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田中泰の「クラシック新発見」

モーツァルトとブラームスを魅了したクラリネットの名手たち

隔週連載

第19回

筆者所蔵のブラームスとモーツァルトの像

クラシックはもちろん、ジャズやポピュラーミュージックなど、幅広いジャンルで活躍する楽器クラリネットは、吹奏楽に於いてもコンサートマスターを含めたヴァイオリンの役割を担う主役級の存在だ。

1959年に来日したストラヴィンスキー(1882-1971)が、街をねり歩く「ちんどん屋」に興味津々だったというのも、クラリネットを駆使した名作『兵士の物語』の作曲者ならではの感性だと思うと楽しい限り。しかしその歴史は、ファゴットやオーボエなど、オーケストラで活躍する他の木管楽器に比べて極めて浅いことに驚かされる。

その成り立ちは、18世紀ドイツ・ニュルンベルクの楽器製作者デンナーの手になるというのだから、16世紀にはすでに教会で活躍していたファゴットや、17世紀半ばの演奏記録が残されているオーボエなどとは比べるべくもない新参者だ。その特徴は、2枚のリードを重ね合わせたファゴットやオーボエのまろやかな音色とは異なる、1枚リードならではの歯切れの良さにある。今回は、クラリネットならではの美しい音色に魅せられたふたりの大作曲家と、彼らをその気にさせた名手たちの存在に注目してみたい。

クラシック史上最高の天才のほまれ高いモーツァルト(1756-1791)は、その晩年に2曲のクラリネットのための名曲を遺している。そのきっかけとなったのが、ウィーンの帝室吹奏楽団メンバーで、クラリネットの名手アントン・パウル・シュタードラーとの出会いだった。1781年に知り合った2人は、共に秘密結社「フリーメイソン」のメンバーであったこともあってまたたくまに親交を深める。

その結果モーツァルトはシュタードラーのために素晴らしい名曲を書きあげることとなるのだ。これが、1789年にウィーンで初演された「クラリネット五重奏曲」と、モーツァルト最後の協奏曲となった「クラリネット協奏曲」の2曲だ。モーツァルト自らが記入した作品目録を紐解くと、「クラリネット協奏曲」の作曲は1791年9月28日から11月15日。ということは、35歳で亡くなる20日前の完成ということになる。天才モーツァルトに“白鳥の歌”を歌わせた名手の存在に心から感謝したい。哀愁に満ちた第2楽章は、1985年公開のアメリカ映画『愛と哀しみの果て』に使用されているのでぜひチェックしてほしい。

クラリネットの魅力あふれる名盤。「J-waveモーニングクラシック」でも紹介予定。

さて、モーツァルトのそばににシュタードラーがいたように、ドイツ・ロマン派の巨匠ブラームス(1833-1897)のそばには、マイニンゲン宮廷管弦楽団の主席クラリネット奏者リヒャルト・ミュールフェルトが存在した。その素晴らしい腕前によって「楽団のナイチンゲール(美しい鳴き声を持つ鳥の例え)」と讚えられたミュールフェルトは、60歳を迎えて作曲活動から身を引くことを考えていたブラームスの心を刺激。創作意欲を掻き立てられたブラームスが一連のクラリネット作品を生み出すきっかけとなったのだ。

その成果が、「クラリネット三重奏曲」と、「クラリネット五重奏曲」、そして2曲の「クラリネット・ソナタ」の4曲だ。どの作品もブラームス晩年の成熟した響きと枯淡の境地が心に染みる名曲中の名曲なのだから恐れ入る。まさに“名曲の影に名手あり”。彼らが遺した作品が、新しい楽器クラリネットの発展や普及にも大きく寄与したことは言うまでもない。

シュタードラーやミュールフェルトの演奏がどれほど凄かったのかを知ることができないが、現代の名手たちによる名演奏は楽しめる。というわけで、筆者がナビゲーターを務める「J-waveモーニングクラシック」では、11月1日からの4日間に渡ってクラリネットを特集。モーツァルトとブラームスが遺した名曲の数々をご紹介したい。クラリネットの音色は秋の風景によく似合う。

プロフィール

田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。

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