたちと同じくらい丁寧に描いてきたからだろう。

 特にトゥワイスは「二倍」の能力で増やした自分の分身がお互いに殺し合うという壮絶な経験をしたことで精神を病んでおり、その挫折を抱えているからこそ仲間を大切にしようとするイイ奴である。

 饒舌に自分の気持ちを喋りまくる姿や、マスクの造形を見るに、アメコミヒーローのデッドプールにインスパイアされたキャラクターだと思うのだが、自分の弱さを剥き出しにして必死で戦う姿には妙な愛嬌があり、おそらく大人の読者ほど、彼のことが好きだったのではないかと思う。

 そんなトゥワイスがホークスとの戦いで命を落とし、仲間の荼毘が敵討ちをする姿をみていると、一体どっちがヒーローなのかわからなくなってくるのだが、おそらく堀越耕平はヒーローとヴィラン、双方に感情移入して描いているのだろう。

 その結果、物語の向かう先がわからないのが今の『ヒロアカ』の面白さであり、不穏さだ。最終的にはデクたちヒーローを肯定する物語に着地すると思うのだが、しばらくこの混沌とした状況が続きそうである。

(文=成馬零一)

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